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第6章:魔法学園 授業革命編
第178話 『その日、先導した』
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「ママと2人っきりなんて久々ね」
「そうね、廃鉱山でのテント以来かしら」
微笑むママがカワイらしくて、思わず抱きしめてしまう。ついでに頬擦りも。
「もう、甘えん坊さんね」
「えへへ、ねえママ。1つ確認したいことがあるんだけど」
「あっ、ママも話したい事があるの。けど、シラユキちゃんが先で良いわ」
「ありがと! えっとね、昨日も言ったけど、この国での結婚のルールを初めて知ったのね」
「うんうん」
「だからそのー……」
「うんうん」
「マ、ママも……。私と、婚約してくれる?」
「……」
ママが固まってしまった。
……いきなり過ぎたかな?
「……だめ?」
あ、やば。断られる事を想定してなかったけど、もし今ここでママに拒否られたら立ち直れないかも。
「……ええっ!? ママも?」
「そ、そんなに驚くことー? 私、こんなにもママの事が好きなのに」
「だ、だって……ママはママだし。それにシラユキちゃんには素敵な子達がいっぱいいるじゃない」
ほっ。良かった、嫌がられてる訳じゃないみたい。
けど、なんとなく予想はしていたけど、ママは他の子達と比べて一歩引いた立ち位置にいるのよね。でも、それはリリちゃんの事があるから、そっちを優先して欲しいっていう気持ち。そしてバツイチだから……かな。
否定されてるわけではないみたいだし、ここは自信を持って押せ押せで行こう!
「ママは素敵な女性よ。今回のソロ攻略も成せば、周りの人達もママがカワイイだけの存在じゃないって認識し始めると思うわ。ママには自信をつけて欲しくて今回のことを考えていたの。でも、その結果現れるどこぞの馬の骨にママを取られたくなかったし、ママは私のものだって公言しておきたかったのよ。家族になったのだって、一緒にいたいからだし……。婚約することだって、私達家族の絆をより一層深める為と考えてくれて良いと思うわ」
「シラユキちゃん……」
「それに、リリちゃんにもあとでちゃんと、場を設けるつもりだし。ママは何も心配しないで良いわ」
「……分かったわ。私もシラユキちゃんの事が、娘としても、そして1人の女性としても、ちゃんと好きよ。尊敬しているし憧れもあるけれど、一緒にいたいと思う気持ちは私も一緒だから。そんな大好きな貴女にそこまで言って貰えるなら、私も覚悟を決めるわ。シラユキちゃん、末長くよろしくね」
「うん! ママ!」
ママを再び抱きしめると、ママからキスをしてくれた。私も甘えるようにキスを返して、しばらくママと見つめ合う。
「ふふ。それにしてもダンジョンで告白されるなんて思いもしなかったわ」
「あ、あわわ。そうだよね、こんな場所でごめんね。せっかくの場面なのに、2人っきりになれるところが思いつかなくて。ここなら邪魔も茶々も入らないと思って……」
「怒ってないわ。ただ、リリに伝える時は、あのマジックテントがいいと思うの。リリは、あの空間が大好きだから」
「分かったわ! ありがとママ!」
「ふふ。どういたしまして」
落ち着いたところで、ここに来た目的を思い出し、ママにバフを掛けて行く。私が補助の魔法を使う所が珍しいのか、ママも楽しげだ。
そうして嬉し恥ずかしといった様子のママをお姫様抱っこで運び、本日4回目となる蹴りをボスモンスターに喰らわせ、宝箱を回収したところでママが思い出したかのように声を上げた。
「そう言えばシラユキちゃん。この国の結婚システムなんだけれど……シラユキちゃんには恐らく、伝わっていない事があったのを思い出したわ」
「え、なになに?」
まだ何かあったの!?
「あの子たちの口からは伝えにくい事だろうから、隠したくて隠していた訳じゃないと思うの。そこは誤解しないであげてね」
「う、うん。何か……重要な制約とか?」
「普通は男性側が複数人娶る場合の制約だから、同性婚の場合は気にしなくても良いところなんだけれど、シラユキちゃんの場合複数の子と……となるから、きっとこの制約の対象になると思うの」
「はらはら」
「それはね……」
「どきどき」
とっても辛そうな表情で、出てきた言葉は……。
「だ、誰かから1人……正妻を選ぶ必要があるわ!」
「……せ、正妻!?」
「皆の事、等しく愛しているシラユキちゃんには難しい選択かもしれないけれど、誰か1人を選ぶ必要があるの。心苦しいかもしれないけれど必要な事だと思うから……何かあったらママに相談して良いからね?」
……そんな、そんな制度があったなんて。
「ママ」
でも、何の問題ないわね!
「シラユキちゃん……?」
「安心して。1番は誰か決めているから」
「そうなの……? それなら一安心だわ。胸の内が決まっているなら良いことね! ……それで、だ、誰とか聞いちゃっても良いかしら? ママもやっぱり気になると言うか……」
「良いわよ。ママにだけ教えてあげるね!」
この秘密事はママとも前に交わしたもの。
ママになら、秘密を共有することは苦ではないわ。
「わ、ありがとう。それでその幸せな子はアリシアちゃん? それともソフィアちゃんかしら」
「違うわ」
「即答!? そ、それじゃ一体……。ママやリリも、アリスちゃんも違うと思うし、あの2人以上に大好きオーラを出している子なんて居たかしら……」
大好きオーラって。
シラユキちゃんから、そんなカワイイの出てたの?
「ママにはこの前話したよね、私の大事な娘の話」
「ええ、覚えているわ。……あ、じゃあその旦那さん?」
「旦那? 何言ってるのママ。私はまだ誰にも体を許していないし、未経験よ」
「そ、そうなの? でも娘って……。あ、もしかして」
ママが何か察したような顔をしてるけど、多分違うことを考えていそうね。悲しげな顔をしているし。
「その子の名前はね、小雪っていうの。見た目は幼い頃の私に瓜二つで、とっても愛くるしくてキュートでカワイくて、最高な子なの!」
「小雪ちゃん! 可愛らしいお名前ね。それにシラユキちゃんが、その子のことをどれだけ愛しているかも、今の想いだけで伝わったわ」
「えへへ。そうよ、私は小雪を世界で一番愛しているわ。だから、正妻にするなら小雪一択なの。それにこの国をよくしようとしてる事業も、全てはあの子が来た時に過ごしやすいと思える環境を作るためだもの。手抜きは一切しないわ」
「シラユキちゃんって、意外と尽くす系なのね。そんな貴女にこれほど思われるなんて、小雪ちゃんは幸せ者ね」
「えへ」
ママからそう言われて、自然と顔が綻ぶ。……今、私は意識していなかったけど、小雪の感情が出てきたのかしら? それだと嬉しいわね。
「……それにしても、シラユキちゃんにそっくり? どういうことかしら。妹さんという訳じゃないみたいだし、でも娘……? 聞く限り、直接産んだわけではないみたいだけど」
そう思っているとママがポツリと疑問をこぼした。そんなママの言葉を、私は聞き逃さなかった。
「ううん、私から生まれたのは間違いないわ。それが身体からではなくて、そうね……。言うなればあの子は、魂を込めたことで、心が産み落とした奇跡の存在ね」
「?????」
小雪の事を思いながら語ったけれど、ママには伝わっていないみたい。まあそれは仕方がないわね。私も想定はしてなかったもの。
それにしても、今までママと過ごしてきた中で、過去最大級に理解出来ていない顔をしているわ。……ふふ、でもそんなママもカワイくて、愛おしくて、大好きよ。
「さ、それじゃ帰りましょ」
頭にクエスチョンマークを浮かべたままのママを連れて、魔法陣へと飛び込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ママ、ママ」
「……あっ、リリ。どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ、ダンジョンだよ。しっかりしてママ」
「ご、ごめんね。ちょっとぼーっとしていたみたい」
そうだったわ。今から子供たちを連れてダンジョンの引率をするんだったわね。私がしっかりしなきゃ。
「リーリエ母様、先程から心ここに在らずといったご様子です」
「やっぱりシラユキに何か言われたのかしら」
「ママがこうなるなんて、よっぽど衝撃的な事に違いないの」
シラユキちゃんの娘さんである小雪ちゃん。アリシアちゃんやソフィアちゃんが大好きすぎて毎日蕩けてるシラユキちゃんが、正妻にすると言い張るくらいだし、きっと私達に会う前は幸せな時間を過ごしてきたんだと思う。
けど、あの子はたった1人でポルトに現れた。溺愛していた娘と離れ離れになった事から、寂しい思いを紛らわせるためにアリシアちゃんを雇って、私達と家族になったのかもしれない。
たとえそんな過去があったとしても、私達親娘を救ってくれたシラユキちゃんの事は今でも尊敬しているし、大好きで大切な娘であることに変わりはないわ。そんなあの子と婚約……最後には結婚することになったとしても、嫌な気持ちにはならないわ。
「ダメなの。やっぱり反応がないの」
「仕方がないわ。この先に出るのはまだゴブリンだし、魔力を抑えながら戦いましょう」
「魔力の消費を抑える……。今までと逆ですね」
「シラユキがいれば使いたい放題だったものね」
「んと、リリはこの杖があるから、多分近距離も大丈夫なの」
「そうなのね。心強いわリリちゃん」
「任せてなの」
でも、不思議よね。
シラユキちゃんは男性経験が無いみたいだし、思えばアリシアちゃんやミカエラさんにもしっかりと処女だと伝えていたような気がする。けど、しっかりと娘は居て、拾ったわけでも孤児を引き取った訳でもなく、自ら産んだとハッキリ言ってくれた。
……もしかして、絵本や教会の伝承にあるような、処女懐妊でも起きたのかしら……? シラユキちゃんなら無いとは言い切れないのよね。もしくは、なんでもありのシラユキちゃんなら、小雪ちゃんは人では無い可能性も……。
「……!」
私ったら何考えてるの、それは無いわ!
ブンブンと頭を振って雑念を払う。すると視界に、シラユキちゃんが教えてくれた『名もなき草』が目に入った。
「……あら?」
ダンジョンの入口に、素材が自生していたかしら?
「あ、ママ起きた?」
「リリ? 起きたってどういう……」
「ママずーっとぼんやりしてたから、リリ達でママを運びながら魔物を倒してたの」
「ええっ!?」
周囲を見ると、魔石らしき物を拾っている姉妹が目に入った。あの魔石の形に大きさは……ゴブリンかしら?
「ママ。ゴブリンやコボルトなら大丈夫だけど、ウルフになると危なさそうだから、マップを出して欲しいの」
「ご、ごめんなさいリリ」
慌ててマップを出して共有し、近場にあった素材を回収していく。
「もう、ママ。落ち着くの」
「リリ……」
リリの体温が背中に伝わる。昔からこの子は、私が慌てるとこんなふうにして抱きしめてくれていたわね。……うん、今この子がこうやって生きてくれているのも、私がこの子と一緒にいられるのも。全てはシラユキちゃんのおかげだものね。
変なことを考えずに、少しでもあの子が目指す世界になるよう手伝いをして、恩を返して行こう。
「落ち着いたの?」
「ええ。落ち着いたわ、ありがとうリリ」
「えへへ」
「「リーリエ母様」」
リリに体重を預けていると、様子を窺っていた姉妹が駆け寄ってくれた。
「ソフィアちゃんもアリスちゃんも、心配かけてごめんね」
「本当に大丈夫?」
「無理はなさらないでくださいね」
「ええ、ママは大丈夫。さあ、遅れた分を取り戻しましょうね!」
そうして本来は入口でするはずだった作戦を、ようやく練り始める。本来なら、こんな道半ばでするのは危ないことだけれど、出現する魔物はゴブリンとコボルトの中間地点付近であり、どちらの魔物も、野生ならまだしもダンジョンでは奇襲を仕掛けてくるような相手ではない。
それにマップの機能があるので、事前に相手の動きは察知が出来るので、安全に話し合いが出来る。
「それじゃあ、ゴブリンには魔力をそんなに使わなかったのね」
「はい。元々はソフィア姉様が魔力強化で先手を打って、足払いをした後に袋叩きにする予定だったのですが、リリ姉様の杖が思った以上に高威力で驚きました」
「お姉ちゃんが言ってたの。後衛だからって杖の練度を上げないのは甘えだって。だから魔法で弱らせた魔物とかで練習してるし、授業でも杖の練習は欠かさないの!」
「リリちゃんの杖も、シラユキが作った武器なのよね? 小柄なリリちゃんが、ゴブリンの頭をカチ割る姿には衝撃を受けたわ……」
「うん! スキル上げを頑張ったら、お姉ちゃんがリリにも扱えそうな奥義書を教えてくれるって言ってたから、頑張るの!」
リリは王都に着いてからもずっと魔力操作の練習を繰り返してきたからか、身体だけでなく武器にも魔力を流す事が出来るようになってきている。それもただの魔力ではなく、雷の魔力を。
ママは元々弓のスキルが高かったから、弓を身体の一部のように感じていたし、そのおかげか魔力を通すのにも違和感がなかった。シラユキちゃんの教えてくれた弓の秘術『賢人流』も、水の魔力を弓に乗せて放つ技術だったから習得も早かったけど……。
そんな元となるスキルや知識も無しに、覚えたての技術だけで魔力を武器に通して属性も付け足せるなんて。シラユキちゃんが言っていた通り、うちの子は天才なのかもしれないわ。
ただ、リリがそこまで出来るようになった事は、時間がなくてシラユキちゃんに報告が出来ていないけれど、もしかしたらこの技術があれば魔法無しにスライムが倒せるかもしれないのよね。このあと試してみようかしら。
「それじゃ、コボルトも同じように倒してみましょうか。数が多い場合はママとアリスちゃんで削りましょうね」
「はいっ」
「頑張るの!」
「ウルフはママが殲滅するわ」
「私、リーリエ母様の弓術見てみたかったのよね」
「私もです。今から楽しみです!」
「ふふ。ママは素材回収を重点的に行うけど、危ない場面はしっかりサポートするわ。だから、思うようにやってごらんなさい」
「「「はーい!」」」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「えへへ、ダンジョン楽しいの!」
「リリちゃんったらご機嫌ね。まあ新しく覚えた魔法で魔物を倒すと楽しくなっちゃう気持ち、分かるわー」
リリが新しく習得した魔法『ハイサンダー』で、黒焦げになったダンジョンボスが塵となって消え、宝箱が現れた。私がアイテムを回収していると、背後で見守っていたソフィアちゃんが抱きしめてきた。
「ソフィアちゃん?」
「リリちゃんの魔法は年齢にそぐわない高威力だし、リーリエ母様の弓術は目を見張るような腕前だし。……っもう! この親娘凄すぎるわ!」
「ふふ、ありがとう。これもシラユキちゃんのおかげね」
「シラユキの用意した装備は確かに凄いけど、それをきちんと扱えるのはリーリエ母様が今まで積み上げてきた修練の賜物だわ。ああ、シラユキが1人でダンジョンクリアさせた気持ちがわかるわ。リーリエ母様は謙遜がすぎるのよ。もっと自信を持つべきだわ」
「はい! 私もそう思います!」
「リリもリリも!」
左右からリリとアリスちゃんが抱きしめてくる。こんなに良い子達に慕われるなんて、ママ泣いちゃう。
「……ありがとう」
しばらくその状態でいると、少し前から気になっていたことを伝える事にした。
「ねえソフィアちゃん、アリスちゃん。2人に伝えたいことがあるの。……貴女達はシラユキちゃんと婚約したわよね」
そう言うと2人は身体を強張らせる。
もう、叱るわけじゃ無いのに。
「なら、もう2人とも私の娘同然よね? だから、ママって呼んで良いのよ」
「え!?」
「で、でも、その」
2人はドキリとしたかのように飛び上がる。
シラユキちゃんやリリがママに甘えている時、彼女達からは少し羨ましげな視線を感じていた。
……それは多分、ソフィアちゃんは幼い頃にお母様と死別して、甘えたことがあまりないと言う話を聞いた。そしてアリスちゃんも、生まれ持った境遇のために甘えたくても甘えられない状況に身を置き、自分を律してきた。
そんな2人が、今。私の娘の婚約者なのだ。つまりこの子達も私の娘! 娘が母親に甘えるのは当然のこと。
昨日、王妃様達が言っていた言葉だけど、目から鱗ね。
……まあ、ママもその娘の婚約者になったんだけど。ふふ、ややこしい関係ね。
「2人がママをママって呼びたそうにしていたのは知ってるんだから。ほら、遠慮しないで」
「ソフィアお姉ちゃん、アリスちゃん。2人はお姉ちゃんやリリと同じで、皆ママの娘なの。だからめいっぱい甘えて良いの。誰も咎めたりしないの」
「「……!」」
リリの言葉が発破になったのか、2人はゆっくりと確かめるように歩み寄り、ママと呼んでくれた。そんな2人がいじらしくて、つい甘やかしちゃったわ。
ふふっ、良い子良い子。
「そうね、廃鉱山でのテント以来かしら」
微笑むママがカワイらしくて、思わず抱きしめてしまう。ついでに頬擦りも。
「もう、甘えん坊さんね」
「えへへ、ねえママ。1つ確認したいことがあるんだけど」
「あっ、ママも話したい事があるの。けど、シラユキちゃんが先で良いわ」
「ありがと! えっとね、昨日も言ったけど、この国での結婚のルールを初めて知ったのね」
「うんうん」
「だからそのー……」
「うんうん」
「マ、ママも……。私と、婚約してくれる?」
「……」
ママが固まってしまった。
……いきなり過ぎたかな?
「……だめ?」
あ、やば。断られる事を想定してなかったけど、もし今ここでママに拒否られたら立ち直れないかも。
「……ええっ!? ママも?」
「そ、そんなに驚くことー? 私、こんなにもママの事が好きなのに」
「だ、だって……ママはママだし。それにシラユキちゃんには素敵な子達がいっぱいいるじゃない」
ほっ。良かった、嫌がられてる訳じゃないみたい。
けど、なんとなく予想はしていたけど、ママは他の子達と比べて一歩引いた立ち位置にいるのよね。でも、それはリリちゃんの事があるから、そっちを優先して欲しいっていう気持ち。そしてバツイチだから……かな。
否定されてるわけではないみたいだし、ここは自信を持って押せ押せで行こう!
「ママは素敵な女性よ。今回のソロ攻略も成せば、周りの人達もママがカワイイだけの存在じゃないって認識し始めると思うわ。ママには自信をつけて欲しくて今回のことを考えていたの。でも、その結果現れるどこぞの馬の骨にママを取られたくなかったし、ママは私のものだって公言しておきたかったのよ。家族になったのだって、一緒にいたいからだし……。婚約することだって、私達家族の絆をより一層深める為と考えてくれて良いと思うわ」
「シラユキちゃん……」
「それに、リリちゃんにもあとでちゃんと、場を設けるつもりだし。ママは何も心配しないで良いわ」
「……分かったわ。私もシラユキちゃんの事が、娘としても、そして1人の女性としても、ちゃんと好きよ。尊敬しているし憧れもあるけれど、一緒にいたいと思う気持ちは私も一緒だから。そんな大好きな貴女にそこまで言って貰えるなら、私も覚悟を決めるわ。シラユキちゃん、末長くよろしくね」
「うん! ママ!」
ママを再び抱きしめると、ママからキスをしてくれた。私も甘えるようにキスを返して、しばらくママと見つめ合う。
「ふふ。それにしてもダンジョンで告白されるなんて思いもしなかったわ」
「あ、あわわ。そうだよね、こんな場所でごめんね。せっかくの場面なのに、2人っきりになれるところが思いつかなくて。ここなら邪魔も茶々も入らないと思って……」
「怒ってないわ。ただ、リリに伝える時は、あのマジックテントがいいと思うの。リリは、あの空間が大好きだから」
「分かったわ! ありがとママ!」
「ふふ。どういたしまして」
落ち着いたところで、ここに来た目的を思い出し、ママにバフを掛けて行く。私が補助の魔法を使う所が珍しいのか、ママも楽しげだ。
そうして嬉し恥ずかしといった様子のママをお姫様抱っこで運び、本日4回目となる蹴りをボスモンスターに喰らわせ、宝箱を回収したところでママが思い出したかのように声を上げた。
「そう言えばシラユキちゃん。この国の結婚システムなんだけれど……シラユキちゃんには恐らく、伝わっていない事があったのを思い出したわ」
「え、なになに?」
まだ何かあったの!?
「あの子たちの口からは伝えにくい事だろうから、隠したくて隠していた訳じゃないと思うの。そこは誤解しないであげてね」
「う、うん。何か……重要な制約とか?」
「普通は男性側が複数人娶る場合の制約だから、同性婚の場合は気にしなくても良いところなんだけれど、シラユキちゃんの場合複数の子と……となるから、きっとこの制約の対象になると思うの」
「はらはら」
「それはね……」
「どきどき」
とっても辛そうな表情で、出てきた言葉は……。
「だ、誰かから1人……正妻を選ぶ必要があるわ!」
「……せ、正妻!?」
「皆の事、等しく愛しているシラユキちゃんには難しい選択かもしれないけれど、誰か1人を選ぶ必要があるの。心苦しいかもしれないけれど必要な事だと思うから……何かあったらママに相談して良いからね?」
……そんな、そんな制度があったなんて。
「ママ」
でも、何の問題ないわね!
「シラユキちゃん……?」
「安心して。1番は誰か決めているから」
「そうなの……? それなら一安心だわ。胸の内が決まっているなら良いことね! ……それで、だ、誰とか聞いちゃっても良いかしら? ママもやっぱり気になると言うか……」
「良いわよ。ママにだけ教えてあげるね!」
この秘密事はママとも前に交わしたもの。
ママになら、秘密を共有することは苦ではないわ。
「わ、ありがとう。それでその幸せな子はアリシアちゃん? それともソフィアちゃんかしら」
「違うわ」
「即答!? そ、それじゃ一体……。ママやリリも、アリスちゃんも違うと思うし、あの2人以上に大好きオーラを出している子なんて居たかしら……」
大好きオーラって。
シラユキちゃんから、そんなカワイイの出てたの?
「ママにはこの前話したよね、私の大事な娘の話」
「ええ、覚えているわ。……あ、じゃあその旦那さん?」
「旦那? 何言ってるのママ。私はまだ誰にも体を許していないし、未経験よ」
「そ、そうなの? でも娘って……。あ、もしかして」
ママが何か察したような顔をしてるけど、多分違うことを考えていそうね。悲しげな顔をしているし。
「その子の名前はね、小雪っていうの。見た目は幼い頃の私に瓜二つで、とっても愛くるしくてキュートでカワイくて、最高な子なの!」
「小雪ちゃん! 可愛らしいお名前ね。それにシラユキちゃんが、その子のことをどれだけ愛しているかも、今の想いだけで伝わったわ」
「えへへ。そうよ、私は小雪を世界で一番愛しているわ。だから、正妻にするなら小雪一択なの。それにこの国をよくしようとしてる事業も、全てはあの子が来た時に過ごしやすいと思える環境を作るためだもの。手抜きは一切しないわ」
「シラユキちゃんって、意外と尽くす系なのね。そんな貴女にこれほど思われるなんて、小雪ちゃんは幸せ者ね」
「えへ」
ママからそう言われて、自然と顔が綻ぶ。……今、私は意識していなかったけど、小雪の感情が出てきたのかしら? それだと嬉しいわね。
「……それにしても、シラユキちゃんにそっくり? どういうことかしら。妹さんという訳じゃないみたいだし、でも娘……? 聞く限り、直接産んだわけではないみたいだけど」
そう思っているとママがポツリと疑問をこぼした。そんなママの言葉を、私は聞き逃さなかった。
「ううん、私から生まれたのは間違いないわ。それが身体からではなくて、そうね……。言うなればあの子は、魂を込めたことで、心が産み落とした奇跡の存在ね」
「?????」
小雪の事を思いながら語ったけれど、ママには伝わっていないみたい。まあそれは仕方がないわね。私も想定はしてなかったもの。
それにしても、今までママと過ごしてきた中で、過去最大級に理解出来ていない顔をしているわ。……ふふ、でもそんなママもカワイくて、愛おしくて、大好きよ。
「さ、それじゃ帰りましょ」
頭にクエスチョンマークを浮かべたままのママを連れて、魔法陣へと飛び込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ママ、ママ」
「……あっ、リリ。どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ、ダンジョンだよ。しっかりしてママ」
「ご、ごめんね。ちょっとぼーっとしていたみたい」
そうだったわ。今から子供たちを連れてダンジョンの引率をするんだったわね。私がしっかりしなきゃ。
「リーリエ母様、先程から心ここに在らずといったご様子です」
「やっぱりシラユキに何か言われたのかしら」
「ママがこうなるなんて、よっぽど衝撃的な事に違いないの」
シラユキちゃんの娘さんである小雪ちゃん。アリシアちゃんやソフィアちゃんが大好きすぎて毎日蕩けてるシラユキちゃんが、正妻にすると言い張るくらいだし、きっと私達に会う前は幸せな時間を過ごしてきたんだと思う。
けど、あの子はたった1人でポルトに現れた。溺愛していた娘と離れ離れになった事から、寂しい思いを紛らわせるためにアリシアちゃんを雇って、私達と家族になったのかもしれない。
たとえそんな過去があったとしても、私達親娘を救ってくれたシラユキちゃんの事は今でも尊敬しているし、大好きで大切な娘であることに変わりはないわ。そんなあの子と婚約……最後には結婚することになったとしても、嫌な気持ちにはならないわ。
「ダメなの。やっぱり反応がないの」
「仕方がないわ。この先に出るのはまだゴブリンだし、魔力を抑えながら戦いましょう」
「魔力の消費を抑える……。今までと逆ですね」
「シラユキがいれば使いたい放題だったものね」
「んと、リリはこの杖があるから、多分近距離も大丈夫なの」
「そうなのね。心強いわリリちゃん」
「任せてなの」
でも、不思議よね。
シラユキちゃんは男性経験が無いみたいだし、思えばアリシアちゃんやミカエラさんにもしっかりと処女だと伝えていたような気がする。けど、しっかりと娘は居て、拾ったわけでも孤児を引き取った訳でもなく、自ら産んだとハッキリ言ってくれた。
……もしかして、絵本や教会の伝承にあるような、処女懐妊でも起きたのかしら……? シラユキちゃんなら無いとは言い切れないのよね。もしくは、なんでもありのシラユキちゃんなら、小雪ちゃんは人では無い可能性も……。
「……!」
私ったら何考えてるの、それは無いわ!
ブンブンと頭を振って雑念を払う。すると視界に、シラユキちゃんが教えてくれた『名もなき草』が目に入った。
「……あら?」
ダンジョンの入口に、素材が自生していたかしら?
「あ、ママ起きた?」
「リリ? 起きたってどういう……」
「ママずーっとぼんやりしてたから、リリ達でママを運びながら魔物を倒してたの」
「ええっ!?」
周囲を見ると、魔石らしき物を拾っている姉妹が目に入った。あの魔石の形に大きさは……ゴブリンかしら?
「ママ。ゴブリンやコボルトなら大丈夫だけど、ウルフになると危なさそうだから、マップを出して欲しいの」
「ご、ごめんなさいリリ」
慌ててマップを出して共有し、近場にあった素材を回収していく。
「もう、ママ。落ち着くの」
「リリ……」
リリの体温が背中に伝わる。昔からこの子は、私が慌てるとこんなふうにして抱きしめてくれていたわね。……うん、今この子がこうやって生きてくれているのも、私がこの子と一緒にいられるのも。全てはシラユキちゃんのおかげだものね。
変なことを考えずに、少しでもあの子が目指す世界になるよう手伝いをして、恩を返して行こう。
「落ち着いたの?」
「ええ。落ち着いたわ、ありがとうリリ」
「えへへ」
「「リーリエ母様」」
リリに体重を預けていると、様子を窺っていた姉妹が駆け寄ってくれた。
「ソフィアちゃんもアリスちゃんも、心配かけてごめんね」
「本当に大丈夫?」
「無理はなさらないでくださいね」
「ええ、ママは大丈夫。さあ、遅れた分を取り戻しましょうね!」
そうして本来は入口でするはずだった作戦を、ようやく練り始める。本来なら、こんな道半ばでするのは危ないことだけれど、出現する魔物はゴブリンとコボルトの中間地点付近であり、どちらの魔物も、野生ならまだしもダンジョンでは奇襲を仕掛けてくるような相手ではない。
それにマップの機能があるので、事前に相手の動きは察知が出来るので、安全に話し合いが出来る。
「それじゃあ、ゴブリンには魔力をそんなに使わなかったのね」
「はい。元々はソフィア姉様が魔力強化で先手を打って、足払いをした後に袋叩きにする予定だったのですが、リリ姉様の杖が思った以上に高威力で驚きました」
「お姉ちゃんが言ってたの。後衛だからって杖の練度を上げないのは甘えだって。だから魔法で弱らせた魔物とかで練習してるし、授業でも杖の練習は欠かさないの!」
「リリちゃんの杖も、シラユキが作った武器なのよね? 小柄なリリちゃんが、ゴブリンの頭をカチ割る姿には衝撃を受けたわ……」
「うん! スキル上げを頑張ったら、お姉ちゃんがリリにも扱えそうな奥義書を教えてくれるって言ってたから、頑張るの!」
リリは王都に着いてからもずっと魔力操作の練習を繰り返してきたからか、身体だけでなく武器にも魔力を流す事が出来るようになってきている。それもただの魔力ではなく、雷の魔力を。
ママは元々弓のスキルが高かったから、弓を身体の一部のように感じていたし、そのおかげか魔力を通すのにも違和感がなかった。シラユキちゃんの教えてくれた弓の秘術『賢人流』も、水の魔力を弓に乗せて放つ技術だったから習得も早かったけど……。
そんな元となるスキルや知識も無しに、覚えたての技術だけで魔力を武器に通して属性も付け足せるなんて。シラユキちゃんが言っていた通り、うちの子は天才なのかもしれないわ。
ただ、リリがそこまで出来るようになった事は、時間がなくてシラユキちゃんに報告が出来ていないけれど、もしかしたらこの技術があれば魔法無しにスライムが倒せるかもしれないのよね。このあと試してみようかしら。
「それじゃ、コボルトも同じように倒してみましょうか。数が多い場合はママとアリスちゃんで削りましょうね」
「はいっ」
「頑張るの!」
「ウルフはママが殲滅するわ」
「私、リーリエ母様の弓術見てみたかったのよね」
「私もです。今から楽しみです!」
「ふふ。ママは素材回収を重点的に行うけど、危ない場面はしっかりサポートするわ。だから、思うようにやってごらんなさい」
「「「はーい!」」」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「えへへ、ダンジョン楽しいの!」
「リリちゃんったらご機嫌ね。まあ新しく覚えた魔法で魔物を倒すと楽しくなっちゃう気持ち、分かるわー」
リリが新しく習得した魔法『ハイサンダー』で、黒焦げになったダンジョンボスが塵となって消え、宝箱が現れた。私がアイテムを回収していると、背後で見守っていたソフィアちゃんが抱きしめてきた。
「ソフィアちゃん?」
「リリちゃんの魔法は年齢にそぐわない高威力だし、リーリエ母様の弓術は目を見張るような腕前だし。……っもう! この親娘凄すぎるわ!」
「ふふ、ありがとう。これもシラユキちゃんのおかげね」
「シラユキの用意した装備は確かに凄いけど、それをきちんと扱えるのはリーリエ母様が今まで積み上げてきた修練の賜物だわ。ああ、シラユキが1人でダンジョンクリアさせた気持ちがわかるわ。リーリエ母様は謙遜がすぎるのよ。もっと自信を持つべきだわ」
「はい! 私もそう思います!」
「リリもリリも!」
左右からリリとアリスちゃんが抱きしめてくる。こんなに良い子達に慕われるなんて、ママ泣いちゃう。
「……ありがとう」
しばらくその状態でいると、少し前から気になっていたことを伝える事にした。
「ねえソフィアちゃん、アリスちゃん。2人に伝えたいことがあるの。……貴女達はシラユキちゃんと婚約したわよね」
そう言うと2人は身体を強張らせる。
もう、叱るわけじゃ無いのに。
「なら、もう2人とも私の娘同然よね? だから、ママって呼んで良いのよ」
「え!?」
「で、でも、その」
2人はドキリとしたかのように飛び上がる。
シラユキちゃんやリリがママに甘えている時、彼女達からは少し羨ましげな視線を感じていた。
……それは多分、ソフィアちゃんは幼い頃にお母様と死別して、甘えたことがあまりないと言う話を聞いた。そしてアリスちゃんも、生まれ持った境遇のために甘えたくても甘えられない状況に身を置き、自分を律してきた。
そんな2人が、今。私の娘の婚約者なのだ。つまりこの子達も私の娘! 娘が母親に甘えるのは当然のこと。
昨日、王妃様達が言っていた言葉だけど、目から鱗ね。
……まあ、ママもその娘の婚約者になったんだけど。ふふ、ややこしい関係ね。
「2人がママをママって呼びたそうにしていたのは知ってるんだから。ほら、遠慮しないで」
「ソフィアお姉ちゃん、アリスちゃん。2人はお姉ちゃんやリリと同じで、皆ママの娘なの。だからめいっぱい甘えて良いの。誰も咎めたりしないの」
「「……!」」
リリの言葉が発破になったのか、2人はゆっくりと確かめるように歩み寄り、ママと呼んでくれた。そんな2人がいじらしくて、つい甘やかしちゃったわ。
ふふっ、良い子良い子。
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