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第1章:バウント
第6話:焼け跡から見えるもの
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ジャイアント・スラッグ。
“基本的に”死骸を骨まで食べる地上の掃除屋だが、凶暴な性格で生きているものを死骸にすることも率先して行っていく怪物だった。サイズこそ違えど見た目はナメクジそっくりだが、想像の百倍素早く動き、時には空中を飛んで移動する。
手斧の投てきを喰らって金切り声を上げたか、それは痛みからというより獲物が刃向かった怒りからという雰囲気だった。
伸びた目の軸が虹色に色が混ざり合う不可解な寄生虫に取り憑かれたカタツムリの目を思い浮かべるが、こいつに限ってはこれが正常状態で、それを明滅させて攻撃対象を催眠状態に陥れるとも言われている。
「コイツが遺跡を腐食させたと思う!?」
アルフィンはクレーンからネビルの隣りに飛び降りて訊ねた。
「いや、コイツには無理だ! コイツがこれだけの規模を溶かすには何百年もかかるだろう!」
「じゃあ別物がいるってことか!?」
もっそりと壁を乗り越えてこちらに向かってくるスラッグに矢を放ちながら、ユクシーが続けて質問を放ち、それに頷きながらネビルは剣を引き抜いた。
「そういうことだ。さっさと片付けるぞ!」
ユクシーの矢を受けつつも平然と身体を丸め、その巨体を宙に浮かせてネビルに向かって跳びかかった。
バシッ! という音が響き、誰よりも速く動いたアルフィンの鞭がスラッグの顔を叩き、その衝撃で触手が縮んでスラッグは空中でバランスを崩した。
その隙を突いてネビルが斬りかかり、同時にユクシーがスラッグの眼を射た。虹色に眼を輝かせかけていたスラッグの眼は引っ込み、重い震動と共に地面に墜落した。
だが、すぐさま身体をくねらせてネビルに口腔にびっしりと鋭い突起が生えた口を向けてきた。掠めただけで皮膚が削り取られてしまう口を間一髪のところでネビルは回避し、もう一度剣を叩きつけた。
どれほど剣や鞭で叩かれて皮膚が裂けようと、痛覚がないスラッグは退くこと無く襲いかかってくる。生命が失われるまで戦うことを止めない凶獣そのものであり、戦士たちが戦いたがらない怪物のひとつだった。
「ベル! さっさとなんとかしてくれ!」
一人御者台で精霊言語を歌いあげていたベルの髪がペールグリーンに輝いた瞬間、カッと見開いた眼差しの視線を辿って高熱が走り、彼女が睨みつけたスラッグの皮膚が燃え上がった。火はベルの視線のままに燃え広がり、瞬く間にスラッグを炎で包み込んだ。
スラッグはのたうち周りながら金切り声を上げたが、魔法の火は消えることなくスラッグの身体を蝕み続け炭化させていった。
「ふぅ……。さすがベル姉さん」
「あはん。まぁね。ふふふふ……」
ユクシーの褒め言葉に素直に喜び、微笑んだものの、その顔はそれほどお気楽そうなものではなかった。それにユクシーが気づく前にネビルが口を開いた。
「撒き餌でも撒かれたか?」
「どういうこと?」
怪訝そうな顔を見せたアルフィンにネビルは剣の鋒で地面をさして見せた。
「ジャイアント・スラッグが這い出してくるにしちゃ、地面が湿気ってねえんだ」
大きさはさておき、ナメクジである以上湿気った場所を好む性質がスラッグにはある。遺跡はそれなりに湿度はあるが、地面に焼け焦げた痕跡が残っているような乾燥気味の場所に好んで出てくるのは考え難い。
「いくらご馳走の死体があったとしてもなぁ……」
地面に残されている賞金稼ぎたちの遺品は、スラッグたちの食べ物にならない金属や陶器類ばかりだった。フォートレスのパーツなど見向きもされておらず、焼け焦げが残ったまま放置されていた。
「確かに妙ね……」
アルフィンは壊れたフォートレスのパーツを調べながら呻くように言葉をもらした。
「どうかしたのか?」
声を聞きつけて寄ってきたユクシーにアルフィンはフォートレスのパーツを指さし、そしてあちこちに散らばる遺品を指さした。
「壊れたものしか残ってないわ」
「あらあら……使えそうな物は、あらかた賊にでも持って行かれちゃったってことかしら?」
「多分、そういうことだよね……。賊……かどうかは分からないけど……」
普通ならわずかにでも使えそうなものが残されているはずだった。
ところが焼け残ったものや、焼けずに残ったものの中に使えそうなものはなにひとつ残されていない。
「この焦げ跡を見ると……一回以上湿気ってるから、朝露は浴びてるな……。とすると、このうねりの主も近くにはいねえだろう。その後、ここに手癖の悪い奴らが現れた」
「確かに……気にしてみてなかったけど、調べれば朝露がついた後にこの土を踏んだ奴らがいるな……。多くても6人」
「つまり、用心しておいた方がよさそうだな」
ネビルの言葉に全員頷きつつ、この激しい戦闘の痕跡の調査に乗り出した。
その調査の結果、ここで戦った〝なにか〟は恐ろしい巨体だということが判明した。
「背中に一〇発のジェネレーターっていうのも、あながち嘘じゃないかもね……。じゃなければ、恐ろしくデカイ蛇がここで戦ったか……」
「あらあら……そんなに大きいのぉ?」
「うん。胴回りで四メートルくらいはありそうよ」
蛇のようにうねって移動する存在なら、地面に残された痕跡の凹み方から大体の胴回りは想像できる。しかし、四メートルの胴回りというと、全長で二〇メートルは優に超える巨体の蛇になる。
「うふふふ。エスパダも呑まれてしまいますわねぇ」
「う……確かに……」
六メートルの体高を持つエスパダでさえも、足から簡単に呑まれかねない大きさだった。
「それにしても……。ユクシー、なにか見える?」
「いや、今のところ動く物はない」
「戦闘範囲って、どれくらいありそう?」
一人、クレーンの上に登って周囲を見張っているユクシーは改めて辺りを見回した。
熱に溶かされた壁は薙がれたように扇状に広がっている。そのすべてを戦闘範囲に入れるなら半径三〇〇メートルは戦場と言えるだろうが、ユクシーもバカではない。
巨大ななにかがひっくり返した壁。
薙ぎ倒した跡。
地面に残された巨大なものがうねった痕跡。
擱坐したフォートレスの残骸。
これらから戦闘範囲を割り出した。
「実際の戦闘範囲は……半径で一〇〇メートル程度だね。恐ろしくでかい!」
ユクシーの報告にアルフィンはため息をつくしかなかった。
「結論。逃げ帰らない?」
「なんだ、アルフィン。怖じ気づいたのか!? 俺はお前をそんな風に育てた憶えはねえぞ!」
「いや待って。冷静に考えてよね。もしもこの痕跡が本当にバジュラムのものなら、得体の知れない熱攻撃をする想像以上に超弩級なフォートレスよ?」
「だからなんだってんだ? 狙った獲物を途中で諦めるには、まだちと早くねえか?」
「もし、これが私の想像通りなら、体長が四〇メートル近くある巨大な蛇よ。どうやって戦うのよ!」
「そりゃあ……なんだ……」
詰め寄られてネビルは考え込んだ。そして――
「努力と根じょ……」
「却下!」
「ちょっと待て! せめて最後まで言わせろ!」
「聞くまでもないわ! 努力と根性で攻略できたら苦労しないのよ! バッカじゃないの!? バーカバーカ!」
睨み合い顔を突き合わせてはじめた親子ゲンカを黙ってニコニコと見守っていたベルは、パンと両手を鳴らして提案した。
「ここでいがみ合っていてもしかたありませんもの、とりあえずバジュラムを遠目にでも確認するまで結論はお預けにしませんかぁ?」
「それがいい! さすがベル! 俺の相棒だ!」
「ダメよ! この脳筋親父は、絶対に見たら挑むと張り切るわ!」
「でもぉ~……せっかくここまで来たわけですしぃ。うふん。経費だってかかってますわよぉ~?」
「ぐっ……」
「そうだかけた金を取り返さないなんざ、アルフィンとも思えねえ所業ってことになるぞ? お前、そんな汚名を受けてもいいのか?」
「ぐぐっ……」
救いを求めるようにアルフィンがクレーンの上のユクシーを見上げると、こちらも見もせずに大げさに肩を竦めて『あきらめろ』とゼスチャーを送ってきた。
「分かったわ。撤収の提案は見るまでお預けにしておくわ。でも、見つけて条件反射で攻撃しないでよね!」
「分かった分かった。じゃあ、さっさと移動を開始するぞ。ユクシー。クレーンを下ろすぞ」
毛長牛が落ち着いたことを確認してから、一行は再び荷車での移動を開始した。
謎の巨大存在が待つ場所に向かって――
“基本的に”死骸を骨まで食べる地上の掃除屋だが、凶暴な性格で生きているものを死骸にすることも率先して行っていく怪物だった。サイズこそ違えど見た目はナメクジそっくりだが、想像の百倍素早く動き、時には空中を飛んで移動する。
手斧の投てきを喰らって金切り声を上げたか、それは痛みからというより獲物が刃向かった怒りからという雰囲気だった。
伸びた目の軸が虹色に色が混ざり合う不可解な寄生虫に取り憑かれたカタツムリの目を思い浮かべるが、こいつに限ってはこれが正常状態で、それを明滅させて攻撃対象を催眠状態に陥れるとも言われている。
「コイツが遺跡を腐食させたと思う!?」
アルフィンはクレーンからネビルの隣りに飛び降りて訊ねた。
「いや、コイツには無理だ! コイツがこれだけの規模を溶かすには何百年もかかるだろう!」
「じゃあ別物がいるってことか!?」
もっそりと壁を乗り越えてこちらに向かってくるスラッグに矢を放ちながら、ユクシーが続けて質問を放ち、それに頷きながらネビルは剣を引き抜いた。
「そういうことだ。さっさと片付けるぞ!」
ユクシーの矢を受けつつも平然と身体を丸め、その巨体を宙に浮かせてネビルに向かって跳びかかった。
バシッ! という音が響き、誰よりも速く動いたアルフィンの鞭がスラッグの顔を叩き、その衝撃で触手が縮んでスラッグは空中でバランスを崩した。
その隙を突いてネビルが斬りかかり、同時にユクシーがスラッグの眼を射た。虹色に眼を輝かせかけていたスラッグの眼は引っ込み、重い震動と共に地面に墜落した。
だが、すぐさま身体をくねらせてネビルに口腔にびっしりと鋭い突起が生えた口を向けてきた。掠めただけで皮膚が削り取られてしまう口を間一髪のところでネビルは回避し、もう一度剣を叩きつけた。
どれほど剣や鞭で叩かれて皮膚が裂けようと、痛覚がないスラッグは退くこと無く襲いかかってくる。生命が失われるまで戦うことを止めない凶獣そのものであり、戦士たちが戦いたがらない怪物のひとつだった。
「ベル! さっさとなんとかしてくれ!」
一人御者台で精霊言語を歌いあげていたベルの髪がペールグリーンに輝いた瞬間、カッと見開いた眼差しの視線を辿って高熱が走り、彼女が睨みつけたスラッグの皮膚が燃え上がった。火はベルの視線のままに燃え広がり、瞬く間にスラッグを炎で包み込んだ。
スラッグはのたうち周りながら金切り声を上げたが、魔法の火は消えることなくスラッグの身体を蝕み続け炭化させていった。
「ふぅ……。さすがベル姉さん」
「あはん。まぁね。ふふふふ……」
ユクシーの褒め言葉に素直に喜び、微笑んだものの、その顔はそれほどお気楽そうなものではなかった。それにユクシーが気づく前にネビルが口を開いた。
「撒き餌でも撒かれたか?」
「どういうこと?」
怪訝そうな顔を見せたアルフィンにネビルは剣の鋒で地面をさして見せた。
「ジャイアント・スラッグが這い出してくるにしちゃ、地面が湿気ってねえんだ」
大きさはさておき、ナメクジである以上湿気った場所を好む性質がスラッグにはある。遺跡はそれなりに湿度はあるが、地面に焼け焦げた痕跡が残っているような乾燥気味の場所に好んで出てくるのは考え難い。
「いくらご馳走の死体があったとしてもなぁ……」
地面に残されている賞金稼ぎたちの遺品は、スラッグたちの食べ物にならない金属や陶器類ばかりだった。フォートレスのパーツなど見向きもされておらず、焼け焦げが残ったまま放置されていた。
「確かに妙ね……」
アルフィンは壊れたフォートレスのパーツを調べながら呻くように言葉をもらした。
「どうかしたのか?」
声を聞きつけて寄ってきたユクシーにアルフィンはフォートレスのパーツを指さし、そしてあちこちに散らばる遺品を指さした。
「壊れたものしか残ってないわ」
「あらあら……使えそうな物は、あらかた賊にでも持って行かれちゃったってことかしら?」
「多分、そういうことだよね……。賊……かどうかは分からないけど……」
普通ならわずかにでも使えそうなものが残されているはずだった。
ところが焼け残ったものや、焼けずに残ったものの中に使えそうなものはなにひとつ残されていない。
「この焦げ跡を見ると……一回以上湿気ってるから、朝露は浴びてるな……。とすると、このうねりの主も近くにはいねえだろう。その後、ここに手癖の悪い奴らが現れた」
「確かに……気にしてみてなかったけど、調べれば朝露がついた後にこの土を踏んだ奴らがいるな……。多くても6人」
「つまり、用心しておいた方がよさそうだな」
ネビルの言葉に全員頷きつつ、この激しい戦闘の痕跡の調査に乗り出した。
その調査の結果、ここで戦った〝なにか〟は恐ろしい巨体だということが判明した。
「背中に一〇発のジェネレーターっていうのも、あながち嘘じゃないかもね……。じゃなければ、恐ろしくデカイ蛇がここで戦ったか……」
「あらあら……そんなに大きいのぉ?」
「うん。胴回りで四メートルくらいはありそうよ」
蛇のようにうねって移動する存在なら、地面に残された痕跡の凹み方から大体の胴回りは想像できる。しかし、四メートルの胴回りというと、全長で二〇メートルは優に超える巨体の蛇になる。
「うふふふ。エスパダも呑まれてしまいますわねぇ」
「う……確かに……」
六メートルの体高を持つエスパダでさえも、足から簡単に呑まれかねない大きさだった。
「それにしても……。ユクシー、なにか見える?」
「いや、今のところ動く物はない」
「戦闘範囲って、どれくらいありそう?」
一人、クレーンの上に登って周囲を見張っているユクシーは改めて辺りを見回した。
熱に溶かされた壁は薙がれたように扇状に広がっている。そのすべてを戦闘範囲に入れるなら半径三〇〇メートルは戦場と言えるだろうが、ユクシーもバカではない。
巨大ななにかがひっくり返した壁。
薙ぎ倒した跡。
地面に残された巨大なものがうねった痕跡。
擱坐したフォートレスの残骸。
これらから戦闘範囲を割り出した。
「実際の戦闘範囲は……半径で一〇〇メートル程度だね。恐ろしくでかい!」
ユクシーの報告にアルフィンはため息をつくしかなかった。
「結論。逃げ帰らない?」
「なんだ、アルフィン。怖じ気づいたのか!? 俺はお前をそんな風に育てた憶えはねえぞ!」
「いや待って。冷静に考えてよね。もしもこの痕跡が本当にバジュラムのものなら、得体の知れない熱攻撃をする想像以上に超弩級なフォートレスよ?」
「だからなんだってんだ? 狙った獲物を途中で諦めるには、まだちと早くねえか?」
「もし、これが私の想像通りなら、体長が四〇メートル近くある巨大な蛇よ。どうやって戦うのよ!」
「そりゃあ……なんだ……」
詰め寄られてネビルは考え込んだ。そして――
「努力と根じょ……」
「却下!」
「ちょっと待て! せめて最後まで言わせろ!」
「聞くまでもないわ! 努力と根性で攻略できたら苦労しないのよ! バッカじゃないの!? バーカバーカ!」
睨み合い顔を突き合わせてはじめた親子ゲンカを黙ってニコニコと見守っていたベルは、パンと両手を鳴らして提案した。
「ここでいがみ合っていてもしかたありませんもの、とりあえずバジュラムを遠目にでも確認するまで結論はお預けにしませんかぁ?」
「それがいい! さすがベル! 俺の相棒だ!」
「ダメよ! この脳筋親父は、絶対に見たら挑むと張り切るわ!」
「でもぉ~……せっかくここまで来たわけですしぃ。うふん。経費だってかかってますわよぉ~?」
「ぐっ……」
「そうだかけた金を取り返さないなんざ、アルフィンとも思えねえ所業ってことになるぞ? お前、そんな汚名を受けてもいいのか?」
「ぐぐっ……」
救いを求めるようにアルフィンがクレーンの上のユクシーを見上げると、こちらも見もせずに大げさに肩を竦めて『あきらめろ』とゼスチャーを送ってきた。
「分かったわ。撤収の提案は見るまでお預けにしておくわ。でも、見つけて条件反射で攻撃しないでよね!」
「分かった分かった。じゃあ、さっさと移動を開始するぞ。ユクシー。クレーンを下ろすぞ」
毛長牛が落ち着いたことを確認してから、一行は再び荷車での移動を開始した。
謎の巨大存在が待つ場所に向かって――
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『エリジウムズ・エッジ~楽園境界~』の世界観を使ったゲームを制作していただけることになりました。シェアワールド方式で世界を拡張創造していくというweb3.0のために企画された次世代ファンタジーゲームになる予定で、株式会社フロンティアワークス様と株式会社ヴァンガード様のご協力で進められるとのことです。皆様、引き続き応援のほどよろしくお願いいたします。
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