異世界でもうちの娘が最強カワイイ!

皇 雪火

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第6章:魔法学園 授業革命編

第180話 『その日、素材を探して回った』

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「……お嬢様」
「アリシアが調べた情報には、ここの噂は無かったかしら」
「はい。まさかこのダンジョンにもが存在していたとは」

 砂利道を抜け、草地へ入ると同時に天を仰ぐ。すると、そこには澄み渡る太陽と広大な空が広がっていた。
 ダンジョンは何も洞窟タイプだけではない。無限とも思えるほどに広がる架空の牧草地や山岳地帯、活火山地帯や毒の沼地。果ては古代遺跡チックな物まで多様にある。
 学園ダンジョンもそれに倣って、似た様なマップは存在して居るが、やはりベースは洞窟型だ。広々とした空間の様に見えて、壁は存在しているし天井も果てしない様に見えて実際は限界高度がある。
 まあでも、初見で見たらビビるよね。リアル化した今、私もちょっと高揚感に包まれているもの。

「アリシア、命取りとまではいかないけれど、貴女の調べた情報と齟齬のある部分を正しておきましょうか」
「お願い致します」

 まず魔物の出現分布について。
 これには試行回数の少なさもあって、やはりランダム性の高い物だと思われて居る様だった。確かにランダム性があるのは認めるけど、どちらかというと真にランダムなのはマップであって、魔物の出現テーブルはマップに引っ張られると言うことを伝えておく。

「勉強になります。ではこのマップに出現するタイプは、大型系が出始めると言うことになるのでしょうか」
「ええ。その上中盤だから、マップの長さは序盤の3倍。使用される魔物の出現テーブルも1つから2つに上昇するわ。1つのテーブルで3種類で、テーブルが被ることもあるから最低3種の最大6種ね。ただ狙ってる素材も大型が多いから、このマップは私としてはお得な部類ね。なにせ、出現する魔物の種類が多いからピンポイントに魔物を狙うと、なかなか出会えなかったりするのよね」

 狙いの敵は何体もいるが、この草原マップならその内の何体かと出会えるかもしれない。
 そんな風に雑談をしながら周囲を見渡していると、マップで確認するまでもなく素材がチラホラと目視出来た。よしよし、使えそうなものばかりだわ。根こそぎ回収しちゃいましょ!

 そうして手当たり次第マジックバッグに詰め込んでいると、マップに反応があった。いや、それと同時に目視出来たとも言える。
 何せ相手が大きすぎて、が見えたのだ。

**********
名前:トレント
レベル:19
説明:魔素により邪悪な意志を持った、歩く樹の魔物。枝を鞭のように振るい相手に攻撃をする。枝の本数が多いほど驚異度が増す。
**********

「トレントですか……。このクラスが出てくるとなると、学生達の手には余りますね」
「そうねー。でも私としては狙っていた魔物ではあるから、最初から出てくれるなんて幸先良いわ。シラユキちゃんついてるー!」
「1匹だけの様ですが、お嬢様が倒されますか?」
「うーん、アリシアが倒して良いわよ。ただ、バゼラードでは時間が掛かるから魔法も併せてね」
「おまかせを。大物相手は久々です、腕がなりますね」

 こちらへ地面を揺らしながら向かってくるトレントを無視して、私は地面やに存在しているアイテムを回収して行く。
 『リト草』『ヤクミ草』『ゲドク草』などの一般的な物に加え、『カイエン草』『ハレツ草』『セキレイタケ』『グラステング』。おっ『メキメキ草』じゃない。それにこれは『嘆きの根』、更には『トレントの木皮』?
 あれ、何でこれが落ちてるの? と思って顔を上げたら、何かが塵に変わって行く瞬間が目に入った。

「お嬢様、採取に夢中になっては危ないですよ」
「あれ、もしかしなくてもこの素材は……」
「私が今しがた倒した相手です」
「あー……えへっ」
「もう、仕方のない人ですね。それにしてもお嬢様の速さは身に持って体験しましたが、まさか素材採取でもその速度が失われないとは。どうやらお嬢様にとっては、この幅のダンジョンでも狭い様ですね」

 アリシアの視点から見たシラユキちゃんは、1つの素材を回収し終えたと思ったら、次の素材まで一瞬で移動しては素早く回収して、また移動してを繰り返していたらしい。
 正に目にも止まらぬ早業だったとか。

 私としてはあまり意識はしていなかったけど、ダンジョンを全力疾走したり、加減をしつつも大事な人を抱えて移動したりと経験して来たから、普段無意識に制御できるギアが増したのかも?

 1つギアが上がっただけでアリシアの目で追いつけなくなるなんて異常かもしれないけど、前に力を込めて走ったのはレベルが1の時だし、今はもう15なんだもん。あの頃と比べたらステータスも全然違うし、出せる馬力が違う。
 レベルが大幅に上がる予定は今後ないだろうし、逆にアリシア自身に成長して貰って、目で追えるくらいには成長して欲しいな。

「それじゃ、しばらくアリシアは戦いをメインにして。私は素材回収をメインにして、アリシアの手に余る相手の時は手伝うわ」
「承知致しました」

 それから私とアリシアは、そんな方針で歩みを進め、中盤を乗り越えた。
 素材を根こそぎ回収する私と、中型から大型の魔物を討伐するアリシアの速度が大体同じくらいだからか、良い感じに役割分担ができていたと思う。
 大型と言っても結局は中級ダンジョンの大型だし、レベルも種族補正も最下位の連中ばかりだ。アリシアが手こずる理由にはならない。出現する中型の敵も、森に出る様な猪や羊なんかの獣型が数体まとめて出てくる程度。学生が捌き切るのは難儀するかもしれないが、そこはアリシア。一刺一殺で華麗に仕留めて行く。

 そうして私たちは終盤ゾーンに差し掛かった。

「……妙な気配を感じます。空も夕暮れ時の様な茜色に変わりましたし、感じないはずの腐臭すら漂ってくる気がします。何故だか無性に『浄化』をして回りたい気分にさせられますね」

 アリシアが睨みつける様に前方の空間を見つめ続ける。
 アリシアの感想はもっともね。このマップは中級ダンジョンの中でも一際現れにくいレアマップの『暗黒属性マップ』だ。出現する魔物もその名の通り、暗黒属性に身を置く魔物ばかりが選出され、王国地方では姿を現さない魔物で溢れかえっている。その上レアマップが選ばれたタイミングも最高だった。
 何せ、ダンジョンの終盤で現れたのだ。3グループの出現テーブル……つまりは9種類の魔物と鉢合わせる可能性があり、中級ダンジョンの暗黒属性の魔物は5種類しかいない。この1回でその全てと戦える可能性があるのだ。
 そして私が今回お目当てにしている魔物も、暗黒属性に1体だけ含まれている。

「シラユキちゃんの運命力は天井知らずねぇ」
「お嬢様?」
「アリシア、ここには私の目的の素材をドロップする魔物が現れる可能性が高いわ。先に言っておくけど、するから覚悟しておいてね」
「承知致しました」

 そうして進むこと数分。
 『ゾンビ』『グール』『ダークバット』。そしてレア出現の上位種『バーゲスト』まで出現したのに、お目当ての魔物は現れなかった。シラユキちゃんの運命力、もしかしてマップを引いた時点で使い切っちゃったかしら? まあ暗黒属性マップに出現する素材類も希少なものばかりだから、良いんだけどさー。
 しっかしこの『バーゲスト』、強さだけで言えば中級ダンジョンの裏ボスと言っても差し支えない強さね。アリシアでもタイマンだと苦戦を強いられているみたいだし。

**********
名前:バーゲスト
レベル:30
説明:地獄に住まうという犬型の亡霊種。首輪から伸びた2本の鎖を自在に操り、拘束や搦手にも使う知能の高い魔物。体力が低下すると暗黒魔法も使用する。
**********

 バーゲストは距離を置いて鎖を振り回し、アリシアはバゼラードでそれを弾いて的確に距離を詰める。アリシアが傷を負わせればバーゲストは『ダークボール』や『ダークランス』を解禁し、鎖の動きも激しさを増す。
 アリシアもここで魔法の使用を解禁し、無詠唱の『ウィンドランス』で対抗する。

 勝負を決めたのはやはりアリシアの『ウィンドランス』。一撃の重さと速度は敵の『ダークランス』の比ではなく、避け損ねたバーゲストに致命傷を与えた。優秀なアリシアが、一番得意としている属性だもの。当然アリシアが勝つと信じていたわ。
 最後はアリシアが接近してバゼラードで首を落とし、勝負は決まった。

『アリシアのレベルが46になりました。各種上限が上昇しました』

「お疲れ様アリシア。そしてレベルアップおめでとう。心から祝福するわ」
「ありがとうございます、お嬢様! お嬢様から頂いたこの短剣と魔法の知識がなければ、恐らく勝てなかったでしょう。この成長もお嬢様のおかげです!」
「もう、大袈裟ね。でも、ありがと。嬉しいわ」

 ハグをしてキスの応酬をしていると、塵と消えたバーゲストがいた場所に宝箱が出現した。
 強力な魔物の場合、特殊なドロップが出る事がある。それはまるでボス部屋のように宝箱に入って現れるのだ。そして道中含め、アリシアに討伐を任せっきりにしているのも、このドロップに関係している。
 盗賊やローグなどの斥候系の職業には、対象のアイテムドロップ率上昇のパッシブスキルがある。これはダンジョン系にのみ効果を発揮するタイプのもので、パッシブスキルの効能が高い人の戦闘貢献度が高いほど発動率が高まる。
 私も全職業のパッシブスキルを有している関係上、当然そのスキルは持っているけど、所詮はレベル15の性能。複数職業の効果でドロップ率上昇が重ね掛けされているのかは分からないから要検証だけど、今は確実な方を優先した。それに、小さな効能を組み合わせたところで本職のレベル45には勝てない気がするのよね。
 確証はないけど、直感は侮れない。

 相手が出現上限がなく即リポップする環境なら戦闘力に物を言わせたパワープレイで数を稼げるから、ドロップ率上昇の数値よりも私が暴れた方が期待値は高いけれど、ここは出現数も再出現する間隔もまばらな場所。
 私はアリシアの露払い役に徹しようと思う。

 さーて、そんな事よりドロップと宝箱は何かなーっと。

**********
名前:バーゲストの幽石
説明:バーゲストの力が宿った特殊な魔石。
**********

**********
名前:バーゲストの怨鎖
説明:バーゲストの怨みが込められた漆黒の鎖。地獄の金属で作られており希少。
**********

**********
名前:ダークランスの魔法書
説明:暗黒属性魔法ダークランスの力が込められたダンジョン製の魔法書。
**********

「おーおー、良いものが揃い踏みね」
「これは、今は使い手がほとんどいないとされる暗黒魔法の魔法書! 末端価格ですら白金貨10枚はくだらない代物ですね。他の素材は見た事がない為、価値が測れません」

 アリシアが目を輝かせながら言う。まぁ、こんな物が中級のダンジョンから出るとは思わないか。

「確かにレア物だけど、私が狙ってる品ではないわね。素材は貰うけど、魔法書はアリシアの好きにして良いわよ」
「よ、宜しいのですか? ……では、ありがたく頂戴します」
「さ、続けて行くわよ」
「はい、お嬢様」

 そうして魔物を蹂躙しながら進んでいくと、最後の最後。ラストテーブルの3匹目に、ようやくお目当ての魔物が現れた!

**********
名前:ザ・ウォッチャー
レベル:21
説明:宙を舞う地獄の使者。その巨大な瞳は監視者の名を冠し、地獄の伝令にも使われる。
**********

 1つ目の空飛ぶ怪物、ザ・ウォッチャー。見た目は巨大な目玉に翼が生えたちょっとキモい存在で、普通の地域には生息しない魔物だ。ダンジョン以外となると、その説明通り『地獄』か『魔王城』近辺とか……まあ人間が生活している場所にはいないので、狙って出会うには本当に難しい存在だったりする。
 そして今回の目的は、もう見れば分かる通りではあるんだけど、コイツの本体。つまりは『瞳』。またの名を『レンズ』を取りに来た。

 ダンジョンだと確率だから良いんだけど、外だと採取が難しいのよね。だって常に飛び回っているし、身体は翼を除けば割合の8割が目なんだもの。少しでも攻撃がズレればレンズに傷が付く。
 あと、採取する時はもう、割とグロい。魚の目玉は気にせず食べられるけど、もし魚の目をほじくる時に赤い体液が流れ出したら、きっと口に出来ないと思う。多分トラウマになるわね。
 ううん、リアルになったこの世界で、シラユキちゃん耐えられるかしら?

「ふっ!」
『ギイィィ!』

 そう考えているうちに、目玉の1体はアリシアによって討伐される。うわぁ、目玉にナイフが……。痛そう……。

「はっ!」
『ギイ!?』
『ギィ……!』

 そんな感想を抱いているうちに1体目は塵と消え、2体目と3体目も切り裂かれた。
 アリシアは先程のレベルアップ以降、物理を主体に戦っている。その理由は戦闘スキルの上昇のためだ。長らく『ローグ』のレベルが45で停滞していたため、武器スキルが上限に届き頭打ちになっていたらしい。その為、スキルの上昇が楽しいらしく先程から楽しげにバゼラードを振るっているわ。
 いつも冷静沈着で、戦闘中は表情を凍らせて戦っているのに、今はじんわりとその喜びが滲み出ているのよね。アリシアを知らない人はその違いに気付かないかもしれないけど……ふふっ。
 そんな貴女もカワイらしくて好きよ。

「お嬢様、終わりました」
「ふふ」
「お嬢様?」
「んーん、なんでもないわ。素材は何か落ちたかしら」
「はい、この様な物が……」

 アリシアの手には、直径50センチほどの水晶玉が3つ存在していた。どうやら3体全てドロップした様ね。

「お嬢様はこれを狙っていたのですか? あのような醜悪な魔物から落ちたものだと考えると、私としてはあまりお嬢様に触れさせたくはないのですが……」
「気にしないで良いのよ。それにこのレンズは、考え様によってはそこらのガラスの工芸品よりもよっぽど価値があると思わない?」
「ガラス、ですか……。確かにそう思うと、これほどの透明度を持つ球体のガラス玉など見たことがありません。不思議と価値があるもののように思えてきました。元がなんなのか知られなければ、貴婦人が大枚叩いて手に入れようとする事でしょう」
「実際価値はあるわ。これを素材とした錬金術のレシピは沢山あるし、そのどれもが有用な物だもの」

 まず最優先で作りたいパーティー編成用の特殊アイテムも、コレが基礎素材になるんだから!

「そうなのですか? では、沢山集めないといけませんね」
「そう言う事! あっ、ボス部屋まで辿り着いたわね」

 夕暮れの空間を抜け、そこには初心者ダンジョンと同じ紋様の巨大な扉があった。

「ボスですか。お嬢様、戦法はどの様に致しましょう」
「ああ待ってアリシア。ボスは後よ」

 アリシアの手を引き、くるりと反転。もう一度夕暮れの空間へと突入する。するとマップには、前方に魔物が出現したことが表示された。

「お嬢様?」
「言ったでしょ、って」
「ボ、ボスは倒されないのですか?」
「そうよ。ダンジョンを出入りしたら、マップや出現する魔物の種類のリセットがされちゃうでしょ。だから、必要な素材が集まるまでするの」
「……な、なるほど。その様な手が」

 アリシアは驚きを隠せない様子で、けれど感心した様に頷く。
 まあ『』って言葉を聞いて、脱出アイテムで出直すでも、ボスを倒してクリアするでもなく、来た道を戻ると言う発想は生まれないか。

「マップ内を動き回る事で魔物はリポップするけど、地面の素材は復活しないわ。だから目玉とバーゲストはアリシア、その他は私で殲滅するわ。アリシア、ついてきなさい!」
「はいお嬢様、お供します!」

 さあ、素材をガッポリ稼ぐわよ!

『楽しそうなアリシアもカワイイわね!』
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