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第2章:鉱山の街シェルリックス編

第054話 『その日、家族会議を開いた』

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 私たちは今、テント内にあるダイニングスペースで、テーブルを囲って向かい合っている。
 皆でベッドでゴロゴロしてから、更に皆でお風呂に入って、朝ごはん……いえ、昼ごはんかも知れないわね。それを片付けた直後だ。

 正面はアリシア。左側面にリリちゃん。右側面はママだ。

「それでは、第一回、家族会議を始めます!」

『『『『パチパチパチパチ』』』』

 皆ノリが良くて好き。

「会議といっても堅苦しいものじゃないわ。他愛もないことや、共有したい事、話したいことがあったら話していこうと思うの。開くタイミングはそうね、毎晩寝る前かな。昨日みたいに疲れてる日は翌朝に回そうと思う。ここまでで意見はあるかしら?」

 まあ、だからといって普段の会話を減らすとかそういうことはない。そして外で活動している時は4人一緒が殆どだろうし、共有したいこともそんなに無いだろう。だから街中で活動した後の報告会と言ったところかな?

「ありません。むしろ賛成です」
「いっぱいお話しするの!」
「ママもこういう機会欲しかったから、シラユキちゃんから言ってくれて嬉しいわ」

 皆賛成のようだ。私としてはもっと意見が欲しかったんだけど、喜んでくれてるみたいだし、まあいっか。

「会議の都合上、家族間で共有したい事が誰もなければ開かれないわ。さて、話したい事がある人~?」

 皆、手を挙げた。まぁそうよね。

「それじゃ、ママから」
「わかったわ。今更かもしれないけど、ギルドで聞いたマンイーターの話を共有するわね」
「うん、お願い」

 ママ曰く、ギルド内での噂としては大きく分けて3つあったらしい。
 1つはテラーコングの騒ぎの前から、暗闇からマンイーターの幼生体が襲いかかってきたとか、不自然な大穴が目立つようになったとか、そういう話。幸いにも行方不明者は居なかったんだとか。

「最初は私が目覚めさせたんだと思ったけど、やっぱり以前から活動していた個体が居たのね」
「そうみたいね。それに、全部眠っていたとしたら、いくらなんでも来るのが早すぎるわ」
「あー、それもそうか」

 2つ目は、テラーコングの騒ぎによって人が寄り付かなくなった鉱山から、地響きが聞こえ始めたというもの。
 これは人が来なくなったことで魔物が増え、餌が増えたために活動数が増した……? うーん、わからないわね。

 3つ目は、この地に伝わる伝承だった。数百年に一度、地の底から化け物が現れて、人も資源も喰らい尽くすというもの。その都度、国総出で追い払うことになるみたいだけど、けれど倒すことは出来ないんだとか。
 でも化け物が去ってから暫くすると、鉱山資源が『ワッ』と採れるんだとか。

「皮肉な話ね。それは多分、人を食ったことで魔力を溜め込んだピシャーチャから、魔力が漏れ出て鉱石になっているのよ。つまりこの鉱山の鉱石は、食われた人たちの養分でできているようなものね」

 その言葉に、皆顔を暗くしてしまった。特にリリちゃん。
 ああ、余計なこと言ったかな……。

「リリちゃん、こっちへいらっしゃい」
「うん!」

 小さく震え出したリリちゃんを呼び、膝の上に座らせて後ろから抱きしめた。

「あ、そうだママ、今私達がいるこの場所、廃鉱山みたいなんだけど、その情報はある?」
「廃鉱山……。ええ、それなら大昔の、化け物が現れる前に使われていたらしい場所ね。今ではマンイーターの住処と見なされていて、誰も近づかないし領主様も放棄しているらしいわ」
「ふうん……っていうかママ、詳しすぎない? ギルドで噂を聞いたっていうより、ママから聞きに行ったくらいの情報量なんだけど……」

 もうこの時点で、いや3つ目の時点でというレベルを超えている。

「ふふっ、昔からそうなんだけど、ママがお話を聞くと皆、こぞってお話をしてくれるのよ」

 ああ……確かにママには、なんでもない話でもお喋りしたくなる雰囲気があるというか、褒めてほしいというか、共感してもらいたくなる気持ちが湧いてくる。

「……領主が手放したという事は、この鉱山。お嬢様に所有権が発生しますね」
「え、そうなるの?」
「はい。誰も所有していない土地から危険を取り除けば、その者に所有権が発生致します。ですので辺境の地は領土を広げるのに賑わっているのだとか」

 まあ、この広場は出来れば今後も大事にしていきたいと考えていたし、私の物になるのなら、公開しつつもここだけ採掘禁止にすればいいって事よね。鉱山の所有権かー、公爵家にでも言い値で利用権を売り飛ばそうかしら?

「……この場所の光景さえ守れれば、そのうち手放すかも知れないとだけ皆に伝えておくわ。私に鉱山の管理とか向いてないもの」
「かしこまりました」
「そうよね、鉱山の所有権なんて重たいわよね」
「よくわかんないけどわかったの!」

 リリちゃんはカワイイなぁ。なでりこなでりこ。

「では次、私も共有したいと思います」

 そう言ってアリシアが手をあげた。……あれ、こっちを見てるけど心なしか目が笑ってない、よね?

「ではお嬢様が伝え忘れていたパーティスキルの事から」
「はうっ」

 そうだった、完全に忘れていたわ。
 そう言ってアリシアは、昨日話題に出ていた距離によるゲージの表示有無と、経験値の反映距離に関して話をした。

「ああ、それで昨日シラユキちゃんが倒した敵の経験値が来なかったのね。ママもズルはしたくないから、これで安心だわ」
「そうなんだー」

 あ、そうだ。これには補足しなくちゃ。

「その……昨日気づいた事があるんだけど、テントの内外でもバーが出なくなるから、すぐ外で戦闘があっても経験値は入らないみたいなの」
「そうなのですね」
「あ、あれ? 怒ってない?」
「お嬢様が知らなかった事や、昔の失敗に対して怒ったりなんてしませんよ」

 ううっ、じゃあなんで目が笑ってないのよぉ……。

「それはお嬢様が昨日、舌の根も乾かぬうちに我々が知らないパーティの使い方をしたからですよ」
「ふぇ!? 口に出してた?」
「顔に書いてました」
「そ、そっかぁ……」

 アリシアはもう、私の顔色が読めちゃうのね。嬉しいけど、恥ずかしいわね。
 それにしても、昨日何かしたっけ……? ママは心当たりがあるみたい。リリちゃんは、分かってないっぽい。
 ああ、リリちゃんのぽんやり顔はカワイイなぁ……。

「ねえアリシアちゃん。ママもその使い方を見た時は驚いたけど、緊急事態だったし覚えてなくても仕方がないわ。それにそんなに使い所も無さそうだったし、目くじら立てなくても良いんじゃないかしら?」
「むっ……。言われてみれば、そうかも、知れませんね」

 段々力無く俯いていくアリシアの手を、ママが両手で包み込んだ。

「アリシアちゃん、貴女がシラユキちゃんの事を大好きな事も、尊敬していることもママ分かってるわ。けれどね、シラユキちゃんも人間なの。完璧を押し付けちゃうのはダメよ?」
「……!」

 見る見るうちにアリシアがションボリしていく。カワイイ。確かにアリシアは、私の事を一部神格化している節がある。そうでなければ教会で神官さん達とハモったりはしないだろう。
 でもだからって、この子が落ち込む必要はないわ。アリシアの熱意が、私は嫌だったわけではないもの。

「アリシア。貴女が落ち込む必要はないわ。元を正せば、私が大事な事を伝え忘れていたのが原因だもの。……でもそうね、この説明をしなかった私が悪いわね。だから、改めて皆には伝えておくわ。私は貴女達が知らない事をたくさん知っているわ。それも話し始めたら、きっと1週間まるまる消費しちゃうくらいにはね。もちろん休憩時間は無しでよ」

 その言葉に、アリシアだけじゃなくママも驚きを隠せないようだ。リリちゃんは相変わらず『ぽやっ』としている。カワイイ。
 正直ゲーム時代のWiki情報を語りだしたら止まらないと思う。絶対数日じゃ終わらないわ。MMOの情報量を舐めてはいけない。しかも書いていることが全てではないしね。

「全部話せと言われたら全部話すわ。でもそんなの、私にとっても皆にとっても拷問じゃない? 人間は100を教えて即座に100を理解出来るようには出来ていないわ。その場その場で、必要に応じて教えていく方が覚え易いもの。だから教えていないことがあっても許してほしいわ。ごめんね」
「……お嬢様と私達の知識には、そこまでの差があったのですね……。畏まりました、仰る通り知らない事や興味もない事をただ説明されても、理解は出来ないしただ苦痛だったという経験があります」

 メイドで仕えた相手にそういうのがいたのだろうか。それとも昔の集落でのお話?
 とにかく、興味のないうんちくは苦痛よね。わかってくれてよかった。

「ただ、私個人としてはお嬢様のお話を聞くのは好きですので、1週間くらい問題ありませんが……お嬢様が辛いのなら、無理には聞きません。……これからは気付いたことがあれば、随時聞きに行くようにしますね?」
「だ、大事な事でも許してくれる?」
「……そうですね、そこまでの量となれば致し方ありません」

 よし、アリシアからお許しが出た!

「よくわかんないけど、お姉ちゃんは物知りってこと?」
「そうよー」
「そっかー!」

 リリちゃんはカワイイなあ。ホントにこの子は12歳なのか心配になるわ。カワイイからいいけど。……でも、たまに頭いいそぶりを見せるわよね?
 そもそもあの魔法を、魔法の修得なしで使うには頭がよくないと使えない。INT的意味ではなく、理解力が必要になる。
 この『ぽんやり』は演技? ……という風には見えない。どちらも素かもしれないわ。私だって仮面の付け外しをするし、ママみたいに意識の切り替えスイッチがあるのかもしれないわね。

「あ、それじゃあ今回の事でママも質問いいかしら?」
「なあに、ママ」
「もし、あの化け物の経験値、4人で分割してたらどうなってたの?」
「確実に全員レベル50になっていたわね」
「ひえぇ……」

 ノータイムで答えるとママが震えだした。カワイイなぁ。でも、実際にそれくらいの膨大な経験値はあった。邪竜のソロ討伐ボーナスよりも多かったんだもの。
 ノーマル職やハイランク職業なんて、余裕でお釣りがくるわ。

「……ということはお嬢様、遂にレベルが上がられたんですか?」
「ええ。雑魚戦を含めて、8から13になったわ」
「おめでとうございます!」
「おめでとうお姉ちゃん!」
「おめでとうシラユキちゃん! ……そうだったわね、あの強さでもまだ8だったのよね」

 ママが思い出したかのように遠い目をしている。

「強さと言えばシラユキちゃん、ママ、シラユキちゃんが戦っているところを見たことがないわ」
「そういえば、私もありませんね……」
「リリはあるの! どっかんバリバリなの!」

 そういえば、教えるだけ教えて、私は後ろで見守るスタンスばかりだったから見せたことなかったわね。リリちゃんはカワイイのでとりあえず撫でておく。

「そうね、私も武器スキルを上げたいと思っていたし、次からは前で戦うわね」
「えっ、いいの?」
「学園に着いたら私も付きっきりというわけにはいかないから、ある程度戦えるように見守ってたのもあるからね。これからはほどほどに戦うわ」
「お嬢様が前衛を……拝見させていただきます」
「魔法も見たかったんだけど、シラユキちゃんの前衛かぁ。それも見てみたいわね」

 シラユキと刀の組み合わせは、記憶に残る美しさよ! 戦う前に、アリシアにポニテをお願いしましょ。

「魔法と言えば、リリちゃん。昨日1人で戦った時の事だけど、どうやって発動させたか覚えてる?」
「うん。えっとね、リリを中心にすごく大きなサンダーボールをイメージして、リリは魔法防御でずっと我慢するの」
「なるほど……かなり無茶をしたのね。でも、そうしないといけなかった状態だったのも理解しているわ。改めて、よく頑張ったわね」

 いつものようなカワイがりのためのものではなく、ただ慈しみをもって優しく頭を撫でた。

「……うん」

 あの時の恐怖を思い出したのか、泣きそうになったので、強く抱き寄せた。
 よしよし。

「それでリリちゃん、スキルがいくつまで上がったかは、覚えてない?」
「えっと……リリ、夢中だったから」
「そっか。じゃあわかりやすい調べ方をしましょうか」

 リリちゃんの前でサラサラと羊皮紙に文字を書き込む。

「はい、読んで」

 しばらくして紙が燃えた。続いてサラサラと羊皮紙に文字を書く。また燃える。そして書く……燃えない。

「うん、リリちゃんは今、雷魔法スキル20から24ね」
「リリ、2つも魔法覚えたの!!」
「「おめでとう」」
「えへへ……」

 アリシアとママから惜しみない称賛を得て、リリちゃんの顔がゆるゆるになる。カワイイ。むにむにしよう。つんつん。

「リリは何を覚えたの?」
「えっと、『サンダーランス』と、『サンダーロード』なの」
「わぁ、魔法学園の高学年クラスね……! リリすごいわ!」
「ありがとママ。でもお姉ちゃんはもっとすごいから、もっと頑張るの!」
「そう……。ならママも置いていかれないように、頑張るわね」
「うん!」

 リリちゃんもママもカワイイなぁ……。貴女達が頑張るなら、私も精いっぱい支援するわよ。

「さてリリちゃん」
「はいなの」
「貴女は今、昨日の戦いで『魔法使い』のレベルが32になったわ。今なら『魔術士』に転職できるけど、どうする?」
「!」

 リリちゃんは、深く考え込んでから、真っ直ぐこちらを見て言った。

「……『魔術士』になりたいの」
「どうして?」
「リリ、学園に入ったら、きっとクラスの人達とダンジョンに行くと思うの。今、ママやアリシアお姉ちゃんと近いレベルで戦った経験が、いつか役に立つと思うの。だから、『魔術士』がいい」

 ……やっぱり頭が良いわね。完全に先を見据えている。でも、どうやらこのスーパーリリちゃんは、魔法に関する時だけみたいね。
 普段はやっぱりママの遺伝子か『ぽやぽや』してるし、ママが戦闘になると『キリッ』とするようにリリちゃんは魔法になると『キリッ』とするのね。
 やっぱり親子なんだなぁ……。そんなリリちゃんもカワイくて好きよ。

「お姉ちゃん?」
「合格よ。それじゃ早速……と言いたいところだけど、また今度にしましょうか。今日はゆっくりするって決めたものね」
「はいなの!」

 緊急性の高い話はそのくらいで、あとはリリちゃんやママを中心に、ポルトとは違うシェルリックスの雰囲気に雑談が繰り広げられた。リリちゃんが知りたかったことは、自分が使った魔法に関してらしいけど、それはまた今度教える事を告げると納得したみたい。
 その後で、『探査』で周囲に魔獣達が居ない事を確認してから、外の景色をゆっくり堪能することにした。

「お姉ちゃん、これって全部ミスリルなの?」
「結晶になってるのはそうね。でもあそこに青いのが見えるでしょ? アレがメルクの探していたアダマンタイト鉱石よ」
「これが最硬の金属ですか……。確かに硬そうですね」

 アリシアがコンコンと叩いている。

「でもそんなに硬いんじゃ、掘り出すのも大変じゃない?」
「お母様、周りを掘れば良いのではないでしょうか」
「そっか、ママうっかりしてたわ」

 ママの『ぽんやり』に場が和む。

「せっかくだし、皆で周りの岩を解してみる?」
「いいの? やってみたいの!」
「でも、大丈夫なの?」

 ママが『探査』で警戒を始める。でもここより地下に空間は存在しないし、他に巣がないことも確認済みだ。

「安全面も素材面も大丈夫よ。マンイーターは全滅させたし、周囲の魔獣はここら一帯が怖くて近寄れないみたい。そしてアダマンタイト鉱石は多少の魔力干渉は跳ね返すわ。だから素材を傷つけることはないの」
「そうなのね。さすがシラユキちゃん、抜かりないわね」
「同じ失敗は繰り返さないわ」
「流石ですお嬢様」
「お姉ちゃん、早くはじめよっ!」

 ソワソワしたリリちゃんを微笑ましく思いながら、やり方をゆっくりと説明した。

『たまにはこんな日も良いわね』
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