異世界でもうちの娘が最強カワイイ!

皇 雪火

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第4章:魔法学園 入学準備編

第105話 『その日、お披露目をした』

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 毒竜の死体が謁見の間に鎮座する中、部屋の中では様々な反応があった。
 その巨体と、死体にも関わらず滲み出てくる猛毒に畏怖を覚え、腰を抜かす者。
 震える手で獲物に手をかけ、警戒を露わにする者。
 興味深そうな目で見つめる者。
 他者の影に隠れつつも、興味深そうに覗き込む者。

 そして頼もしくも涼しい顔で見ている者もいた。それは家族と、リディと、イングリットちゃんね。
 ママは若干後退りはしたけど、意外と平気そうで良かったわ。リディは元々強い子だし、それに2人共ピシャーチャの死体を生で見ているのが大きいかも。
 アレに比べたら、毒竜なんて小物よね。

 イングリットちゃんは肝が据わってるから、毒竜を前にしても堂々としているわね。まあ死体と解ってるからかもしれないけど。『私が』直接倒したって言う部分も、影響してそうな気がするけど……流石に自惚れが過ぎるかな?

 アリシアは2回目と言うこともあり、落ち着いているわね。リリちゃんは目を輝かせてる。一応注意しておこうかな。

「リリちゃん。一応空気感染で毒にはならなくしているけど、それでも危険なものには変わりないから、触ったりしちゃダメよ」
「うん!」
「アリシア、せっかくだから漏れ出た毒を『浄化』してみなさい。川の水で薄まる前の原液だから、大変かもしれないけど、試すだけでもスキルの成長に繋がるわ。上手く行きそうなら、解体の時にも手伝ってもらうから」
「畏まりました」

 さて、2人にする指示はこんなもので良いわね。改めて陛下を見るが、すごく楽しそうにしているわね。この人もこんなふうに笑えたんだなぁ……。

「陛下、何かお聞きしたいことはありますか」
「うむ……そうだな。こやつはどのようにして倒したのだ」
「並大抵の武器では刃が通りませんので、魔法で剣を作り、脳天を貫きました。それでも死ななかったので、追い討ちに魔法を使いましたわ」
「では、余がこやつと相対した場合、勝てると思うか?」

 無理ですね。

「……」

 と、思わず口から飛び出しそうになった。
 危ない危ない。
 オブラートに包むにはどうするべきかしら。んー、むむむ。

「……まず前提として、武器のランクとしては最低でも6。可能であれば7は欲しい所です。それは防具も同じです。更に言えば、ある程度の毒対策をした上で、薬も最高品質を。人数ですが1人は厳しいでしょう。陛下とレイモンド、アリシアにイングリットちゃんを入れた4人で、何とか勝てるかも……。と言った所でしょうか」
「ほう……」
「……本当ですか、お嬢様」
「ええ。下位竜はそれぞれ対策は違うけど、毒竜は毒さえ気を付ければ竜の中では耐久性に難があるからね。そのくらいのメンバーで何とかなると思うわ」

 戦闘力としての単純計算でみれば、だけども。
 前衛2に後衛2。バランスとしては丁度良いし、レベルとしても最低ラインは超えているはず。ただまぁ、問題は装備なのよね。この世界、『エクストラ』程度の58が最高峰扱いされているなら扱える素材も限られてきちゃうし、まともな対策装備も用意できそうにないわ。

「……ひとまずは理解した。その竜は仕舞って良いぞ」
「畏まりましたわ」

 『浄化』はアリシアに任せ、私は毒竜をマジックバッグに収納していく。
 うーん、いつ見てもマジックバッグの口よりも大きなものが入っていく光景は不思議だわ。それを言ったらピシャーチャなんてありえない事になっていたけど。

 毒竜を収納しきっても、鎮座していた場所やその周辺は、瘴気や毒が消えずに残っていた。
 さすがに毒をすべて『浄化』しきるのはアリシアにも酷だったみたいね。私も手伝っておこう。

「『浄化』」
「ああ。流石です、お嬢様」

 光と共に毒や瘴気は掻き消え、あとにはドロドロに腐敗した絨毯と、ちょっと融解した大理石の床だけとなった。
 そして安全を確認したうえで、2種の魔法障壁を解除する。

 もう大丈夫だよと皆にジェスチャーを送ったところで、陛下から声がかかった。

「ご苦労だった。さて、次にシェルリックスに居たというマンイーターの親玉の事だが、鉱山の権利書以外に確認する術はあるか?」
「……領主から公爵様に宛てた手紙が1通。それからギルドマスターがレイモンドに宛てた手紙が1通。そしてピシャーチャの魔石です」
「見せてくれ」
「魔石に関しては、危険性があります。ですので、これは魔道具で鑑定するにとどめ、決して触れないようにして欲しいのです」

 そう説明している間にも、手紙は公爵様からザナックさんに渡り、そのまま陛下へと渡された。
 ザナックさんはどうやら、権利書の方の確認を優先するようだった。頷いているし不正が無い事を確認したんだろう。

 陛下が手紙を確認している最中、壁際に避難していた皆と合流する。
 中でもソフィーは、興奮したように顔を紅潮させているけど、聞きたいけど聞けないみたいな顔をしていた。空気を読んでるのね。とりあえず頭を撫でて宥めておく。
 王都みたいな安全な場所で過ごしていたら、あんなに大きな魔物を見る事は無かったんでしょうね。いやまあ、学園ダンジョンがあるからその限りではないかも……?

「彼らの事は少なからず知っている。だからこそ、ここに記載されているそなたの為人も把握する事が出来た。続けてその魔石とやらだが、彼らもその危険性には手紙でも触れていた。直接触れなければ問題はないのだな?」
「はい。私は大丈夫ですが」
「では近くへ」

 ザナックさんに手紙類を渡し、逆に鑑定用の魔道具を受け取ったようだ。私は手招きする陛下に近寄り、魔石を見せる。

「ほう、これが……見たこともない大きさだ」

 陛下が感嘆の声を漏らす。ピシャーチャの魔石は私なら大丈夫といっても、魔力を吸われ続ける感覚があるので正直言ってあまり気持ちの良いものでもない。
 出来るなら触りたくない部類ですらある。顔には出さないけどね。……アリシアには秒でバレるんだろうけど。

「なるほど、凄まじい力を内包しているようだな」

 そう言って陛下は魔道具を置いた。もう良いかな?
 魔石をマジックバッグに収納したところで、手紙類も返してもらう。

「さて、褒美の話だが、お主は何を望む。余の大事な臣民達だけでなく、2つの街を救ってくれた恩は大きい。その上、そなたは強さだけでなく美しさも併せ持っている。相応しい爵位も用意出来るぞ」

 爵位? なんだろ、一代限りの騎士爵とか? それとも私、女の子だし、お偉いさんの養子にするとかそう言う話だったりする?
 まあでも、ここは最初から考えていた褒美を取ろう。

「ありがとうございます、陛下。でしたら今後のことを踏まえお願いがございますわ」
「言ってみたまえ」
「私は、これから魔法学園に入学する予定です。学園は魔法の才能さえあれば貴族も平民も受け入れると謳われていますが、実際は貴族による横行が酷い魔窟という話も聞きます。ですから、上位からの不当な要求を受けた時、反撃をしても罰せられない免罪符を頂きたいのです」
「ほう」
「と言っても、これを逆手に好き勝手するつもりはありません。あくまで、私や家族が不当な扱いで苦しんだり、嫌な思いをしないようにする為です」

 お金も地位も興味はない。前者は持ってるし、後者はめんどくさい。今一番欲しいのは家族の安全だ。
 これさえ確保できれば、私たちは堂々と学園生活を謳歌出来るってものよ!

「そなたから喧嘩をふっかけ、無理難題を要求する事もないのだな?」
「はい。……と申したいところですが、私はきっと、自分以外の誰かが不当な扱いを受けていても、助けようと手を差し伸べると思います。その際、爵位を盾に横から茶々を入れられないようにして頂きたいのです。私が望むのは、相手が下級貴族だろうが王侯貴族だろうが関係なく、対等に喧嘩出来る権利が欲しいのです」

 私の言葉に、ほぼ全ての者が驚愕していた。
 驚きに大小はあるだろうけれど、全く驚いていないのは陛下と……アリシアだけね。

「くくっ、そうか。確かに学園は貴族男子の横行が目につく場所だ。余が直接言ったところで良い結果がもたらされる事はない。……そう思って今まで手出しはしていなかったのも事実だ。難しい報酬ではあるが、女性であるそなたになら、許可を出しても良いと思っている」

 ああ、陛下も知ってはいたんだ。貴族男子の横行。
 でも逆に、女の子はそう言うのがないのかな? 0というのは考えにくいけど、それでも絶対数は少なそう。ゲーム中でも、良い子の割合が多かったのも大体女の子だし。

「だが、慎重にならねばいかん内容だ。無条件で出す訳にもいかんし、今はまだ見送らせてもらおう。シラユキよ、この事は後日ザナックを交え協議するとしよう。そしてもし通ったとしてもしばらくは見張りをつける。その場合はソフィアリンデ、お前に頼むとしよう。この娘の動向を見守り、問題があれば報告をするのだ」
「承知いたしました、陛下」
「シラユキ嬢、そなたもそれで良いな」
「はい、陛下。ご温情、大変嬉しく思います」

 うーん、流石に内容が内容だけに、一発OKとは行かないか……。でも完全にダメと言われたわけでは無い。まだ話していない活躍もある事だし、そこでご褒美として改めて貰えたらそれでイイかな。

 それに、ソフィーが見張り役に任命されたわね。
 学園での常識とか貴族の常識とか、その辺のことは知りたかったし、ちょうど良かったわ。一緒にいられる時間も増えただろうし、嬉しい誤算ね。

「ではな」

 そう言って陛下が立ち上がり、玉座の後ろにある扉から出て行った。

「ではこれにて謁見を終了致します。お客人の方々、お疲れでしょうし本日は王城にお泊まり下さい」

 ザナックさんの言葉を皮切りに、皆で謁見の間を後にした。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 その後、セバスさんの案内を受け、皆であてがわれた客室へと入り、ソファーで思い思いに羽を伸ばす。
 うーん、割と疲れたかも。

 主に毒竜の辺りが予想していた展開と違いすぎて、びっくりしたわ。
 それもこれも、陛下がゲーム中とは違い過ぎるのか原因ね。まさかあんなに元気で好奇心旺盛だったなんて。

「お嬢様、お疲れ様でした」
「うんー」

 この客室結構広いし、もうここにマジックテントを置いて中で休もうかな。
 なんて、アリシアに甘えつつゴロゴロしていると、ノックと共に先程威厳たっぷりだった陛下と、そばに控えていたザナックさんがやって来た。

「フェリスフィア、ソフィアリンデ! おじちゃんが来たぞー!」

 違った。ただの親戚のおじさんだった。

「おじさま!」
「伯父様、お久しぶりです」
「おお、2人ともますます綺麗になったな! ルドルフには似なくて本当に良かった! はっはっは!」

 陛下、もといヨーゼフおじさんが2人の姪っ子を全力で可愛がっていた。
 流石に陛下が来たのなら、起き上がるべきかと思ったけど、あの姿を見たらどうでもよくなったわ。アリシアも何も言わないし、もうこのままでいいや。

「ふふ、伯父様ったら」
「おじさま、ありがとう! でも今日は、もっともーっと綺麗な子を知ってしまったわ。私もあんな風になれるかな……」
「大丈夫よ、ソフィーはカワイイんだもの。きっと似合う服が見つかるわ。それに探すのだって手伝えると思うし」
「ホント? ……って、どれだけ寛いでるのよ!」

 今の私は、アリシアに膝枕をして貰いつつリリちゃんを抱き枕にするいつもの状態だった。
 うん、もうね。蟹とか少尉とかギルドとか公爵家とか、終いには謁見して毒竜の披露だとか。1日にどれだけイベントこなしてるのよ。大人気アイドル時代でもここまでハードスケジュールじゃなかったわ。もうクタクタよ。
 陛下もあんなんだし、別にもういいでしょ。

 まあ、ママは陛下が入って来た瞬間からカチコチに固まっちゃったけど。

「公式の場じゃなくても、おじさまは国王様なのよ。ちょっと気を抜きすぎじゃない!?」
「今日は色々頑張ったので、やる気は品切れだわー」
「ア、アリシア姉様も何か言ってください」
「本来なら私が咎めるべきなのでしょうが、お嬢様は今日も沢山頑張られましたし、オフの時のヨーゼフ様なら問題はないでしょう」
「くくく、ああ問題ないとも。今のワシは姪っ子とついでに弟に会いに来ただけの男だ。国王なんて堅苦しい称号は玉座に座ってる時だけで十分だ。だがそれはそれとして、いくらなんでも寛ぎすぎじゃないか?」
「あの場で毒竜を安全に取り出すなんて精神をすり減らす荒業、お嬢様以外には出来なかったでしょう。無茶振りした誰かが悪いのです」
「「うっ……」」

 陛下とソフィーがアリシアに言い負かされる姿を見て、話は終わったと判断した私は、今もなお抱きしめているリリちゃんをカワイがることにした。

「んー、リリちゃん……今日も良い匂い……」
「えへへ、お姉ちゃんも良い匂いだよ」

 そのままイチャイチャを始めるとアリシアとママも参加して私を撫でてくれた。
 えへ、トロける……。

「ふ……これが竜を倒したものの姿とは思えんな」
「私もそう思いますよ、兄上」
「それで、この嬢ちゃんの活躍はこれだけじゃないんだろう? あの場では言えない何かがあるからこそ、わざわざ『赤』で連絡したんだろう」
「……はい。確認ですが兄上、近衛兵は……」
「部屋の外に待機させてある。それにこの部屋の造りは特殊でな、中の音が漏れ聞こえる事はない。ザナックは知っての通り口が堅いし、ワシの味方だ」

 ザナックさんが頷いた。
 ……あら、いつの間にか色が変わってるわね。先ほどまでの薄ピンクが、今では見事に水色だ。

「感謝します兄上、ではお話します」
「あ、お待ちください公爵様」

 家族とのふれあいタイムを中断し、待ったをかける。
 この話がどこかに漏れれば、かなり大事になってしまうし、なるべく他人の耳に入れたくない事柄であることは公爵様からも注意を受けた。である以上、ここは確認しておくべきことだろう。

「陛下、彼らも信頼出来ますか?」

 そう言って天井を指した。それだけで何が言いたいのか分かったのだろう。
 公爵様も陛下も、神妙な顔をし、ニヤリとしながら頷いた。

「……彼らの存在に気付くとは流石だね。勿論だとも。彼らは王家直属の影の部隊だ。彼らほどこの国で信頼できる者はないよ」
「くく、こいつらに気付くとはやるな。お前たち、平和ボケして鈍ってるんじゃないだろうな」
「……申し訳ありません、陛下」

 冗談めかして言う陛下の言葉に、どこからともなく謝罪の声が聞こえてきた。
 フェリス先輩もソフィーも、その言葉に驚きもしないという事は、知っていたのね、彼らの存在を。ソフィーは、目だけをキョロキョロさせている。きっと彼らがどこにいるのか、よくわかっていないのね。

 かくいう私は、彼らの事をよく知らない。
 ゲーム中接触する機会が無かったからというのもあるんだけど。だから彼らが、敵か味方かは正直言ってわからないのよね。なんならエンカウントするのも初めてだわ。まだ直接視てはいないけど。

 あと、本来は参考になるべきはずの『マップ』では、完全な白で表示されている。青くも赤くも変化していない。これは謁見の間からずっとそうね。
 私を見ても善意も悪意も感じないだなんて、相当メンタルが強いのね。己を律する心が強い人でないと、この部隊には居られないという事なのかしら。
 直接私が『踊り子』の能力とぶっ壊れステータス、更にはこの服を使って、全力で『魅了』させようとしたらどうなるかは、わからないけど。

 ま、信頼してもいいかな。

「確認は以上です。話の腰を折ってしまって申し訳ありません、公爵様。続けて下さって大丈夫です」
「……と言いつつ、姿勢はそのままなのね、あなた」
「だってぇ、疲れたもーん」
「お嬢様、大事な話ですから起きてください。説明役は私がしますから。起きてくださったらこのあと……ごにょごにょ」
「!? 起きる!」

『マスターったら、色々あり過ぎて省エネモードね。それを回復させるアリシアもわかってるわ!』
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