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第6章:魔法学園 授業革命編
第184話 『その日、スピカをデビューさせた』
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その後会議は私のステータスに対する質疑回答の場へと早変わりしてしまい、夜通し受け答えに踊り続けることになった。結局、聖水の事とか言えなかったわね……。
まあ、怖がられるよりはずっと良いわね。そんな呟きが聞こえたのか、ソフィーははっきりと言ってくれた。
「侮らないで。シラユキとは親友だし。こ、婚約者だし? あんたのステータスを見て驚くことはあっても怖がったりなんてしないわよ! ただ、何も知らなかった最初の時にコレを見せられていたら、話は別だったと思うけど……」
「ソフィー……!」
「……ん」
私への愛を隠そうともしないソフィーを全力で愛でる為に、飛びかかる。するとソフィーも受け入れるかのように腕を広げて迎え入れてくれた。
嬉しくってついハグとキスを強めにしてしまったわ。
夜はママとリリちゃんを帰すには遅い時間であったため、お風呂はママとリリちゃんの3人で入り、ベッドでは皆一緒に眠ることにした。
そして朝ご飯を一緒に食べ、各々が学校の準備をしていると、ソフィーがアリスちゃんを連れて自室へと入ってきた。
「シラユキ、入るわよー」
「んにゅ?」
「……あんた、何してんの?」
「んー」
ちょうどアリシアに髪を整えてもらいつつ、ママとリリちゃんを抱きしめて成分補給中だった。
「お姉ちゃんは甘えん坊さんなの」
「ふふ、いい子いい子」
「んにゅう……」
あぁ、至福。
溶けるぅ……。
「はぁ……。まあいいわ、それより聞きたいことがあるのよ。昨日聞いておけば良かったんだけど」
「んー?」
「スピカちゃんの事なんだけど」
「!」
大事なスピカの事とあっては聞き逃すわけにはいかないわ。ハグを解除してソフィーと目を合わせる。
「今の反応だけでどれだけ大事にしているかよく分かったわ。それでスピカちゃんなんだけど、その子って自室にいる時……というかご飯の時以外はずっとペンダントの中で過ごしてるじゃない? それって、顕現出来る時間がそんなに無いからなの?」
「そんな事ないわよ。私のそばなら、眠る時以外はずっと居続けても問題ないくらいに魔力は与えてるもの」
「なら、もう良いんじゃない? 今まであまり表に出さなかったのは、危険な目に合わせない為でしょう? あんたの実力はもう知れ渡ってるんだから、悪意を持って接しようとする奴はこの学園には居ないでしょ。昨日1日の様子を見て、私はそう判断したわ」
「あー」
確かにそうね。学園に入ってから……いえ、王都に来てからというもの、スピカには窮屈な思いをさせてきてしまっていた。たまに私の感情に釣られて、心配して外に飛び出すことはあっても、許可していないから普段は朝晩の食事の時以外は自発的に出てくることはなかった。
それを思うと可哀想な事をしていたわね。もうこの子を脅かす環境では無くなりつつあるし、そろそろ自由にさせても良いかしら。
そう思ってアリシアを見ると、微笑んでくれた。
うん、よし。
「スピカ、出ていらっしゃい」
『~~?』
「聞いていたわね? これからは好きなだけ外にいて良いわ。けど、まだ心配だから私から離れて良いのは20メートルが限度よ。魔力の糸で繋がってるから、それ以上離れると私に引っ張られるから気をつけること」
『~~~!』
スピカはこの瞬間を待ち侘びていたみたいで、嬉しい気持ちを全身で表現してみせた。その波動は魔力の波として広がり、窓や扉をガタガタと揺らし、照明の魔道具はバチバチと火花を散らしたかのように音を鳴らす。
あら、ショートしちゃった?
「こーら。嬉しいのは分かるけど、魔力は抑えなさい。私達の魔力を食べ続けて、今や上位精霊クラスの魔力になりつつあるんだから、制御を怠ってはダメよ」
『~~~』
叱られたことを反省するように、しょんぼりするスピカ。カワイイのでもう許しちゃう。なでなで。
私達に可愛がられ、スピカはすぐに持ち直したようだった。
「アリシア、照明は?」
「問題ありません。回路に合わせて魔力を流したところ、無事に復旧したようです」
「良かった。それじゃ、登校しましょうか。リリちゃんの方でも、スピカの事伝えておいてね」
「うん!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
『~~!』
「あんまり遠くにいっちゃダメよ」
『~~~!』
パタパタと羽ばたきつつも、ふよふよと不思議な動きで周囲を飛びかう。外の景色が珍しいのだろう、楽しい感情を周りに振りまいている。
学校に向かう生徒達も、スピカを見るのはほとんどが初めてだろう。その愛くるしい姿と、無差別に飛んでくるスピカの思念に歓喜と興奮、困惑の感情が溢れ出ている。
そしてしばらくすれば、『何故』『どうして』といった疑念が浮かんできた様だった。けれど、視界に私が映れば皆一様に納得の様相を見せたのだった。
「シラユキ様なら……」
「納得ですわね」
そんな声も聞こえてきた。シラユキちゃんなら何をしでかしても不思議ではないという感じね。
怖がられないで済んで安堵するべきかしら。それともびっくり人間扱いされていることに嘆くべき?
ママとリリちゃん親娘とは宿舎を出て早々に別れ、今はいつもの4人で教室へと向かう。途中多数の生徒がスピカに似たような驚きを見せた後、私を見て似たような反応を示した事以外は、普段と大きく変わらない日常だった。
「すごい。精霊様なんて、大昔の文献でしか見たことが無いよ!」
『~~』
「不思議な声が……これが精霊様のお声!?」
「直接頭に響くような、不思議な感覚だね」
教室でもスピカの人気は非常に高くて、男女問わず全員からカワイがられていた。特に勉強熱心な片割れ王子のジーノと、普段は無気力なテトラちゃんが興味津々みたい。
どうせなら私も一緒にカワイがって欲しいわ。そう思っているとアリシアが後ろから優しく抱きしめてくれる。えへ。
「スピカちゃんの人気は凄いのです」
「精霊様を見るのは皆さん初めてですわ。かく言う私達も、初めてお目に掛かった時は感動に打ち震えていましたもの」
「エルフにとっては神様のようなありがたい存在なんだろ? そんな精霊様を従えているなんて、流石俺達のボスだぜ!」
「従えているんじゃなくて大事な家族よ。間違えないように」
「すいませんボス!」
しばらく、そんな賑やかな教室の雰囲気を楽しんでいると、ふとスピカが顔を上げた。
『~~?』
「全く、今日も騒がしいな。今回は何の……本当に何の騒ぎだ!?」
「わぁー、お人形さんみたいで可愛らしいですねー!」
先生達がやってきた。どうやらスピカは、こちらへと真っ直ぐやって来る先生達の魔力を嗅ぎ取ったみたいね。警戒ってほどではないけれど、周囲の生徒達よりかは魔法の才能を磨いているはずだから、大きめの魔力がこちらへ向かってきたから、少し気になったのね。
念のためにとこちらへ戻ってきたスピカを、安心させる為に頭を撫でてあげる。
『~~?』
「大丈夫、この人達は安全よ」
『~~』
盛大なため息と共に、視線でこちらに説明を求めるモリスン先生。ついでに、皆にも改めて説明する。
毒竜の脅威に晒されていたエルフの村を救った際に、気に入られてついてきちゃったスピカの事を。
どうやら昨日の時点で毒竜の頭骨が、討伐者の情報と共に冒険者ギルドで公開され、その噂は学園まで届いていたらしい。そのお陰か、割と信じ難い出来事だとしてもすんなりと受け入れられていた。
「精霊に竜討伐、本当に凄まじいなお前は……。本当ならば根掘り葉掘り聞いておきたいところだが、今は別件だ。シラユキ、お前の希望通り今日の午前は自由に使って良いぞ。学園長の許可もとってある。必要なら魔法の第一演習場も貸切にしてしまって良いそうだ」
「わお、気前がいいですね。設備としては何があるんです?」
「『スコアボード』が6属性1組と、魔法障壁の壁だな。本来は2組あったんだが、1組は以前に破壊されたからな……。壊れる想定をしていなかった為素材を切らしていて補充も間に合っていないのだ」
いい笑顔でこちらを見ながらモリスン先生はそう告げた。『スコアボード』を壊すなんて、いったいどこの美少女の仕業かしら。
「アレを作れる人がいらっしゃるんですね」
「ああ。だがその人は奔放な上に変わり者でな。頻繁に騒ぎを起こしたり、外へと出かけては中々戻らなかったりと、問題ばかり起こすんだが……それでもこの国随一の錬金術の腕前を持っているんだ。そういう事で、困った人だがなくてはならない人でな……。今も絶賛行方不明だが、錬金術部の担任でもあるし、お前の噂を聞けばその内向こうからやってくるだろう」
「ふぅん」
変人の錬金術師というとあの人かな?
ゲームでも学校にいてもほぼ常に錬金釜の前から離れず、生徒との交流なんて一切せずに新しいレシピを常に模索してるんだけど、悉く失敗しては爆発させたり異臭騒ぎを起こしたり、魔法生物を生み出したりと、トラブルメーカーな人だった。
思えばこの学園に入って今まで、とても平穏な日常を送れていたわね。何か物足りない気がしてたけど、あの人が留守にしていたからか。なるほどなるほど。
「……ああそうだ、学園長は許可を出したが1人だけ、面倒な事を注文してきた奴がいてな。魔法科の教授なんだが、是非とも参加させてほしいと言ってきている。無視しても良かったんだが、先約があると言っていてな。シラユキ、覚えはあるか?」
「先約……? どんな人です?」
「名前はソシエンテ。入試の筆記テストなどを担当しているジジイだ」
「……ああー、あの子供みたいに目を輝かせていたお爺ちゃんね。思い出したわ、確かに魔法のことは入学してからにしてって伝えたわね」
完全に忘れてたわ。他にもなんか忘れてる気がするけど……思い出せないからまあ良いや。
『~~?』
「スピカ、移動するわよ」
『~~!』
「それじゃ、皆で第一演習場に行きましょ。勿論先生も付いてきて下さいね」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「おお! お待ちしておりましたぞ!」
「お久しぶりです、ソシエンテ教授。入学試験以来ですね」
「うむ、ワシとしてはもっと早くに話したかったが、ポインスに止められてな。だが、待った甲斐があったというものだ。先日のロストマジックの数々、しかとこの目に焼き付けましたぞ!」
第一演習場に入ると、ハイテンションな教授に出迎えられた。
「今から彼らに、私なりに魔法を教えていく予定です。見学して行かれますか?」
「勿論じゃ! 新時代の魔法授業、刮目させていただきますぞ!」
「さて、それじゃあ人数が多いし3つの組に分かれましょうか。編入生の平民組、編入生の貴族と従者組、進級組ね。先生達は進級組に混ざって下さい。ソフィーとアリスちゃんはもう教える事は無いから、編入生の平民組の方で教師役ね。アリシアもそっちに混ざって」
皆が指示通りの組みへと別れていく。まずは私が面倒を見てあげる必要性が少ない平民組ね。彼らには次のステップに進んでもらおう。
「皆には基礎は伝えてあるから、あの日以降も頑張ってくれていると思うけど、スキル値としてはどんな具合かしら?」
……ふむふむ。
ココナちゃんは上手くハマったのか、炎スキルが23に。
ロック君達3人は仲良く全員10に到達。どうやらダンジョンだけじゃなく、時間のある時は校庭の庭で土いじりをしているらしく、それが成長に繋がっているようだ。
他の子達は獣人組含めて8とか9だし、問題はなさそうね。
「うん、皆頑張ってるわね。そんな貴方達には次のステップに進んで貰いましょうか。次に覚えるのは2属性目よ。炎、風、土、水。そして神聖属性。自分が持っていない新しい力を彼女達から教えてもらいなさい。ダンジョンに潜った今なら、自分に何が足りていないとか、こんな属性があればと考えたこともあるでしょう。望んだ1つを取得してみましょうか」
私の口から飛び出した『神聖属性』という言葉に皆が騒めく。
「シラユキさん!」
「はいヨシュア君」
「神聖属性は『神官』専用の魔法なんじゃないのかい?」
「確かに『神官』が使うことでより良い効果を発揮するけれど、別に専用って訳じゃないわよ。私も『神官』じゃないし、なんならアリシアだって、今の職業は前衛の『ローグ』だけど攻撃魔法も『神聖属性』による回復だって出来るわ」
それを示すように、アリシアが頭上に『ファイアランス』『ウォーターランス』『ホーリーランス』を1つ1つ順番に展開した。
流石に無詠唱でと言う訳にはいかず、きちんと詠唱をしてだが。
「炎と水と土、それから神聖属性を習いたければアリシアのところに行きなさい。風に関してはソフィーとアリスちゃんの2人で手分けして見てあげて」
それぞれが顔を見合わせ、自分の習いたいところ……まあほとんどがアリシアのところへと向かっている。ソフィー達のところには誰も行かないのかと思いきや、女の子たちが集まって来ていた。
アリシアはクラスへの合流は昨日からだけど、調合の授業では何だかんだで皆のお世話をしていたからクラスの皆に懐かれているのよね。全員行き渡ったかと思いきや、1人だけ自分の世界に入って悩んでいる子がいた。
「ココナちゃん」
「……はうっ!? あ、シラユキさん」
「お悩みかしら」
「はいです。魔物さんは『狐火』で倒しているのです。けど……」
「ワンパンで倒せちゃうから別に困ってないのね」
「はうっ! そ、その通りなのです……」
尻尾がしょんぼりした。
ココナちゃんは周りの子と違って何ランクも上の職業だし、種族専用魔法も合わさって威力が半端じゃないのよね。そりゃ物足りなさは感じちゃうわよね。
「なら、『巫女』に合う属性にしましょうか。アリシア、ココナちゃんに『神聖属性』教えてあげて」
「承知しました」
「『神聖属性』ですか……?」
「ええ。私を信じてやってみて」
「は、はいです!」
ココナちゃんの背中を押して、次は編入生の貴族組だ。
「先生と進級組は、まだ少し時間かかるからあっちの子達でも私でも好きにみてて」
「おっけー。それじゃ、私はシラユキちゃんを見てよーっと」
「私も」
「俺もだ」
「僕も」
テトラちゃんがのんびりした口調でそう答えると、他の子や王子達もそれに続いた。
「それじゃ、皆一斉に練習の成果を見せて」
『はい』
全員が一斉に詠唱を始め、綺麗な真円を描いたボールを出現させた。さーて、皆の『魔力溜まり』の位置は把握している。ちゃちゃっと整えていくわよ!
『ようやく彼らとの約束が果たされるのね』
まあ、怖がられるよりはずっと良いわね。そんな呟きが聞こえたのか、ソフィーははっきりと言ってくれた。
「侮らないで。シラユキとは親友だし。こ、婚約者だし? あんたのステータスを見て驚くことはあっても怖がったりなんてしないわよ! ただ、何も知らなかった最初の時にコレを見せられていたら、話は別だったと思うけど……」
「ソフィー……!」
「……ん」
私への愛を隠そうともしないソフィーを全力で愛でる為に、飛びかかる。するとソフィーも受け入れるかのように腕を広げて迎え入れてくれた。
嬉しくってついハグとキスを強めにしてしまったわ。
夜はママとリリちゃんを帰すには遅い時間であったため、お風呂はママとリリちゃんの3人で入り、ベッドでは皆一緒に眠ることにした。
そして朝ご飯を一緒に食べ、各々が学校の準備をしていると、ソフィーがアリスちゃんを連れて自室へと入ってきた。
「シラユキ、入るわよー」
「んにゅ?」
「……あんた、何してんの?」
「んー」
ちょうどアリシアに髪を整えてもらいつつ、ママとリリちゃんを抱きしめて成分補給中だった。
「お姉ちゃんは甘えん坊さんなの」
「ふふ、いい子いい子」
「んにゅう……」
あぁ、至福。
溶けるぅ……。
「はぁ……。まあいいわ、それより聞きたいことがあるのよ。昨日聞いておけば良かったんだけど」
「んー?」
「スピカちゃんの事なんだけど」
「!」
大事なスピカの事とあっては聞き逃すわけにはいかないわ。ハグを解除してソフィーと目を合わせる。
「今の反応だけでどれだけ大事にしているかよく分かったわ。それでスピカちゃんなんだけど、その子って自室にいる時……というかご飯の時以外はずっとペンダントの中で過ごしてるじゃない? それって、顕現出来る時間がそんなに無いからなの?」
「そんな事ないわよ。私のそばなら、眠る時以外はずっと居続けても問題ないくらいに魔力は与えてるもの」
「なら、もう良いんじゃない? 今まであまり表に出さなかったのは、危険な目に合わせない為でしょう? あんたの実力はもう知れ渡ってるんだから、悪意を持って接しようとする奴はこの学園には居ないでしょ。昨日1日の様子を見て、私はそう判断したわ」
「あー」
確かにそうね。学園に入ってから……いえ、王都に来てからというもの、スピカには窮屈な思いをさせてきてしまっていた。たまに私の感情に釣られて、心配して外に飛び出すことはあっても、許可していないから普段は朝晩の食事の時以外は自発的に出てくることはなかった。
それを思うと可哀想な事をしていたわね。もうこの子を脅かす環境では無くなりつつあるし、そろそろ自由にさせても良いかしら。
そう思ってアリシアを見ると、微笑んでくれた。
うん、よし。
「スピカ、出ていらっしゃい」
『~~?』
「聞いていたわね? これからは好きなだけ外にいて良いわ。けど、まだ心配だから私から離れて良いのは20メートルが限度よ。魔力の糸で繋がってるから、それ以上離れると私に引っ張られるから気をつけること」
『~~~!』
スピカはこの瞬間を待ち侘びていたみたいで、嬉しい気持ちを全身で表現してみせた。その波動は魔力の波として広がり、窓や扉をガタガタと揺らし、照明の魔道具はバチバチと火花を散らしたかのように音を鳴らす。
あら、ショートしちゃった?
「こーら。嬉しいのは分かるけど、魔力は抑えなさい。私達の魔力を食べ続けて、今や上位精霊クラスの魔力になりつつあるんだから、制御を怠ってはダメよ」
『~~~』
叱られたことを反省するように、しょんぼりするスピカ。カワイイのでもう許しちゃう。なでなで。
私達に可愛がられ、スピカはすぐに持ち直したようだった。
「アリシア、照明は?」
「問題ありません。回路に合わせて魔力を流したところ、無事に復旧したようです」
「良かった。それじゃ、登校しましょうか。リリちゃんの方でも、スピカの事伝えておいてね」
「うん!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
『~~!』
「あんまり遠くにいっちゃダメよ」
『~~~!』
パタパタと羽ばたきつつも、ふよふよと不思議な動きで周囲を飛びかう。外の景色が珍しいのだろう、楽しい感情を周りに振りまいている。
学校に向かう生徒達も、スピカを見るのはほとんどが初めてだろう。その愛くるしい姿と、無差別に飛んでくるスピカの思念に歓喜と興奮、困惑の感情が溢れ出ている。
そしてしばらくすれば、『何故』『どうして』といった疑念が浮かんできた様だった。けれど、視界に私が映れば皆一様に納得の様相を見せたのだった。
「シラユキ様なら……」
「納得ですわね」
そんな声も聞こえてきた。シラユキちゃんなら何をしでかしても不思議ではないという感じね。
怖がられないで済んで安堵するべきかしら。それともびっくり人間扱いされていることに嘆くべき?
ママとリリちゃん親娘とは宿舎を出て早々に別れ、今はいつもの4人で教室へと向かう。途中多数の生徒がスピカに似たような驚きを見せた後、私を見て似たような反応を示した事以外は、普段と大きく変わらない日常だった。
「すごい。精霊様なんて、大昔の文献でしか見たことが無いよ!」
『~~』
「不思議な声が……これが精霊様のお声!?」
「直接頭に響くような、不思議な感覚だね」
教室でもスピカの人気は非常に高くて、男女問わず全員からカワイがられていた。特に勉強熱心な片割れ王子のジーノと、普段は無気力なテトラちゃんが興味津々みたい。
どうせなら私も一緒にカワイがって欲しいわ。そう思っているとアリシアが後ろから優しく抱きしめてくれる。えへ。
「スピカちゃんの人気は凄いのです」
「精霊様を見るのは皆さん初めてですわ。かく言う私達も、初めてお目に掛かった時は感動に打ち震えていましたもの」
「エルフにとっては神様のようなありがたい存在なんだろ? そんな精霊様を従えているなんて、流石俺達のボスだぜ!」
「従えているんじゃなくて大事な家族よ。間違えないように」
「すいませんボス!」
しばらく、そんな賑やかな教室の雰囲気を楽しんでいると、ふとスピカが顔を上げた。
『~~?』
「全く、今日も騒がしいな。今回は何の……本当に何の騒ぎだ!?」
「わぁー、お人形さんみたいで可愛らしいですねー!」
先生達がやってきた。どうやらスピカは、こちらへと真っ直ぐやって来る先生達の魔力を嗅ぎ取ったみたいね。警戒ってほどではないけれど、周囲の生徒達よりかは魔法の才能を磨いているはずだから、大きめの魔力がこちらへ向かってきたから、少し気になったのね。
念のためにとこちらへ戻ってきたスピカを、安心させる為に頭を撫でてあげる。
『~~?』
「大丈夫、この人達は安全よ」
『~~』
盛大なため息と共に、視線でこちらに説明を求めるモリスン先生。ついでに、皆にも改めて説明する。
毒竜の脅威に晒されていたエルフの村を救った際に、気に入られてついてきちゃったスピカの事を。
どうやら昨日の時点で毒竜の頭骨が、討伐者の情報と共に冒険者ギルドで公開され、その噂は学園まで届いていたらしい。そのお陰か、割と信じ難い出来事だとしてもすんなりと受け入れられていた。
「精霊に竜討伐、本当に凄まじいなお前は……。本当ならば根掘り葉掘り聞いておきたいところだが、今は別件だ。シラユキ、お前の希望通り今日の午前は自由に使って良いぞ。学園長の許可もとってある。必要なら魔法の第一演習場も貸切にしてしまって良いそうだ」
「わお、気前がいいですね。設備としては何があるんです?」
「『スコアボード』が6属性1組と、魔法障壁の壁だな。本来は2組あったんだが、1組は以前に破壊されたからな……。壊れる想定をしていなかった為素材を切らしていて補充も間に合っていないのだ」
いい笑顔でこちらを見ながらモリスン先生はそう告げた。『スコアボード』を壊すなんて、いったいどこの美少女の仕業かしら。
「アレを作れる人がいらっしゃるんですね」
「ああ。だがその人は奔放な上に変わり者でな。頻繁に騒ぎを起こしたり、外へと出かけては中々戻らなかったりと、問題ばかり起こすんだが……それでもこの国随一の錬金術の腕前を持っているんだ。そういう事で、困った人だがなくてはならない人でな……。今も絶賛行方不明だが、錬金術部の担任でもあるし、お前の噂を聞けばその内向こうからやってくるだろう」
「ふぅん」
変人の錬金術師というとあの人かな?
ゲームでも学校にいてもほぼ常に錬金釜の前から離れず、生徒との交流なんて一切せずに新しいレシピを常に模索してるんだけど、悉く失敗しては爆発させたり異臭騒ぎを起こしたり、魔法生物を生み出したりと、トラブルメーカーな人だった。
思えばこの学園に入って今まで、とても平穏な日常を送れていたわね。何か物足りない気がしてたけど、あの人が留守にしていたからか。なるほどなるほど。
「……ああそうだ、学園長は許可を出したが1人だけ、面倒な事を注文してきた奴がいてな。魔法科の教授なんだが、是非とも参加させてほしいと言ってきている。無視しても良かったんだが、先約があると言っていてな。シラユキ、覚えはあるか?」
「先約……? どんな人です?」
「名前はソシエンテ。入試の筆記テストなどを担当しているジジイだ」
「……ああー、あの子供みたいに目を輝かせていたお爺ちゃんね。思い出したわ、確かに魔法のことは入学してからにしてって伝えたわね」
完全に忘れてたわ。他にもなんか忘れてる気がするけど……思い出せないからまあ良いや。
『~~?』
「スピカ、移動するわよ」
『~~!』
「それじゃ、皆で第一演習場に行きましょ。勿論先生も付いてきて下さいね」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「おお! お待ちしておりましたぞ!」
「お久しぶりです、ソシエンテ教授。入学試験以来ですね」
「うむ、ワシとしてはもっと早くに話したかったが、ポインスに止められてな。だが、待った甲斐があったというものだ。先日のロストマジックの数々、しかとこの目に焼き付けましたぞ!」
第一演習場に入ると、ハイテンションな教授に出迎えられた。
「今から彼らに、私なりに魔法を教えていく予定です。見学して行かれますか?」
「勿論じゃ! 新時代の魔法授業、刮目させていただきますぞ!」
「さて、それじゃあ人数が多いし3つの組に分かれましょうか。編入生の平民組、編入生の貴族と従者組、進級組ね。先生達は進級組に混ざって下さい。ソフィーとアリスちゃんはもう教える事は無いから、編入生の平民組の方で教師役ね。アリシアもそっちに混ざって」
皆が指示通りの組みへと別れていく。まずは私が面倒を見てあげる必要性が少ない平民組ね。彼らには次のステップに進んでもらおう。
「皆には基礎は伝えてあるから、あの日以降も頑張ってくれていると思うけど、スキル値としてはどんな具合かしら?」
……ふむふむ。
ココナちゃんは上手くハマったのか、炎スキルが23に。
ロック君達3人は仲良く全員10に到達。どうやらダンジョンだけじゃなく、時間のある時は校庭の庭で土いじりをしているらしく、それが成長に繋がっているようだ。
他の子達は獣人組含めて8とか9だし、問題はなさそうね。
「うん、皆頑張ってるわね。そんな貴方達には次のステップに進んで貰いましょうか。次に覚えるのは2属性目よ。炎、風、土、水。そして神聖属性。自分が持っていない新しい力を彼女達から教えてもらいなさい。ダンジョンに潜った今なら、自分に何が足りていないとか、こんな属性があればと考えたこともあるでしょう。望んだ1つを取得してみましょうか」
私の口から飛び出した『神聖属性』という言葉に皆が騒めく。
「シラユキさん!」
「はいヨシュア君」
「神聖属性は『神官』専用の魔法なんじゃないのかい?」
「確かに『神官』が使うことでより良い効果を発揮するけれど、別に専用って訳じゃないわよ。私も『神官』じゃないし、なんならアリシアだって、今の職業は前衛の『ローグ』だけど攻撃魔法も『神聖属性』による回復だって出来るわ」
それを示すように、アリシアが頭上に『ファイアランス』『ウォーターランス』『ホーリーランス』を1つ1つ順番に展開した。
流石に無詠唱でと言う訳にはいかず、きちんと詠唱をしてだが。
「炎と水と土、それから神聖属性を習いたければアリシアのところに行きなさい。風に関してはソフィーとアリスちゃんの2人で手分けして見てあげて」
それぞれが顔を見合わせ、自分の習いたいところ……まあほとんどがアリシアのところへと向かっている。ソフィー達のところには誰も行かないのかと思いきや、女の子たちが集まって来ていた。
アリシアはクラスへの合流は昨日からだけど、調合の授業では何だかんだで皆のお世話をしていたからクラスの皆に懐かれているのよね。全員行き渡ったかと思いきや、1人だけ自分の世界に入って悩んでいる子がいた。
「ココナちゃん」
「……はうっ!? あ、シラユキさん」
「お悩みかしら」
「はいです。魔物さんは『狐火』で倒しているのです。けど……」
「ワンパンで倒せちゃうから別に困ってないのね」
「はうっ! そ、その通りなのです……」
尻尾がしょんぼりした。
ココナちゃんは周りの子と違って何ランクも上の職業だし、種族専用魔法も合わさって威力が半端じゃないのよね。そりゃ物足りなさは感じちゃうわよね。
「なら、『巫女』に合う属性にしましょうか。アリシア、ココナちゃんに『神聖属性』教えてあげて」
「承知しました」
「『神聖属性』ですか……?」
「ええ。私を信じてやってみて」
「は、はいです!」
ココナちゃんの背中を押して、次は編入生の貴族組だ。
「先生と進級組は、まだ少し時間かかるからあっちの子達でも私でも好きにみてて」
「おっけー。それじゃ、私はシラユキちゃんを見てよーっと」
「私も」
「俺もだ」
「僕も」
テトラちゃんがのんびりした口調でそう答えると、他の子や王子達もそれに続いた。
「それじゃ、皆一斉に練習の成果を見せて」
『はい』
全員が一斉に詠唱を始め、綺麗な真円を描いたボールを出現させた。さーて、皆の『魔力溜まり』の位置は把握している。ちゃちゃっと整えていくわよ!
『ようやく彼らとの約束が果たされるのね』
0
1/19の20時の投稿で他サイトで投稿中のものに追いつきます。以後隔日で20:01頃投稿予定です。
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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
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ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
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異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
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家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?
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クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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