異世界でもうちの娘が最強カワイイ!

皇 雪火

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第3章:紡績街ナイングラッツ編

第065話 『その日、交易品を見つけた』

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 手のひらに残った鉱石は、赤ちゃんの拳程度の大きさだった。子供達が不思議そうに眺めている気配がしたので、ふと顔を上げれば大人達も何事かとこちらを見ていた。
 あー、エルフは魔力の扱いに慣れてるから、魔力が動けばのか。とにかく確認しましょう。

********
名前:翠の宝珠
説明:エルフの魔力による影響で、亜鉛が変化した鉱石。加工することでエルフの力が宿った装備を作ることが出来る他、研磨された事で宝石としても価値が出ている。
********

 本来は翠鉛鉱なんだけど、土の魔力で岩を解いたからか、摘出と同時に研磨も出来てしまっていたみたいね。そのせいで別の物質扱いだわ。
 ただ、この鉱石は元々力の強い石だから、宝石になっても鉱石としての価値は失われていないわね。どちらにでも使えるなんて便利だわ。宝珠の輝きに満足していると、近くで様子を見ていた長老が駆け寄ってきた。

「シラユキ様、今のはいったい……。それにその宝石は?」
「土属性の魔法を使ったのよ。そしてこの石は、この集落の近くで採れるもので、鉱石として加工すれば鎧にもなるわ」

 そう言ってカープ君の頭を撫でつつ、石を摘出した魔法の使い方を周りのエルフ達に、レクチャーする。彼らは遠慮していたが秘匿するほどでもなかったので、そのまま喋り続けた。
 エルフは風と土、それから水の魔法が主な魔法だけあって、この使い方は目からウロコだった様だ。ついでにそのまま、薬草の取り出し方も伝授する。そのままついでにポーション作成に必要な薬草の品質もレクチャーする。
 エルフにとっては知識こそが財産という考えのようで、それを無償で提供するのは凄く尊敬の対象になるみたい。……だからアリシアって、あんなに好感度が湯水のように湧いて出るのかしら?
 そして彼らは、私が一度に引き出す知識の量に目を回してしまったらしい。まだまだ話し続けようとしたが、村長からオーダーストップを頂戴した。

 まだ話し足りないんだけど……。それにまだ翠鉛鉱の話が終わっていないのよね。
 まあ後でもいっか。

 その後大人のエルフ達は、主賓を放ったらかしにして、今の話の実証に大忙しだった。まあそうしたのは私だし、怒らないけどね。
 それに今近くには、話を展開する前よりも人数が増えた子供達に揉みくちゃにされているので、それどころではなかった。大人達の相手をしている暇はないわね。
 男の子達は眩しい物を見るように目を輝かせているし、そして女の子達は顔を赤らめ、目を潤ませたままこちらを見上げている。お世話役が倍以上に増え、手元には料理や果実が尽きる事無く運ばれてくる。流石にこんなに食べられないわ。
 リリちゃん達へのお土産にしようかな? マジックバッグもタッパー代わりにはなるでしょう。

 適当に果物を摘まみつつ、テンションの上がった子供たちの相手をする。うんうん、皆カワイ……あら?
 少し離れたところに、1人暗い感じの子がいるわね。よくよく見れば、石を見つけてきたMVPのカープ君じゃない。

「カープ君、どうしたの?」
「あっ、シラユキ様。何でもありません」
「何でもないって顔じゃないわ。悩み事があるなら相談に乗るわよ?」
「……その、不躾な質問になってしまいますが、シラユキ様にとって、魔法とは、どういうものですか?」
「私にとっての魔法? そうねえ……」

 哲学かしら? それとも謎掛け? エルフ的な心理テスト?
 カープ君だけじゃなく、他の子供達も私の答えが気になるみたいね?

「私にとって魔法は、正しい知識と使い手のモラルさえ備われば、誰にでも扱える便利なツールね」
「誰にでも……」
「ええ、誰にでも。もし魔法で苦手なところがあるなら教えてあげましょうか?」
「……いえ、大丈夫です」
「そう?」

 何だか気になるわね。反応を見る限り、魔法が得意ではないみたいだし、自信をつけさせるためにもここはお姉さんが一肌……。

「シラユキ様、ご歓談中失礼します」
「……何かしら」

 横から長老が割り込んできた。カープ君はこれ幸いにと、お辞儀をしてそそくさと離れていく。むむ、お姉さんパワーを発揮し損ねたわ。

「先程の知識、我ら一同感服致しました。本当にあの知識を活用させて頂いても宜しいのでしょうか」
「勿論よ。生活に役立つ知識は独占するものではなく皆で共有していくものだもの。勿論、危ない知識の扱いは注意が必要だけれど、その辺りの線引きは出来ているつもりよ。安全かつ便利な技術だから、貴方達の役に立てることを祈っているわ」
「おお、感謝致します、シラユキ様。この技術、皆がきちんと扱えるよう致しましょう」
「うーん、そうねえ。そのためには魔法の扱いに長けた人の何人かには直接レクチャーしてあげてもいいわね。勿論、この技術は村の外にいるエルフに伝えてもいいわ。そういう連絡手段、この集落にもあるんでしょう?」
「よくご存じで! そして寛大なお心遣いに感謝します。必ずや、貴女様のお名前はエルフ王の耳にも届く事でしょう」

 エルフの秘術に『月の転送術』というものがある。これはNPCのエルフが持っているという設定があり、プレイヤーが扱うことはできない類の物だった。
 効果の程は、対となる魔道具のある場所に数名の人間を転移させることが可能な魔道具だそうな。エルフ王はこの魔道具を、外で集落を作る長老達に分け与えており、これを用いてエルフ同士で情報のやりとりをしているのだとか。
 しかし便利なものには必ず制約があるように、この魔道具にも欠点が存在する。それがリチャージ機能だ。『月の転送術』は確か、往復の魔力を貯めるのに約2ヶ月近くかかるんだったかな?
 まあこの世界なら私でも扱えるかもしれないし、何なら使い放題の魔力で転送術もデメリット無視して使えそうだけど。

 話が逸れたけど、エルフの王国には精霊の森がある。そこに入る許可を得るためにも、エルフ族全体には恩を売っておかないとね!
 まあ、王国にすらまだ辿り着けていないし、エルフの国に行くなんていつになるやらわからないけど。もし行くとしたら、アリシアだけじゃなく、リリちゃんやママも連れて行ってあげたいわ。家族旅行ね!

「それから、先ほど見せて頂いた宝石の事なのですが……」
「翠鉛鉱の事ね。最初の発見者はカープ君よ。さっきどこかに行っちゃったけど」
「そうですか、あの子が。……もしその宝石が必要であれば、明日何人かで採りに行かせましょう」
「あれは宝石にもなれば鉱石にもなるわ。鍛えれば精霊銀ほどではないにしろ、鉄を超える武具になるわ。例えばイースちゃんが身に着けている鎧も、元はあの鉱石のはずよ」
「そうなのですか!? あの装備は大昔から伝わる武具の1つで、手練れの守り人を証明するものでもあるのです」

 大昔の品かぁ。昔はエルフでも鍛冶が盛んだったか、もしくはドワーフ達と仲違いする前だったのか。

「この鉱石はエルフの集落の近くに必ず出現する物でもあるの。この集落は動植物に多少なりとも損害を受けたことだし、今後立て直しに苦労すると思うわ。だから街へと卸す品目にコレを加えてみてはどうかしら? 宝石としても鉱石としても価値があるから、高値で買い取ってもらえると思うし」
「交易品にですか……確かにあの毒で森全体は尋常ではない傷を負いました。そしてこの宝石の輝きは、我らから見ても美しいと感じるほどでもあります。しかし、誠に勝手ながら、こういった物を取引する相手となると……」

 あ、そっか。鉱石や宝石は、加工のために一度鍛冶屋を通す。そして鍛冶屋のほとんどはドワーフか、ドワーフに師事した者達。というかこの地域なら、まず間違いなくシェルリックスに流れる。エルフにとっては辛い相手かぁ……。
 うーん、でもそのままギスギスしてるのも勿体ないしなぁ。あ、そうだ。

「気にしているのはシェルリックスのドワーフ達の事よね? 安心できるかわからないけど、あいつらは私が魔法を教えた弟子でもあり、あの街は私が助けたと言っても過言ではないわ。つまりあなた達と一緒ね! 過去の事を水に流せとは言わないけど、私の顔を立てて仲良くしてくれると嬉しいわ」
「……」

 まあエルフ達に教えたのはある意味勢いであって、彼らが教えてほしいと願っていたわけではないし、私の顔を立てて仇敵と仲良くしろというのもなんだか無茶な話ではあるのよね。……ううーん、もっと好感度上げないと無理かなぁ?
 ドワーフ達も昔の事を気にしてるのはエルダードワーフ達くらいだっていうし、エルフ達も長寿のハイエルフはともかく、普通のエルフ達ならそこまでいがみ合ってないんじゃないかしら……。いや、でもアリシアは割と根に持ってたみたいよね。今は違うみたいだけど。

「彼らも、シラユキ様に救われたのですか……。街全体の危機というのは想像がつきません。参考までに、あの街ではどのような災害に見舞われたのですか?」
「そうね、2週間ほど前にテラーコングの番が街の付近に現れて、街道を行く人たちが襲われたわ。そして大昔に使用していた廃鉱山には大量のマンイーターとその親玉が現れたわね。あ、どちらも私が1匹残らず撃滅したから、この森に害はないわ。そこは安心して良いわよ」

 私の言葉に、耳を傾けていたエルフ達が騒めく。身近な街でそんな魔物がいたら怖いわよね。

「テラーコングやマンイーターの恐ろしさは、噂で耳にしたことがあります。更にはその親玉となると……伝承に残る『全てを喰らう者』。巨大ワームのこととしか思えませんね」
「その伝承の怪物と同じと見て良いわ。名前はピシャーチャ。強さとしては中位竜程度ね。あの毒竜が万全な状態で5、6体まとめて四方から襲い掛かってくる程度には厄介な相手だったわ」

 今回の毒竜は不意打ちをすることで楽に勝てた。私が有利に進められるようにバトルフィールドを先手で生成出来たことが大きい。アレがなかったら毒を撒き散らされる中、ヒットアンドアウェイでちまちま魔法を撃つしかなかったもの。でも名は体を表すというか、あいつは毒攻撃か体当たりくらいしかしてこない。1体ならそこまで手強くはないが、集団で毒をまき散らされたら、ピシャーチャくらいの厄介さにはなる。……と思う。
 でも経験値としてもドロップとしても、集団になったとしてもピシャーチャには敵わないわね。あの毒竜は、今カバンの肥やしにしかなってないけれど……解体したら素材以外にも何か出るかしら?
 というかどこで解体するのが良いの? この森では汚染が心配だし、川下の街……良い加減名前が知りたいわ。あの規模の街ではギルドの解体場も手狭かもしれないわね。
 となると王都での解体になる訳だけど。また職人達に解体用の魔鉄ナイフを作ってあげないといけないかしら。シェルリックスにとんぼ返りするのもなんだし……。

 色々考えている間、エルフ達も話し合いをしていたみたいで、私が考え終えるタイミングで話がまとまったようだ。

「かの怪物はこの地に居を構える前に現れたとされるもので、我らも直接は見ておりません。ですが、シラユキ様のお話を聞く限り、とてつもなく危険な相手という事が分かりました」

 やっぱりこの集落自体、まだまだ若かったのね。そりゃそうよね、だって、具現化したんだもの。

「シラユキ様。我らエルフはドワーフとの間に、大きな遺恨があります。しかし、それでも不幸を願っていた訳でも、死んで欲しいと思うほどではありませんでした。我ら同様彼らを救って下さり、ありがとうございます」
「たまたま立ち寄った結果の成り行きだけど、その言葉、受け取っておくわ」

 長老から手を差し出されたので、そのまま握手する。お? いい方向にまとまりそうね。

「我らの総意も決まりました。この鉱石をシェルリックスとの交易に加え入れることを前向きに検討します。そのためには埋蔵量の確認が必要なわけですが……」
「良いわ。土魔法が得意な人たちを集めて頂戴。早速今からレクチャーしてあげるわ。そして明日、私は川下の街の様子を見に行って、その後家族を連れて1度ここに戻ってくるわ。そこで今回の報酬兼お土産として、果物を。あとは量が十分なら翠鉛鉱も頂こうかしら」
「かしこまりました。あの街とは長年交易をしておりますし、今回は迷惑をかけてしまいました。手紙と遣いを出しましょう。明日までに準備をしておきます」
「よろしくね」

 そうして集まった10人のエルフ達に、土魔法の応用を教え始めた。まずは簡単かつ基礎でもある、土や砂利を石に。石を岩に変えていく方法。それが出来れば逆の、岩を石に、石を砂利に変換する方法。これに関しては明日の作業を効率よく行うための下準備でしかないので、砂利の細かさや岩の圧縮度に関しては拘らない物とする。この技法を完璧に出来るようになるかは、今後の彼らの努力次第だ。
 彼らはアリシアほどではないにしろ、長年魔法を扱い続けただけあってコツを掴むまでが早かった。恐らく自身の魔力は丹田から来てると思っているのだろう。実際の中心地は『魔力視』で見た限り少しのズレがあるが。
 やはりというか、『魔力溜まり』から溢れ出た余剰分の魔力をかき集め、それが1度お腹の下辺りに集まってから、両手へと動いているようだった。これを訂正しだすと、キリがない。今までは魔法が使える子や才能のありそうな子にだけ教えてあげたりはしたけれど、この集落の住人ほぼ全てが魔法を使える。時間も人手も全く足りない。
 彼らへの指導はまた今度にしよう。

 恐らく魔法が得意なエルフの人達は丹田付近に『魔力溜まり』が存在しているタイプで、比較的魔力が集めやすい場所にあるから得意としているのだろう。逆に苦手な人達ほど、丹田から離れた場所に『魔力溜まり』が存在しているのね。たぶんカープ君もそうなんじゃないかな? あとでちゃんとあげよう。

 彼らの勉強資料に、小粒の鉄鉱石を用意した。そしてその周りを、土魔法で現出させた石で包み隠し、1つの大きな岩にしかみえない塊を1つずつ渡していく。もちろん、鉄鉱石が岩の中に包まれていく姿も実演して見せた。
 そうすることで岩の中にある異物を取り出すというイメージを、より明確に、そして強固な物へとさせる。

「まずはゆっくりで良いから、岩に土の魔力を通して砂利へと解いていきなさい。そうしてどんどん岩が小さくなればなるほど、その中に魔力を通したときに異物が混ざっているかどうかが分かるはず。その異物の輪郭がわかるようになれば、その外側にある邪魔な岩を、砂利へと変換していくのよ」
『はい!』

 元気よく返事をし、彼らは作業に集中する。今までこういった事をしてこなかったからか、先ほどから彼らからスキルが上がったという報告がチラホラと聞こえてくる。私の後ろからそれを見守っていた長老から遠慮がちに声がかかる。

「シラユキ様、このような画期的な鍛錬方法、どのようにして身につけられたのです?」
「どのようにって……こんなことが出来れば便利だなと思ってやってみただけよ。魔法は無限の可能性を秘めているわ。魔法書を読んで覚える魔法はただ、可能性をにしただけの姿に過ぎない。私達使い手の想像次第で、どんなことでも出来るはずよ」
「おお……そのような柔軟な発想、私には至れませんでした。確かに、魔法はこうあるべきという固定観念があったかもしれません……」

 少しは解ってもらえたかな? 長い時を生き、同じ場所に留まっていると、思考まで淀んで滞ってしまうわ。その点アリシアは、色んなところを旅したり、色んな人たちに関わって生きてきたから、割と発想が柔軟なのよね。
 そんなアリシアでも淘汰されずに残り続けた誤った固定観念を、はたまた彼女の芯となる常識を、容赦なく崩してあげた時に見せる表情が、たまらなく愛おしいんだけど。……ああ、まだ半日程度なのに、とても寂しいわ。早く会いたい。

「そんな長老の固定観念を、また1つ壊してあげましょうか」
「おお……どのような事でしょうか」

 常識を壊されるというのは、割と怖い事でもあるのだけど……さすがはエルフ。知識欲の方が強いみたいね。

「貴方達の魔法教育の要、『魔力溜まり』の位置についてよ」

 全員に魔法を教えるとなると何日もかかるけれど、一番偉い人に教えておけば、今後の活動もしやすくなるはず。本音で言えばアリシアが驚愕した時の顔を思い出したせいで、ちょっとイタズラ心に火がついて、長老がどんな顔を見せてくれるのかウズウズしてるだけとも言えるんだけど。

『私もアリシアに会いたーい!』
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