異世界でもうちの娘が最強カワイイ!

皇 雪火

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第5章:魔法学園 入学騒乱編

第136話 『その日、作戦を立てた』

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 その後もアリスちゃんは何度も、魔力を切り取ったり霧散させたりを繰り返し、魔力操作を覚えることに注力させた。

「さてアリスちゃん。そろそろ次のステップに進みましょうか。今は頭の部分で魔力を動かしているだけにすぎないけど、それらを胴体、腕、脚。それぞれに流し込んでみなさい」

 アリスちゃんは言われた通りに、魔力を動かし始める。
 体内における部位から部位への魔力の移動は、基本的に災害時の防火シャッターの様に閉ざされている。
 まずはそれの開け方を覚えさせるものだけど、私がさっき彼女の体内を好き勝手に動き回った事で、なんとなく感覚的に掴めている事だろう。
 多少シャッターの前でまごまごしてしまったが、開け方を見つけたようで、少しずつ魔力を流し込んでいく。

 頭を圧迫していた魔力が全身に流れ込んでいく事で、頭の熱も引き、ぼんやりしていた感覚も和らぐ事だろう。
 普段から少し熱っぽくて、思考が定まらない中で生活をしていた彼女にとっては、それがなくなると言うだけで世界が変わって見える事だろう。

「頭が、軽くなった気がします」
「それは良かった。でも、変化はそれだけじゃないわ。全身に魔力を行き渡らせる事で、今まで以上に力が込められる様になったはず。頭以外の部位に魔力を流したら、それぞれ操作を手放すの。それから手とか足とかを動かしてみなさい」
「あっ……!」

 それでも貧弱なことに違いはないし、魔力を纏う事に比べれば身体能力の上昇も微々たるものだ。それでも重いものを持ったりだとかでフラつく様な事は無くなったはず。

「操作を手放しても自分の身体だから、何処かに霧散する事もなくその場に留まり続けるわ。しばらくして、またゆっくりと元の場所に戻っていくの。走りたい時は脚に多めに回すと速く走れるわよ」
「えっ、なにそれ! 魔力がそんな風に使えるなんて聞いてないわよ」

 少し前から静かになっていたソフィーが割って入る。
 大事なアリスちゃんが魔法を覚えようとしている瀬戸際だからか、ガールズトークも鳴りを潜めて黙って見守っていたみたいだけど……。我慢出来なかったのね。

「だって言ってないもの」
「なんでよ?」
「……魔力や魔法の使用方法は様々よ。もっと上の魔法使いを目指すのなら、私の教えたことが全部と思わずに、色々と用途を探して自分なりの使い方を模索するべきだと思うの。それともソフィーは、私が作ったレールの上をトコトコ歩いて、私の言いなりになりたいの??」
「うっ……それは嫌だけど」
「そうでしょ? それにソフィー、出会った日からあれこれ聞いてきて、色々試してみたくてしょうがないって顔に書いてるわよ。だったら好きなように試してご覧なさいな。一体何に遠慮しているの」

 私があの豚を退治した時、ソフィーはリリちゃんと同じく目をキラキラさせて詰め寄ってきていた。
 でも、普段はその鳴りを潜めて大人しくて……。いえ、猫を被ってるのかしら?

 正史でのソフィーは色々とすっ飛ばして大人になっていたから見受けられなかったけど、本来のソフィーは好奇心旺盛な、すごい魔法に夢見てる普通の女の子なのかも知れない。
 それが公爵家の次女だとか、双璧の妹だとか、期待の一年生だとかで重荷を背負ってるせいで我慢しているのかもしれない。

 でもそんなの、不要だわ。
 邪魔でしかないわ。
 この世界のソフィーは自由に生きて良いの。もっと自分に正直に生きて良いと思うの。その為の障害となるものは、私が全部壊すわ。

 だって彼女は、『私』の大事な親友なんだもの。

「ほらソフィー、言って。何が邪魔をしてるの」

 私はアリスちゃんのそばを離れ、ソフィーに寄り添う。

「……うぅ」
「私がついているから。ね?」
「……しいのよ」
「え?」
「は……恥ずかしい、のよ」
「恥ずかしいって、何が??」

 ん? 思ってたのと違う……?

「あんな、あんな凄い魔法が使えるシラユキの前で、平凡な魔法しか使えない私が思いつく方法なんて、きっと大した事無いに決まってるわ。それを見られるのが恥ずかしいの!」
「あー……」

 これも9999点を叩き出した弊害かしら。
 火の鳥やらなんやらを見せたのもあるだろうけど、数字でその差を理解させられて、萎縮しちゃったのね。

「ソフィー、魔法使いはね、何だって出来るし、何にでもなれるのよ」
「何だって出来る……?」
「そう。魔力があれば魔法を放つこともそうだし、魔道具を作ることも、鍛治や料理にも使えるし、魔力を武器に変化させて戦うことだって出来る。そして子供を笑顔にしたり悪党を退治したりも出来る」

 そう言いながら、魔力を使って実演する。
 炎を蛇の様に細長くして動かしたり、水をフラスコの形にしたり、土で鍋を作ったり、風でそれらを踊らせる。

「これらの現象に、魔法としての名前なんてないわ。私が今適当に考えて、思いついた物を魔力で再現して動かしているだけ。名前のある魔法は所詮、誰かが先に思いついた物を形骸化して、魔法書に落とし込み、誰にでも使える様にと分かりやすくしただけのものなの。貴女達みんなが、それを真似してなぞる事に文句はないけれど、魔法はそれだけしか出来ないと思うのは毒だわ。もっと自由に、やりたい事を表現してみなさい。誰にもそれを咎める資格なんてないんだから」
『……』

 難しかったかしら? いえ、そんな事はないわよね。
 自由な発想を使うには、今までの魔力運用は使い勝手が悪かっただけで。自由に使って良いとわかれば、何にだって応用が出来るはず。

「シラユキも……」
「うん?」
「シラユキも、色々と試してる、の?」
「ええ、そうよ。と言うか私も行き当たりばったりだし、思いついたらとりあえず試しては失敗してを繰り返しているわ。やっぱり名前のある魔法って使いやすくて分かりやすいから、それを超える魔法となると中々ね。でも、だからこそやり甲斐があるし、オリジナリティは憧れるもの」

 ゲームではその発想を公開する手段として、武器スキルの発案……流派を作ることがプレイヤー達を盛り上げていた。魔法をただ作るよりも、奥義とする武器スキルは、格好良さと爽快感、両方を得られると好評だった。
 下火ではあったが魔法開発をしてる人達もいたけど、基本となる魔法が完成されすぎていて、発展性が薄かったのよね。

 それでも私は、有名どころの魔法は軒並みマスターして、自分でもアレンジを加えたりして、開発はしていた。
 中にはどう考えてもスキルやステータスの要求値が高すぎて、使うのが困難な魔法もあったけど……。今の私なら、可能かもしれない。

 ちなみに、公式が出していたベースとなる基本魔法は、結合魔法デュアルマジック複合魔法マルチマジックを除いて、単一属性の魔法しか存在していない。なので複数の属性を条件とした魔法はプレイヤーが考案した魔法なのだ。
 だから……。

「この前見せたけど、6属性のランスの同時発動である『ゼクスランス』。これは私のオリジナル魔法よ。世界のどのダンジョンを探したって、この魔法の魔法書は存在しないわ」

 私が生み出さない限りはね。
 まあ、ゲームでは誰でも思いつくネタだったから、厳密には私だけのオリジナルとは言えないんだけど。この世界では私だけだし、別に良いよね?

「そっか……分かった。見られるのはやっぱり恥ずかしいけど、色々と見てもらっても良い?」
「いいけど……今は待ってね?」

 そう言って振り返ると先程の魔法や講義を聞いて、目を輝かせているアリスちゃんやアーネちゃんがいた。
 今はこの子達が魔法を使える様にしなくちゃね。

「あっ! ご、ごめん!」
「いえ、ソフィア姉様。ソフィア姉様も魔法で悩まれてる事が知れて、より一層身近に感じられました。それにためになるお話が聞けて私は嬉しく思います」
「はいっ、お姉様のお話は、常識に囚われては成せぬことばかり。私、感動しました!」

 ソフィーによって中断された事は気にしていないみたい。

「うん。それじゃあ続きをしていくわねー」


◇◇◇◇◇◇◇◇


 その後も修行は順調に進み、アーネちゃんは元の数倍の大きさの『ウォーターボール』を生み出せた事に感動していた。
 そして魔法の使用が人生初となるアリスちゃんは、姉を意識してか『ウィンドボール』を生み出した。形は歪だけれど、カープ君並みに魔力が多いためかスキル0とは思えない大きさだ。

「……ああ、ソフィア姉様。私、私……」
「ええ、ええ! やったわねアリス!」

 アリスちゃんは大粒の涙をポロポロと流し、ソフィーも我が事のように泣いて喜んだ。

 2人が魔法を使えないことに対して長く苦しんでいたことも知ったし、お互いを大切に思い合っていることもこの短時間で見てとれた。だからこその涙ね。
 ……やば、もらい泣きしそう。

 ちょっと涙ぐんでいると、2人は同時にこちらを向いた。

「シラユキ! 今回の事もそうだけど、貴女にはいくら感謝してもし足りないわ。アリスを助けてくれて、本当にありがとう」
「シラユキ姉様、ありがとうございます。貴女様のおかげで、私は夢にまで見た念願の魔法を、使うことが出来ました。魔法を諦めなくて、本当に良かった……。今日の事は生涯忘れません……!」

 喜んでくれて何より。教えた甲斐があると言うものよ。

「どういたしまして」
『~~!』

 私の感情の起伏に釣られたのか、スピカが飛び出した。

『~~??』
「ええ、大丈夫よ。悲しくて泣いてたわけじゃないから」

 涙を拭ってくれたスピカに微笑み返すと妹達が驚き固まっていたので紹介する。スピカも慣れたものでカワイらしく飛んで、実体のない鱗粉を飛ばしながら舞って見せた。

「せ、精霊様。初めて見ました」
「すごいですお姉様。すごい!」

 アーネちゃんは語彙力が吹っ飛ぶほど驚いていた。
 妹達はスピカに夢中みたいだから、今のうちにソフィーに、気になっていたことを相談しておこうかな。

「ねえソフィー、アリスちゃんの事なんだけど」
「どうしたの? ……あっ、なにか問題でもあった、とか」
「ああううん、そう言うのじゃないのよ。ただ、あの子ってこれまで魔法が使えない事で周りから虐げられてきたじゃない? だからいきなり魔法が使える様になりましたーって宣伝するだけじゃ勿体ない気がするのよね」
「……確かにそうね。無礼にも下級貴族からも舐められてたみたいだし、目にモノ見せてやりたいわ」
「という訳でなんだけどー……」

 ソフィーに近寄ってゴニョゴニョする。

「あら、良いわねそれ。だったらさあ……」

 ソフィーからもゴニョゴニョされる。えへ、こんな風に話せるって事は、仲良しになれた証拠よね。

「どうどう? 良い作戦だと思うんだけど」
「ふふ、そうね」

 おもむろに窓を開け放つ。

「……ツヴァイ、聞いていたわね」
「はっ。しかと」
「皆には内緒ね、勿論陛下の事よ。まあアリスちゃんが私の部屋に来た時点で察してるとは思うけど、サプライズは大事じゃない?」
「承知致しました」

 ソフィーが入ることを想定されていた部屋だけあって、彼らが入ってくるスペースは用意されてるのかと思いきや、そんな事は無く。しっかりと部屋には防音・防諜対策と、抜け道対策が施されていた。
 まあ、そういうのがあると彼ら諜報活動の身では便利だけど、安全性には欠けちゃうからね。

「じゃ、そういうことでよろしくー」

 窓を閉めて、ソフィーの隣へ戻る。

「もうシラユキ専属みたいになってない?」
「まあ実際、陛下からは専属の許可を貰っているわね。でも一応陛下の直臣なのは変わらないわ。あと、融通が利くのはツヴァイだけで、隊長のエイゼルとドライはそうでもないのよね」

 あの部隊は、筆頭のエイゼルを0番として残りは1から9番までが居て、番号の与えられていない予備も数名いるらしい。
 私担当は0と2と3だ。

 0のエイゼルは正に仕事人って感じの人で、仕事に私情は持たないって感じ。初対面のときも、感情が全く見えないし、マップの表示ですら完全真っ白で驚いたなぁ。でも職業柄、一番真面目に仕事をこなしてくれそうだとも思った。
 彼、なにかあればすぐに陛下に報告に向かってくれるし、こちらとしても助かってる。

 2のツヴァイはカワイイ女の子。まだ完全に感情のコントロールが出来ないのか、結構揺れやすいのよね。香水贈ったらすっごい喜んでくれたし。
 まぁ、シラユキちゃんを前に感情をブレさせないエイゼルがヤバイんだけど。

 3のドライは、初対面で紹介されたときは、物静かで名前の通りドライなのかと思ったら実は正反対で、口を開くと色々と台無しだった。あのチャラさはこの仕事に向いてない気もする。
 でも、仕事はきっちりやるのよね。イメージって大事だわ。

「他のナンバーも何人かは直接会ったりしたけど、全員とは顔合わせ出来ていないのよね。まあでも、そんなにいっぱいいても使いこなせないし、私にはあの3人で十分かな」

 中でもツヴァイはお気に入りだし、色々成長の為に手伝ってあげるのも吝かではないわ。
 そう思っていると、アリシアがやってきた。

「お嬢様、こちらを」
「なあに? 素材用のマジックバッグね」
「景品として色々と作られるのでしょう?」
「え? ……あっ、忘れてた。そうだったわね」
「ああ、例のアレね。今から作るの? 見てても良い?」
「良いけど……高温の炎を室内で扱うのは気が引けるわね。持ち合わせの素材だけでも出来なくはないけど、念のため剣は後日にして、杖から終わらせちゃいましょうか。アリシアは妹たちに、魔法の続きを教えてあげて」
「畏まりました」

 そうしてソフィーが見守る中、杖の製作を開始した。
 まずは弱い方の杖からだ。本体の素材はその辺にある物を主体にして、先端の魔石にだけ、魔力を強めに籠めることでギリギリランク6を満たせるよう調整して作り上げてみる。

********
名前:合成樹の杖[至高]
説明:樫の木とオークの木で作られた魔法使い用の杖。先端に嵌め込まれた魔石により、所持者の魔力を高める効果を持っている。
装備可能職業:後衛職
攻撃力:252
武器ランク:6
効果:MP+20、INT+30
製作者:シラユキ
********

 付与もないし、効果もショボイ。でもあり合わせの材料だけで作ったにしては、そこそこの出来かもしれないわね。一応この武器、ランクとしてはリリちゃんの『紫電樹のエルダーロッド』と同格だ。
 でも、素材はどこにでもあるようなありふれた物だけで作られているので、引き出せる性能値というか、反映されるステータスは微々たるものだったりする。
 どっちかっていうと、本来はランク4程度にしか至れない素材を、無理やり性能を限界まで引き上げて、攻撃力を上積みさせまくった結果、[至高]が付与されてランクが急上昇したってところかな。
 素材も簡単だし、これくらいなら同じレベルで量産できそう。

 つまるところ、コレは見た目だけ良くした金メッキみたいなものだ。胸を張ってランク6とは言えない、なんちゃって装備である。
 こんなの、家族や大事な人にはあげられないわね……。

「ま、とりあえずこんな感じでいいかな。正直言ってダメダメな武器だけど、景品としては価値あるでしょ」
「……ダメダメで悪かったわね。私の武器なんてランク4よ」
「あっ……ごめん」

 あっさりと作った武器が、自分の愛用している武器を軽々超えられたのが癪だったのか、それとも私の扱いが雑だったのか、ソフィーがへそを曲げちゃった。
 ……両方かも。

『今度良い物をプレゼントしなきゃね!』
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