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第6章:魔法学園 授業革命編

第181話 『その日、ヤバイのを作った』

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「んふー! やっぱり本物の夕日は気持ち良いわね」
「そうですね、お嬢様」
『おかえりなさいませ、シラユキ様』

 周回を終え、満足の行く数の素材を集め終えた私達は、ボスをワンパンで蹴散らして外へと出た。そこで出迎えてくれたのは、ナンバーズの面々。
 私の護衛と伝令役であるエイゼル、ツヴァイにドライ。そしてこの度新しくママ達の護衛についたアハトとノイン。
 彼女達は少し前までツヴァイと同じく、黒服の残念な格好をしていたから、私なりにカワイくアレンジ……。もといお洒落に改造した子達だ。

 今では潜入には不適切なくらい美人さんになっている。女の子がお洒落をするのは当たり前だから、何も反省する要素がないわね!

「ただいまー。皆、待ってくれていたのね。他の人達は?」
「同級生の方々は一部が自室に戻り、残りは騎士科の生徒達と合同で、数ペアに分かれて初心者ダンジョンに潜られました」

 と、エイゼルが報告する。
 続けてツヴァイ。

「ご家族の方々は、順調に探索出来ているようで、先程3回目の周回をしてくるとの事で初心者ダンジョンに入られました。攻略時間は47分と42分。もうまもなく出てこられる頃合いかと」
「そう。報告ありがとう」
「「はっ」」

 その報告に、アリシアは安心したようだった。

「彼女達は、魔力を問題なく回せているようですね」
「そのようね。回復薬無しで魔力をやりくりする方法は、覚えていて損はないからね」

 彼女達には、あまり時間はなかったけれど、昨日のうちに魔力をやりくりする方法を説明しておいた。大気中に漂う魔力を自身に取り込み、自分の魔力へと還元する方法を。
 魔法を嗜む者全てが覚えておいて損はない技法で、これは誰もが無意識にやっていることでもある。
 この世界では、使用した魔力は眠ったり休憩しているとそのうち勝手に回復すると考えられているようだけど、実際は違う。人は意識のない時やリラックスをしている時、まるで呼吸するかのように大気中の魔力を自然に取り込み、自身の魔力へと還元しているのだ。
 でもプレイヤーならそれが意識して出来る。なんなら最初のチュートリアルや説明書に書いてあるレベルで。

 ただ、教えるのは良いけど、覚えるために手伝うのは難しい。常に周囲に魔力を配り続けている私と言う存在が邪魔で、練習しようものなら、魔力を取り込みすぎてしまうのよね。
 こればっかりは、シラユキちゃん無念。

「私も覚えておきたいところですが……」
「アリシアは良いのよ。ずっとそばに居るんだから」
「そうかもしれませんが、念のためです。離れるつもりはありませんが、二手に別れる必要が出てきた時のことを考えて、練習は必要かと……」
「でもどこで練習するの? 私と一緒だと練習できないよ?」
「それは、その……」
「シラユキちゃん、寂しいと泣いちゃうなぁ……」
「で、では消費した魔力を、私が意識してお嬢様から魔力を吸うことが出来れば……」
「もしも急激に取り込むことになっちゃうと、魔力酔いしちゃうよ?」
「あぅ……」
「でも良いわね。吸いすぎるようなら、私が逆に吸い取ってあげれば良いんだし。こんな風に、ね。……んちゅっ」
「んっ……!」

 キスと同時に舌で口をこじ開け、『MPキッス』の要領で唾液と一緒に魔力を啜る。

「ごくっ。ん……ご馳走様。アリシアは唾液も魔力も、甘くて芳醇で、何度味わっても飽きないわね」
「ハァ……おじょう、しゃま……」
「んふっ、蕩けてるアリシアも素敵よ」
「こらー! そう言うのは場を弁えなさいよ!」

 アリシアと熱い視線で交わっていると、愛しの叫び声が聞こえてきた。どうやらソフィー達もダンジョンをクリアしたらしい。

「あ、ソフィー。皆もお疲れ様ー! どうだった、ちゃんと出来た?」
「まだ完璧とは言えないけど、出来たわよ」
「皆優秀だから、怪我も無かったわ」
「ダンジョン楽しかったの!」
「リリ姉様の魔法もそうでしたが、リーリエママの弓捌きは凄かったです」
「そうー、良かったわねー!」

 ハグからのキスをワンセットに、彼女達1人1人にして回る事にした。

「リリちゃーん!」
「えへへ、お姉ちゃん! リリね、『ハイサンダー』覚えたよ!」
「おめでとうー、頑張ったわね! それにダンジョンが楽しめたようで何よりだわ」
「うん! あ、でもつるはしは使わなかったの……」
「あー、ごめんね。鉱石があるのは中級からなの。だから出番はもう少し先ね」
「そっかー」

 リリちゃんに頬擦りをして、次はママだ。

「ママー!」
「よしよし、シラユキちゃんもお疲れ様。中級ダンジョンはどうだった?」
「難易度としてはアリシアなら単独でも行けるかなー、ってところ。けど収穫はあったよー」
「そう、良かったわねー」

 ママに頭を撫でてもらう。えへへ、気持ち良い……。

「アリスちゃん!」
「シラユキ姉様! 世界は広いのですね、リリ姉様もリーリエママも、とっても凄くて……。お2人に負けないよう頑張ります!」

 おお、アリスちゃんが燃えている……。

「ソフィー!」
「はいはい。んっ」

 飛びつくと同時にキスをする。けど、彼女は怒らない。
 あれー?

「不思議そうな顔をするんじゃないの」
「だってー」
「私が注意したのは、アリシア姉様を蕩けさせるレベルの事を公衆の面前でするなって言いたいのよ。だからもう、キス程度でどうこう言わないわ」
「ソフィー、キスに慣れちゃった?」
「慣れてないわよ。まだ恥ずかしいけど……でも恥ずかしがって嫌がっても、アンタは他の子にはキスするんでしょ。それは、嫌だから」
「ソフィー……!」

 愛おしさが爆発しちゃうじゃない! 好き好き、大好き!!

「だ、だから熱烈なのはやめなさいってー!」
「今のはソフィア様が悪いですね」
「むしろわざとなのではと勘繰ってしまいます」
「焚き付けたのー」
「ふふ、仲が良いのね」
「もう、悪かったから! 落ち着きなさいー!」


◇◇◇◇◇◇◇◇


「またこの部屋かー。前に来てから、もうかれこれ1ヶ月も経つのね」

 ソフィーを全力で愛で倒した後、私とアリシアは錬金術部の部室へとやって来ていた。錬金釜を使って調合をする為に部屋を使わせてもらおうかと学園長にお願いをしに行ったら、即座に部屋の鍵を渡された。用意が良いわねー。

「どうやらフェリス様が、お嬢様専用の部屋として、あの時にはもう申請をしていたようです」
「そうなんだ? ありがたいけど、すぐにこの部屋は使わなくなりそうなのよね」
「そうなのですか?」
「ええ。でもとりあえず、その時が来るまではありがたく使わせてもらいましょうか」

 部屋へと入ると、その空間は試験の日に訪れた時と変わらず私を出迎えてくれた。釜も、何もない棚も、あの時のままね。
 窓を開けて外気を取り入れ、釜の中の不純物を『浄化』で散らす。前回作った香油の香りが、少し残っているような気がした。

「お嬢様が以前に提供されたあの香油ですが、もう手元にほとんど残っていない方ばかりだとか。昨日は陛下や王妃様からも催促がありましたし、皆さまお嬢様の作品の虜ですね」
「第二騎士団の人達も皆愛用してくれるからか、彼女達の隊舎からはとっても良い香りがするらしいわね。人気があるっていうのは作り手としては嬉しいことだけれど、今後も私が作れる暇ってそんなにないから、レシピの公開はしても良いかなって思うのよね。なんならアリシアもやってみない?」
「お誘いは大変ありがたいですが、私は調合で手一杯ですので」
「そーお?」

 それなら、フェリス先輩に一任しちゃおうかな。彼女なら腕はあるだろうし、責任感もあるから作り過ぎることも質を落とすこともしないだろう。

「それじゃ、まだ香油でのスキル上げがもう少しだけ出来そうだし、先に香油をまとめて作ろうかな。目的のアイテムを作るには、まだ少しスキルが足りてないから」
「ではスライムオイルと、ダンジョン果実をご用意しますね」
「あと、何本かお花も出しておいて。いくつかミックスさせてお花の香油も作ってみたいの」
「畏まりました」

 先程中級ダンジョンで、この前店で購入したのとは別種の果実や花を入手しているが、さすがに生産体制が整っていない中で新作を沢山作るのは気がひける。今は既存のものと、お花の香り版だけで十分だろう。
 私はマジックバッグから、以前即興で作り上げた魔鋼鉄製のヘラを取り出した。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「……うん、こんなものかな」
「沢山作りましたね」

 香油が入った瓶を小分けに整理しながら、アリシアが感慨深げに言う。錬金術スキルは前回で18まで到達していたけれど、今回の生産で25まで上昇した。
 精油のスキル上限が20。果実香油のスキル上限が23。そして生花から香り成分を抽出して香油に混ぜ込む場合は、ちょっと工程が複雑だったからか25まで伸ばすことが出来た。
 でも感覚的に、これがスキル上昇の限界値のような気がするわね。

「前回作った時は正直お試しだったからね。まさかこんなに人気が出てくれるなんて、嬉しい誤算だわ。だから、今回は多めに……。前回配った人に回すなら、1年分くらいにはなったんじゃないかしら?」
「噂が噂を呼んで、欲しがる人達が10倍以上いる事を考えると、この量も1ヶ月で無くなってしまいそうですね……」
「良いのよ。生産速度が多少落ちても、他の人にこれから作ってもらうんだから」
「……でしたら、以前にもお話をしましたが精油と香油専用の生産施設を作った方が良いかもしれませんね。今後もお嬢様が色々作られるわけですし、シラユキブランドなど……」
「ブ、ブランド……!? 良いわね、それ。面白そう! でもそう言うのよくわかんないから、アリシアに一任して良いかしら」
「お任せください。ナンバーズ集合」

 アリシアが手を叩くと、ナンバーズの3人が音もなく現れる。

「聞いていましたね。エイゼルはこの香油を王妃様方と第二騎士団に。そして先ほどの件を陛下に報告を。ドライはこちらの書状を商業ギルドへ。ツヴァイは追って指示を出しますのでこの場で待機」
「「「はっ」」」

 エイゼルとドライはアリシアから手渡しされた物を懐にしまうと、また音もなく消えた。

「ツヴァイー。これ、アハトとノインの3人で分けてね」
「シラユキ様、ありがたく頂戴いたします!」
「それとツヴァイにこの場に残ってもらったのは、追加で陛下に報告をしてもらう為なの。これから作るアイテムは、まぁ多分世界の歴史を覆す物だから、覚悟しておいてね」
「シラユキ様のお造りになる物でしたら覚悟は出来ております」

 ツヴァイは躊躇う事なく胸を張って宣言した。嬉しいなぁ。もう好き!

「えへ、ツヴァイー」
「ほ、抱擁はご勘弁を!」
「えー?」

 私が接近するよりも早く、展開を察したツヴァイは距離を置いた。でも、それすらも予測したアリシアにより捕まってしまう。

「ツヴァイ、受け入れなさい」
「アリシア様!? うぅ、承知いたしました……」
「えへ。ぎゅー!」

 ハグし返してくれる訳ではないが、ツヴァイは嫌がる素振りはせず、受け入れてくれる。それだけで嬉しいわ。
 アハトやノインもそうだけど、3人ともちゃんと美人さんなんだから、もっと自分に自信を持って良いのに。それにあげた香油も、ちゃんと毎日使ってくれているから、抱きしめると良い香りがするのよね。

「お嬢様、そろそろ、完全に日が沈むようです」
「んぅ? そっかぁ。今日中に何個か仕上げておきたいし、我慢する……」
「それに、この後には家族会議が控えていますから。早めに切り上げなくては」

 そうだった。つい先ほど、ママから久しく家族会議していないって言われたのよね。私もママ達も忙しくしていたから、中々時間が取れなかったけど、も直接手渡しで説明しておきたいし……ああもう、もっと時間が欲しい!!

「それじゃ、早速作っていくわ!」

 まずは先ほどまでの残滓は全て『浄化』で消し去って、と。
 次に錬金釜に魔力水を満たし、『浄化』で使う神聖属性の魔力を込めながら、6属性の魔石を複数個投入する。
 続いて錬金釜にも別途魔力を流して起動し、火加減は中火。神聖属性の魔力は止めずに、ヘラを力強くかき混ぜる。

 レシピ的には、香油よりも更に単純で魔石6種に『魔力水』。そして神聖属性の魔力と素材と呼べるものはほとんど無い。今回も初回成長特典ボーナスを狙っての大量生産だ。常人なら途中で力尽きるほどの魔力を注ぎ込みながら、かき混ぜること10分。

「ふぁー、出来たぁ……。んん!?」

 錬金釜からアイテムが飛び出した瞬間、部屋は眩い光に包まれた。

********
名前:女神の聖水
説明:無数の人々から祈りを捧げられ、ついには神格化された女性が作り上げた、超高純度の聖水。その1滴は大地を浄化し、1振りで呪いは掻き消え、1瓶で邪悪は消滅する。
効果:未知数
製作者:シラユキ
********

「……あ、あれぇ?」

 私、目的のアイテムの素材となるはずの、』を作ってたはずよね?
 なのに、見たことのない物が出来上がってるんですけどぉ……? ってか眩しっ!

 説明文も効果も見たことないし、これ見ようによってはシラユキちゃんだからこそ作れたと言わんばかり内容よね?? 無数の人達から祈りを捧げられた覚え、あるもん……。
 それに効能も、説明文を見る限り、強力無比な予感しかしないわ。最悪1瓶で邪竜が死ぬんじゃないかしら?

 本来の『聖水』は、瓶の中には金粉でも入っているのでは? って思える程度の輝きを放つ物なのだけど、コレはミラーボールばりに光り輝いている。そんなのが100個も狭い部屋に現出したんだから、たまったもんじゃないわ。

 目に悪いから使う分以外はマジックバッグに収納しよう。

「「……」」

 アリシアもツヴァイも、何か言いたそうにこっちをじっと見つめているけど……。ごめんね、後回しにするね?

 もう一度魔力水で錬金釜を満たし、そこに『女神の聖水』を瓶ごと放り込む。素材としては聖水と同じ物を使ってるはずだから、多分本来よりも良質な物が出来るってだけで、目的のものが作れないなんてことは、多分ないはず。多分。
 そうして『ザ・ウォッチャーのレンズ』と中級ダンジョンの草原フィールドで採取した『魔力苔』に『光の魔石』。追加機能として同じく草原フィールドで倒した『ジャッカルの髭』をと。
 あとは弱火でグールグル。グールグル。ふんふんふ~ん。

 完成!

********
名前:パーティ編成 連結オーブ
説明:誰でもパーティ編成が使える特殊オーブ。オーブには全部で5つの子オーブが埋め込まれており、本体と子オーブを持つ者同士でパーティを組める。有効距離10キロ。有効距離より離れるか、別ディメンションに分かれた状態が5分続くと強制的に解散となる。その際は再度集まり結成する必要がある。子オーブは別の親オーブと連結は出来ないが、親オーブ同士での連結は可能で最大10連結。連結距離に制限はない。
アタッチメント:女神の加護、マップ機能
製作者:シラユキ
********

 ……うん、なんか知らないアタッチメントが追加されちゃったけど、予定の物を作ることが出来たわね!
 それじゃ、この調子でマップ機能持ちを3個、マップ機能なしを10個作るわよー!

『マスターったら、いつのまに女神様になったのかしら?』
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