異世界でもうちの娘が最強カワイイ!

皇 雪火

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第4章:魔法学園 入学準備編

第099話 『その日、魔法講義をした⑤』

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 ソフィーはたぶん、幼いころから魔法の教育を受けていて、更にはアリシアから気に入られたことで他者を圧倒するほどに成長してきたんでしょうね。
 元々の才能もあったんでしょうけど。

 フェリス先輩やアリシアの事を尊敬していたのは、人となりもそうだけど、そんな自分よりも魔法スキルが高かったのもあるのだろう。けどソフィーが6年以上を費やして到達したスキル値は、風魔法スキルの31。
 なのに魔法を覚えて1月も経っていないはずのリリちゃんは、雷魔法スキル15の『サンダーランス』を使用することが出来た。

 彼女たち姉妹は、これまで王都では天才と持て囃されてきた可能性が高い。スキル値を他人に聞くのが基本タブーとなっている世界で、親が公開するという事はそういうことだ。
 そして彼女達も、自分達は王都の中でも抜きんでた存在だと自負していた中で、私やリリちゃんというイレギュラーにショックを受けているんだと思う。

「ソフィー、何から知りたい?」
「知りたいことだらけよ……!」
「じゃあリリちゃん、今の雷スキルを教えて。あ、指で良いわよ」

 リリちゃんは粉まみれの手で示したのは、『2』と『4』だった。

「あら、もう24になったのね」
「に、24!? 嘘でしょ、たった1月程度で……」
「『ハイサンダー』まであと1つね」

 それを聞いたリリちゃんは、慌てて口の中の物を処理し始めた。その間ママとアリシアが手を綺麗にふき取っているわね。

「……うん!」
「もうリリ、お行儀が悪いわよ」
「ごめんなさい、美味しかったから……」
「ふふ、ゆっくり食べていいですからね、リリ」
「うん。あ、そうだ。あとでスピカちゃんにもあげたいの」
「スピカ様の分は確保してますから、ここにある分はリリが食べてしまって大丈夫よ」

 スピカは今眠ってるので、この場には居ない。

「スピカ?」
「それはまた後で紹介するわ」
「ふうん……」

 そして呼んだら呼んだで、ソフィーの頭が追いつかないかもしれないから、紹介はまた今度ね。

「でもまだお昼を頂いていないわ。お菓子の食べ過ぎでお昼が入らないようなら、しばらくお菓子は禁止にしますからね」
「あうっ……ほどほどにするの……」

 リリちゃんがしょんぼりしている。

「そういえば、まだお昼を食べれていなかったわね」

 本当ならギルドに到着した後辺りが丁度良いタイミングだったんだけど、急遽公爵家へ行くことになったせいか食べ損ねていたのよね。
 なるべくはやく報告に行く必要がとは言った物の、こうなったのはレイモンドのせいだわ。リリちゃんがお昼ご飯代わりにモグモグするのは仕方ない事かも。うん、リリちゃんは悪くない。

「それでしたら、是非当家でご馳走させてください」
「そうね、お姉様の言う通りよ。お客様を空腹で過ごさせたとあっては貴族の恥だわ。聞きたいことはあるけど、食事を取りながらでも出来るでしょ」

 そんなソフィー達も、ギルドからの連絡が来たのが食事中だったらしく、昼食を中断する事になり満足に食べられていないらしい。それだけレイモンドが送った『赤の手紙』の優先度が高かったんだろうけど、あいつホント空気読めないのね。

 ソフィーは手元の鈴を鳴らし、メイド達に私達全員分の食事を用意するよう指示した。
 まあいくら公爵家でも、10人近いお客さんへとすぐに食事を用意するのは困難だろう。まだ少し時間があるわよね?

「ありがとう、楽しみにしているわ。それでソフィー、聞きたいことは決まった?」
「多すぎてまだ決まらないわね」
「……シラユキちゃん、私から良いかしら」
「はい、フェリス先輩」
「魔法を消すって、どうやってるの?」
「あ、それ! 私も聞きたい!」
「あー……それの説明をするためにはまず、2人の魔力操作について確認しておかないといけないわね」

 そのまま姉妹の『魔力溜まり』の説明に入り、魔力に対する認識を改める事にした。そのついでに、リディにも魔法を教えることにした。教師役は隣に座っていたアリシアにお願いした。
 姉妹は最初のアリシアの、エルフ直伝の教えが上手く噛み合っていたみたいで、丹田近くに『魔力溜まり』があったみたい。そのおかげか今までさほど苦も無く魔法を行使出来ていたみたいね。
 リディは心臓近くだったので、私も横入りして念入りにお触りした。

 結果、リディは前々から使いたかったらしい『ウィンドボール』を修得した。魔法が使いたいなら言ってくれても良いのに。なんでも私達との会話が楽しすぎて忘れていたみたい。
 嬉しい事言ってくれるわね。まぁ私も、リディに教えるという選択肢を完全に忘れてに教えてやりきった気になっていたんだけど……。

 姉妹もまた、今までよりも魔法を扱う技術が高まったようでとても喜んでくれた。

「……あれ? ねえシラユキ。もしかして、呪文詠唱って要らないの?」

 魔力を体内で練り練りしながらソフィーが聞いてきた。

「どうしてそう思うの?」
「何だか知らないけど、しなくても魔法が使えそうな気がするの」
「うん、正解よ。呪文詠唱は魔法名の予備みたいなものなのよ。魔力操作の不安定な人は魔法名だけでは効果を発揮出来ないみたい。だから呪文詠唱なんてものがあるのね」
「そうなんだ。じゃあこんな風に魔力を扱えたシラユキは、今まで呪文詠唱したことないの?」
「雰囲気作り以外では無いわね。だって、他人が考えた呪文ってダサイのが多いじゃない?」
「ダサ……。じゃあ私もやってみるわね。んむむ……『ウィンドランス』! ……うそ。すごい、ほんとに出来ちゃった」
「ソフィア、詠唱破棄が出来るなんて凄いわ。おめでとう」
「ありがとう、お姉様。お姉様も出来るはずよ!」

 ソフィーとフェリス先輩が抱きしめあう。間に挟まれていた私は至近距離でその光景を目の当たりにした。仲の良い美人姉妹は、見ているだけでほっこりするわ。
 私も混ざっても良いかしら?

 ……あ、シラユキが錬金術で完成したら、見た目上はシラユキが2人になるのよね? 2人のシラユキがイチャイチャしたら……?
 鏡で見たら間違いなく私は尊死するし、アリシアも悶え死にそう。元より最優先目標だったけど、この姉妹を見ていたら、更にやる気が上がって来たわ。

 ……ん? 待って待って。
 シラユキは私なのよね? でもあの子もシラユキな訳だし、私もシラユキで……。
 ど、どうしよ。その辺り全然考えていなかったわ。

「……あっ、シラユキ、これどうしよう」

 今後ぶつかる大問題を考え込んでいたら、ソフィーがちょっと困ったような顔をしてランスを動かしていた。
 ……うん、この事は後で彼女と相談しよう。すっごく大事な事だわ。

「それじゃあそのまま魔力還元を教えるわね。魔力で魔法をイメージして作り出すのと同じように、今度は形作っている魔法を魔力に分解して、自分の元へと戻していくのよ」
「ん? んー……こうかな?」
「うんうん、上手い上手い」

 『ウィンドランス』はゆっくりとだが小さくなっていき、そのまま魔力へと戻っていった。

「今、ちょっと魔力を全部還元しきれていなかったけど、上手く回せば発動して分解してを繰り返す事が出来るわ。そうすればスキルの上昇もロスなく永遠に続けられるわよ」
「何でそんなことが……はぁ。またしても突っ込みたいところが多々あったけど、今は置いておくわ……」
「私も出来たわ、シラユキちゃん」

 フェリス先輩は『アイスランス』を出したり、還元したりを繰り返して見せてくれる。うん、スキルが高いから覚えも早いわね。

「手元に残るものに限るけど、この技術はすごいわね」
「相手を威圧するときとか、出すだけ出して打たないなんて事も出来ますからね。こんな風に」

『パチン』

 指を鳴らして『ゼクスランス』を発動する。6種のランスが整列し、並列発動する様は、見る者を威圧する。

『パチン』

 もう一度指を鳴らして解除する。消す動作としては、指を鳴らす必要はないけれど、分かりやすくするためにも今後も鳴らしていこうかしら。

「……それよ!」

 鼻息を荒くしたソフィーに両肩を掴まれた。

「え? どれ?」
「その指パッチンよ! それが知りたいわ」
「うん? えっと、指の鳴らし方はね」

 ソフィーの手を掴んで弾き方をレクチャーする。

「ふんふん……ってそうじゃなくて!」
「ひゃ!」

 逆に手を掴まれてしまった。

「あ、ごめんなさい。その、魔法の無詠唱よ! 貴女、さっきから指ぱっちんで全部済ましてるじゃない。それを教えてほしいの」
「シラユキちゃん、私も知りたいわね」
「リリも知りたい!」
「お嬢様、私も知りたいです」

 皆が名乗りを上げる。やっぱり無詠唱って浪漫があると言うか、出来ればそれだけで格好良いものね。でも名乗り出ない人が何人かいるわね。リディは教えたばかりだし、イングリットちゃんも数日前に慣らしたばかりだ。でも……。

「……ママは要らないの?」
「ママは、指ぱっちんが出来ないから……」

 そう言ってママがしょんぼりした。

 もう! ママったらカワイ過ぎよ!

 私はテーブルを超スピードで回り込み、思いっきり抱きしめる。

「大丈夫よママ、指ぱっちんは今度教えるから。あと、無詠唱は本当に詠唱もなければ専用動作もないの。私が鳴らしているのはカッコイイからよ」
「そうなの?」
「そうなのー?」
「そうなのよ」

 不思議そうな顔をする姉妹のような親娘を撫でる。
 あぁー、癒される。

 私が2人を愛でていると、不意に指が擦れるような音が聞こえ始めた。
 その音源を探してみると……。

「……ちゃんと教えよっか?」
「……はっ! い、いいわよ別に! それよりも無詠唱の方を教えてほしいわ」

 ソフィーは、顔を赤くして手を背後に隠してしまった。ほんとソフィーは弄りがいがあるなぁ。
 アリシアやフェリス先輩も、そんな彼女を微笑ましそうに見ていた。

「うーん、そうねぇ……。じゃあリリちゃん」
「はいなの!」
「試しに『サンダーボール』を無詠唱、やってみよっか」
「えっ!? リ、リリ、出来るかなぁ……?」

 いつも魔法に関しては二つ返事なリリちゃんも、今回ばかりは戸惑っているようだった。

「ちょっとシラユキ、無詠唱が出来る人間は、過去にも片手で数えられる程度しか存在しない超高難易度の魔法技術よ! いくら貴女の弟子だからって、一ヶ月も経っていない子が即興で出来るような事じゃ無いわ」
「お、お姉ちゃんの弟子……!」
「無詠唱って、そんな扱いになっていたの? 流石に酷過ぎない? エルフの国ならもう少し当たり前に出来る人は居ないかしら」
「そうですね、不安定ながらも出来るような者であれば、100人に1人の割合でしょうか……」
「エルフでもその程度なんだ。アリシアは?」
「私も……たまに出来る、といった具合でしたね。お嬢様に出会ってからは、基本を守るためにも試していませんでしたが」
「私が教えるのを待っていてくれたのね?」
「はい、この時を楽しみにしておりました」
「ふふ、そう」

 無詠唱は文字通り、魔法名を口にせずに頭の中で作り上げたイメージを、魔力を元に形作り発動させるものだ。
 魔力が不安定かつ、強力な魔法のイメージも上手く出来ない人達には、難しいのかもしれない。

 竜のブレスとかを1度でも見たら、強力な魔法なんてイメージし放題だとは思うけど、竜種なんて滅多に出会えないみたいだし、安全に鑑賞するなんて真似は出来ないのよね。そこは仕方がないのかな。
 でも、絵を描いて想像することは出来ると思うんだけどなぁ。想像力の欠如が問題なのかしら。
 まあでも、スキルが全然伸びていかない環境では、自主性も何も育たないかも。

 あと、この世界の魔法の仕組みにもちょっと関わってくるんだけど、……今回で言うところの魔法名ね。
 それらには魔力が込められている。言うなれば『言霊』ってやつね。

 それが結構バカにならないみたいで、魔法名を言うのと言わないのとでは術者の負担もかなり異なる。無詠唱の前提条件は習得スキルの3倍って言うのも、コレが大分原因になっているのよね。
 私ですら、魔力も技術も有り余っているのに、130➗3よりも上の魔法を無詠唱しようとしても、何かが足りなくて行使には至れない。
 その何かと言うのがよく分からない上に、それでも無理矢理発動しようとし続けると、強い頭痛が鳴り始めたり、不完全な魔法が発動する。
 困ったものだわ。

「さてリリちゃん。リリちゃんは、教えていない格上の魔法すら、持ち前のイメージで形作ってしまえるほどに想像力の高い子よ。そんなリリちゃんになら、きっと出来るよ。『サンダーボール』の無詠唱、やってみて」
「……う、うん!」

 集中する為に目を閉じ、深呼吸をしてから手をまっすぐに突き出す。

「……!」

 リリちゃんが気合を入れると同時に、手の平からバチバチと放電が起き始める。時間をかけて放電は一定の場所を飛び交い始め、丸い円を描き出す。
 スパーク音が鳴りを潜める頃には、完全な『サンダーボール』が出来上がっていた。

 うん、大体……20秒くらいかな。

「……出来た。出来たよお姉ちゃん!」
「流石ねリリちゃん。あとは、もっと練習を重ねて1秒以内に出来るようにして行こっか」
「うん!」

 スキルが10を超えたばかりの頃のリリちゃんでは、正直スキルよりも慣れの問題で難しかったかもしれないけれど、普段から暇さえあれば『サンダーボール』を出していたりしたリリちゃんだ。
 行使する事が出来て良かったわ。

 『サンダーボール』を魔力へと戻し、皆から称賛されるリリちゃんを眺めていると、本日一番驚いた顔のまま動かないソフィーの姿が目に入った。
 色々とショックを受けているんだろうけれど、ここで弄り倒すほど性悪では無いわ。ちゃんとフォローしてあげないと。あと、褒めてはいるけど若干衝撃を受けているフェリス先輩もね。

「ソフィー、安心しなさい。貴女ならこんな事もすぐに出来るようになるわ。そして今まで培ってきた魔法の経験は、必ずしも間違っていたわけではないと思うし、貴女の糧になっているはず。貴女が今まで頑張ってきたのは無駄にはならないし、私がさせないわ」
「……ありがと」
「ソフィア様、私もお嬢様の教えの通りにした事で、停滞していたスキルも急上昇を始めました。ですが、今までの私の努力が全て無駄だったようには感じません。今まで魔法を行使する中で、魔力がもっと安定して扱えたら……。そんな経験は1度や2度ではないはず。お嬢様の教えの通りにすれば、その悩みからは解き放たれるのです。共に研鑽して行きましょう」
「アリシア姉様……。はい!」
「フェリス先輩もですよ。先輩なら練習すれば、ランスの無詠唱だって出来るはずですから」
「シラユキちゃん……ありがとう。優しくて可愛くて、優秀な後輩が出来て嬉しいわ」
「えへへ」

 今のままではフェリス先輩のスキルが1足りないけど、無詠唱の練習は成長にも繋がるはずだし、その内出来そうなのは間違いではない。だから嘘は言っていないはず。
 それにしても、優しくてカワイくて優秀な後輩かぁ……えへ。

「それで、お嬢様」
「なあに?」
「無詠唱についてですが、本人の魔力操作に関する練度も必要でしょう。ですが、明確にもう1つ必要とする事がある……そうですね?」

 アリシアったら、もう……。油断ならない子ね。

「ふふ、正解よ。答えは解るかしら」
「……一定のスキル値が必要なのは察せられますが、詳しくは解りませんでした」

 ちょっと落ち込むアリシアの頭を撫でると、手の動きに合わせて耳がピクピクしている。あーもう、ちょっとカワイがりしたくなっちゃうんだけど!!
 我慢……我慢……。

「落ち着いて考えれば、アリシアにだって答えられるわ。よーく考えて」
「はい……」
「ヒントは~、リリちゃんは現状どれだけ練度を上げてもでは『サンダーボール』しか無詠唱出来ないわ。アリシアなら『ウォーターロード』くらいまでは出来るでしょうね」
「『ハイウォーター』はどうあがいても不可能、という事ですね」
「そうなるわね」

 アリシアが必死に考えてるので、撫でるのは止めておこうかな。その代わり、正解の準備をしておこう。
 そして他の皆も黙って、アリシアが回答するのを待っているみたい。先に答えてくれても良いのよ?

「……わかりました。習得スキルの3倍、ですね」
「せいかーい!」

 もう我慢出来なかったので、濃厚なキスによるカワイがりをアリシアにぶつけた。さすがに2人の前では、『MPキッス』をしてトロけさせるわけには行かなかったので、ちょっと遠慮したんだけど……。

「ふ、2人ってそんな関係だったの!?」

 ソフィーの驚いた声が室内に響き渡った。

『私とマスターが抱き合う姿かぁ……。絶対カワイイわね』
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