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第6章:魔法学園 授業革命編

第200話 『その日、お義父様にご挨拶をした』

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「おかえりなさいませ。お嬢様、シラユキ様」

 深々とお辞儀をして出迎えてくれたのはセバスさん。
 彼はここ、ランベルト公爵家の執事長をしている。老齢ながらも凄腕の人だ。
 学園生活が始まる前、ランベルト公爵家に入り浸っていた頃は、非常にお世話になったわ。もう実家の1つと言って良いくらいには。

 セバスさんの執事スキルは、アリシアレベルに近いものであり、しれっと私の思考を読めちゃうタイプの人だ。今回も、ソフィーと私を一目見て、銀髪の男装がシラユキちゃんだと一瞬で理解したらしい。
 この人には色々と隠し事は出来なさそう。

「ただいまセバス。お父様はいらっしゃるかしら」
「はい。応接室にて、お嬢様方の到着を首を長くしておいでです。ご案内致しましょう」

 セバスさんの背を追い、通い慣れた公爵家の廊下を進む。

「シラユキ様のご活躍、耳にしております。貴女様が活躍されるたび、我ら公爵家に仕える者は皆、嬉しく思っておりますぞ」
「ありがとうセバスさん」
「それにしても、こうもあっさりとお嬢様の心を鷲掴みにされるとは。流石はシラユキ様ですな」
「も、もうセバス! 何を言ってるのよ!」
「ふふ」

 セバスさんとの歓談を楽しみつつ、ソフィーを2人でいじくる。そうしているうちに応接室へと到着し、公爵様と対面した。

「おかえりソフィア。そして久しぶりだね、シラユキ君」
「お父様、ただいま帰りました」
「お久しぶりです、公爵様」

 席について公爵様と向かい合う。
 ……改めて見ても、やっぱりこの人は格好良いなぁ。この渋さと貫禄。そして公爵様が持つ性格からくる優しい微笑み。どれ1つとっても一級品で、見ているだけでドキドキしちゃう。

「君がアリシアやご家族を連れずにいるなんて珍しいね。ソフィアだけを連れて話したい事があるそうだが……どのような話なのかな?」
「そうね、そろそろ教えてくれても良いんじゃない? 結局、お父様に話ってなんだったの?」

 ソフィーは、なぜ私とここにやって来たのかまるで理解していない様子だった。アリシアは言うまでもないけど、ママも察してくれていたから通じてるかなと期待したんだけど、やっぱりソフィーはソフィーだったわね。
 まあそれはそれで、驚かせる楽しみが増えたからいっか。

「少し遅れてしまいましたが、公爵様にはご挨拶をしておくのが筋だと思ったのです」
「ふむ……」
「……?」

 一度深呼吸をし、ソフィーの手を握りながら宣言する。

「この度、ソフィーとお付き合いさせて頂く事になりました。将来的に結婚もしたいと考えています。絶対に幸せにしますので、ソフィーを私に下さい!」
「!!!」

 簡潔だけど、大事なことはきちんと言えたはずだ。
 ソフィーは驚いて声も出ないようだ。本当に予想していなかったのね。アリスちゃんですらうっすら気付いていたみたいなのに……。
 でも、その表情から喜んでくれているのは分かる。うん、ちゃんと言えて良かった。

 この世界では、絶対に幸せにするからね。

「……まさかシラユキ君から、その様な言葉が聞けるとはね。シラユキ君、君の覚悟は受け取った」
「「……」」

 ソフィーと2人、公爵様の言葉をじっと待つ。

「今まで私は、君を陰ながら見守って来た。君の人間性、人徳、そして心の強さを。その全てにおいて君は、ソフィアを任せるに相応しい女性だと判断した。だから私は、君とソフィアとの交際を正式に認めよう」
「「!!」」

 嬉しくて、ついソフィーと抱き合う。
 そんな様子を見て、公爵様は優しく微笑んだ。

「元々、私は君にならソフィアを託しても良いとは思っていたんだ。君は出会った時からソフィアを愛してくれているのは私も感じていたし、ソフィアも日を追うごとに惹かれて行っている様は見てとれたからね。家を引き継ぐ子供も大事だけど、それよりも娘の幸せが第一だ。先日の決闘の場に私もいたからね。あの現場を見た以上覚悟は決めていたんだ。そして君は複数の子と関係を持っているし、全員を幸せにしたいと思っているようだから、わざわざ挨拶に来るとは思ってもいなかったんだが……。ははっ、だから君の誠実さに驚いてしまったよ」
「えへへ」
「シラユキ……」
「これからは君も我がランベルト家の一員だ。気軽に私のことは父と呼んでくれ」
「……! はい、お義父様!」

 それからお義父様に抱きついて甘えたり、嫉妬するソフィーに抱きついたりしつつ、おしゃべりをしながら時間を過ごす。せっかくだからと昼食も3人で頂き、新しい家族の結成に顔が綻びっぱなしだった。

 ソフィーとフェリス先輩2人が『紡ぎ手』の職業を得られたことも話は通っていたみたいで、話は大変盛り上がった。というかお義父様もちょっと涙目だった。
 良いことしたわー。

 そうしてふとしたタイミングで、重要なことを思い出した。

「……あっ、そうだお義父様。大事なことを伝えられていなかったわ」
「大事なこと?」
「ソフィーには内緒だからそこで待っててー」
「えー、何よ。また今日みたいなこと?」
「そんな感じー。ほらほらお義父様、こっちこっち」
「はは、わかったわかった」

 新しい父に甘えるように、腕を引っ張って中庭に連れて行く。
 そうしてモニカ先輩で実験予定の事を告げたのだった。

 やはりというか、お義父様は色々と衝撃を受けていたけど、まあ仕方ない。拒絶反応を起こす人だっていてもおかしくはないのだから、否定されないだけマシと考えるべきだろう。うん。
 ちなみにこの会話は漏れてしまっては大変なので、『ウィンドウォール』で空気の壁を作って音を漏らさない様徹底的に対策した。

 話を終えてからは、お義父様は心ここに在らずといった様子で、ソフィーが声をかけても生返事になってしまったので、お開きになった。
 うーん、衝撃的な話の後だししょうがないか。ソフィーには悪い事してしまったわね。

 そんなこんなで公爵家をソフィーと2人で出て行く。

「お父様があんな風になるなんて、一体何を言ったのよ……」
「んー。ソフィーとの将来について?」

 嘘ではない。

「しょ、将来……。お父様が困った顔をされていたけど……。まあ、難しい顔をされるよりは良いわね。分かった、楽しみにしてる」
「うん」
「それにしても、用事ってお父様に挨拶する事だったのね」
「そうよ。ほら、決闘の日に陛下に会ったじゃない? その時ほら、アリスちゃんを下さいって言ったでしょ」
「あっ、そう言えばそうね。それもあって王妃様達がママになりたいって仰られたんだったわね」
「そうそう。ちなみにリリちゃんとママは、2人共々貰い受けたからご挨拶をするってイベントは省略されたわね」
「なるほどね」

 門を出てからしばらく、ソフィーは私の腕にしがみ付いていたけれど、とある大通りに差し掛かったところで手を離した。

「シラユキはこれからあの件での集まりがあるのよね。アリシア姉様と、フェリス姉様と一緒に」
「うん。元々はアリシアだけだったけど、先輩も条件を満たしたからね。せっかくならソフィーも呼んであげたかったけど……」
「良いのよ、気にしないで。私はなったばかりでレベルは満たしていないんだもの。それじゃ、私は教会に行って皆と合流するわ」
「あ、待って待ってソフィー。エイゼル、ツヴァイ、ドライ」
「「「はっ」」」

 道のど真ん中にも関わらず、どこからともなく3人が現れた。

「エイゼルはコレを持ってアイツに伝言。ツヴァイはソフィーの護衛。ドライはこのままついて来なさい」
「もう、大丈夫なのに。心配性なんだから」
「えへ。じゃ、また後でね」

 ソフィーのほっぺにキスをして別れる。
 そしてソフィーは教会へ。私はドライと報告兼世間話をしながら学園へと向かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 学園前でアリシアとフェリス先輩に合流して、会議室へと向かった。この格好のままでも大丈夫かしら? でも一応正装みたいなものだし、いっか!
 中に入ると、もうお客さんが待っていたようで、複数の視線がこちらへと集まった。
 その中には顔見知りである3人の学園長の姿もある。となると残りの5人が呼びかけに応じた現役の『紡ぎ手』達ね。

「……ふむ」

 1人目は神経質そうな、目つきの鋭い男。明らかにこちらを見下してる。その男の視線を受け、アリシアの周囲の温度が下がった気がするわ。どうどう。

 2人目は中性的な顔立ちをした女性ね。彼女はシラユキちゃんのような男装目的のスーツではなく、ピッチリとした女性物のスーツを身に纏っているわね。にも関わらずイケメンオーラが流れて見えるわ。その堂に入った着こなしっぷり……これは出来る女ね。
 ……ん? この人ゲームで見かけたような……。

 3人目は神経質な男の視線に対しておっかなびっくりと言った様子の女性。すっごい気弱そう。

 4人目はボサボサ頭の、研究にしか目がなさそうな、白衣を纏った男性。この人もゲームで見たことあるわね? 学園の研究部だったかしら。

 5人目は魔法師団の制服に袖を通したおじさん。……? 何かしら、この人に違和感を感じる……。
 こっそりと『魔力視』を使ってみると、違和感の正体に気付いた。あー、なるほどね。
 まあ良いわ、種明かしは後にして、さっさと始めましょうか。

「こほん、初めまして。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、私はシラユキと申します。以後お見知り置きを」

 席についた私達は挨拶もそこそこに、早速本題へと入る。

「さて、皆さんにお願いしたいことは1つ。私がこれから伝える技術を使って、魔法学園の生徒達、果ては民間の冒険者や一般人に魔法の授業をして欲しいのです。それも一時的にではなく恒久的に。この件に関しては国益に繋がるため、陛下から、正式な役職として認可が降りています。証明書はこちらに」

 アリシアが、陛下に書いてもらった書面を全員に見えるよう掲げる。『紡ぎ手』達は興味深そうに聞いている。1人を除いて。

「事前にお伝えした通り、仕事を受けて頂く方には、報酬として素早く魔法書を書き上げる技術を差し上げましょう。この仕事については、優先順位は高いものですが、だからと言って今後ずっとこの事業に従事しなければならない訳ではありません。今後とも『紡ぎ手』の仕事を継続して頂いて問題はありませんし、伝える技術を使って量産してほしいところでもあります。ただし、『紡ぎ手』の能力で作れる魔法書の価格は今後かなり値下がりすることでしょう。これは確定事項であり、揺るがない事実の為受け入れて下さい」
『バンッ!』

 そこまで言った段階で、神経質そうな男が立ち上がった。彼は苛立ちからこちらを睨みつけ、何か言おうと口を開けるが、結局何も言わずに部屋を出ようとする。

「最後に、今回の話を蹴る方や、今回呼ばれたにも関わらず来なかった方には、私が直接手解きをすることはほぼ無いと考えて頂ければと思います」

 男は私の言葉に耳を傾けることなく出て行った。
 残り4人。

「では、質問のある方」

 学園長達が黙って見守る中、おどおどしていた女性が手を上げた。

「初めまして、魔道具士のドロテアと申します。あの、質問宜しいでしょうか」
「どうぞー」
「冒険者や平民にも魔法を教える、というのは本気なのですか?」
「本気です。……ああ、もしかしてさっきのは、それが嫌で出て行ったんですかね?」
「それは、その……」

 答えにくい内容だったかな?

「まあそんな時代遅れの選民思想を持ってる人から授業を受けたいなんて思う人は誰もいないでしょうし、私としては痛くも痒くも無いわね」
「……っ!」

 ドロテアちゃんは私の言葉にサーッと血の気が引いたような顔をした。周りを伺う様子だったが、誰も私を咎めるつもりは無いことがわかり、一安心した様子だった。

「ふふっ、時代遅れか。……ああ、すまない。私はライズ。『MAGICRAIZEマギカライゼ』という魔道具店のオーナーをしている。よろしくシラユキ嬢」
「あ、よろしくー」

 どこかで見たと思ったら、あのお店の女性オーナーさんだったかー。そりゃ見たことあるわ。この人が出す冒険者ギルドのクエスト、ゲーム中でいっぱいやったもん。
 なんなら今日、ソフィーとのデートで立ち寄ったりもしたわ。

「先程出て行った彼は『紡ぎ手』を束ねる一団のトップでね。実力はあるが傲慢な男で、先程のように平民を補助するような発言をしたり、彼の機嫌を損ねれば『魔法使い』の道は断たれると言われているんだ。商会やギルドに根回しをして魔法書を売らないとかね。それが困ったことに事実でもある」
「ふーん」
「君が言った通り貴族以外は下に見ている人間でね、平民に力を貸せと言われても良い顔はしないだろう。本来ならあの場で罵詈雑言を並べて言葉で相手を責め立てるまでがワンセットなんだが、彼を含め、私達は皆君の決闘を見ていたんだ。だから、何も言わずに出て行ったんだろう」

 つまり、シラユキちゃんの強さとカワイさに畏れをなして逃げたのね!

「気に入らないからって暴力に訴えたりしないのに。失礼しちゃうわ」
「そのような手しか知らない獣は、それ以外の道は知らないのでしょう。アレはお嬢様とは別の生き物ですから、お嬢様が気にされる必要はありません」
「あら、そう?」

 私を認めない生物は全て、人間扱いしないとか、流石アリシアね。そのままアリシアに体重を預けてイチャイチャしながら、ライズさんにその集団について聞いていく。

 集団名は『魔道の御手』。基本理念は、全ての基本魔法書をバランスよく作り、偏らせないために存在するギルドで、直営店を持たない『紡ぎ手』は基本的にここに所属しなければ販売する事は出来ないらしい。先ほどの男は、その組織を代表してやって来ていたみたい。
 ライズさんは自前の店があるし、他の人達も別の組織に身を置いているから除外されてるんだとか。

 それにしてもあの男、余程私の案が気に入らなかったのかもしれないけれど、重大な失敗を犯したわね。私の施策は陛下が認可した物。つまりは国の方針なのだ。それを自分の価値観だけで突っぱねたところで、ギルドの将来はお先真っ暗だろうに。

「シラユキちゃん……」
「先輩?」
「もう一度、彼らにチャンスを与えることは出来ないかしら……?」

 もう、そんな目で見ないで下さいよ。
 でもまあ、そうよね。

 組織のトップが不要と判断したからには、下の人たちもそれに従う必要があるけれど、それだと巻き込まれた人達は可哀想よね。
 今回この場に来れなかった、その『魔道の御手』の構成員達も、さっきの男が怖くて来られなかっただけかもしれないし。

「分かりました。では、あと1回だけチャンスをあげることにします」
「ありがとうシラユキちゃん!」

 もう、姉妹で同じこと言うんだから。でもま、多少手間が増えるくらいで、ソフィーや先輩が喜んでくれるならいっか。

「ではこの場に残ったみなさんは、私の提案に乗っていただけると考えて良いのかしら?」
「勿論。新しい知識は歓迎だし、後輩たちの助けになるのならば」
「はい、受けます! 受けさせて下さい!」
「誰もが欲する魔法技術の中核をこの手に出来るのであれば、一般人への流布など些細な事だ」
「……」

 ライズさん、ドロテアちゃん、研究肌の男は順々に応えるが、魔法師団の制服を着たおじさんは頷くだけだった。先程から一言も発さない彼に、アリシアは怪訝な顔をする。

 そろそろ種明かしをしてあげましょうか。

「あなた、いい加減それ外したらどう? ボロが出ないよう気を付けてるんでしょうけど、私からしたらバレバレだわ」
「お嬢様?」

 そう言われたおじさんは驚いたような目をするが、表情は微動だにせず両手を上げるだけだった。

「……降参だ。だがすまない、これは自分では解けないんだ」
「世話が焼けるわねぇ」

 おじさんの見た目に反して、その口からは若々しい青年の声が出てきた。そしてその声に、先輩はハッとなる。

「はい『魔法解除ディスペル』」
『パリン』

 ガラスが割れるような音と共に、おじさんが光輝き若い男へと変化する。その姿を見ていた皆が驚いた。彼の姿を見て反応しなかったのは、私と学園長達くらいね。

「ル、ルグニド様!?」
「久しぶりだねフェリスフィア。元気にしていたかい?」

 見知らぬおじさんに化けていた男の名は、ルグニド。
 若くして魔法師団長の座についた男で、フェリス先輩の元婚約者でもあった。この人もゲーム中では何かと世話に……はなってないわね。むしろ世話をしまくったわ。
 ゲーム中でもヤンチャな人で、色々と魔道具を開発しては色んな人を巻き込んで、盛大に振り回していたわ。
 どこぞのマッドサイエンティストほどじゃないけども。

 どうせ今回も、新しい変身の魔道具の試作がてら、遊びに来たんじゃ無いかしら。ほんと、錬金術の権威も魔道具作りのエキスパートも、困った人が多くて大変だわ。

『マスターもそれなりに困った人だと思うけどね』
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