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第1章:バウント
第5話:焼け焦げた遺跡
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「アルフィン。左手はソードストッパーからガンランスに変更しておいてくれ」
ユクシーはアルフィンの不満そうな言葉が投げつけられると思っていたが、返事は意に反して少し考え込んだ。
「ガンランスだけど槍はボム・ランスにしておくね」
この反応にユクシーはアルフィンに駆け寄り彼女の額に手を当てた。
「おまえ、熱でもあるのか?」
「ないよ! なんでさ!」
「だ、だって……」
「おまえらなに騒いでんだ?」
毛長牛の手綱をベルに任せて荷台に上がってきたネビルが怪訝そうに顔をしかめながら声をかけると、オロオロした表情のユクシーはネビルにすがりついた。
「アルフィンが……金に執着してない!」
「な、なんだってー!?」
驚きを通り越して恐怖に怯えた声を上げたネビルを、アルフィンはバカなんじゃないのという顔でたしなめた。
「失礼ね! ちゃんとお金に執着してるわよ!」
「へ? だ、だって……ガンランスにしたいって言ったら、反対するどころか装弾を鉄槍じゃなくボム・ランスにするって……」
震える声のユクシーの言葉にネビルも青ざめた。
銅貨1枚ですら値切る女と街中に知られるアルフィンが、回収して再利用できる鉄槍ではなく、使ったらそれまでの武装を進んで選択するなど、ネビルが彼女の養父になって一〇年経つが、一度として体験したことがなかった。
「あのさ……。ボム・ランスの代金とエスパダの修理代のどっちが高くつくと思うわけ?」
「あ……損得勘定がちゃんと働いている。大丈夫だぞ、安心しろユクシー」
「だからちゃんとお金に執着してるって言ってるでしょ! 失礼なこと言わないでよね!」
それは失礼していると言っていい言葉なのか? と時折ユクシーは訊きたくなるが、当たり前じゃないと言われるのが分かっているので黙っていることにした。
ネビルが災害地から連れてきて養女にした六歳の頃からアルフィンを知っているが、彼のどんぶり勘定のせいでアルフィンは銭ゲバとも言われる経済観念のしっかりした女に成長していた。
そのため、この一〇年で顔は良いのにあの性格じゃ嫁のもらい手がいないと賞金稼ぎたちから言われる反面、あれだけシッカリしていて見た目の良い娘さんなら我が家のバカ息子の嫁に欲しいと商人たちから言われるという両極端な評価を受けるようになっていた。
「さっさと換装しちゃうから、ユクシーは周辺警戒をよろしく」
「あ、ああ……」
そう言うとアルフィンはポニーテールを揺らしながらエスパダの左前腕部の留め具を外し、ソードストッパー兼増加装甲の甲殻を取りはずしはじめた。
荷台のクレーンを使ってソードストッパーをはずしてゆく。そして三連の鉄槍の射出装置――ガンランス――の換装作業に移っていった。
換装作業を横目に見ながらユクシーは荷台の上で周辺警戒をはじめたのだが、すぐに妙な臭いを感じて眉根を寄せた。
「ネビル!」
「ああ……臭えな……」
それまで呑気な調子で手綱を握っていたベルも緊張した面持ちで辺りを窺いはじめた。
辺りには物が焦げた臭いがわずかながらに漂っていた。
地面は黒く焼け焦げており、立木は炭化し、あろうことか岩までもが溶けて流れ落ちたような痕跡が残されていた。
ガン・オルタ遺跡の中心地を抜けてまだ一日も経っていないため、そこここに石造建築物だったものらしき跡は残されていたが、どれも不自然な形で溶け崩れていた。
なにより、遺跡よりもかなり真新しい荷馬車や荷車があちこちで焼け残っていた。
「荷車が残っている割には……死体が転がってねえな……」
ネビルは体格に不釣り合いな細剣を荷台から引き寄せつつ、腰に帯びた剣の柄に手をかけた。
「あれを見て! 九時の方向!」
クレーンの上によじ登って辺りを見回していたアルフィンが、荷車を正面を一二時として九時の方角を指さした。
その地面には、巨大ななにかがのたうったようなうねった痕跡が残されていた。そののたうちが尾が残したものだとしたら、その直系は優に三メートルは超えている。
「ドラゴンでも出たってのか……?」
辺りの焼け具合からそうユクシーが判断してもおかしくはない。だが、そんな巨獣が近くに潜んでいればそれなりの気配を感じるはず。それにしては毛長牛が怯えていなかった。
いや、緊張こそしているが、凶獣が近くに潜んでいるならこんな緊張程度では済まされない。
「あの石壁を見ろ……斜めに溶けていやがる……」
ネビルが指さした石壁はかつての城壁の跡と思われる物だった。それがなにかが斜めに横切ったように斜めに切られ、その断面が溶け落ちていた。
「ドラゴンブレスで直線的に切断して、断面を溶かすなんて……。酸を大量に吐きつける黒竜でしょうか?」
「それにしちゃ……破壊範囲が直線的で広いな……」
黒いドラゴンは強酸毒の唾液を噴射することが知られているが、何百メートルもの範囲に直線的に吐き出すなどという伝説をネビルは聞いたことがなかった。
「ドラゴンが襲ったにしては武器だのが落ちまくってるよ」
ドラゴンの収集癖は広く知られている。まるでカラスのように光る物をなんでも集めたがる習性があり、金銀はおろか、鎧や剣なども残さず収拾していく。しかし、ユクシーの言葉通り、放置された荷馬車や焼け焦げた地面には、武器や焼け残った鎧などが無造作に転がっていた。
「つまり……こいつはドラゴンの仕業じゃねえってことか……」
「四時の方向に怪物!」
アルフィンの叫びにネビルは瞬時に反応し、目視もせずに腰の剣の隣りに下げていた手斧をつかんで放った。
回転しながら飛んだ手斧は沼地の泥にはまるような音を立ててなにかに突き立った。
同時に金属板に釘を擦りつけるような耳障りな絶叫が響いた。
「スラッグか!?」
そこに現れた怪物。
それは身の丈が五メートルはある巨大なナメクジだった。
ユクシーはアルフィンの不満そうな言葉が投げつけられると思っていたが、返事は意に反して少し考え込んだ。
「ガンランスだけど槍はボム・ランスにしておくね」
この反応にユクシーはアルフィンに駆け寄り彼女の額に手を当てた。
「おまえ、熱でもあるのか?」
「ないよ! なんでさ!」
「だ、だって……」
「おまえらなに騒いでんだ?」
毛長牛の手綱をベルに任せて荷台に上がってきたネビルが怪訝そうに顔をしかめながら声をかけると、オロオロした表情のユクシーはネビルにすがりついた。
「アルフィンが……金に執着してない!」
「な、なんだってー!?」
驚きを通り越して恐怖に怯えた声を上げたネビルを、アルフィンはバカなんじゃないのという顔でたしなめた。
「失礼ね! ちゃんとお金に執着してるわよ!」
「へ? だ、だって……ガンランスにしたいって言ったら、反対するどころか装弾を鉄槍じゃなくボム・ランスにするって……」
震える声のユクシーの言葉にネビルも青ざめた。
銅貨1枚ですら値切る女と街中に知られるアルフィンが、回収して再利用できる鉄槍ではなく、使ったらそれまでの武装を進んで選択するなど、ネビルが彼女の養父になって一〇年経つが、一度として体験したことがなかった。
「あのさ……。ボム・ランスの代金とエスパダの修理代のどっちが高くつくと思うわけ?」
「あ……損得勘定がちゃんと働いている。大丈夫だぞ、安心しろユクシー」
「だからちゃんとお金に執着してるって言ってるでしょ! 失礼なこと言わないでよね!」
それは失礼していると言っていい言葉なのか? と時折ユクシーは訊きたくなるが、当たり前じゃないと言われるのが分かっているので黙っていることにした。
ネビルが災害地から連れてきて養女にした六歳の頃からアルフィンを知っているが、彼のどんぶり勘定のせいでアルフィンは銭ゲバとも言われる経済観念のしっかりした女に成長していた。
そのため、この一〇年で顔は良いのにあの性格じゃ嫁のもらい手がいないと賞金稼ぎたちから言われる反面、あれだけシッカリしていて見た目の良い娘さんなら我が家のバカ息子の嫁に欲しいと商人たちから言われるという両極端な評価を受けるようになっていた。
「さっさと換装しちゃうから、ユクシーは周辺警戒をよろしく」
「あ、ああ……」
そう言うとアルフィンはポニーテールを揺らしながらエスパダの左前腕部の留め具を外し、ソードストッパー兼増加装甲の甲殻を取りはずしはじめた。
荷台のクレーンを使ってソードストッパーをはずしてゆく。そして三連の鉄槍の射出装置――ガンランス――の換装作業に移っていった。
換装作業を横目に見ながらユクシーは荷台の上で周辺警戒をはじめたのだが、すぐに妙な臭いを感じて眉根を寄せた。
「ネビル!」
「ああ……臭えな……」
それまで呑気な調子で手綱を握っていたベルも緊張した面持ちで辺りを窺いはじめた。
辺りには物が焦げた臭いがわずかながらに漂っていた。
地面は黒く焼け焦げており、立木は炭化し、あろうことか岩までもが溶けて流れ落ちたような痕跡が残されていた。
ガン・オルタ遺跡の中心地を抜けてまだ一日も経っていないため、そこここに石造建築物だったものらしき跡は残されていたが、どれも不自然な形で溶け崩れていた。
なにより、遺跡よりもかなり真新しい荷馬車や荷車があちこちで焼け残っていた。
「荷車が残っている割には……死体が転がってねえな……」
ネビルは体格に不釣り合いな細剣を荷台から引き寄せつつ、腰に帯びた剣の柄に手をかけた。
「あれを見て! 九時の方向!」
クレーンの上によじ登って辺りを見回していたアルフィンが、荷車を正面を一二時として九時の方角を指さした。
その地面には、巨大ななにかがのたうったようなうねった痕跡が残されていた。そののたうちが尾が残したものだとしたら、その直系は優に三メートルは超えている。
「ドラゴンでも出たってのか……?」
辺りの焼け具合からそうユクシーが判断してもおかしくはない。だが、そんな巨獣が近くに潜んでいればそれなりの気配を感じるはず。それにしては毛長牛が怯えていなかった。
いや、緊張こそしているが、凶獣が近くに潜んでいるならこんな緊張程度では済まされない。
「あの石壁を見ろ……斜めに溶けていやがる……」
ネビルが指さした石壁はかつての城壁の跡と思われる物だった。それがなにかが斜めに横切ったように斜めに切られ、その断面が溶け落ちていた。
「ドラゴンブレスで直線的に切断して、断面を溶かすなんて……。酸を大量に吐きつける黒竜でしょうか?」
「それにしちゃ……破壊範囲が直線的で広いな……」
黒いドラゴンは強酸毒の唾液を噴射することが知られているが、何百メートルもの範囲に直線的に吐き出すなどという伝説をネビルは聞いたことがなかった。
「ドラゴンが襲ったにしては武器だのが落ちまくってるよ」
ドラゴンの収集癖は広く知られている。まるでカラスのように光る物をなんでも集めたがる習性があり、金銀はおろか、鎧や剣なども残さず収拾していく。しかし、ユクシーの言葉通り、放置された荷馬車や焼け焦げた地面には、武器や焼け残った鎧などが無造作に転がっていた。
「つまり……こいつはドラゴンの仕業じゃねえってことか……」
「四時の方向に怪物!」
アルフィンの叫びにネビルは瞬時に反応し、目視もせずに腰の剣の隣りに下げていた手斧をつかんで放った。
回転しながら飛んだ手斧は沼地の泥にはまるような音を立ててなにかに突き立った。
同時に金属板に釘を擦りつけるような耳障りな絶叫が響いた。
「スラッグか!?」
そこに現れた怪物。
それは身の丈が五メートルはある巨大なナメクジだった。
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『エリジウムズ・エッジ~楽園境界~』の世界観を使ったゲームを制作していただけることになりました。シェアワールド方式で世界を拡張創造していくというweb3.0のために企画された次世代ファンタジーゲームになる予定で、株式会社フロンティアワークス様と株式会社ヴァンガード様のご協力で進められるとのことです。皆様、引き続き応援のほどよろしくお願いいたします。
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