74 / 252
第3章:紡績街ナイングラッツ編
第072話 『その日、ひとまず合流した』
しおりを挟む
「うちのリリがお世話になったようで、ありがとうございます」
「いえいえ、優秀な後輩に奢るのは先輩の役目ですから!」
ジュースのお替わりを飲んでいたらママがやってきたの。冒険者の人がママの事をリリのお姉さんって言ってるけど、リリ達は慣れっこなの。あのお姉ちゃんでさえ、ママがお姉さんだって最初は思ったみたいなの。
少し前まではママも困ったような顔で訂正してたけど、最近だと嬉しそうなの。ママが綺麗で可愛く見られるのはリリも嬉しいの。
「リリはどこに行っても人気者ね。そのジュースは大丈夫だと思うけど、平気?」
「うん! 果物を絞った物だって聞いたの!」
「安心してくださいお姉さん、恩人に下手な物は出しません。薬を作ってくださりありがとうございます!」
「あ、顔を上げてください。作ったのは私じゃないですから」
「……え、違うんですか?」
冒険者の皆が困惑してるの。でも、これからもっと困惑しちゃうの。
「お薬を作ったのは2人のお姉ちゃんなの。この人はリリのママなの」
「ふふっ、リリのママです」
『ママ!?』
皆びっくりしてるの。でも、お姉ちゃん達の凄さを知ったら卒倒しちゃうの。まずはリリ達で耐性をつけさせるの。
「あ、でも種族はノームじゃないですよ。普通の人族ですからね」
『……』
冒険者さん達はしばらく戻ってこなさそうなの。これくらいで驚いていたら身が持たないの。心配なの。
「あ、ママ。これママの分のジュースなの。もらっておいたの」
「あら、そうなの? なんだか悪いわね」
「そんなことないの。リリ達もお手伝いしたの。でもお姉ちゃん達も頑張ったから、あとでお姉ちゃん達にも飲ませてあげるの」
「ふふ、そうね。それじゃあありがたく頂こうかしら」
ママがジュースを飲んで驚いた顔のあとに、とっても幸せそうな顔をしたの。リリも嬉しくなっちゃうの。最近ママはよく笑うようになったの。お姉ちゃんと出会えたおかげなの。
「あら、すごく美味しいわ。でも、冷やせばもっと美味しくなりそう。シラユキちゃんに習ったようにやってみるわね」
「うん!」
ママが水魔法の応用でジュースを冷やしてくれた。冷たくなっただけなのに、美味しさが増した気がするのがとっても不思議。ママも驚いてるみたい。
お姉ちゃんとしては元々、リリは雷と土魔法を。ママは水と土と、炎魔法を重視する予定だったみたいだけど、お姉ちゃん曰く氷魔法もママに修得させようと考えているんだとか。
リリにも、せっかくだからって、その内水魔法も教えてくれるみたい。とっても楽しみ! でもまずは、今の2つをリリが完璧と言えるくらいにマスターしなきゃ。そして、すっごい魔法使いになって、お姉ちゃんにいっぱい褒めてもらうの!
「ママ。リリね、情報を集めたけど、お話しする?」
「ふふ、リリったら。魔法でテンションが上がっちゃったのね? でもまだしなくて良いわ。アリシアちゃんが来てからまとめましょう」
「わかった、ジュース飲んで待ってる」
「そうしましょう。今日は忙しくなると思うし、今のうちにゆっくりしておきましょう」
「うん」
ママに頭を撫でてもらうと、落ち着くの。胸に集まった熱気が、どんどん萎んでいく感じがするの。
でも飲んでる最中はやめてほしいの。飲みにくいの。
◇◇◇◇◇◇◇◇
グラッツマン子爵に連れられて、冒険者ギルドへと向かう。
それにしても『氷の乙女』ですか、懐かしい呼び名です。中々熱をもって対応する人が現れないが為に。もしくはどんな熱意に対しても冷めた対応しかしないが為に、私につけられたメイドとしての渾名でしたか。
今ではお嬢様への熱意で、すっかりトロトロに溶け切ってしまいましたが。いえ、始まりはお嬢様の真摯な対応に、私の氷が溶かされたのでした。あの日の出会いからまだ半月ほどしか経っていないのですね……。なんと濃厚な日々なのでしょうか。
「アリシア君」
やはりこれまでの私の人生は、お嬢様にお仕えするこのかけがえのない日々の為にあったのですね。ああ、お嬢様……お慕い申しております。
「アリシア君!」
「はっ!?」
「ぼんやりとして、もしや先ほどの疲れが残っているのかね? 冒険者ギルドについたよ」
「これは失礼を、問題ありません子爵。お気遣い痛み入ります」
グラッツマン子爵に続いてギルドへと入る。そこは街の雰囲気とは異なり、明るく騒々しい場所だった。
「……ふむ、ずいぶんと賑やかだね。これほどの賑わいは、久しく聞かなかったものだが」
「ふふ、騒ぎの中心は私の家族のようです。子爵、紹介しましょう」
「いや、まずはギルドマスターに挨拶してこよう。先ほどの川の件も報告をしなくてはならん。その後、ギルドマスターも同席しても構わないかね?」
「勿論です。お手数お掛け致します」
子爵と別れ、近づく私に気付いた2人が手を振っているのを見て、自然と笑みが溢れる。
当初、この2人に対する感情は、些細なものでしかなかった。それはお嬢様の宣言で家族になってからも、大きくは変わらなかった。ただ、お嬢様が気に掛ける人達。という程度の認識だった。
しかし同じ時を過ごすにつれ、彼女達への認識を改めるようになった。
リリは才能の塊だ。魔法に対する意識と興味。そしてそのイメージ力と発想には、目を見張るものがあった。お嬢様の手ほどきがあったとはいえ、一際難しいとされる雷魔法をこれほどまでに扱えるとは想像もしていなかった。お嬢様もそうであるように、この子が今後どのように成長するのか、とても楽しみにしている私がいます。
これからも励んでいけば、いつか必ず、後世に名を残す立派な魔法使いになってくれることでしょう。
そしてリリは、姉としても、それ以外の意味でも、お嬢様の事を心から慕っている。それだけでも十分に同志と言えよう。今ではリリは、私にとっても大事な妹です。
お母様は、健気な頑張り屋だ。出会った頃は良くも悪くも普通だった。お嬢様の凄まじさに気絶するのも仕方がない事だったかもしれない。しかし、一度お嬢様を大事な娘と認識してからは、彼女は愛情と慈しみを持ってお嬢様に接している。それはお嬢様やリリに対してだけだと思っていたが、違った。
私に対しても、同じ様に大事な娘として接して下さった。お嬢様に対する考えを諫めてくれたあの時、そう強く感じた。その時、こういうのも悪くないと思ってしまったことに、自分でも驚いた。
お嬢様はお母様の愛情に対し、全力で甘える事で返している。しかし私は、今まであのように甘えたことがなかったのでどう接すればいいのか悩んだりもした。だがお母様と話をする機会が自然と増えた事で、甘える機会も増えてきたと思う。このような悩みも、お母様に撫でられるだけで霧散してしまうのだから不思議なものだ。
兎にも角にも、この人は間違いなく、白雪一家の母だ。
「アリシアちゃん、ご苦労様。少し疲れているみたいだけど大丈夫?」
「お姉ちゃん、このジュース美味しいよ!」
「大丈夫ですお母様。少し無理をしてしまいましたが、昨日お嬢様から頂いたアイテムのおかげで、少しずつ回復しています。リリもありがとう、頂くわね」
懐かしい味わいのジュースを飲みながらグラッツマン子爵の様子を窺う。子爵の顔は住人達に知れ渡っているのか、ここに来るまでも何人もの人が挨拶をしていた。お母様達と話していた冒険者達も、気さくに挨拶をしている姿が見えた。直接の面識はなかったが、信頼に足る御仁のようだ。
「これは、エルフの集落で採れた果実を搾った物ね? 久しぶりに口にしたけれど、市販の果実と違って魔力濃度が高い分、味もしっかりしているわね」
「リリ、このジュース好きになったの。お姉ちゃんにも飲んでほしいの」
確かに、この質ならばお嬢様にも是非味わってほしいところですね。でもお嬢様が向かったのは、この果実の特産地。
「お嬢様の事ですから、現地で直接頂いているかも知れません。もしかしたら、お土産に大量の果実をもらってくる可能性も考えられますね」
「わぁ! 楽しみなの!」
「ふふっ、果実だけでも美味しそうね」
味も濃厚ですし、お料理にも使えたはず。お嬢様がどれほど持ってくるか次第ですね。ただ毎日食べると舌が慣れてしまう物。
「はい、ただこの味に慣れてしまうと、市販の果実では物足りなくなってしまう可能性がありますね」
「あっ、それもそうね。シラユキちゃんが持ってきた量次第になるけど、その時に改めて相談しましょうか」
「はい、お母様」
ジュースをもう1口飲む。心地よい程度にヒンヤリとしているが、これはお母様が魔法を行使されたのだろう。濃い果実の味が引き締まっているように感じられます。
先日、主人の喉が渇いた時の対応方法について、メイドとしての確認と勉強をお母様としている時の事でした。その話を隣で聞いていたお嬢様が、この技法を講義という形で教えてくださったのです。
元々のメイドの優先度としては、
1:マジックバッグに入れた水筒の水を使う。
2:近くの飲める水源を事前に把握し、汲んでくる。
3:1と2が無く魔法の才がある場合は、水魔法で代用する。
というものでした。しかしお嬢様曰く、3が最優先であるというのです。なぜなら魔法としての精度が高く、魔力が十分に籠められた水は、とても飲みやすい上質な水となるらしいのです。
その水はそこらの井戸水や名水が流れる川よりも美味しいものになるというのです。
確かに強い魔力と共に育てられたエルフの果実は、市販の物とは一線を画す。水もそうであると、なぜ発想に至れなかったのか……。非常に悔しい思いをさせられました。
試しにその場でお嬢様の水魔法を飲ませて頂きましたが、本当に飲みやすく美味でした。私とお母様は、あの味を再現できるよう、水魔法の練度を高めなければと胸に誓いました。
これまでの旅では、お嬢様の喉が渇いた際は、私が水筒の水を差し上げていました。
しかしそれが不味いわけではなかったため、お嬢様もとやかく言うつもりはなかったそうです。ただ、知識として教えるべきタイミングが来たため披露したとのこと。
今後は、お茶をお出しする際でも、水物は魔法でお作りした方が良さそうですね……。ただ、魔力濃度で味も変わるのであれば、お出しするお茶によっては籠める魔力次第で完成度も変わってきそうです。やはり魔法は奥深いですね……。
閑話休題
そして水の美味しさの講義から、水の温度に関しても切り込みを入れられました。それは、熱い場所でも寒い場所でも、常温の水を用意するのかというものです。
王国近辺は極端に暑かったり寒かったりする地域はなく、比較的温厚な地域です。ですが、お嬢様の仰る通り、もしそういった地域で主人が喉を潤したいと思った時、常温では満足感は得られないでしょう。またしても目からウロコでした。しかし対処の方法がないとお伝えしたところ、お嬢様は見惚れるほどの笑みで答えました。
水魔法である程度の温度調整が出来る、と。
これも私の知らない知識でした。どんな凄腕の水魔法使いでも、覚えたばかりの子供でも、水魔法の温度はほとんど同じの、ぬるい物だったはずです。しかしお嬢様曰く、水魔法に炎魔法のイメージを少しずつ掛けていく事で温度が上昇し、逆に氷魔法のイメージを掛ければ冷やすことが出来るそうです。
氷魔法は私もお母様も習得はしていませんでしたから、試しに炎魔法のイメージでゆっくりと水魔法を熱していきました。
すると『ウォーターボール』から感じられる熱気が増したように思えました。触れれば確かに熱い。冷えた体にはまだ少し物足りないが、感覚は理解出来ました。
そのままお嬢様には、見本となる氷魔法を教えてもらい、『アイスボール』を習得するまでに至った。その日は結局、メイドの授業から水魔法を使う場面の想定へとシフトしてしまいましたが、とても有意義な時間でした。
お嬢様の事を思い出していると、グラッツマン子爵が少し顔色の悪い女性を連れてきた。この方がギルドマスターでしょうか、ポルトのギルドマスターほどではないにしろ、若い女性ですね。
「お待たせした。改めて、君のご家族を紹介してくれるかね?」
「初めまして。ナイングラッツのギルドマスター、シャルラでございます。『白雪一家』の皆さま、この度は薬の調達、本当にありがとうございました」
「その件については私も先ほど耳にした。街の代表として、お礼を言わせて頂く」
子爵とギルドマスターが頭を下げる。周りの冒険者たちもそれに倣って頭を下げた。お嬢様と一緒にいると、こういう光景は今後も発生していきそうですね。リリはこの光景にも慣れたものですが、お母様はあわあわしているようです。慣れた方が楽になると思いますが、こんな場面に慣れたお母様というのも想像できませんね。……ええ、お母様はこれで良いような気がします。
「頭をお上げください。元をたどれば我が主人、パーティーのリーダーが決めた方針に従ったまでです。今はこの場にはおりませんが、お二方の言葉は、必ず私どもが伝えておきます」
お母様の背中をさすりつつ、彼らの顔を上げさせる。このままでは話が進められないし、確かに私達も手伝ったがほとんどの功績はお嬢様の物だ。私たちの功績はあの方の教えの通りにやったに過ぎないのですから。
まあ、それをお嬢様に伝えれば、皆の功績だと怒られそうですけど。
「では私達も自己紹介を」
ネコミミフードを取るとギルドに騒めきが広がる。エルフはどこに行っても珍しがられるものですから、慣れたものです。私を人族と認識していたグラッツマン子爵の驚きようは特に強いようですが。
「『白雪一家』のサブリーダー、Bランク冒険者のアリシアと申します。リーダーに教わった神聖魔法、それから錬金術で薬の調合が可能です。また、水魔法で清潔かつ高品質な水も提供できます」
「『白雪一家』、Cランク冒険者のリーリエと申します。水魔法が得意です。私は病人たちの介護なら手伝えると思います」
「『白雪一家』、Cランク冒険者のリリだよ! いっぱいお手伝いするの!」
最後のリリで、周りの空気がほっこりとした。
「『白雪一家』の皆さん、どうかよろしくお願いします。あの、リーダーはご不在とのことでしたが、何かあったのでしょうか……?」
「お嬢様は、川の源流にあるとされる原因の解決に向かいました。また、川の水を私以上に綺麗にしながら上っていきましたので、これ以上川が汚染されることはないでしょう」
「なんと! まるで伝承に伝わる聖女様のような方だ。しかしお一人では危険ではないのかね。今からでも人を遣わせてはいかがだろう」
私達への助力ならまだしも、お嬢様の行動には誰もついていけないだろう。足手まといになるだけです。
「お構いなく。お嬢様の強さは家族である私達ですら推し量ることは出来ません。心配する必要はないかと思います」
「君が言うほどか……。あいわかった、エルフの森はその御方に任せるとして、この街で起きた事をお伝えしよう」
「お願いします」
お嬢様になるべく早く合流するためにも、この街を完璧に救わなくては、お嬢様に合わせる顔がありません。一点の漏れも見落としもなくこなしてみせましょう!
「いえいえ、優秀な後輩に奢るのは先輩の役目ですから!」
ジュースのお替わりを飲んでいたらママがやってきたの。冒険者の人がママの事をリリのお姉さんって言ってるけど、リリ達は慣れっこなの。あのお姉ちゃんでさえ、ママがお姉さんだって最初は思ったみたいなの。
少し前まではママも困ったような顔で訂正してたけど、最近だと嬉しそうなの。ママが綺麗で可愛く見られるのはリリも嬉しいの。
「リリはどこに行っても人気者ね。そのジュースは大丈夫だと思うけど、平気?」
「うん! 果物を絞った物だって聞いたの!」
「安心してくださいお姉さん、恩人に下手な物は出しません。薬を作ってくださりありがとうございます!」
「あ、顔を上げてください。作ったのは私じゃないですから」
「……え、違うんですか?」
冒険者の皆が困惑してるの。でも、これからもっと困惑しちゃうの。
「お薬を作ったのは2人のお姉ちゃんなの。この人はリリのママなの」
「ふふっ、リリのママです」
『ママ!?』
皆びっくりしてるの。でも、お姉ちゃん達の凄さを知ったら卒倒しちゃうの。まずはリリ達で耐性をつけさせるの。
「あ、でも種族はノームじゃないですよ。普通の人族ですからね」
『……』
冒険者さん達はしばらく戻ってこなさそうなの。これくらいで驚いていたら身が持たないの。心配なの。
「あ、ママ。これママの分のジュースなの。もらっておいたの」
「あら、そうなの? なんだか悪いわね」
「そんなことないの。リリ達もお手伝いしたの。でもお姉ちゃん達も頑張ったから、あとでお姉ちゃん達にも飲ませてあげるの」
「ふふ、そうね。それじゃあありがたく頂こうかしら」
ママがジュースを飲んで驚いた顔のあとに、とっても幸せそうな顔をしたの。リリも嬉しくなっちゃうの。最近ママはよく笑うようになったの。お姉ちゃんと出会えたおかげなの。
「あら、すごく美味しいわ。でも、冷やせばもっと美味しくなりそう。シラユキちゃんに習ったようにやってみるわね」
「うん!」
ママが水魔法の応用でジュースを冷やしてくれた。冷たくなっただけなのに、美味しさが増した気がするのがとっても不思議。ママも驚いてるみたい。
お姉ちゃんとしては元々、リリは雷と土魔法を。ママは水と土と、炎魔法を重視する予定だったみたいだけど、お姉ちゃん曰く氷魔法もママに修得させようと考えているんだとか。
リリにも、せっかくだからって、その内水魔法も教えてくれるみたい。とっても楽しみ! でもまずは、今の2つをリリが完璧と言えるくらいにマスターしなきゃ。そして、すっごい魔法使いになって、お姉ちゃんにいっぱい褒めてもらうの!
「ママ。リリね、情報を集めたけど、お話しする?」
「ふふ、リリったら。魔法でテンションが上がっちゃったのね? でもまだしなくて良いわ。アリシアちゃんが来てからまとめましょう」
「わかった、ジュース飲んで待ってる」
「そうしましょう。今日は忙しくなると思うし、今のうちにゆっくりしておきましょう」
「うん」
ママに頭を撫でてもらうと、落ち着くの。胸に集まった熱気が、どんどん萎んでいく感じがするの。
でも飲んでる最中はやめてほしいの。飲みにくいの。
◇◇◇◇◇◇◇◇
グラッツマン子爵に連れられて、冒険者ギルドへと向かう。
それにしても『氷の乙女』ですか、懐かしい呼び名です。中々熱をもって対応する人が現れないが為に。もしくはどんな熱意に対しても冷めた対応しかしないが為に、私につけられたメイドとしての渾名でしたか。
今ではお嬢様への熱意で、すっかりトロトロに溶け切ってしまいましたが。いえ、始まりはお嬢様の真摯な対応に、私の氷が溶かされたのでした。あの日の出会いからまだ半月ほどしか経っていないのですね……。なんと濃厚な日々なのでしょうか。
「アリシア君」
やはりこれまでの私の人生は、お嬢様にお仕えするこのかけがえのない日々の為にあったのですね。ああ、お嬢様……お慕い申しております。
「アリシア君!」
「はっ!?」
「ぼんやりとして、もしや先ほどの疲れが残っているのかね? 冒険者ギルドについたよ」
「これは失礼を、問題ありません子爵。お気遣い痛み入ります」
グラッツマン子爵に続いてギルドへと入る。そこは街の雰囲気とは異なり、明るく騒々しい場所だった。
「……ふむ、ずいぶんと賑やかだね。これほどの賑わいは、久しく聞かなかったものだが」
「ふふ、騒ぎの中心は私の家族のようです。子爵、紹介しましょう」
「いや、まずはギルドマスターに挨拶してこよう。先ほどの川の件も報告をしなくてはならん。その後、ギルドマスターも同席しても構わないかね?」
「勿論です。お手数お掛け致します」
子爵と別れ、近づく私に気付いた2人が手を振っているのを見て、自然と笑みが溢れる。
当初、この2人に対する感情は、些細なものでしかなかった。それはお嬢様の宣言で家族になってからも、大きくは変わらなかった。ただ、お嬢様が気に掛ける人達。という程度の認識だった。
しかし同じ時を過ごすにつれ、彼女達への認識を改めるようになった。
リリは才能の塊だ。魔法に対する意識と興味。そしてそのイメージ力と発想には、目を見張るものがあった。お嬢様の手ほどきがあったとはいえ、一際難しいとされる雷魔法をこれほどまでに扱えるとは想像もしていなかった。お嬢様もそうであるように、この子が今後どのように成長するのか、とても楽しみにしている私がいます。
これからも励んでいけば、いつか必ず、後世に名を残す立派な魔法使いになってくれることでしょう。
そしてリリは、姉としても、それ以外の意味でも、お嬢様の事を心から慕っている。それだけでも十分に同志と言えよう。今ではリリは、私にとっても大事な妹です。
お母様は、健気な頑張り屋だ。出会った頃は良くも悪くも普通だった。お嬢様の凄まじさに気絶するのも仕方がない事だったかもしれない。しかし、一度お嬢様を大事な娘と認識してからは、彼女は愛情と慈しみを持ってお嬢様に接している。それはお嬢様やリリに対してだけだと思っていたが、違った。
私に対しても、同じ様に大事な娘として接して下さった。お嬢様に対する考えを諫めてくれたあの時、そう強く感じた。その時、こういうのも悪くないと思ってしまったことに、自分でも驚いた。
お嬢様はお母様の愛情に対し、全力で甘える事で返している。しかし私は、今まであのように甘えたことがなかったのでどう接すればいいのか悩んだりもした。だがお母様と話をする機会が自然と増えた事で、甘える機会も増えてきたと思う。このような悩みも、お母様に撫でられるだけで霧散してしまうのだから不思議なものだ。
兎にも角にも、この人は間違いなく、白雪一家の母だ。
「アリシアちゃん、ご苦労様。少し疲れているみたいだけど大丈夫?」
「お姉ちゃん、このジュース美味しいよ!」
「大丈夫ですお母様。少し無理をしてしまいましたが、昨日お嬢様から頂いたアイテムのおかげで、少しずつ回復しています。リリもありがとう、頂くわね」
懐かしい味わいのジュースを飲みながらグラッツマン子爵の様子を窺う。子爵の顔は住人達に知れ渡っているのか、ここに来るまでも何人もの人が挨拶をしていた。お母様達と話していた冒険者達も、気さくに挨拶をしている姿が見えた。直接の面識はなかったが、信頼に足る御仁のようだ。
「これは、エルフの集落で採れた果実を搾った物ね? 久しぶりに口にしたけれど、市販の果実と違って魔力濃度が高い分、味もしっかりしているわね」
「リリ、このジュース好きになったの。お姉ちゃんにも飲んでほしいの」
確かに、この質ならばお嬢様にも是非味わってほしいところですね。でもお嬢様が向かったのは、この果実の特産地。
「お嬢様の事ですから、現地で直接頂いているかも知れません。もしかしたら、お土産に大量の果実をもらってくる可能性も考えられますね」
「わぁ! 楽しみなの!」
「ふふっ、果実だけでも美味しそうね」
味も濃厚ですし、お料理にも使えたはず。お嬢様がどれほど持ってくるか次第ですね。ただ毎日食べると舌が慣れてしまう物。
「はい、ただこの味に慣れてしまうと、市販の果実では物足りなくなってしまう可能性がありますね」
「あっ、それもそうね。シラユキちゃんが持ってきた量次第になるけど、その時に改めて相談しましょうか」
「はい、お母様」
ジュースをもう1口飲む。心地よい程度にヒンヤリとしているが、これはお母様が魔法を行使されたのだろう。濃い果実の味が引き締まっているように感じられます。
先日、主人の喉が渇いた時の対応方法について、メイドとしての確認と勉強をお母様としている時の事でした。その話を隣で聞いていたお嬢様が、この技法を講義という形で教えてくださったのです。
元々のメイドの優先度としては、
1:マジックバッグに入れた水筒の水を使う。
2:近くの飲める水源を事前に把握し、汲んでくる。
3:1と2が無く魔法の才がある場合は、水魔法で代用する。
というものでした。しかしお嬢様曰く、3が最優先であるというのです。なぜなら魔法としての精度が高く、魔力が十分に籠められた水は、とても飲みやすい上質な水となるらしいのです。
その水はそこらの井戸水や名水が流れる川よりも美味しいものになるというのです。
確かに強い魔力と共に育てられたエルフの果実は、市販の物とは一線を画す。水もそうであると、なぜ発想に至れなかったのか……。非常に悔しい思いをさせられました。
試しにその場でお嬢様の水魔法を飲ませて頂きましたが、本当に飲みやすく美味でした。私とお母様は、あの味を再現できるよう、水魔法の練度を高めなければと胸に誓いました。
これまでの旅では、お嬢様の喉が渇いた際は、私が水筒の水を差し上げていました。
しかしそれが不味いわけではなかったため、お嬢様もとやかく言うつもりはなかったそうです。ただ、知識として教えるべきタイミングが来たため披露したとのこと。
今後は、お茶をお出しする際でも、水物は魔法でお作りした方が良さそうですね……。ただ、魔力濃度で味も変わるのであれば、お出しするお茶によっては籠める魔力次第で完成度も変わってきそうです。やはり魔法は奥深いですね……。
閑話休題
そして水の美味しさの講義から、水の温度に関しても切り込みを入れられました。それは、熱い場所でも寒い場所でも、常温の水を用意するのかというものです。
王国近辺は極端に暑かったり寒かったりする地域はなく、比較的温厚な地域です。ですが、お嬢様の仰る通り、もしそういった地域で主人が喉を潤したいと思った時、常温では満足感は得られないでしょう。またしても目からウロコでした。しかし対処の方法がないとお伝えしたところ、お嬢様は見惚れるほどの笑みで答えました。
水魔法である程度の温度調整が出来る、と。
これも私の知らない知識でした。どんな凄腕の水魔法使いでも、覚えたばかりの子供でも、水魔法の温度はほとんど同じの、ぬるい物だったはずです。しかしお嬢様曰く、水魔法に炎魔法のイメージを少しずつ掛けていく事で温度が上昇し、逆に氷魔法のイメージを掛ければ冷やすことが出来るそうです。
氷魔法は私もお母様も習得はしていませんでしたから、試しに炎魔法のイメージでゆっくりと水魔法を熱していきました。
すると『ウォーターボール』から感じられる熱気が増したように思えました。触れれば確かに熱い。冷えた体にはまだ少し物足りないが、感覚は理解出来ました。
そのままお嬢様には、見本となる氷魔法を教えてもらい、『アイスボール』を習得するまでに至った。その日は結局、メイドの授業から水魔法を使う場面の想定へとシフトしてしまいましたが、とても有意義な時間でした。
お嬢様の事を思い出していると、グラッツマン子爵が少し顔色の悪い女性を連れてきた。この方がギルドマスターでしょうか、ポルトのギルドマスターほどではないにしろ、若い女性ですね。
「お待たせした。改めて、君のご家族を紹介してくれるかね?」
「初めまして。ナイングラッツのギルドマスター、シャルラでございます。『白雪一家』の皆さま、この度は薬の調達、本当にありがとうございました」
「その件については私も先ほど耳にした。街の代表として、お礼を言わせて頂く」
子爵とギルドマスターが頭を下げる。周りの冒険者たちもそれに倣って頭を下げた。お嬢様と一緒にいると、こういう光景は今後も発生していきそうですね。リリはこの光景にも慣れたものですが、お母様はあわあわしているようです。慣れた方が楽になると思いますが、こんな場面に慣れたお母様というのも想像できませんね。……ええ、お母様はこれで良いような気がします。
「頭をお上げください。元をたどれば我が主人、パーティーのリーダーが決めた方針に従ったまでです。今はこの場にはおりませんが、お二方の言葉は、必ず私どもが伝えておきます」
お母様の背中をさすりつつ、彼らの顔を上げさせる。このままでは話が進められないし、確かに私達も手伝ったがほとんどの功績はお嬢様の物だ。私たちの功績はあの方の教えの通りにやったに過ぎないのですから。
まあ、それをお嬢様に伝えれば、皆の功績だと怒られそうですけど。
「では私達も自己紹介を」
ネコミミフードを取るとギルドに騒めきが広がる。エルフはどこに行っても珍しがられるものですから、慣れたものです。私を人族と認識していたグラッツマン子爵の驚きようは特に強いようですが。
「『白雪一家』のサブリーダー、Bランク冒険者のアリシアと申します。リーダーに教わった神聖魔法、それから錬金術で薬の調合が可能です。また、水魔法で清潔かつ高品質な水も提供できます」
「『白雪一家』、Cランク冒険者のリーリエと申します。水魔法が得意です。私は病人たちの介護なら手伝えると思います」
「『白雪一家』、Cランク冒険者のリリだよ! いっぱいお手伝いするの!」
最後のリリで、周りの空気がほっこりとした。
「『白雪一家』の皆さん、どうかよろしくお願いします。あの、リーダーはご不在とのことでしたが、何かあったのでしょうか……?」
「お嬢様は、川の源流にあるとされる原因の解決に向かいました。また、川の水を私以上に綺麗にしながら上っていきましたので、これ以上川が汚染されることはないでしょう」
「なんと! まるで伝承に伝わる聖女様のような方だ。しかしお一人では危険ではないのかね。今からでも人を遣わせてはいかがだろう」
私達への助力ならまだしも、お嬢様の行動には誰もついていけないだろう。足手まといになるだけです。
「お構いなく。お嬢様の強さは家族である私達ですら推し量ることは出来ません。心配する必要はないかと思います」
「君が言うほどか……。あいわかった、エルフの森はその御方に任せるとして、この街で起きた事をお伝えしよう」
「お願いします」
お嬢様になるべく早く合流するためにも、この街を完璧に救わなくては、お嬢様に合わせる顔がありません。一点の漏れも見落としもなくこなしてみせましょう!
0
あなたにおすすめの小説
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー
びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。
理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。
今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。
ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』
計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る!
この物語はフィクションです。
※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる