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第5章:魔法学園 入学騒乱編
第169話 『その日、カワイイ私を魅せつけた』
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ソフィー、何かツボに入ったのかしら? カラカラと笑っているわ。カワイイからいいけど、どうしたんだろ。
あ、いつまでも『フレイムトルネード』を出しっぱなしにするのもアレね。消しちゃいましょ。
『パチン』
うん、指を鳴らすと魔法が消える。演出としてはやはり、無類の格好良さがあるわね。これはちょっとやめられないわ!
『なななな、何という事でしょう!! シラユキ選手が詠唱破棄で使った魔法は、失われたとされる伝説の魔法! 『ロストマジック』に分類される『フレイムトルネード』です!! 過去の偉人達の中でも、選ばれた天才にしか扱えなかった秘技中の秘技ですが、シラユキ選手はそれを容易く、詠唱破棄で披露してくれましたー!』
失われ……ってまあ、使える人間がいないなら失われてる扱いも仕方ないか。
長年鍛えたアリシアですら、水魔法が70手前なのだ。対して、2段階目のトルネードは必要スキル90。この環境でその域に行けるのは、本物の天才だけでしょうね。
それに魔法書も、手に入れられるかは運次第。私も現状では、手持ちの素材だけでこのレベルの魔法書の生産は出来そうにないし。……うん、これは失われているわね。
『さて、興奮も冷めやらぬ中、続けて2戦目を。と言いたいところですが、シラユキ選手、あんな大魔法を打って大丈夫ですか? 魔力が厳しいなら少し休憩を挟んでも……』
「必要ないわ。この程度の疲労、ちょうど良いハンデよ」
実際、今の魔法でもすぐに魔力は回復してしまったので、実質消費していないのと同じになった。
現在パーティを組んでいるソフィー達も、私の魔力が全快したのを知ったのだろう。ソフィーからは呆れの視線が飛んできていた。
どうなってるのよ、ソレ。と言いたげな目ね。
でも仕方ないの。そう言う職業だもの。
『おおー、強気ー! さて、青組の皆さん、彼女はああ言っていますがー』
「きっと強がりだ! あれほどの魔法を使って疲れていないはずがない! 第二陣、行くぞ!」
『おう!』
すぐさま第二陣の準備が進められ、目の前に参加確認のボードが出て、一戦目と同じように許可をする。
『それでは決闘第二試合。開始します!』
『バトルスタート』
試合が始まると同時、全員が大きく散らばった。
「固まるな、連続で撃てるとは思えんが、大魔法が飛んで来るかもしれないぞ! 接近してしまえば魔法も放てまい。取り囲んで押しつぶせ!」
今回の連中は、前衛と後衛が半々といった感じかな。
後衛組は、学園の生徒と一部の助っ人ね。彼らは1戦目よりも大きく広がって、先ほど見せた小型のトルネードの効果範囲よりも大きく陣地を取っている。
そして残りの前衛は、冒険者と衛士、それから一部学園生ね。前衛組もまた、個々に散らばりながら私を直接攻撃する為にジリジリと詰め寄って来ていた。
もう彼らのために棒立ちをしてあげるつもりはない。これからは私も、最初から攻勢に出るわ!
「接近してくるなら、これの出番よね」
『おおーっと、シラユキ選手! ここで腰に下げていた剣を抜いたー! 事前の調査によると、あの剣は見た目ただの銅の剣ですが、性能はむしろそれ以下! ロイガル学園長曰く、切れ味なんてものはほとんどなく、剣の形をしただけの金属の塊だそうですー! ただし、超レア特性の不壊が付いているので、決して破損しないそうです!』
不壊という特性を聞いて、近接戦を挑もうとしている連中が警戒したような顔をするが、すぐに切り替えた。なんせ、壊れないだけで、切れ味はほとんどないと、騎士科の学園長が明言しているのだから。
けれど、それで油断しているようではまだまだ素人ね。助っ人の中でも程度の低い連中なのかしら。お家の専属騎士というか、衛士っぽい人達はそんな武器を持っている私を警戒しているみたいだけど、冒険者風の連中は構わず詰め寄ってきた。
敵は左に1、正面に2。右は一歩遅れて3。
その背後には25人の前衛職。後衛に徹して散らばる魔法使い29。
こんな密集陣形では、相手陣営から魔法が飛んで来る心配はほぼ無さそう。『ハイサンダー』とかのハイ系は頭上が発射起点となるため集団戦でも関係無いんだけど、ランス程度で威張り散らしてる連中が使えるわけもないわ。
「へっ、近くで見ると良い女だな」
正面の1人がそう呟いた。
「あら、ありがとうと言っておくべきかしら?」
「随分と余裕だな。魔法使いがこれだけ接近されてんだぜ? 結果は見えてんだろ」
「普通なら、そうかもね」
そうして会話をしている間にも、ジリジリと周囲の連中は距離を詰めて来ている。見てくれはあれだけど、剣を持っている相手に不用心が過ぎるわね。
「今だ! 押さえつけろ!」
そうして取り囲んでいた男達は手を伸ばして来た。まさか武器を振り上げるのではなく、掴み掛かろうとするなんて……舐められたものね?
「あんた達には、技すら惜しいわ」
私は『始まりの剣』を、横薙ぎに一閃した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
美しい。
白銀の女王が放った一撃は、彼女に迫っていた魔手の悉くを両断した。
神速の域に達した剣は、音を置き去りにする。
その極地にたどり着いた者を何人か知ってはいるが、その中でも女王の剣が一番優れている様に思える。……やはり、某の目に狂いは無かった。
刀や剣の腕前に性別は関係ない。故郷に置いて来たあの娘がよくそう吠えていたものだ。ただあやつは、確かに村一番の腕前は持っていたが、それだけだった。
周囲を圧倒するほどの実力までは持ち合わせておらなんだから、あやつの言葉を信じるものは誰もおらなんだし、頭の硬い老人連中も女武士の存在を許す事はなかった。
しかし、あの女王の剣閃。あれを見せられればあの老人どもも、首を縦に振らざるを得んだろう。
あの村を離れて十余年、今頃どうなっているやら……。
いや、今は女王だ。……ふむ、女王女王と呼んでいたせいか、名前が思い出せんな。
あの白銀の女王、名は何だったか……。
『な、何が起こったのでしょうか!? シラユキ選手が剣を振り抜くと、取り囲んでいた人達が一斉退場となりましたー!!』
そうであった、シラユキと申したか。
名は体を表すと言うが、実に見事なまでに雪の化身よ。
白い肌に銀の髪、そしてこの大陸では相当珍しい、和国に因んだ名を持つ者。……ふむ、あれほどの腕前と目立つ容姿を持っているにも関わらず、故郷ではとんと噂を聞く事はなかった。
その為、生まれはこちらなのやも知れんと思うて情報屋を使ってみたが、同様の依頼が最近多いとの事で、即答で教えてくれた。なんでも王都周辺で、ここ1ヶ月以前の情報がまるで無いらしい。
まるで、何も無いところから突如として生まれたかの様な不気味さであるな。
だが、逆に王国ではなく和国であった場合はどうであろう。
あの国には隠れ里が無数にある。その内の何処かで生まれ育ったのであれば納得も出来よう。それも人が寄り付かぬ秘境などであれば尚更だ。
例えばそうさな…… 辺境の奥地、銀嶺郷の出身というのはどうだろう。あの地に住まう者は、白い肌に輝く髪を持つとされ、神話の時代より話題に事欠かぬ地よ。
時代によっては妖の類と思われていた時期すらあったらしい曰く付きだ。辺境は魔物もその分凶暴であるし、あの強さも納得が行くが……。
……いや。考えが逸れたな。
それが事実であろうとなかろうと、どちらでも良い事であった。あの見事な剣閃を前に、あの女王の出身など、些事に過ぎん。
今は、あれほどの達人と死合える好機を喜ぶべきだ。
『シラユキ選手、唖然とする青組に強襲を仕掛けます! 青組、体勢を立て直そうとしますが、シラユキ選手の速度についていけませーん!』
舐めてかかった冒険者連中は全員が真っ二つにされ、警戒をしていた衛士とやらも、先ほど回避で見せた足捌きで接近されては打つ手もないだろう。
1人、また1人とやられていっておる。
『おおっと、またしてもシラユキ選手の剣が、相手の鎧ごとぶった斬ったー!! あそこまで綺麗に斬られると見ていて爽快ですね! しかし不思議です。事前情報では切れ味がほとんどない、壊れないだけの剣と聞いていますが……。その辺り、どうでしょう神丸選手』
横合いから突如、マイクという機器を突き付けられ、反応が一瞬遅れた。
『……某か?』
『はい、それがしさんです!』
此奴……気配がまるで無かった。今はハッキリと姿を認識出来ておるが、よもや某が接近に気付けぬとは。気を抜いていたわけではない。
むしろ激戦を前に高揚し、いつでも戦いを始められるよう臨戦態勢を取っていたくらいだ。その状態の某の警戒網を突破するとは……この小娘も尋常の者ではない。
『不思議そうですねー! 事前情報によれば貴方が青組で一番強いらしいじゃないですか。なので適役かと思い聞いてみました!』
『ふむ……良かろう。まずあの剣だが、某の見立てでも間違いなくナマクラだ。武器屋であれば、使い捨ての木箱の中に無造作に置いてあっても違和感のない程だ』
『おおー! では何故あの様にスパスパと斬れるのでしょう』
そう言っている間にも最後の前衛生徒が倒れ、残るは後衛職だけとなっていた。
魔法使い共は仲間に当てる心配をしていたのか、今になってようやく魔法発動をしている。それでは手遅れだ。先の戦いを見ている限り、乱戦中にでも当ててやる気概くらいはないと、あの女王に手傷は負わせられんぞ。
『見た目が銅製の剣で、実際に切れ味がほとんど無くとも、強者が振るえばそれは立派な刃となる。なにぶん破壊不可能という特性が厄介だ。どれだけ相手が硬くとも、膂力さえあれば壊す心配もなく振り抜けるし、鋭い斬撃は間合いの外にも届きうる剣閃が飛ぶ。本来、それほどの高威力の技を放てば、まともな武器なら剣身が保たん。しかしあの剣は不壊、決して壊れぬ。……それに、獲物の攻撃力など所詮は対等な相手と打ち合う上で必要になるだけで、打ち合いにすらならない現状、無くても問題はないと言う事だ』
『つまり?』
『切れ味のない剣でも相手が出来ると、奴らは舐められている訳だな』
最後の生徒を切り捨てたところで、女王がこちらを向いた。
「別に舐めてる訳じゃないのよ?」
「だが、現にそれより強い武器があるではないか」
「あー……あれの事?」
女王の視線の先、故郷でもあまりお目にかかれないほどの、格の高い業物が鎮座していた。光り輝くその剣は、格の高さに相反して、手にする資格を必要としない、万人が知覚出来る珍しい種類の様だった。
「あれは景品だし、それにあんなの持ち出したら実力じゃ無くて剣の性能だとか言われるのがオチよ。私はここに、実力を理解させるために来ているの。アイテムや装備のおかげで戦えるなんて思われたくないわ」
「なるほどであるな」
「コイツら、偉そうにしてる割にダンジョンの敵くらいしかまともに倒せないボンクラ共だから、世界の広さを知らないのよね。だから逆に、私の実力をしっかり理解出来る相手なら、それ相応の用意はするわよ?」
女王はこちらを見ながらそう告げた。つまり、某とはあの武器よりも上等なもので相対してくれると言う訳だ。
『シラユキ選手、魔法だけで無く剣の腕も一流のようですねー! 冒険者や衛士、騎士科の優等生に囲まれても、顔色一つ変えずに全滅させました! しかも、息一つ切らす事なく、のんびり敵さんとお喋りしておりますー!』
「あ、ごめんなさい。試合中だったわね?」
『いえいえー、第二試合は終了してますので大丈夫ですよー! それよりも凄いですね、先ほど倒した中には、将来有望株と言われた騎士科の生徒が居たんですよ?』
「そうなの? ……どいつもこいつも似たり寄ったりで、違いがわからなかったわ」
『ひゃー! 大胆発言ー!!』
「あんなのスライムの背比べよ。誰がそうかは知らないけど、貴方達全員、修行し直していらっしゃいな」
退場させられ、項垂れる連中に向けて女王は言い放った。
うむ。確かに此奴らは未熟である。故郷の道場で剣を振るう童共とは比べるまでもない。チャンバラ以下の技量であるな。中には磨けばそれなりになりそうな童もいたが、他人に教えられるほど某は高みに至れているとは思えん。
未熟な手前味噌では最後まで面倒も見られんだろうし、何より今は自分のことで精一杯だ。
だが、そうさな。今回のことは良き薬となったことだろう。少し苦味が強すぎて立ち直れんかも知れんが。
◇◇◇◇◇◇◇◇
くぅー、楽しいー!!
今までも何度か生徒会からの要請で、決闘の実況をして来た。けれど、どれもイマイチぱっとしない戦いばかりで、つまらなかったんだよね。魔法対魔法は、先に完成させて先に当てた方が勝ちだし、騎士対魔法使いなんて見るまでもない。騎士対騎士が一番マシだけど、実力が拮抗しているなんて本当に稀で、ほとんどが一方的な試合。
少しは見てる方の身にもなりなさいっての!!
そんな今までの鬱屈とした空気を、彼女が払ってくれた!
様々な噂や憶測、元凶の渦中に……いえ。間違いなく中心人物の女の子、シラユキちゃん。
彼女が魅せてくれる決闘は、今までの物とは質も内容も全く違うレベルの物だった。
魔法の腕も剣の腕も、どれもが学生の枠を飛び越えている。現に、王国最高峰と言われる人達と比べても遜色ない強さを持っているし、白騎士様と対等に模擬戦をしたという情報も入ってきてる。
そして彼女は、見ている者たちへのパフォーマンスも忘れていない。どっちの技量を用いても相手を瞬殺出来てしまう力を持っているにも関わらず、一方的な試合展開はせず、相手を使ってあえて難しい事をやってのけて観客達を沸かせてる。
こういう所にちゃんと目を配らせて、行動に移せる子、今まで居なかったよ!
『シラユキ選手、連戦に続く連戦ですが、未だに活力に満ちた良い笑顔をしております!! 青組はまだ半分以上残っていますが、この悪い流れを変えられるのかー!?』
彼女のことを知ったのは、入学のテスト結果を配られた時の事だ。新聞部は生徒会と共に、事前にその内容が告知されているのだけど、その点数に誰もが驚愕した。
あ、フェリスちゃんは現場に居たんだし、知っていたか。
その日から彼女の事が気になり、使えるコマを全て使って調べ上げた。そしたらとんでもない内容の話が出るわ出るわ。
もうボクはびっくりだよ!!
遠方の地まで仲間を走らせ得た甲斐があったと言うものさ。
ポルトの地ではオークの拠点を壊滅させたり、闇ギルドを崩壊させたりの大活躍!
シェルリックスでは鉱山に眠る太古の魔獣を討伐して、廃坑の解放!
ナイングラッツでは、疫病に沈みゆく街とエルフの集落を救い、更には竜種2体の討伐!!
王国では膿の大掃除に、ちょっと眉唾だけど魔族の討伐まで!?
そして貴族のご婦人達が今なお求めてやまない新香水の発明!!
他にも、騎士科の女子達憧れの存在である白騎士からの求愛を蹴ったとか、学園のタブーとされてるアリスティア王女殿下を妹にしたとか、公爵令嬢を手込めにしたとか……。あ、この2つは見ればわかるね。あの子の後ろで応援しているんだし。
あとは入学初日にファンクラブが出来たとか、回復ポーションのお手軽作成レシピ公開だとか、誰でも魔法が上達出来る技術供与だとか。とかとかとかとか!
ああもう! ボク、こんなに夢中になれる女の子が現れるなんて、夢にも思っていなかったよ!
フェリスちゃんやモニカちゃんも、まあ家柄や才能も含めて魅力的だとは思うけど、ここまで心動かされることは無かったんだよねー。それを口に出すとモニカちゃんに怒られそうだけど。
出来れば直接取材をして色々な事を確かめてたかったんだけど、フェリスちゃんから止められちゃったんだよね。せめて、決闘が終わるまで待ってほしいんだって。
フェリスちゃんたっての頼みなら、諦めるしかない。いつもお世話になってるし、普段あの子からされるお願いなんて、やらかしたモニカちゃんの事を悪く書かない様にっていう、可愛らしい内容くらいだもん。
あはは!
「セオリー通りに戦う必要はない! 乱戦に持ち込め!! 誰でもいいからアイツを止めるんだ!」
おっと、試合の途中だった! 実況実況!
『さあ始まりました第三試合! 青組の皆さんはなりふり構わず攻勢を仕掛けます! 対してシラユキ選手、次はどんな手を見せてくれるのでしょうかー!!』
「魔法、剣と来たら、次は魔法でしょ」
シラユキちゃんが手を挙げると、彼女の頭上に色とりどりの槍が現れた。
『おおー! これが入学試験で出したと言う複数属性の槍! ですが6本の槍では……あれ、7本ある? でも、それだけでは絶対的に数が足りていませーん!』
「このままならそうね」
シラユキちゃんが私の問いに応える様に、指を弾いた。
すると、槍の本数が増えていた。
『えっ?』
いや、今も尚増え続けていた。
その数、10や20どころではない。
『どええええええ!? も、も、物凄い数の槍だぁー!!』
「こんなものね。発射」
相手の陣容に浮き足立つ青組目掛けて、最低でも60本はあるランスを一斉に放った。
この槍は1本1本がスコアボードを一撃で破壊してしまうほどの魔法だもん。直撃してしまえば、人間なんてひとたまりもないよぉ!
見たことのないダメージの数値を表示させながら、青組の第三陣営は、全て場外に送還された。手も足も出ないとはこの事だよね!
先程の披露していた大魔法や剣技でも観客たちは色めき立っていたけど、あれほどの本数を同時に操る彼女に対し、会場はまたしても大きく沸いた。あの技術力は、先ほど見せてくれた物とは別の意味で凄いもん、当然の反応だよ!
ボクも気になって直接聞いてみたけど、その回答は要領を得なかった。
「うーん、そうねぇ。ランスの魔法って、準備出来たら頭上に待機させるでしょ? それを同時に7本現出させて、その工程を何回か繰り返しただけよ」
いやいやいや。
そんな簡単そうに言いますけど、魔法はその場に維持させるだけでもかなりの修練と練度が必要になるんだよ? それを同時に展開して、尚且つ数十本を維持し続けるなんて正気の沙汰とは思えないって!
ボクでも3本から先を出そうとしたら、制御の面倒が見れなくて、きっと1本がどっかに飛んで行っちゃうよ!
どれだけ狂気じみた事をしているのか自覚があるのかなー、この子。
そして続けて第四陣。もう青組はリタイアしたくても出来ないから、半ばやけっぱちの様な状態だった。というか殆ど、心が折れてるよね……。
まあこんなの見せられてやる気に満ちてる人なんてもう……。あ、居たね。代表挨拶は第一陣に譲ったけれど、その闘志を曇らせる事なく、むしろ燃え上がっている集団が。
第五陣営の面々だ。
彼らは、第一から第四までの連中とは、成り立ちも、信念も、練度も、何もかもが違う。
さっき散っていった連中は、シラユキちゃんの美貌に釣られたり、彼女が景品として提示した伝説級のアイテムを所有する事で、我欲を満たそうとしていた。けれど彼らは、純粋に戦力として彼女とアイテムを欲しがっている。
こんなのに参加しなくても、シラユキちゃんのひととなりからして、お願いすれば力を貸してくれそうなのにって、ボクは思うけどね。
あと、それとは別に、先程の異国の男は早く戦いたくてウズウズしているね。さっきも接近した時に分かったけど、アレ、この国の誰よりも強いでしょ。
ボクも正面からは決して挑みたく無いなぁ。
「おーい、キャサリンちゃーん」
そう思いながら第四試合の開始宣言をしようとしていると、シラユキちゃんから声をかけられた。ほんと何気ない仕草なのに、惹きつけられるくらい可愛いのよね、この子は。
意味もなくきょどってしまう。
『ど、どうされました? あ、流石に休憩挟みます?』
「ううん、それは良いんだけど」
あはは、ほんと元気ですねー、この子は。
「次、見たい魔法があるならリクエストに応えるよ?」
『!! な、なんでも良いんですか?』
ボクはその申し出に、迂闊なことに実況の立場も忘れ、色々とお願いをしてしまった。プロ失格だよね。本来実況は中立にあるべきなのに、肩入れってわけじゃ無いけど、活躍を願う様な事をお願いするだなんて。
しかも、マイクのスイッチを入れたまま複数のロストマジックを伝えてしまったから、観客達から生暖かい笑いが聞こえて来た。やってしまったと思った。いくらなんでも、無茶が過ぎる。
けれど、彼女は二つ返事で了承した。流石の彼女でも、使えない魔法があるだろうと思っていたのに、宣言通り次の試合で全て行使してみせたのだった。
シラユキちゃん素敵……! ボクもファンになっちゃうよー!!
あ、いつまでも『フレイムトルネード』を出しっぱなしにするのもアレね。消しちゃいましょ。
『パチン』
うん、指を鳴らすと魔法が消える。演出としてはやはり、無類の格好良さがあるわね。これはちょっとやめられないわ!
『なななな、何という事でしょう!! シラユキ選手が詠唱破棄で使った魔法は、失われたとされる伝説の魔法! 『ロストマジック』に分類される『フレイムトルネード』です!! 過去の偉人達の中でも、選ばれた天才にしか扱えなかった秘技中の秘技ですが、シラユキ選手はそれを容易く、詠唱破棄で披露してくれましたー!』
失われ……ってまあ、使える人間がいないなら失われてる扱いも仕方ないか。
長年鍛えたアリシアですら、水魔法が70手前なのだ。対して、2段階目のトルネードは必要スキル90。この環境でその域に行けるのは、本物の天才だけでしょうね。
それに魔法書も、手に入れられるかは運次第。私も現状では、手持ちの素材だけでこのレベルの魔法書の生産は出来そうにないし。……うん、これは失われているわね。
『さて、興奮も冷めやらぬ中、続けて2戦目を。と言いたいところですが、シラユキ選手、あんな大魔法を打って大丈夫ですか? 魔力が厳しいなら少し休憩を挟んでも……』
「必要ないわ。この程度の疲労、ちょうど良いハンデよ」
実際、今の魔法でもすぐに魔力は回復してしまったので、実質消費していないのと同じになった。
現在パーティを組んでいるソフィー達も、私の魔力が全快したのを知ったのだろう。ソフィーからは呆れの視線が飛んできていた。
どうなってるのよ、ソレ。と言いたげな目ね。
でも仕方ないの。そう言う職業だもの。
『おおー、強気ー! さて、青組の皆さん、彼女はああ言っていますがー』
「きっと強がりだ! あれほどの魔法を使って疲れていないはずがない! 第二陣、行くぞ!」
『おう!』
すぐさま第二陣の準備が進められ、目の前に参加確認のボードが出て、一戦目と同じように許可をする。
『それでは決闘第二試合。開始します!』
『バトルスタート』
試合が始まると同時、全員が大きく散らばった。
「固まるな、連続で撃てるとは思えんが、大魔法が飛んで来るかもしれないぞ! 接近してしまえば魔法も放てまい。取り囲んで押しつぶせ!」
今回の連中は、前衛と後衛が半々といった感じかな。
後衛組は、学園の生徒と一部の助っ人ね。彼らは1戦目よりも大きく広がって、先ほど見せた小型のトルネードの効果範囲よりも大きく陣地を取っている。
そして残りの前衛は、冒険者と衛士、それから一部学園生ね。前衛組もまた、個々に散らばりながら私を直接攻撃する為にジリジリと詰め寄って来ていた。
もう彼らのために棒立ちをしてあげるつもりはない。これからは私も、最初から攻勢に出るわ!
「接近してくるなら、これの出番よね」
『おおーっと、シラユキ選手! ここで腰に下げていた剣を抜いたー! 事前の調査によると、あの剣は見た目ただの銅の剣ですが、性能はむしろそれ以下! ロイガル学園長曰く、切れ味なんてものはほとんどなく、剣の形をしただけの金属の塊だそうですー! ただし、超レア特性の不壊が付いているので、決して破損しないそうです!』
不壊という特性を聞いて、近接戦を挑もうとしている連中が警戒したような顔をするが、すぐに切り替えた。なんせ、壊れないだけで、切れ味はほとんどないと、騎士科の学園長が明言しているのだから。
けれど、それで油断しているようではまだまだ素人ね。助っ人の中でも程度の低い連中なのかしら。お家の専属騎士というか、衛士っぽい人達はそんな武器を持っている私を警戒しているみたいだけど、冒険者風の連中は構わず詰め寄ってきた。
敵は左に1、正面に2。右は一歩遅れて3。
その背後には25人の前衛職。後衛に徹して散らばる魔法使い29。
こんな密集陣形では、相手陣営から魔法が飛んで来る心配はほぼ無さそう。『ハイサンダー』とかのハイ系は頭上が発射起点となるため集団戦でも関係無いんだけど、ランス程度で威張り散らしてる連中が使えるわけもないわ。
「へっ、近くで見ると良い女だな」
正面の1人がそう呟いた。
「あら、ありがとうと言っておくべきかしら?」
「随分と余裕だな。魔法使いがこれだけ接近されてんだぜ? 結果は見えてんだろ」
「普通なら、そうかもね」
そうして会話をしている間にも、ジリジリと周囲の連中は距離を詰めて来ている。見てくれはあれだけど、剣を持っている相手に不用心が過ぎるわね。
「今だ! 押さえつけろ!」
そうして取り囲んでいた男達は手を伸ばして来た。まさか武器を振り上げるのではなく、掴み掛かろうとするなんて……舐められたものね?
「あんた達には、技すら惜しいわ」
私は『始まりの剣』を、横薙ぎに一閃した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
美しい。
白銀の女王が放った一撃は、彼女に迫っていた魔手の悉くを両断した。
神速の域に達した剣は、音を置き去りにする。
その極地にたどり着いた者を何人か知ってはいるが、その中でも女王の剣が一番優れている様に思える。……やはり、某の目に狂いは無かった。
刀や剣の腕前に性別は関係ない。故郷に置いて来たあの娘がよくそう吠えていたものだ。ただあやつは、確かに村一番の腕前は持っていたが、それだけだった。
周囲を圧倒するほどの実力までは持ち合わせておらなんだから、あやつの言葉を信じるものは誰もおらなんだし、頭の硬い老人連中も女武士の存在を許す事はなかった。
しかし、あの女王の剣閃。あれを見せられればあの老人どもも、首を縦に振らざるを得んだろう。
あの村を離れて十余年、今頃どうなっているやら……。
いや、今は女王だ。……ふむ、女王女王と呼んでいたせいか、名前が思い出せんな。
あの白銀の女王、名は何だったか……。
『な、何が起こったのでしょうか!? シラユキ選手が剣を振り抜くと、取り囲んでいた人達が一斉退場となりましたー!!』
そうであった、シラユキと申したか。
名は体を表すと言うが、実に見事なまでに雪の化身よ。
白い肌に銀の髪、そしてこの大陸では相当珍しい、和国に因んだ名を持つ者。……ふむ、あれほどの腕前と目立つ容姿を持っているにも関わらず、故郷ではとんと噂を聞く事はなかった。
その為、生まれはこちらなのやも知れんと思うて情報屋を使ってみたが、同様の依頼が最近多いとの事で、即答で教えてくれた。なんでも王都周辺で、ここ1ヶ月以前の情報がまるで無いらしい。
まるで、何も無いところから突如として生まれたかの様な不気味さであるな。
だが、逆に王国ではなく和国であった場合はどうであろう。
あの国には隠れ里が無数にある。その内の何処かで生まれ育ったのであれば納得も出来よう。それも人が寄り付かぬ秘境などであれば尚更だ。
例えばそうさな…… 辺境の奥地、銀嶺郷の出身というのはどうだろう。あの地に住まう者は、白い肌に輝く髪を持つとされ、神話の時代より話題に事欠かぬ地よ。
時代によっては妖の類と思われていた時期すらあったらしい曰く付きだ。辺境は魔物もその分凶暴であるし、あの強さも納得が行くが……。
……いや。考えが逸れたな。
それが事実であろうとなかろうと、どちらでも良い事であった。あの見事な剣閃を前に、あの女王の出身など、些事に過ぎん。
今は、あれほどの達人と死合える好機を喜ぶべきだ。
『シラユキ選手、唖然とする青組に強襲を仕掛けます! 青組、体勢を立て直そうとしますが、シラユキ選手の速度についていけませーん!』
舐めてかかった冒険者連中は全員が真っ二つにされ、警戒をしていた衛士とやらも、先ほど回避で見せた足捌きで接近されては打つ手もないだろう。
1人、また1人とやられていっておる。
『おおっと、またしてもシラユキ選手の剣が、相手の鎧ごとぶった斬ったー!! あそこまで綺麗に斬られると見ていて爽快ですね! しかし不思議です。事前情報では切れ味がほとんどない、壊れないだけの剣と聞いていますが……。その辺り、どうでしょう神丸選手』
横合いから突如、マイクという機器を突き付けられ、反応が一瞬遅れた。
『……某か?』
『はい、それがしさんです!』
此奴……気配がまるで無かった。今はハッキリと姿を認識出来ておるが、よもや某が接近に気付けぬとは。気を抜いていたわけではない。
むしろ激戦を前に高揚し、いつでも戦いを始められるよう臨戦態勢を取っていたくらいだ。その状態の某の警戒網を突破するとは……この小娘も尋常の者ではない。
『不思議そうですねー! 事前情報によれば貴方が青組で一番強いらしいじゃないですか。なので適役かと思い聞いてみました!』
『ふむ……良かろう。まずあの剣だが、某の見立てでも間違いなくナマクラだ。武器屋であれば、使い捨ての木箱の中に無造作に置いてあっても違和感のない程だ』
『おおー! では何故あの様にスパスパと斬れるのでしょう』
そう言っている間にも最後の前衛生徒が倒れ、残るは後衛職だけとなっていた。
魔法使い共は仲間に当てる心配をしていたのか、今になってようやく魔法発動をしている。それでは手遅れだ。先の戦いを見ている限り、乱戦中にでも当ててやる気概くらいはないと、あの女王に手傷は負わせられんぞ。
『見た目が銅製の剣で、実際に切れ味がほとんど無くとも、強者が振るえばそれは立派な刃となる。なにぶん破壊不可能という特性が厄介だ。どれだけ相手が硬くとも、膂力さえあれば壊す心配もなく振り抜けるし、鋭い斬撃は間合いの外にも届きうる剣閃が飛ぶ。本来、それほどの高威力の技を放てば、まともな武器なら剣身が保たん。しかしあの剣は不壊、決して壊れぬ。……それに、獲物の攻撃力など所詮は対等な相手と打ち合う上で必要になるだけで、打ち合いにすらならない現状、無くても問題はないと言う事だ』
『つまり?』
『切れ味のない剣でも相手が出来ると、奴らは舐められている訳だな』
最後の生徒を切り捨てたところで、女王がこちらを向いた。
「別に舐めてる訳じゃないのよ?」
「だが、現にそれより強い武器があるではないか」
「あー……あれの事?」
女王の視線の先、故郷でもあまりお目にかかれないほどの、格の高い業物が鎮座していた。光り輝くその剣は、格の高さに相反して、手にする資格を必要としない、万人が知覚出来る珍しい種類の様だった。
「あれは景品だし、それにあんなの持ち出したら実力じゃ無くて剣の性能だとか言われるのがオチよ。私はここに、実力を理解させるために来ているの。アイテムや装備のおかげで戦えるなんて思われたくないわ」
「なるほどであるな」
「コイツら、偉そうにしてる割にダンジョンの敵くらいしかまともに倒せないボンクラ共だから、世界の広さを知らないのよね。だから逆に、私の実力をしっかり理解出来る相手なら、それ相応の用意はするわよ?」
女王はこちらを見ながらそう告げた。つまり、某とはあの武器よりも上等なもので相対してくれると言う訳だ。
『シラユキ選手、魔法だけで無く剣の腕も一流のようですねー! 冒険者や衛士、騎士科の優等生に囲まれても、顔色一つ変えずに全滅させました! しかも、息一つ切らす事なく、のんびり敵さんとお喋りしておりますー!』
「あ、ごめんなさい。試合中だったわね?」
『いえいえー、第二試合は終了してますので大丈夫ですよー! それよりも凄いですね、先ほど倒した中には、将来有望株と言われた騎士科の生徒が居たんですよ?』
「そうなの? ……どいつもこいつも似たり寄ったりで、違いがわからなかったわ」
『ひゃー! 大胆発言ー!!』
「あんなのスライムの背比べよ。誰がそうかは知らないけど、貴方達全員、修行し直していらっしゃいな」
退場させられ、項垂れる連中に向けて女王は言い放った。
うむ。確かに此奴らは未熟である。故郷の道場で剣を振るう童共とは比べるまでもない。チャンバラ以下の技量であるな。中には磨けばそれなりになりそうな童もいたが、他人に教えられるほど某は高みに至れているとは思えん。
未熟な手前味噌では最後まで面倒も見られんだろうし、何より今は自分のことで精一杯だ。
だが、そうさな。今回のことは良き薬となったことだろう。少し苦味が強すぎて立ち直れんかも知れんが。
◇◇◇◇◇◇◇◇
くぅー、楽しいー!!
今までも何度か生徒会からの要請で、決闘の実況をして来た。けれど、どれもイマイチぱっとしない戦いばかりで、つまらなかったんだよね。魔法対魔法は、先に完成させて先に当てた方が勝ちだし、騎士対魔法使いなんて見るまでもない。騎士対騎士が一番マシだけど、実力が拮抗しているなんて本当に稀で、ほとんどが一方的な試合。
少しは見てる方の身にもなりなさいっての!!
そんな今までの鬱屈とした空気を、彼女が払ってくれた!
様々な噂や憶測、元凶の渦中に……いえ。間違いなく中心人物の女の子、シラユキちゃん。
彼女が魅せてくれる決闘は、今までの物とは質も内容も全く違うレベルの物だった。
魔法の腕も剣の腕も、どれもが学生の枠を飛び越えている。現に、王国最高峰と言われる人達と比べても遜色ない強さを持っているし、白騎士様と対等に模擬戦をしたという情報も入ってきてる。
そして彼女は、見ている者たちへのパフォーマンスも忘れていない。どっちの技量を用いても相手を瞬殺出来てしまう力を持っているにも関わらず、一方的な試合展開はせず、相手を使ってあえて難しい事をやってのけて観客達を沸かせてる。
こういう所にちゃんと目を配らせて、行動に移せる子、今まで居なかったよ!
『シラユキ選手、連戦に続く連戦ですが、未だに活力に満ちた良い笑顔をしております!! 青組はまだ半分以上残っていますが、この悪い流れを変えられるのかー!?』
彼女のことを知ったのは、入学のテスト結果を配られた時の事だ。新聞部は生徒会と共に、事前にその内容が告知されているのだけど、その点数に誰もが驚愕した。
あ、フェリスちゃんは現場に居たんだし、知っていたか。
その日から彼女の事が気になり、使えるコマを全て使って調べ上げた。そしたらとんでもない内容の話が出るわ出るわ。
もうボクはびっくりだよ!!
遠方の地まで仲間を走らせ得た甲斐があったと言うものさ。
ポルトの地ではオークの拠点を壊滅させたり、闇ギルドを崩壊させたりの大活躍!
シェルリックスでは鉱山に眠る太古の魔獣を討伐して、廃坑の解放!
ナイングラッツでは、疫病に沈みゆく街とエルフの集落を救い、更には竜種2体の討伐!!
王国では膿の大掃除に、ちょっと眉唾だけど魔族の討伐まで!?
そして貴族のご婦人達が今なお求めてやまない新香水の発明!!
他にも、騎士科の女子達憧れの存在である白騎士からの求愛を蹴ったとか、学園のタブーとされてるアリスティア王女殿下を妹にしたとか、公爵令嬢を手込めにしたとか……。あ、この2つは見ればわかるね。あの子の後ろで応援しているんだし。
あとは入学初日にファンクラブが出来たとか、回復ポーションのお手軽作成レシピ公開だとか、誰でも魔法が上達出来る技術供与だとか。とかとかとかとか!
ああもう! ボク、こんなに夢中になれる女の子が現れるなんて、夢にも思っていなかったよ!
フェリスちゃんやモニカちゃんも、まあ家柄や才能も含めて魅力的だとは思うけど、ここまで心動かされることは無かったんだよねー。それを口に出すとモニカちゃんに怒られそうだけど。
出来れば直接取材をして色々な事を確かめてたかったんだけど、フェリスちゃんから止められちゃったんだよね。せめて、決闘が終わるまで待ってほしいんだって。
フェリスちゃんたっての頼みなら、諦めるしかない。いつもお世話になってるし、普段あの子からされるお願いなんて、やらかしたモニカちゃんの事を悪く書かない様にっていう、可愛らしい内容くらいだもん。
あはは!
「セオリー通りに戦う必要はない! 乱戦に持ち込め!! 誰でもいいからアイツを止めるんだ!」
おっと、試合の途中だった! 実況実況!
『さあ始まりました第三試合! 青組の皆さんはなりふり構わず攻勢を仕掛けます! 対してシラユキ選手、次はどんな手を見せてくれるのでしょうかー!!』
「魔法、剣と来たら、次は魔法でしょ」
シラユキちゃんが手を挙げると、彼女の頭上に色とりどりの槍が現れた。
『おおー! これが入学試験で出したと言う複数属性の槍! ですが6本の槍では……あれ、7本ある? でも、それだけでは絶対的に数が足りていませーん!』
「このままならそうね」
シラユキちゃんが私の問いに応える様に、指を弾いた。
すると、槍の本数が増えていた。
『えっ?』
いや、今も尚増え続けていた。
その数、10や20どころではない。
『どええええええ!? も、も、物凄い数の槍だぁー!!』
「こんなものね。発射」
相手の陣容に浮き足立つ青組目掛けて、最低でも60本はあるランスを一斉に放った。
この槍は1本1本がスコアボードを一撃で破壊してしまうほどの魔法だもん。直撃してしまえば、人間なんてひとたまりもないよぉ!
見たことのないダメージの数値を表示させながら、青組の第三陣営は、全て場外に送還された。手も足も出ないとはこの事だよね!
先程の披露していた大魔法や剣技でも観客たちは色めき立っていたけど、あれほどの本数を同時に操る彼女に対し、会場はまたしても大きく沸いた。あの技術力は、先ほど見せてくれた物とは別の意味で凄いもん、当然の反応だよ!
ボクも気になって直接聞いてみたけど、その回答は要領を得なかった。
「うーん、そうねぇ。ランスの魔法って、準備出来たら頭上に待機させるでしょ? それを同時に7本現出させて、その工程を何回か繰り返しただけよ」
いやいやいや。
そんな簡単そうに言いますけど、魔法はその場に維持させるだけでもかなりの修練と練度が必要になるんだよ? それを同時に展開して、尚且つ数十本を維持し続けるなんて正気の沙汰とは思えないって!
ボクでも3本から先を出そうとしたら、制御の面倒が見れなくて、きっと1本がどっかに飛んで行っちゃうよ!
どれだけ狂気じみた事をしているのか自覚があるのかなー、この子。
そして続けて第四陣。もう青組はリタイアしたくても出来ないから、半ばやけっぱちの様な状態だった。というか殆ど、心が折れてるよね……。
まあこんなの見せられてやる気に満ちてる人なんてもう……。あ、居たね。代表挨拶は第一陣に譲ったけれど、その闘志を曇らせる事なく、むしろ燃え上がっている集団が。
第五陣営の面々だ。
彼らは、第一から第四までの連中とは、成り立ちも、信念も、練度も、何もかもが違う。
さっき散っていった連中は、シラユキちゃんの美貌に釣られたり、彼女が景品として提示した伝説級のアイテムを所有する事で、我欲を満たそうとしていた。けれど彼らは、純粋に戦力として彼女とアイテムを欲しがっている。
こんなのに参加しなくても、シラユキちゃんのひととなりからして、お願いすれば力を貸してくれそうなのにって、ボクは思うけどね。
あと、それとは別に、先程の異国の男は早く戦いたくてウズウズしているね。さっきも接近した時に分かったけど、アレ、この国の誰よりも強いでしょ。
ボクも正面からは決して挑みたく無いなぁ。
「おーい、キャサリンちゃーん」
そう思いながら第四試合の開始宣言をしようとしていると、シラユキちゃんから声をかけられた。ほんと何気ない仕草なのに、惹きつけられるくらい可愛いのよね、この子は。
意味もなくきょどってしまう。
『ど、どうされました? あ、流石に休憩挟みます?』
「ううん、それは良いんだけど」
あはは、ほんと元気ですねー、この子は。
「次、見たい魔法があるならリクエストに応えるよ?」
『!! な、なんでも良いんですか?』
ボクはその申し出に、迂闊なことに実況の立場も忘れ、色々とお願いをしてしまった。プロ失格だよね。本来実況は中立にあるべきなのに、肩入れってわけじゃ無いけど、活躍を願う様な事をお願いするだなんて。
しかも、マイクのスイッチを入れたまま複数のロストマジックを伝えてしまったから、観客達から生暖かい笑いが聞こえて来た。やってしまったと思った。いくらなんでも、無茶が過ぎる。
けれど、彼女は二つ返事で了承した。流石の彼女でも、使えない魔法があるだろうと思っていたのに、宣言通り次の試合で全て行使してみせたのだった。
シラユキちゃん素敵……! ボクもファンになっちゃうよー!!
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1/19の20時の投稿で他サイトで投稿中のものに追いつきます。以後隔日で20:01頃投稿予定です。
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