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第3章:紡績街ナイングラッツ編
第081話 『その日、尋問した』
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昨日は一日中アリシアとべったりしている間、ママ達はお客さんと一緒に何やら盛り上がっていたみたい。
話の内容は内なる欲望が聞いていたみたいだから教えてもらったけど、どうやら私の今までの活躍だったらしいのよね。
イースちゃんやキース君だけでなく、イングリットちゃんも夢中になっていたとか。そういえばアリシアが、イチャイチャの最中にムズムズしてたけど、もしかして混ざりたかったのかな? その時の私はアリシアしか目に入っていなかったから、周りのことは気にも留めていなかったわ。
お客さんの3人は結局、昨日のうちにそれぞれの宿と教会に戻ったみたい。今朝になってアリシアに教えてもらう形で初めて知ったわ。そう言えば居ないなーとは思ってたのよ?
……朝起きてからだけど。
でもその3人とは結局、宿の入り口で待ち合わせをして、そのまま合流したんだけれど、皆で領主の館に向かうんだし泊まっていっても良かったのに。そう思った所でイングリットちゃんがカワイらしく欠伸をした。
私がそれを凝視してしまっているのがバレて、恥ずかしそうに顔を赤らめた。うん、カワイイ。
「イングリットちゃん、何だか眠たそうね」
「実はその、他の『神官』様方にシラユキ様の武勇伝を聴いてきたことがバレてしまいまして、詳しく教えてほしいとせっつかれたのです。……それで話し込んでいましたら、あまり眠る時間が取れませんでした」
申し訳なさそうにしているけど、なんだかこっちが申し訳なくなるわね。
撫でながらこっそり『ハイリカバリー』をかけとこう。
そうして皆とおしゃべりしながら領主の館へと向かった。そうして明るい雰囲気で到着した訳だけど……。
「なんだか慌ただしいわね」
「そのようですね」
領主の館と、その庭の端にある建物とで、兵士たちが忙しなく行き来していた。
「あの建物は兵士の宿舎か何かかしら?」
「いいえ、あそこの地下が牢屋になっているようですね」
「ああ、同じ敷地内にあったんだ。近寄らなくて正解だったわね」
ママの頭を撫でる。
領主の館に泊まっていたら、いつぞやのピシャーチャみたいに、気になって眠れなかったんじゃないかしら。
「ママは大丈夫よ、シラユキちゃんが一緒だもの」
ママの反応が嬉しくてもっと撫でちゃう。するとそこに、ちょっと疲れ果てた顔をしたおじ様がやって来た。
「客人が来ていると言われて来てみれば、アリシア君達にイングリット君ではないか。……もしや白雪一家が揃っているのかね?」
「はい閣下、2日ほど前に。ご紹介します、このお方が私のご主人様であり、パーティーリーダーでもあるシラユキ様です」
アリシアがこちらを見て頷く。なるほどね、確かにフレンドリーな領主だわ。護衛もつけずにぶらぶらするなんて、変わり者らしいわね。
……ん? 今初めてアリシアから名前で呼ばれた?
新鮮と言うか普段からの違和感で、シレッと流してしまったわ。シラユキ様、シラユキ様。ううーん。
「お嬢様」
あ、スッキリ。
「初めまして、ご紹介に与ったシラユキです。グラッツマン子爵には私の家族がお世話になったとか。改めてお礼申し上げますわ」
今日の私は、アリシアがいつのまにかこの街で仕入れてきた上質なシルクのローブを身に纏っている。正装を、と考えたけれど、私の中での正装は『白の乙女』であって、エルフ達を連れてその格好をするのは非常にまずい。
なので普通の服を、とアリシアに注文した。
そして出てきたのがこの服なんだけど、お値段ビックリ金貨数十枚クラスの高級品だった。
アリシアが余りにも堂々と、簡単に取り出すものだから、ママもそこまで高額なモノではないと思って油断したのね。
質感とか色々触って感想を漏らしていたら、アリシアが素敵な笑顔で値段を暴露したわ。
その瞬間ママがフリーズしたんだけど、アリシアもママの弄り方が分かってきたわね。あの時のママの慌てふためき方はカワイイが過ぎたわ。
閑話休題。
「話には聞いていたが、シラユキ君は大変美しいな。見惚れてしまったよ」
「ふふ、光栄ですわ」
子爵閣下は、渋くて味のある顔つき。私もそれなりに好きよ。
「そして世話になったのはこちらの方だ。少しでもお礼がしたくて歓待したまで。どうか気にしないでくれ。それから言葉遣いも、無理に畏る必要はない。普段通りで構わないよ」
「ではお言葉に甘えて。地下に居る連中のことであったり、他にも大事なお話があります。お疲れの中大変申し訳ないですが、お時間を頂いても良いかしら?」
「勿論だとも。こちらへ」
子爵閣下に案内され客間へと至る。初顔合わせとなるエルフ姉弟の軽い自己紹介を済ませ、エルフの集落の現状も、そのまま姉弟に伝えてもらう。
「なるほど、あいわかった。我らは、同じナイングラッツの恵みを分かち合う仲間だ。今までのことは水に流し、今後はお互いに協力し合い、共に繁栄していこうではないか」
「ありがとう子爵殿、恩に着る」
「子爵様、感謝致します」
何か喧嘩とかしてたのかしら? まあ細かいことはいいわね。
「ところで話に出ていた翠鉛鉱というのは、どういった代物なのだ? シラユキ君が発見したという話であったが」
「こちらですね。少し加工してしまったので、鉱石というより宝石に近いですが」
懐のマジックバッグから、貰った『翠の宝珠』を取り出してテーブルに置く。まだこれを使って何を作るかとか全く決めていないけど、何を作ろうかしら?
「ほぉ……美しいな。見させていただいても?」
「どうぞ」
『翠の宝珠』を手に取った子爵は、角度を変えたり光に当てたり、色々と確認をする。そして何かに納得をしたのか、何度か頷いた後に返却してもらう。
「確かに、これ程の宝石ならばかなりの価値があるだろう。それに鉱石として武器や防具にも使えるとか。更にはシェルリックスの加工技術が合わさればどれほどの品に化けるか想像もつかない。いや、何なら我が街の衣服にこの宝石があれば……ハッ、失礼した」
「構いません、夢が広がるのは良いことですから」
子爵の考えは理解出来る。紡績街の裁縫技術とシェルリックスの彫金技術があれば、様々な発展が見込めるだろう。しかも裁縫技術と宝石の出所は自身の領地なんだから、嬉しくなっちゃうのもわかるわ。
「領主様、私達からも報告があります。昨晩、使いに報告はさせていただきましたが、この街の毒と呪いは全て取り除けました。もうあの恐怖に住人達が怯えることはないでしょう」
「報告は聞いていたが、よくやってくれた。アリシア君、イングリット君。改めて言わせてくれ。本当にありがとう」
「光栄ですわ」
「ありがとうございます」
結局、この街自体の呪いや毒に関しては、私はほぼノータッチだ。アリシアとイングリットちゃん。ママやリリちゃんの頑張りでことなきを得た訳だ。
皆、成長してくれて嬉しいわ。ここまでの解決が出来たというのは、私としては嬉しい誤算だった。
「あ、街とは関係ないかもしれませんが、昨日下流にある洞窟を浄化して参りました。魔獣1匹すら残さず殲滅しておきましたのでご安心を」
子爵は数瞬呆気に取られ、誤魔化すかのように咳払いをした。
「……確かそんな報告がギルドからも来ていたな。アリシア君から君の実力は聞いていたが、本当に凄まじいようだ。彼らエルフ達の話にも出てきたが、ギルドマスターからも君が毒竜を討伐したと聞いている。確認する事は可能だろうか」
「構いませんが、奴こそがこの地を穢れさせた元凶です。生半可な防護策では近寄るだけで毒に苛まれます。それでも確認されますか?」
即死しない限りは助けてあげられる。何なら『ハイリカバリー』を修得したアリシアがカバーしてくれるだろうし、隙はないはず。でも目の前で確認するのだけは、やばいから勘弁してほしい。
「ああ、この地を預かる領主として、確認しておかねばならん」
「でしたら、後ほど下の連中に見せつける際に確認して頂ければ。私は毒竜の毒を操った奴らこそが、毒竜を連れてきた者達だと警戒しておりますので」
子爵が頷いて返事をする。奴らの所に行くのは、話がまとまってからにしましょうか。
「さて……。ここまで多大な活躍をしてくれた君達に、何か礼をしたいのだが、欲しいものはあるかね」
「でしたら学園の紹介状を……」
「それはアリシア君から既に聴いている。シラユキ君とリリ君の分は用意してある。そしてアリシア君とリーリエ君のメイドとしての入学も記載させて頂いた」
あら、アリシアったら、本当に気が利くわね。
となると……何があるかしら? お金は山ほどあるし、ギルドの待遇もこれ以上は必要ない。となれば……。
「皆は無いの?」
「お嬢様以上に欲しいものなどありません」
アリシアのストレートな物言いがハートを鷲掴み!
「私も家族が一緒に居られるなら、それだけで十分だわ」
「リリも、一番欲しいものはお姉ちゃんがくれるから、今欲しいものは無いの」
ママもリリちゃんも好き好き!
「ふ、羨ましいほどに仲の良い家族だな」
「ええ、自慢の家族です。ならそうですね、この街で作られる織物の中で、一見さんお断りの品があるなら、それを売ってほしいところですね」
「ほう、織物かね。時間さえ頂ければオーダーメイドも受け付けるが?」
「いいえ、家族用の服ですから、自分で作りたいのです」
ママのメイド服もそうだし、リリちゃんの魔術士装備も作ってあげたいのよね。気が早いけどアリシアの聖女服も……ああ、夢が広がるわ。
「本当に多才なのだな。あいわかった、商店には私から伝えておこう。すぐに立ち寄るかね?」
「ありがとうございます。これから所用でエルフの集落に一度向かいますので、そこから戻り次第お店に顔を出すつもりです」
多分長くても明後日には戻ってこれるでしょうね。
「しかしそれだけではお礼には足りないな……」
「それでしたら、後日私と話し合いましょう。お嬢様、よろしいですか?」
「アリシアに任せるわー。でもほどほどにしてあげてね?」
「お任せを」
それから子爵閣下に、改めてエルフの森での予定などを伝え、理解してもらう。これからのエルフの集落が、どのように発展していくかを決めるためだ。
まずどの程度の翠鉛鉱が採取出来るかがわからないため、1日で採れる採取量が知りたいとのことだった。埋蔵量に関しては、亜鉛さえあれば精霊達の力で還元されることも伝えてあるため、必要あれば亜鉛の提供もしてくれるのだとか。
亜鉛は銅鉱石よりも価値が低いため非常に安価だ。ただまあ、翠鉛鉱の原材料と知られればその内高騰しそうだし、そこは子爵閣下とシェルリックスの領主との交易次第ね。
「それでは最後に、例の連中ですが……どこまで吐きましたか?」
「ああ、最近は早く街から出させろと煩いくらいだが、毒を使うことで吐いてくれたよ。貴族の師弟や商人は元々所属は割れていたが、付き人の2人はアブダクデ伯爵直属の兵士のようだ」
「なるほど。情報がその程度で留まっているのであれば、連中の尋問は私が代わりましょう。早速案内してもらっても?」
子爵閣下がアリシアに目配せする。アリシアは頷いているけど、何か交渉とかしたのかしら?
「構わないが、彼らは重要な参考人だ。くれぐれも……」
「安心してください。手足や心はへし折るかもしれないけど、何度でも治して最後には元通りにしますから」
「お嬢様、自害されては厄介です。ほどほどにしましょう」
「……そうね、それもそうよね。皆はここで待ってて。アリシアと2人で行ってくるから」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ただいまー」
色々あったけど、そこそこ有益な情報が得られたかな。想定外な事としては、結局あいつらは子爵が護衛を引き連れ、馬車で王都に連れて行く事になったんだけど、護衛も兼ねて私達も同行する羽目になったのよね。
まあ途中で荷物も増えるだろうし、道中は楽出来るし、そこは有効活用しちゃいましょう。
「あ、おかえりなさい。大丈夫だった?」
ママが笑顔で迎えてくれる。うーん、割と凄惨な現場だったから、ママの笑顔は癒されるわ。
「グラッツマン子爵がすぐに青い顔をして戻ってきたから、心配だったのよ。酷い事言われなかった?」
「あー、うん。悪魔とか人でなしとか散々言われちゃったわ。中でも一番傷ついたのは私を……」
あ、思い出したらムカムカしてきた。
アイツは二度と馬鹿な事を口走らないよう喉を潰しておくべきだったかしら。いえ、喋れなくするだけじゃ足りなく感じてきたわ。シラユキをまともに見れないような目は要らないよね? 口汚い言葉を紡ぐ舌も、歯も、全部全部全部……。
「お嬢様! 思い出さなくていいです! お嬢様は美しく可愛らしい方です。あのような妄言を覚えておく必要はございません!」
……そうね。妄言よね?
私が◆◆だなんて、そんな訳ないわよね?
「……そうするわ。あのゴミは視界に入れたくないから、子爵閣下にはそう伝えておいて」
「はい、必ず!」
「……ねぇアリシア、私って、その……」
「お嬢様はとても素敵な方です」
アリシアは一片の曇りもない瞳で、まっすぐこちらを見ていた。
……うん、本音ね。安心したわ。そして私が一番欲しい言葉をくれる。本当に出来たメイドね。
「ふぅ……。ありがと、もう大丈夫よ。だからね、ママ、リリちゃん? 放してくれていいのよ?」
さっきからママもリリちゃんもべったりくっついている。不安そうな顔しちゃってたかな?
「お姉ちゃんが元気になるまでこうしてるの!」
「シラユキちゃん、ママがついてるから、いっぱい甘えて良いのよ」
「……うん」
お腹の中でグツグツとゆで上がっているムカムカが収まるまで、いっぱい甘えることにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「うん、落ち着いた」
「ほんと? ほんとに平気?」
「……そうね、顔色もよくなったし、大丈夫みたいね」
リリちゃんはまだ心配してくれてるけど、ママは私の顔色がわかるのね。さすがママ。
ママとリリちゃんに甘えてる間に、子爵閣下も戻ってきたみたい。
「途中で退席してしまって申し訳なかった」
「……子爵閣下、少し顔色が回復したようで安心しました」
「はは、まさかあれほどの化け物だったとは。出来心だったとはいえ迷惑をかけてしまったな」
子爵には毒竜を出す際、看守の人と一緒にかなり距離を取ってもらった。
それでも地下牢という密閉空間。アリシアには『デバフアーマー』で対処させたけど、子爵や看守の方々は漏れなく毒に掛ってしまった。あのクズ連中もかかってはいたので、すぐさま毒竜を仕舞い込み、場の空気を『浄化』しながら治療してあげた。
けれど、やはり元凶による直接の毒はかなりのもののようで、急激に体力を奪われたらしく戻ってもらう事にしたのだ。HP自体は回復できるけど、気力とかそういうものまでは回復できないのよね。
「構いません、こちらも注意を払うべきでした。……さて、まずは井戸に仕掛けられた魔道具に関してだけど、事件が起きる数日以上前に、深夜にこっそり井戸に仕掛けたそうよ。ちなみに領主の館と工場の井戸に関しては、侵入できなかったと言ってたわ」
そして川に毒が流れてきたら、あとは順番に遠隔操作でスイッチを起動させていく。簡単な話ね。ちなみにその装置の止め方も一緒に聞いたわ。
私でも起動中の魔道具を止める手段は、壊す以外には現状無い。起動状態の魔道具を全部連中の牢屋に放り込んだら、喜んで教えてくれたわ。
まぁ、黒い染みが体に現れて苦しむまで放置したりしたせいで、悪魔とか言われたんだけど。
自分達も似たようなことをしたくせに悪魔だなんて、酷いと思わない?
「そしてエルフの集落に関しては、やっぱり連中が関わっていたわ。詳しくは解らなかったけど、毒竜を呼び出すための召喚アイテムを用意していたみたい。それを湧き水の所で使って、目視で毒竜が現れたら撤退、って感じね」
「やはりあの時期に見かけたのは、その人間たちだったか……」
あいつら何度か偵察をしていたみたいだし、イースちゃん達もその内のどこかで見かけたのかもしれないわね。
「しかしそのような重大な情報をよく聞き出せたな。流石はシラユキ殿だ」
「まあ、毒竜の死骸を見せつけたのが大きかったわね。それでも刺客の1人はしぶとかったから、たっぷりお仕置きをしてあげたけど」
イースちゃんの言う通り、確かに奴らの犯行の中で一番重大な情報だ。ちょっとやそっとの脅しでは通じなかっただろう。
それでも、あいつら自身手に負えないはずの毒竜が倒されたという事実を前にして、意地を張るのは限界だったのかも。頭の悪そうな方が聞いてもいないのにベラベラと説明してくれたわ。
多少頭が回りそうな方は、それ以上に情報を持っていそうだったから丁寧に1本ずつへし折ってあげた。精神的にも物理的にも。
だけどそいつは、毒に掛かりながらそんな痛みを受けても、まるで折れたりはしなかったわ。
だからといって、その時の私はママの事でだいぶ怒っていたから、慈悲は一切かけなかったけど。
あんな毒を希釈してまで扱う連中だもの。
原液の恐ろしさは、骨身に沁みているはずよ。毒竜から抽出した原液を目の前に持っていったところで、ようやく答えてくれたわ。
話を終えるまで黙って聞いた上で、それが偽りかどうかを確認した。言葉ではなく行動で。
1人1人原液を浴びせて死なせないように、回復しながら面倒をみてあげた。その結果ウソじゃないことが分かったわ。
そこからは本当に協力的になってくれたわ。
私の知らない裏話すら喋ってくれたんですもの。おかげで残りは楽に済んだわ。
ただまぁ、拷問なんて、慣れない事をするもんじゃないわね。私がするのが一番効果的だったとはいえ、すっごく疲れちゃったわ。もうあんまりしたくないわね……。
「それで最後に得られた情報だけど、この街と王都の間に人狩りの盗賊団がいるようね。裏の奴隷商人と繋がりを持っていて、王都に向かう人たちを無差別に狩ってるみたい。だからポルトの異変も、シェルリックスの騒ぎも、この地域の事件も、何1つ国には伝わっていないと考えるべきね」
「なんと……やはり『白雪一家』に護衛をお願いして正解だったようだ。頼りにしているぞ」
「ええ、大船に乗ったつもりでいて下さいな」
奴らから聞き出した情報としてはこんなものだ。
「では私は出発の準備を進めておく。今日と明日、準備に使えばなんとかなるだろう。明後日には出発する事が可能だが、タイミングは君たちに任せよう。それと、シラユキ君達の入学試験に関してだが、このまま出発すれば十分間に合うだろう」
「閣下、ありがとうございます。それじゃ、私達はそろそろお暇しましょう。皆でエルフの森に行くわよ」
それにしても、今回奴らが解除方法を教えてくれたおかげで、珍しい素材で作られた魔道具が手に入ったわね。ここじゃあ設備がないから何も出来ないけれど、王都に着いたら解体して、素材に回せばある程度のレベルは期待できそうね。
でもこれ、王都についたら提出しないといけないかしら? でも悪用されたら嫌だし、何か細工をするべきかしら? というか使わないなら私が有効活用したいところだけど……どうした物かしら。
『マスターったら、怒りの感情をまるで制御出来ていないわね。あとでお仕置きよ』
話の内容は内なる欲望が聞いていたみたいだから教えてもらったけど、どうやら私の今までの活躍だったらしいのよね。
イースちゃんやキース君だけでなく、イングリットちゃんも夢中になっていたとか。そういえばアリシアが、イチャイチャの最中にムズムズしてたけど、もしかして混ざりたかったのかな? その時の私はアリシアしか目に入っていなかったから、周りのことは気にも留めていなかったわ。
お客さんの3人は結局、昨日のうちにそれぞれの宿と教会に戻ったみたい。今朝になってアリシアに教えてもらう形で初めて知ったわ。そう言えば居ないなーとは思ってたのよ?
……朝起きてからだけど。
でもその3人とは結局、宿の入り口で待ち合わせをして、そのまま合流したんだけれど、皆で領主の館に向かうんだし泊まっていっても良かったのに。そう思った所でイングリットちゃんがカワイらしく欠伸をした。
私がそれを凝視してしまっているのがバレて、恥ずかしそうに顔を赤らめた。うん、カワイイ。
「イングリットちゃん、何だか眠たそうね」
「実はその、他の『神官』様方にシラユキ様の武勇伝を聴いてきたことがバレてしまいまして、詳しく教えてほしいとせっつかれたのです。……それで話し込んでいましたら、あまり眠る時間が取れませんでした」
申し訳なさそうにしているけど、なんだかこっちが申し訳なくなるわね。
撫でながらこっそり『ハイリカバリー』をかけとこう。
そうして皆とおしゃべりしながら領主の館へと向かった。そうして明るい雰囲気で到着した訳だけど……。
「なんだか慌ただしいわね」
「そのようですね」
領主の館と、その庭の端にある建物とで、兵士たちが忙しなく行き来していた。
「あの建物は兵士の宿舎か何かかしら?」
「いいえ、あそこの地下が牢屋になっているようですね」
「ああ、同じ敷地内にあったんだ。近寄らなくて正解だったわね」
ママの頭を撫でる。
領主の館に泊まっていたら、いつぞやのピシャーチャみたいに、気になって眠れなかったんじゃないかしら。
「ママは大丈夫よ、シラユキちゃんが一緒だもの」
ママの反応が嬉しくてもっと撫でちゃう。するとそこに、ちょっと疲れ果てた顔をしたおじ様がやって来た。
「客人が来ていると言われて来てみれば、アリシア君達にイングリット君ではないか。……もしや白雪一家が揃っているのかね?」
「はい閣下、2日ほど前に。ご紹介します、このお方が私のご主人様であり、パーティーリーダーでもあるシラユキ様です」
アリシアがこちらを見て頷く。なるほどね、確かにフレンドリーな領主だわ。護衛もつけずにぶらぶらするなんて、変わり者らしいわね。
……ん? 今初めてアリシアから名前で呼ばれた?
新鮮と言うか普段からの違和感で、シレッと流してしまったわ。シラユキ様、シラユキ様。ううーん。
「お嬢様」
あ、スッキリ。
「初めまして、ご紹介に与ったシラユキです。グラッツマン子爵には私の家族がお世話になったとか。改めてお礼申し上げますわ」
今日の私は、アリシアがいつのまにかこの街で仕入れてきた上質なシルクのローブを身に纏っている。正装を、と考えたけれど、私の中での正装は『白の乙女』であって、エルフ達を連れてその格好をするのは非常にまずい。
なので普通の服を、とアリシアに注文した。
そして出てきたのがこの服なんだけど、お値段ビックリ金貨数十枚クラスの高級品だった。
アリシアが余りにも堂々と、簡単に取り出すものだから、ママもそこまで高額なモノではないと思って油断したのね。
質感とか色々触って感想を漏らしていたら、アリシアが素敵な笑顔で値段を暴露したわ。
その瞬間ママがフリーズしたんだけど、アリシアもママの弄り方が分かってきたわね。あの時のママの慌てふためき方はカワイイが過ぎたわ。
閑話休題。
「話には聞いていたが、シラユキ君は大変美しいな。見惚れてしまったよ」
「ふふ、光栄ですわ」
子爵閣下は、渋くて味のある顔つき。私もそれなりに好きよ。
「そして世話になったのはこちらの方だ。少しでもお礼がしたくて歓待したまで。どうか気にしないでくれ。それから言葉遣いも、無理に畏る必要はない。普段通りで構わないよ」
「ではお言葉に甘えて。地下に居る連中のことであったり、他にも大事なお話があります。お疲れの中大変申し訳ないですが、お時間を頂いても良いかしら?」
「勿論だとも。こちらへ」
子爵閣下に案内され客間へと至る。初顔合わせとなるエルフ姉弟の軽い自己紹介を済ませ、エルフの集落の現状も、そのまま姉弟に伝えてもらう。
「なるほど、あいわかった。我らは、同じナイングラッツの恵みを分かち合う仲間だ。今までのことは水に流し、今後はお互いに協力し合い、共に繁栄していこうではないか」
「ありがとう子爵殿、恩に着る」
「子爵様、感謝致します」
何か喧嘩とかしてたのかしら? まあ細かいことはいいわね。
「ところで話に出ていた翠鉛鉱というのは、どういった代物なのだ? シラユキ君が発見したという話であったが」
「こちらですね。少し加工してしまったので、鉱石というより宝石に近いですが」
懐のマジックバッグから、貰った『翠の宝珠』を取り出してテーブルに置く。まだこれを使って何を作るかとか全く決めていないけど、何を作ろうかしら?
「ほぉ……美しいな。見させていただいても?」
「どうぞ」
『翠の宝珠』を手に取った子爵は、角度を変えたり光に当てたり、色々と確認をする。そして何かに納得をしたのか、何度か頷いた後に返却してもらう。
「確かに、これ程の宝石ならばかなりの価値があるだろう。それに鉱石として武器や防具にも使えるとか。更にはシェルリックスの加工技術が合わさればどれほどの品に化けるか想像もつかない。いや、何なら我が街の衣服にこの宝石があれば……ハッ、失礼した」
「構いません、夢が広がるのは良いことですから」
子爵の考えは理解出来る。紡績街の裁縫技術とシェルリックスの彫金技術があれば、様々な発展が見込めるだろう。しかも裁縫技術と宝石の出所は自身の領地なんだから、嬉しくなっちゃうのもわかるわ。
「領主様、私達からも報告があります。昨晩、使いに報告はさせていただきましたが、この街の毒と呪いは全て取り除けました。もうあの恐怖に住人達が怯えることはないでしょう」
「報告は聞いていたが、よくやってくれた。アリシア君、イングリット君。改めて言わせてくれ。本当にありがとう」
「光栄ですわ」
「ありがとうございます」
結局、この街自体の呪いや毒に関しては、私はほぼノータッチだ。アリシアとイングリットちゃん。ママやリリちゃんの頑張りでことなきを得た訳だ。
皆、成長してくれて嬉しいわ。ここまでの解決が出来たというのは、私としては嬉しい誤算だった。
「あ、街とは関係ないかもしれませんが、昨日下流にある洞窟を浄化して参りました。魔獣1匹すら残さず殲滅しておきましたのでご安心を」
子爵は数瞬呆気に取られ、誤魔化すかのように咳払いをした。
「……確かそんな報告がギルドからも来ていたな。アリシア君から君の実力は聞いていたが、本当に凄まじいようだ。彼らエルフ達の話にも出てきたが、ギルドマスターからも君が毒竜を討伐したと聞いている。確認する事は可能だろうか」
「構いませんが、奴こそがこの地を穢れさせた元凶です。生半可な防護策では近寄るだけで毒に苛まれます。それでも確認されますか?」
即死しない限りは助けてあげられる。何なら『ハイリカバリー』を修得したアリシアがカバーしてくれるだろうし、隙はないはず。でも目の前で確認するのだけは、やばいから勘弁してほしい。
「ああ、この地を預かる領主として、確認しておかねばならん」
「でしたら、後ほど下の連中に見せつける際に確認して頂ければ。私は毒竜の毒を操った奴らこそが、毒竜を連れてきた者達だと警戒しておりますので」
子爵が頷いて返事をする。奴らの所に行くのは、話がまとまってからにしましょうか。
「さて……。ここまで多大な活躍をしてくれた君達に、何か礼をしたいのだが、欲しいものはあるかね」
「でしたら学園の紹介状を……」
「それはアリシア君から既に聴いている。シラユキ君とリリ君の分は用意してある。そしてアリシア君とリーリエ君のメイドとしての入学も記載させて頂いた」
あら、アリシアったら、本当に気が利くわね。
となると……何があるかしら? お金は山ほどあるし、ギルドの待遇もこれ以上は必要ない。となれば……。
「皆は無いの?」
「お嬢様以上に欲しいものなどありません」
アリシアのストレートな物言いがハートを鷲掴み!
「私も家族が一緒に居られるなら、それだけで十分だわ」
「リリも、一番欲しいものはお姉ちゃんがくれるから、今欲しいものは無いの」
ママもリリちゃんも好き好き!
「ふ、羨ましいほどに仲の良い家族だな」
「ええ、自慢の家族です。ならそうですね、この街で作られる織物の中で、一見さんお断りの品があるなら、それを売ってほしいところですね」
「ほう、織物かね。時間さえ頂ければオーダーメイドも受け付けるが?」
「いいえ、家族用の服ですから、自分で作りたいのです」
ママのメイド服もそうだし、リリちゃんの魔術士装備も作ってあげたいのよね。気が早いけどアリシアの聖女服も……ああ、夢が広がるわ。
「本当に多才なのだな。あいわかった、商店には私から伝えておこう。すぐに立ち寄るかね?」
「ありがとうございます。これから所用でエルフの集落に一度向かいますので、そこから戻り次第お店に顔を出すつもりです」
多分長くても明後日には戻ってこれるでしょうね。
「しかしそれだけではお礼には足りないな……」
「それでしたら、後日私と話し合いましょう。お嬢様、よろしいですか?」
「アリシアに任せるわー。でもほどほどにしてあげてね?」
「お任せを」
それから子爵閣下に、改めてエルフの森での予定などを伝え、理解してもらう。これからのエルフの集落が、どのように発展していくかを決めるためだ。
まずどの程度の翠鉛鉱が採取出来るかがわからないため、1日で採れる採取量が知りたいとのことだった。埋蔵量に関しては、亜鉛さえあれば精霊達の力で還元されることも伝えてあるため、必要あれば亜鉛の提供もしてくれるのだとか。
亜鉛は銅鉱石よりも価値が低いため非常に安価だ。ただまあ、翠鉛鉱の原材料と知られればその内高騰しそうだし、そこは子爵閣下とシェルリックスの領主との交易次第ね。
「それでは最後に、例の連中ですが……どこまで吐きましたか?」
「ああ、最近は早く街から出させろと煩いくらいだが、毒を使うことで吐いてくれたよ。貴族の師弟や商人は元々所属は割れていたが、付き人の2人はアブダクデ伯爵直属の兵士のようだ」
「なるほど。情報がその程度で留まっているのであれば、連中の尋問は私が代わりましょう。早速案内してもらっても?」
子爵閣下がアリシアに目配せする。アリシアは頷いているけど、何か交渉とかしたのかしら?
「構わないが、彼らは重要な参考人だ。くれぐれも……」
「安心してください。手足や心はへし折るかもしれないけど、何度でも治して最後には元通りにしますから」
「お嬢様、自害されては厄介です。ほどほどにしましょう」
「……そうね、それもそうよね。皆はここで待ってて。アリシアと2人で行ってくるから」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ただいまー」
色々あったけど、そこそこ有益な情報が得られたかな。想定外な事としては、結局あいつらは子爵が護衛を引き連れ、馬車で王都に連れて行く事になったんだけど、護衛も兼ねて私達も同行する羽目になったのよね。
まあ途中で荷物も増えるだろうし、道中は楽出来るし、そこは有効活用しちゃいましょう。
「あ、おかえりなさい。大丈夫だった?」
ママが笑顔で迎えてくれる。うーん、割と凄惨な現場だったから、ママの笑顔は癒されるわ。
「グラッツマン子爵がすぐに青い顔をして戻ってきたから、心配だったのよ。酷い事言われなかった?」
「あー、うん。悪魔とか人でなしとか散々言われちゃったわ。中でも一番傷ついたのは私を……」
あ、思い出したらムカムカしてきた。
アイツは二度と馬鹿な事を口走らないよう喉を潰しておくべきだったかしら。いえ、喋れなくするだけじゃ足りなく感じてきたわ。シラユキをまともに見れないような目は要らないよね? 口汚い言葉を紡ぐ舌も、歯も、全部全部全部……。
「お嬢様! 思い出さなくていいです! お嬢様は美しく可愛らしい方です。あのような妄言を覚えておく必要はございません!」
……そうね。妄言よね?
私が◆◆だなんて、そんな訳ないわよね?
「……そうするわ。あのゴミは視界に入れたくないから、子爵閣下にはそう伝えておいて」
「はい、必ず!」
「……ねぇアリシア、私って、その……」
「お嬢様はとても素敵な方です」
アリシアは一片の曇りもない瞳で、まっすぐこちらを見ていた。
……うん、本音ね。安心したわ。そして私が一番欲しい言葉をくれる。本当に出来たメイドね。
「ふぅ……。ありがと、もう大丈夫よ。だからね、ママ、リリちゃん? 放してくれていいのよ?」
さっきからママもリリちゃんもべったりくっついている。不安そうな顔しちゃってたかな?
「お姉ちゃんが元気になるまでこうしてるの!」
「シラユキちゃん、ママがついてるから、いっぱい甘えて良いのよ」
「……うん」
お腹の中でグツグツとゆで上がっているムカムカが収まるまで、いっぱい甘えることにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「うん、落ち着いた」
「ほんと? ほんとに平気?」
「……そうね、顔色もよくなったし、大丈夫みたいね」
リリちゃんはまだ心配してくれてるけど、ママは私の顔色がわかるのね。さすがママ。
ママとリリちゃんに甘えてる間に、子爵閣下も戻ってきたみたい。
「途中で退席してしまって申し訳なかった」
「……子爵閣下、少し顔色が回復したようで安心しました」
「はは、まさかあれほどの化け物だったとは。出来心だったとはいえ迷惑をかけてしまったな」
子爵には毒竜を出す際、看守の人と一緒にかなり距離を取ってもらった。
それでも地下牢という密閉空間。アリシアには『デバフアーマー』で対処させたけど、子爵や看守の方々は漏れなく毒に掛ってしまった。あのクズ連中もかかってはいたので、すぐさま毒竜を仕舞い込み、場の空気を『浄化』しながら治療してあげた。
けれど、やはり元凶による直接の毒はかなりのもののようで、急激に体力を奪われたらしく戻ってもらう事にしたのだ。HP自体は回復できるけど、気力とかそういうものまでは回復できないのよね。
「構いません、こちらも注意を払うべきでした。……さて、まずは井戸に仕掛けられた魔道具に関してだけど、事件が起きる数日以上前に、深夜にこっそり井戸に仕掛けたそうよ。ちなみに領主の館と工場の井戸に関しては、侵入できなかったと言ってたわ」
そして川に毒が流れてきたら、あとは順番に遠隔操作でスイッチを起動させていく。簡単な話ね。ちなみにその装置の止め方も一緒に聞いたわ。
私でも起動中の魔道具を止める手段は、壊す以外には現状無い。起動状態の魔道具を全部連中の牢屋に放り込んだら、喜んで教えてくれたわ。
まぁ、黒い染みが体に現れて苦しむまで放置したりしたせいで、悪魔とか言われたんだけど。
自分達も似たようなことをしたくせに悪魔だなんて、酷いと思わない?
「そしてエルフの集落に関しては、やっぱり連中が関わっていたわ。詳しくは解らなかったけど、毒竜を呼び出すための召喚アイテムを用意していたみたい。それを湧き水の所で使って、目視で毒竜が現れたら撤退、って感じね」
「やはりあの時期に見かけたのは、その人間たちだったか……」
あいつら何度か偵察をしていたみたいだし、イースちゃん達もその内のどこかで見かけたのかもしれないわね。
「しかしそのような重大な情報をよく聞き出せたな。流石はシラユキ殿だ」
「まあ、毒竜の死骸を見せつけたのが大きかったわね。それでも刺客の1人はしぶとかったから、たっぷりお仕置きをしてあげたけど」
イースちゃんの言う通り、確かに奴らの犯行の中で一番重大な情報だ。ちょっとやそっとの脅しでは通じなかっただろう。
それでも、あいつら自身手に負えないはずの毒竜が倒されたという事実を前にして、意地を張るのは限界だったのかも。頭の悪そうな方が聞いてもいないのにベラベラと説明してくれたわ。
多少頭が回りそうな方は、それ以上に情報を持っていそうだったから丁寧に1本ずつへし折ってあげた。精神的にも物理的にも。
だけどそいつは、毒に掛かりながらそんな痛みを受けても、まるで折れたりはしなかったわ。
だからといって、その時の私はママの事でだいぶ怒っていたから、慈悲は一切かけなかったけど。
あんな毒を希釈してまで扱う連中だもの。
原液の恐ろしさは、骨身に沁みているはずよ。毒竜から抽出した原液を目の前に持っていったところで、ようやく答えてくれたわ。
話を終えるまで黙って聞いた上で、それが偽りかどうかを確認した。言葉ではなく行動で。
1人1人原液を浴びせて死なせないように、回復しながら面倒をみてあげた。その結果ウソじゃないことが分かったわ。
そこからは本当に協力的になってくれたわ。
私の知らない裏話すら喋ってくれたんですもの。おかげで残りは楽に済んだわ。
ただまぁ、拷問なんて、慣れない事をするもんじゃないわね。私がするのが一番効果的だったとはいえ、すっごく疲れちゃったわ。もうあんまりしたくないわね……。
「それで最後に得られた情報だけど、この街と王都の間に人狩りの盗賊団がいるようね。裏の奴隷商人と繋がりを持っていて、王都に向かう人たちを無差別に狩ってるみたい。だからポルトの異変も、シェルリックスの騒ぎも、この地域の事件も、何1つ国には伝わっていないと考えるべきね」
「なんと……やはり『白雪一家』に護衛をお願いして正解だったようだ。頼りにしているぞ」
「ええ、大船に乗ったつもりでいて下さいな」
奴らから聞き出した情報としてはこんなものだ。
「では私は出発の準備を進めておく。今日と明日、準備に使えばなんとかなるだろう。明後日には出発する事が可能だが、タイミングは君たちに任せよう。それと、シラユキ君達の入学試験に関してだが、このまま出発すれば十分間に合うだろう」
「閣下、ありがとうございます。それじゃ、私達はそろそろお暇しましょう。皆でエルフの森に行くわよ」
それにしても、今回奴らが解除方法を教えてくれたおかげで、珍しい素材で作られた魔道具が手に入ったわね。ここじゃあ設備がないから何も出来ないけれど、王都に着いたら解体して、素材に回せばある程度のレベルは期待できそうね。
でもこれ、王都についたら提出しないといけないかしら? でも悪用されたら嫌だし、何か細工をするべきかしら? というか使わないなら私が有効活用したいところだけど……どうした物かしら。
『マスターったら、怒りの感情をまるで制御出来ていないわね。あとでお仕置きよ』
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