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第1章:港町ポルト編
第036話 『その日、ポルトから旅立った』
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落ちたマジックバッグを拾い上げ、フリーズしてしまったアリシアに持たせてあげる。
アリシアの反応の大きさに、ママはマジックバッグから目が離せず、リリちゃんはアリシアを心配しているみたい。
「もう落としちゃダメよ?」
「お嬢様、この中身は……」
「うん、全部例のダンジョンのものよ」
再起動したアリシアがこちらを見た。でも、まだ心ここにあらずね? そんなに衝撃的だったのかしら。
アリシアがここまで驚くのなら、一般人に見せたら心臓止まりかねないわ。ママには……うん、内緒が良さそうね。
「あの、とんでもない名前が見えたのですが……アレは、本当に……?」
「ええ、5番目にいたわ。あれのおかげでレベルが5から8に上がったし、今思えば良いカモだったわね」
アリシアが突然、涙を流し始めた。見ていられないので、すぐに抱きしめ、頭も撫でてあげる。
「もう、なあに? どうしたの?」
「……昔、住んでいた集落の近くで見たことがあります。奴の通った後には何も残りませんでした。私たちに奴に太刀打ちする手段はなく、集落の者達全員が逃げ出す事で精一杯でした。森を蝕む奴は恐怖の象徴であり、エルフにとっては絶望そのものなのです。同じ個体かはわかりませんが、こいつ1体が居なくなるだけでも、他の同胞が同じ目に合わなくなるかと思うと……。感謝します、お嬢様」
「そっか……ごめんね、知らなかったとはいえイタズラが過ぎたわ」
アリシアは構わないと首を振る。そんな過去があるなんて知らなかったわ。……いつか貴女の故郷を、再び緑にしてあげるわ。今の私には広範囲の浄化は出来るけれど、緑化をするための手段がない。錬金術が必須ね。
神聖魔法スキル、アリシアにも教えてあげようかしら。そうすれば自分で邪竜を倒せるだろうし……。うん、早めに教えてあげよう。
「アリシアお姉ちゃん、大丈夫? どこか痛いの?」
「……大丈夫よリリ。痛みの原因をお嬢様が倒してくださったので、心配ありません」
「辛かったらいつでも甘えていいからね、アリシアちゃん」
「はい、ありがとうございます。お母様」
もう大丈夫そうね。さて、街の大通りでこんなことになるものだから、不要な視線を浴びているわ。とっとと切り替えましょ。
「というわけで、中身は気にせずに、そこに鮮度が命の食料は入れちゃってね。逆さまにして中身を放出しない限り混ざったりしないから大丈夫よ」
「かしこまりました」
「でも貴女の気持ちも考えて、早めに代わりを見つけるわね」
「いえ、大丈夫です。これはもう、ただの『素材』のようですから」
そう言ってアリシアは、購入した食料をドンドン詰め込んでいった。本当に気にしていないみたい。切り替えの早い子だわ。
「そういえば、ママ。装備は買った?」
「ええ。リリには棍棒を、ママは軽くて扱いやすいロングボウを。それと力が戻った時の為に、愛用の弓も持ってきているわ。あと、防具は鉄製の鎖帷子を2人分購入したわ。それでもお金が余ったけれど……使いきれなくてママ困ったわ」
「いいのよ。必要になったらまた買えばいいから、お金はそのままママが持ってて」
「そう言うと思ったわ。ママが預かっておくわね」
2人が言った装備は今手元にはない。恐らくマジックバッグに入れているのだろう。……ママの身長でロングボウって持てるのかしら? むしろ本来のショートボウが、ママにとってのロングボウかもしれないわね。
「ママはマジックバッグは高くて使ったことがなかったけれど、本当に沢山入るのね。何でも入っちゃうから、お買い物の時いっぱい買ってしまいそうになるわ」
「ふふ、わかるわママ。でも劣化しそうなものがあったらアリシアに渡しておいてね」
「ええ、心得たわ」
楽しくなってテンションが上がったママは、はしゃぐリリちゃんと同じに見えるわ。やっぱり親子ね。
「お嬢様、粗方必要になる食材は購入しました。4人で10日分もあれば問題ないでしょう」
「ご苦労様」
「あと必要な物は、テントと結界石ですね」
うん? テントって……。
「ああ、その2つなら持ってるわ。ちょっと狭いかもしれないけれど、4人でも十分に入れると思うわ」
「お嬢様のマジックテントですか。……宜しいのですか? 個人所有のマジックテントは、プライベートスペースと言われる物ですが」
あら、よく知ってるのね。アリシアはマジックテントの類を持っていないと思ったけど、どこかの貴族が使っていたのかしら。
「いいのよ。だって3人とも、私の家族なんだもの!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
私の言葉に感極まった3人がハグしてきたのでキスで返した。最後に採取に使いそうな小物などを追加で購入し、旅の準備が完了した。と言ったところで、日が暮れてきたのでそれぞれの帰路につく。
リリちゃんとママを『ロイヤル』に誘ったが、これが家での最後の生活だからと断られた。それもそうか。
私も、『ロイヤル』での生活はこれで最後になるので思いっきり堪能した。最後にアリシアを抱き枕にして、アリシアも堪能しよう。と思ったが、アリシアが眠る前に調合をしておきたいと言ってきたので、私は彼女が買ってくれた下着を見ることに。
そしてその時になってようやく、それがドエロな押せ押せ下着であることに気付いたのであった。着てみると意外とカワイイ事に驚いた。こういうイケイケな下着は考えたことがなかったけど、案外良いものね。
ならば、その気付きをくれたアリシアにはたっぷりとお礼をしなければ。……調合に夢中になって、うんうん唸っているところを振り向かせる。彼女の集中力が、その瞬間からゼロになってしまったのは言うまでもない。
シラユキとのお話では、下着の話をほどほどにして、主に今後の活動方針を決めた。といっても、元々の予定に変更はないし、彼女もその内容には満足してくれていたからだ。
簡単に言えば、目につく範囲で困っている人が居たら助け、強敵が居るようなら討伐し、3人の成長を見守ろうというものだ。
そして可能であれば生産スキルを上昇させることも忘れずに。でも次の街、鉱山でしょ? なら問題ないわね!
◇◇◇◇◇◇◇◇
そして翌日、ギルド前。
領主を除いた錚々たる顔ぶれが、見送りのために集まっていた。
ギルドマスターのメアリースを始め、副ギルドマスターのシェリー、受付嬢のクルルちゃんにガボル夫妻、そして『ポルトの新風』だ。
更には教会の神官達に、助けた女性達、そして何故かいる一般市民達。
うん、やっぱり神官達が宣伝したわね。
メアが1歩前に出て、何かを渡してくる。
「シラユキさん、これを」
「なにこれ?」
「我が家の家紋です。これは私の家の客人であることを示すものですから、他のギルドで困ったことがあれば使ってください」
「わかったわ。ありがたく受け取っておく」
メアと入れ替わりにシェリーが出てきて、シェリーから抱きしめてきた。名残惜しそうに離れるも、すぐに副ギルドマスターの顔になり、『キリッ』とした。
「シラユキ、君は目的のためにひたすら走り続ける人間だ。魔法に関する知識を広めていくのも、勿論君の優しさもあるのだろうが、何か目的があってのことだろう。君の目的が何なのかは測りかねるが、大それたものに違いあるまい。達成できることを祈っているぞ。……あとは、いつでも遊びに来い。君なら大歓迎だ」
「ありがとうシェリー、必ず会いに来るわ」
今度は私からハグの上で、軽いキスをする。
「やっぱり無理ね」
もう一度、今度は長めのキスをする。
「またね」
「ああ、また」
隣にいたクルルちゃんの頭も撫でておく。
「シラユキさん、お元気で!」
「うん、クルルちゃんもね」
次は……舎弟ね。マジックバッグから3枚の紙を取り出し手招きする。
「ほら、テストよ。読んでみなさい」
「はい、頂戴しますっ!」
1枚、また1枚と燃え尽き、3枚すべてが灰になった。私の魔法書は私の魔力で作られたものだ。だから取り込まれたかどうかはわかるし、他人の魔法で燃え尽きるなんて事はありえない。
つまり彼は、きちんと3種の魔法スキルを3に上げてきたようだ。
「合格よ。せいぜい、誰にも負けないくらい努力しなさい。あと、奥さんは大事にしなさいね」
「はいっ! 必ず! 姐さんもお元気で!」
「「「「お元気で!」」」」
舎弟に合わせ新風が声をそろえてくる。貴方達本当に仲良くなったのね。
ガボルの奥さんも嬉しそうに頷いている。
「シラユキ様」
代表して神官長がやってくる。
「貴方達、これから大変よ? 治療速度と効果が上がったと知ったら、皆無茶をしだすわ。しっかりと励みなさい」
「はい、シラユキ様のご慈悲に感謝を。苦しむ人々を救ってみせます」
今までは小さなケガを治すのに10分とか平気でかかっていたのが、多少の裂傷程度なら数秒で治せるようになったのだ。
彼らの需要は計り知れない。
「あとは、レベルを上げるために外で冒険者と一緒に魔物を狩りなさい。レベルが上がればもっと回復力が高まるわ。ただし命あっての物種だから、決して無理をしてはダメよ」
「おお、さすがシラユキ様。博識でございますな」
結局スキルを上げるにはレベルを上げるしかない。一応、その職業に適した魔法を使う事で微量ながら経験値は入るみたいだけど……神官長はその口ね。でも雀の涙だから果てしない苦行だわ。楽できるところは楽をしなきゃ。
鍛冶職人がひたすら鍛冶をし続けた結果レベルが上がったという話は聞いたことがあるが、私は部屋に籠り続けるタイプじゃないので、スキルだけでのレベルアップは未経験だ。
「最後に、繰り返しケガをするお馬鹿さんには治療費を多少高めるなりしても良いと思うけれど、法外にしちゃだめよ? いいわね」
「我らにはそのような俗物はおりますまい。……しかし、シラユキ様のお言葉です。皆さん、心に刻みなさい!」
「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」
神官さん達が両手を組み、立ったまま祈りを捧げ始めた。
「ははっ、たった数日だったのに、シラユキは本当に人気者だな」
「本当ね。では……シラユキさん、アリシアさん、リーリエさん、リリちゃん。気を付けていってらっしゃい」
「「「「いってきます!」」」」
皆の声援を背に、歩き始める。
王都への道のりはまだまだ遠い。馬車で1週間といっても、それは道沿いに進んだ場合の話。
危険な場所を直行したりすればまた話は変わるわけで、最悪ステータスに物を言わせて全員抱えて走り抜けても構わない。
それでもただまっすぐ進むなんて、冒険としては楽しくない。
あっちにフラフラこっちにフラフラ。沢山寄り道して、沢山の物を見て、沢山の人達と出会って……この世界を満喫しよう。
私がシラユキとして生きるため。そしていつかシラユキを作り出し、この世界を共に生きていくために。
まずは、やれることからやっていこう!
エピリア暦999年2月17日。私たちは『港町ポルト』から旅立つ。目指すは鉱山の街、『シェルリックス』!
こうして私の、最初の5日間は終わり、6日目にして、新しい冒険が始まった!
『私たちの冒険はこれからよ! ……1度言ってみたかったのよねー』
アリシアの反応の大きさに、ママはマジックバッグから目が離せず、リリちゃんはアリシアを心配しているみたい。
「もう落としちゃダメよ?」
「お嬢様、この中身は……」
「うん、全部例のダンジョンのものよ」
再起動したアリシアがこちらを見た。でも、まだ心ここにあらずね? そんなに衝撃的だったのかしら。
アリシアがここまで驚くのなら、一般人に見せたら心臓止まりかねないわ。ママには……うん、内緒が良さそうね。
「あの、とんでもない名前が見えたのですが……アレは、本当に……?」
「ええ、5番目にいたわ。あれのおかげでレベルが5から8に上がったし、今思えば良いカモだったわね」
アリシアが突然、涙を流し始めた。見ていられないので、すぐに抱きしめ、頭も撫でてあげる。
「もう、なあに? どうしたの?」
「……昔、住んでいた集落の近くで見たことがあります。奴の通った後には何も残りませんでした。私たちに奴に太刀打ちする手段はなく、集落の者達全員が逃げ出す事で精一杯でした。森を蝕む奴は恐怖の象徴であり、エルフにとっては絶望そのものなのです。同じ個体かはわかりませんが、こいつ1体が居なくなるだけでも、他の同胞が同じ目に合わなくなるかと思うと……。感謝します、お嬢様」
「そっか……ごめんね、知らなかったとはいえイタズラが過ぎたわ」
アリシアは構わないと首を振る。そんな過去があるなんて知らなかったわ。……いつか貴女の故郷を、再び緑にしてあげるわ。今の私には広範囲の浄化は出来るけれど、緑化をするための手段がない。錬金術が必須ね。
神聖魔法スキル、アリシアにも教えてあげようかしら。そうすれば自分で邪竜を倒せるだろうし……。うん、早めに教えてあげよう。
「アリシアお姉ちゃん、大丈夫? どこか痛いの?」
「……大丈夫よリリ。痛みの原因をお嬢様が倒してくださったので、心配ありません」
「辛かったらいつでも甘えていいからね、アリシアちゃん」
「はい、ありがとうございます。お母様」
もう大丈夫そうね。さて、街の大通りでこんなことになるものだから、不要な視線を浴びているわ。とっとと切り替えましょ。
「というわけで、中身は気にせずに、そこに鮮度が命の食料は入れちゃってね。逆さまにして中身を放出しない限り混ざったりしないから大丈夫よ」
「かしこまりました」
「でも貴女の気持ちも考えて、早めに代わりを見つけるわね」
「いえ、大丈夫です。これはもう、ただの『素材』のようですから」
そう言ってアリシアは、購入した食料をドンドン詰め込んでいった。本当に気にしていないみたい。切り替えの早い子だわ。
「そういえば、ママ。装備は買った?」
「ええ。リリには棍棒を、ママは軽くて扱いやすいロングボウを。それと力が戻った時の為に、愛用の弓も持ってきているわ。あと、防具は鉄製の鎖帷子を2人分購入したわ。それでもお金が余ったけれど……使いきれなくてママ困ったわ」
「いいのよ。必要になったらまた買えばいいから、お金はそのままママが持ってて」
「そう言うと思ったわ。ママが預かっておくわね」
2人が言った装備は今手元にはない。恐らくマジックバッグに入れているのだろう。……ママの身長でロングボウって持てるのかしら? むしろ本来のショートボウが、ママにとってのロングボウかもしれないわね。
「ママはマジックバッグは高くて使ったことがなかったけれど、本当に沢山入るのね。何でも入っちゃうから、お買い物の時いっぱい買ってしまいそうになるわ」
「ふふ、わかるわママ。でも劣化しそうなものがあったらアリシアに渡しておいてね」
「ええ、心得たわ」
楽しくなってテンションが上がったママは、はしゃぐリリちゃんと同じに見えるわ。やっぱり親子ね。
「お嬢様、粗方必要になる食材は購入しました。4人で10日分もあれば問題ないでしょう」
「ご苦労様」
「あと必要な物は、テントと結界石ですね」
うん? テントって……。
「ああ、その2つなら持ってるわ。ちょっと狭いかもしれないけれど、4人でも十分に入れると思うわ」
「お嬢様のマジックテントですか。……宜しいのですか? 個人所有のマジックテントは、プライベートスペースと言われる物ですが」
あら、よく知ってるのね。アリシアはマジックテントの類を持っていないと思ったけど、どこかの貴族が使っていたのかしら。
「いいのよ。だって3人とも、私の家族なんだもの!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
私の言葉に感極まった3人がハグしてきたのでキスで返した。最後に採取に使いそうな小物などを追加で購入し、旅の準備が完了した。と言ったところで、日が暮れてきたのでそれぞれの帰路につく。
リリちゃんとママを『ロイヤル』に誘ったが、これが家での最後の生活だからと断られた。それもそうか。
私も、『ロイヤル』での生活はこれで最後になるので思いっきり堪能した。最後にアリシアを抱き枕にして、アリシアも堪能しよう。と思ったが、アリシアが眠る前に調合をしておきたいと言ってきたので、私は彼女が買ってくれた下着を見ることに。
そしてその時になってようやく、それがドエロな押せ押せ下着であることに気付いたのであった。着てみると意外とカワイイ事に驚いた。こういうイケイケな下着は考えたことがなかったけど、案外良いものね。
ならば、その気付きをくれたアリシアにはたっぷりとお礼をしなければ。……調合に夢中になって、うんうん唸っているところを振り向かせる。彼女の集中力が、その瞬間からゼロになってしまったのは言うまでもない。
シラユキとのお話では、下着の話をほどほどにして、主に今後の活動方針を決めた。といっても、元々の予定に変更はないし、彼女もその内容には満足してくれていたからだ。
簡単に言えば、目につく範囲で困っている人が居たら助け、強敵が居るようなら討伐し、3人の成長を見守ろうというものだ。
そして可能であれば生産スキルを上昇させることも忘れずに。でも次の街、鉱山でしょ? なら問題ないわね!
◇◇◇◇◇◇◇◇
そして翌日、ギルド前。
領主を除いた錚々たる顔ぶれが、見送りのために集まっていた。
ギルドマスターのメアリースを始め、副ギルドマスターのシェリー、受付嬢のクルルちゃんにガボル夫妻、そして『ポルトの新風』だ。
更には教会の神官達に、助けた女性達、そして何故かいる一般市民達。
うん、やっぱり神官達が宣伝したわね。
メアが1歩前に出て、何かを渡してくる。
「シラユキさん、これを」
「なにこれ?」
「我が家の家紋です。これは私の家の客人であることを示すものですから、他のギルドで困ったことがあれば使ってください」
「わかったわ。ありがたく受け取っておく」
メアと入れ替わりにシェリーが出てきて、シェリーから抱きしめてきた。名残惜しそうに離れるも、すぐに副ギルドマスターの顔になり、『キリッ』とした。
「シラユキ、君は目的のためにひたすら走り続ける人間だ。魔法に関する知識を広めていくのも、勿論君の優しさもあるのだろうが、何か目的があってのことだろう。君の目的が何なのかは測りかねるが、大それたものに違いあるまい。達成できることを祈っているぞ。……あとは、いつでも遊びに来い。君なら大歓迎だ」
「ありがとうシェリー、必ず会いに来るわ」
今度は私からハグの上で、軽いキスをする。
「やっぱり無理ね」
もう一度、今度は長めのキスをする。
「またね」
「ああ、また」
隣にいたクルルちゃんの頭も撫でておく。
「シラユキさん、お元気で!」
「うん、クルルちゃんもね」
次は……舎弟ね。マジックバッグから3枚の紙を取り出し手招きする。
「ほら、テストよ。読んでみなさい」
「はい、頂戴しますっ!」
1枚、また1枚と燃え尽き、3枚すべてが灰になった。私の魔法書は私の魔力で作られたものだ。だから取り込まれたかどうかはわかるし、他人の魔法で燃え尽きるなんて事はありえない。
つまり彼は、きちんと3種の魔法スキルを3に上げてきたようだ。
「合格よ。せいぜい、誰にも負けないくらい努力しなさい。あと、奥さんは大事にしなさいね」
「はいっ! 必ず! 姐さんもお元気で!」
「「「「お元気で!」」」」
舎弟に合わせ新風が声をそろえてくる。貴方達本当に仲良くなったのね。
ガボルの奥さんも嬉しそうに頷いている。
「シラユキ様」
代表して神官長がやってくる。
「貴方達、これから大変よ? 治療速度と効果が上がったと知ったら、皆無茶をしだすわ。しっかりと励みなさい」
「はい、シラユキ様のご慈悲に感謝を。苦しむ人々を救ってみせます」
今までは小さなケガを治すのに10分とか平気でかかっていたのが、多少の裂傷程度なら数秒で治せるようになったのだ。
彼らの需要は計り知れない。
「あとは、レベルを上げるために外で冒険者と一緒に魔物を狩りなさい。レベルが上がればもっと回復力が高まるわ。ただし命あっての物種だから、決して無理をしてはダメよ」
「おお、さすがシラユキ様。博識でございますな」
結局スキルを上げるにはレベルを上げるしかない。一応、その職業に適した魔法を使う事で微量ながら経験値は入るみたいだけど……神官長はその口ね。でも雀の涙だから果てしない苦行だわ。楽できるところは楽をしなきゃ。
鍛冶職人がひたすら鍛冶をし続けた結果レベルが上がったという話は聞いたことがあるが、私は部屋に籠り続けるタイプじゃないので、スキルだけでのレベルアップは未経験だ。
「最後に、繰り返しケガをするお馬鹿さんには治療費を多少高めるなりしても良いと思うけれど、法外にしちゃだめよ? いいわね」
「我らにはそのような俗物はおりますまい。……しかし、シラユキ様のお言葉です。皆さん、心に刻みなさい!」
「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」
神官さん達が両手を組み、立ったまま祈りを捧げ始めた。
「ははっ、たった数日だったのに、シラユキは本当に人気者だな」
「本当ね。では……シラユキさん、アリシアさん、リーリエさん、リリちゃん。気を付けていってらっしゃい」
「「「「いってきます!」」」」
皆の声援を背に、歩き始める。
王都への道のりはまだまだ遠い。馬車で1週間といっても、それは道沿いに進んだ場合の話。
危険な場所を直行したりすればまた話は変わるわけで、最悪ステータスに物を言わせて全員抱えて走り抜けても構わない。
それでもただまっすぐ進むなんて、冒険としては楽しくない。
あっちにフラフラこっちにフラフラ。沢山寄り道して、沢山の物を見て、沢山の人達と出会って……この世界を満喫しよう。
私がシラユキとして生きるため。そしていつかシラユキを作り出し、この世界を共に生きていくために。
まずは、やれることからやっていこう!
エピリア暦999年2月17日。私たちは『港町ポルト』から旅立つ。目指すは鉱山の街、『シェルリックス』!
こうして私の、最初の5日間は終わり、6日目にして、新しい冒険が始まった!
『私たちの冒険はこれからよ! ……1度言ってみたかったのよねー』
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1/19の20時の投稿で他サイトで投稿中のものに追いつきます。以後隔日で20:01頃投稿予定です。
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