異世界でもうちの娘が最強カワイイ!

皇 雪火

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第2章:鉱山の街シェルリックス編

第043話 『その日、鍛冶スキルを鍛えた』

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 『スカッ』

 気が付けば、掴もうとした銅鉱石や錫鉱石はそこにはなく、代わりにそれぞれのインゴットが積み上がっていた。いつの間にか集中してしまっていたらしい。
 途中、アリシアからの視線が来ていることに気付いて、よくわからないけど微笑んだらすごい笑顔で返された。カワイかったけど、なんだったんだろう。

 鍛冶スキルは限界値の12まで上昇していた。
 本来のレシピで言えば『銅のインゴット』と『錫のインゴット』が出来るのだが、今回は混ぜ物をしたことで『魔銅のインゴット』と『魔錫のインゴット』が出来上がっていた。
 混ぜ物というのは簡単に言うと私の魔力そのもので、インゴットのかさ増しに混ぜ混ぜするとなぜか物質化して鉱物と結合する。よくわかんないけどそういうものだ。
 ゲーム内だと『そういうもの』として扱っていたけれど、現実になると不思議でしょうがないわね。いつかコレも解明してみようかしら。

 それぞれ『魔』がつく精錬素材は、『魔鉱石』と呼ばれ、本来の精錬物よりも要求スキルが高いため、スキル上げにも役立つ。
 更に、装備やアイテムへと加工を行う際には色々と融通が利くようになり、出来上がった製品も質が高まる傾向にある。また、装備品の場合はステータス上昇などの付加効果が発生する。
 本来『銅のインゴット』はスキル4までだが、『魔銅のインゴット』はスキル6。『錫のインゴット』はスキル9までだが『魔錫のインゴット』はスキル12までだ。
 最後にこれを2つ合わせて『魔合金インゴット(銅)』にすれば15まで上がるのだが……。時間は大丈夫かな?

 一息ついたところで、汗が拭われた。隣を見るとアリシアが微笑んでいる。

「お疲れ様です、お嬢様」
「お疲れ様アリシア。集中したら汗が出てくるものね……そっちの魔法はどうだったかしら」
「はい、お嬢様のおかげで無事使えるようになりました」
「すごいじゃない! それに私は何もしていないわ、私の教えをアリシアなりに噛み砕いて、人に教えられたアリシアが凄いのよ。もっと自信を持ちなさい」
「お嬢様……! もったいないお言葉、光栄です」

 本当に私は何もしていないのに、自分の頑張りを私のおかげと思うのは感心しないわ。もっと自分に自信を持ってもらわなきゃ。……その内『紡ぎ手』の職業も取得させてしまいましょうか。
 照れるアリシアをよく見ると、魔力がだいぶ減っている。現在はHPとMPゲージが表示されているので減り具合が一目瞭然だ。大体4割ほど減っているだろうか?
 慣れない事だったので苦労もあったのだろう……。どういった教育をしていたかは、どうせ見ていただろうし内なる欲望シラユキに今晩聞いておこうかな。

「MPが減って疲れたでしょう、回復してあげるわ。『MPキッス』」
「んっ……」

 アリシアにキスをしながら魔力を送る。ゲージがあるからどの程度の速さで回復しているかがよく見えるわね。
 ……まだまだかかりそうだし、送る量を増やしてみましょうか。

「んぅ!」

 あら、苦しそう!? 顔も赤みが増していってるし、中断中断!

「ん、ごめんね、苦しかった?」
「あ、いえ、急に、その……快感が、強まったので……」
「え?」

 ……快感が、? え、待って待って、『MPキッス』って、もしかして相手を気持ち良くさせちゃうとか、あるの……?
 じゃ、じゃあリリちゃんにこの前したとき、すごくベッタリくっついてきたのって……。

 リリちゃんに、あの時の感想聞いてみようかな? ……ママの前で? 羞恥プレイか!
 あ、ママにもすればいいのか。それなら解決ね!

 ……とりあえず、知り合い以外には使わないようにしよう。間違っても男にはしない。いや、カワイイ子の場合は……むむむ。

「お嬢様……もう、してくださらないのですか?」

 いつも以上に色気を振りまきながら上目遣いにおねだりしてきた……! アリシア成分を毎日補給していなかったらヤられていたわ。むしろヤってたわ。

「……帰ったらね」
「はい……!」

 流石に人の店でキスはしても、これ以上トロけさせる訳にもいかない。幸いハワードは部屋には居なかった。
 ……あれ、アイツどこ行ったんだろう? キョロキョロしてるとアリシアが教えてくれる。

「あのドワーフでしたら、仲間に魔法を見せてくると言って外に駆けていきましたが」
「子供か! というか客ほっぽってどこ行ってんのよ、まったく……。『時刻表示機能』」

『999年2月20日14時28分14秒』

「まだ夕方までは時間あるわね。……でもちょっとお腹すいたかな」
「はい。こんな時の為にサンドイッチを作り置きしておきました」
「アリシアはホント優秀ね」

 アリシアを褒めたたえつつ、2人で仲良くサンドイッチを食べた。
 食べ終えても結局ハワードは帰ってこなかったため、改めて加工を再開した。

 『魔銅のインゴット』と『魔錫のインゴット』を『灼熱の紅玉』に1つずつ放り込み、混ぜ合わせて冷まし、『魔合金のインゴット(銅)』を2つ作り上げるのだ。
 さて、それぞれの『魔鉱石』のままでは出来ることがそんなにない。このまま全部『魔合金のインゴット(銅)』に精錬しちゃいましょうか。

◇◇◇◇◇◇◇◇


 『スカッ』

 手が虚空を掴む。気が付けば、またしても素材が無くなっていた。一体いつの間に……まるで魔法にかかったみたいね。消費する魔法を使ったのは私だけれど。
 『魔合金のインゴット(銅)』の作成でスキルは限界値の15まで上昇していた。これで明日は鉄鉱石を使って、『魔鉄』や『魔鋼鉄』の作成に取り掛かれるわね。『魔鋼鉄のつるはし』さえあれば、大体の物は掘れるだろう。
 もしアダマンタイトの現物があったら……『魔鋼鉄』では歯が立たない可能性があるけど、周りごと掘り起こせば問題ないわね。

 アリシアがノータイムで汗を拭ってくれる。もう今日は終わりだし、アリシア成分を補給するために抱きしめた。

「終わったー。宿に帰ろー」
「お疲れ様です、お嬢様」
「待て待て、店主を無視して帰るな」
「ん? ああ、客をほっぽった店主じゃん」
「うっ!」

 いつの間にか部屋の住人が1人増えていた。いや、元に戻ったというべきか。
 帰ってきたことにまるで気が付かなかった。……まぁ、アリシアが隣でスタンバっていた事にも気が付かなかったが。

「いやまあ、そのなんだ、年甲斐もなくはしゃいじまってな、すまん。……それにドワーフは魔法が使えないっていうのも思い込みだったようだ。すまなかった」

 『ペコリ』と律儀に頭を下げてきた。別に謝ってほしかったわけではないんだけれど……まあいいか。

「ところで、なぜワシに魔法を教えてくれたんだ? この工房には先ほど言うたように、大して鉱石も残っておらん、見返りに何も返せんぞ」
「ああ、それはね、私は来月魔法学園に入学するんだけれど、この教育方法を広めようと思ってるの。けれど人は、新しい教育っていうのは中々受け入れられないし、警戒するものでしょ? だからこそ貴方に教えた事実が重要なの。ドワーフでも魔法が使えるようになるんだぞっていう実績のためにね」
「「なるほど」」

 アリシアとハワードがハモる。ハモったことにアリシアは気まずそうだけど、ハワードは気にしていないみたいね。

「ならば折り入って頼みがあるんだが……、見せびらかした職人仲間が羨ましがってな。そいつらにも教えてやってくれないか。勿論、全員が使えた暁にはメルクにはワシから伝えておくし、鉱石類などの取引も融通を利かせよう。どうだ?」

 メルクから紹介を受けるという事は、ハワードはここら一帯の顔役でもあるのだろうか。そんな彼が直接仲間たちと共に報告を上げてくれるなら、実績としては申し分ないし、学園への紹介状へと繋がるだろう。
 実際に教えるのは私じゃなくてアリシアだけど……私の弟子が教えるんだから、実質私の実績にもなるはず。……はず。私は鍛冶で忙しいもの!

「願ったりね。アリシア、頼めるかしら」
「畏まりました」
「おお、助かる!」
「それじゃ、明日の朝、ここに集合ね。それから、次は鉄を使いたいんだけど」

 本命の鉄だ。コレがないとまともなつるはしは作れない。『魔合金のインゴット(銅)』でも作れると言えば作れるが、耐久性に難がある。

「おお、鉄だな。任せておけ。いくら必要なんだ?」
「ざっと100キロ」
「ひゃくぅ!? 融通を利かせるとは言ったが、さすがにそんな量の鉄はワシ……いや、今のこの街には残っていないぞ」

 まあこの数字は、限界スキルまで上昇させるために必要な最低限の量だ。運が悪ければ増える可能性もある。スキルを上げるためのレシピが理解出来ていても、実際に上がるかは運なのだもの。
 魔法スキルは理解していれば勝手に吸収してくれるのか、思い出すように使えばメキメキと上昇するけれど、生産スキルだけはどうにも違うみたいなのよね。記憶にある知識だけじゃスキル値として認めてくれないみたい。
 中々難儀だわ。

「そう……残念ね。じゃあ10キロで良いわ。あとは私達で堀りに行くから」

 それさえあれば最低限つるはしは予備も含めて作れる。

「う、うむ。そうしてくれ……。ところで外に行って聞いてきたのだが、テラーコングが討伐されたらしいな。嬢ちゃんがさきほど値上がりはしないと言った理由が分かったぞ」
「……テラーコングが居ない事は聞いても、誰が倒したかまでは聞いていないのですか?」

 アリシアが呆れたような顔をしている。流石に、そんなすぐに私の噂が広まってるわけ……。

「うむ? そうじゃな、光り輝く女神だとか、華奢な体で何人も吹き飛ばしたとか、エルフを連れてただとか……む?」

 広まってた!? 早すぎでしょ。SNSとかチャットとか便利な伝達手段はない。ただの口コミだけのはずなのに……。
 ハワードはこちらを見て、アリシアの耳を見て、もう一度こちらを見た。

「もしや……」
「もしかしなくてもそうよ」
「なんと!? ……メルクから名を使う許可を得るなんて、並大抵の事じゃ起きないんだが、そういう事なら納得だな。ワシも耄碌したか」
「くたばるなら、お嬢様の宣伝をしてからにしなさい」

 アリシアが辛辣だ。ドワーフに対して見下すような事はしないみたいだけれど、トゲはあるみたいね。

「わかってるわかってる! ああ、嬢ちゃん、そういえば先ほどまで何を作っていたんだ?」
「魔合金よ」
「魔合金だと!? 組み合わせは!?」
「さっきここで買ったじゃない」
「となると、銅と錫か……もしよければ、使わない分は売ってくれんか? 魔合金は作り手が少ないこともあって中々出回らんのでな。それにお前さんのなら質は高そうだ」

 作成した 『魔合金のインゴット(銅)』は、全部で38個ある。正直スキル上げで作りはしたが、今後使うとしてもこれ全部を使い切る予定は今のところない。……まあ、腐らせるくらいならありがたく売ろう。
 一応チェックしておこうかな。

**********
名前:魔合金のインゴット(銅)
説明:最高品質で作り上げられた、銅と錫からなる魔法合金。魔力伝導率が高く、様々な素材と組み合わせることで装備にステータス上昇効果をもたらす。
**********

 ふむ……配合とか比率とか、寸分違わず作れたし、当然のように最高品質ね。それでも合金の中では最下位だ。これで装備を作る気にはなれない。

「そうね……最高品質を25個売るわ。鉄鉱石10キロ分を引いた金額で構わないわ」
「おおお! それならそうじゃな……、金貨15枚出そう」
「あら、結構な値段ね。貴方の前で、元々金貨6枚だった物を加工しただけなのに」
「こんな良素材に雑な値段なんて付けられるか。ワシは作り手には相応の評価をするだけだ」
「それは良い心がけですね」

 アリシアはたぶん、私が評価されたことが嬉しいのだろう。すごいふんぞり返っている。カワイイので微笑ましく見ていたら、視線に気付いたアリシアが顔を赤らめて『しゅん』となった。カワイイ。

「ほれ、代金だ。鉄鉱石は明日までに用意しておく」
「頼むわね。それじゃアリシア、帰りましょ」
「はい! ……ハワード、明日までにスキルを3にしておくように。仲間たちの見本となりなさい」
「ああ、わかってるよ。師匠殿」

 本格的に弟子になったみたいね。彼の分の『ファイアーボール』のを準備をしておかなきゃ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 『デュナミス』に帰還し、それぞれの報告を済ませた。ママ曰く、ギルドカードの更新は本来パーティメンバーでもダメらしいのだが、その場に居合わせたメルクが特別許可を出したらしく、交換してもらえたとのこと。
 そして案の定、薬の代金をママに預かってもらう事は渋られたが、パーティ財産だと伝え渋々納得してもらった。パーティ財産だけど必要だと思ったら好きに使ってね。と伝えたら諦めた顔をしていた。諦めが肝心よママ。
 あとは色んな人から話が聞けたみたいだけど、私なら知ってそうな事ばかりだったそうだ。私が知ってることって何だろう? そもそも、私は何であれば知らなさそうと思われているんだろう。いつか聞いてみようかなぁ。

 夕食も終わり、お部屋でゴロゴロとしているとアリシアが待ち切れないと言わんばかりに引っ付いてきた。しかし……。

「あの、お嬢様……そろそろ宜しいでしょうか?」
「でもアリシア、もうほとんどMP全快に近いじゃない?」
「そんな! ……で、では減らせばいいのですね!?」
「うーん……」

 珍しく熱量の高いアリシアに、不思議に思った母娘が寄ってきた。

「アリシアちゃん、どうしたの?」
「なにかするのー?」
「あー……」

 今はリリちゃん達も話し合うことがないみたいで、皆する事なくて暇してるし、アリシアの魔力も、ただ無駄打ちするだけっていうのも勿体ないわねー……。そうだ、折角だし有効活用しちゃいましょう。

「よし、じゃあ今から3人には魔力を使った防御の仕方を教えるわ。それが上手く出来たら、ご褒美をあげるわ」
「やります!!」
「「ご褒美?」」

 母娘が『コテン』と首を傾げた。リリちゃんはご褒美という単語に、ママはアリシアが欲しがる物がわからず気になっている様子。

「リリちゃん。初めて会った日、街に帰ってきてからキスしたわよね。あの時のこと覚えてる?」
「う、うん、覚えてるの!」
「今回のご褒美はそ」
「リリ頑張るの!!」
「れよ……」

 かなり食い気味に答えてきた。そっかー、リリちゃんも気持ちよかったかー。

「ママも、敵が魔法を使い始める頃には必要になるし、物理攻撃を防ぐのにもある程度役立つわ。頑張って覚えてね」
「え、ええ。頑張るわね?」

 そこらの森とかにはいないけれど、王都のダンジョンとかには攻撃手段として魔法を使用してくる魔物が普通に出てきたりする。この防御方法は、知っているだけで即興で使えるようなものではないし、普段からの練習が必要だ。丁度良い機会ね。
 ママは他2人の反応に困惑しているようだ。ママの困り顔はいつ見てもカワイイ。そのカワイさに、ついつい困らせたくなるのよね。正直、そんな風に考えなくても、ママはいつも困ってる気がするんだけど……。

『MPキッスされるって、どんな感じなのかしら』
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