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第1章:港町ポルト編
第029話 『その日、家族が出来た』
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決意を秘めた目でリーリエさんがこちらを見ていた。
「どうしましたか、改まって。他の魔法書も欲しかったですか?」
「いえ、そういうのではなく……」
リリママはリリちゃんを見た。
「ママ?」
「……リリを、王都に連れて行ってくれませんか?」
「ママ!? リリやだよ! あんな人のところになんて行きたくない!!」
バッと起き上がり、リリちゃんは私の背に回り込んで腰に抱き着いた。ナデナデしたいけど届かない!
「あっ、違うのよリリ! そうじゃないの。あの人は関係ないわ」
「あの人?」
「ええっと、私の……いえ、リリの父に当たる人なのですが、彼は王都に住んでいまして。リリに会いたいから連れてきてほしいと手紙が来ているのです。ただ、リリはあの人が嫌いみたいで……」
なんだか変な言い回しね? 見たことないけど、ロリコンパパは碌な奴じゃないのかしら。
「リリちゃんはパパが嫌いなの?」
「あの人はパパなんかじゃないよ! ママを捨てた悪い奴だもん!」
「……どういうことかしら」
「……えっと」
問い詰めるようにリーリエさんを見るも、困ったような顔をしてる。
「王都……なるほど。もしや、リリ様の父君は、貴族なのでは?」
「……ッ!」
「なるほどね。リリちゃんは、ママが酷い事されたから嫌いなのね?」
「そうだよ、ママ、自分の事で怒らないもん! だからリリが怒るの!」
「リリちゃんはいいこねー」
顔を出してきたリリちゃんを撫で回す。よしよし。
「リーリエさん、話してくれますね?」
「……わ、わかりました。私は成人して間もないころ、仕事を探していたら貴族であるあの人に雇われたのです。しばらくはあの人の家で働かせてもらっていたのですが、色々ありまして」
「色々?」
「は、はい。色々です……」
色々が気になるわね!!
「気づけばお腹にこの子が居て、奥方様達の目もあるからとお金を渡されてお暇を頂きまして……。この子を産んでからは働き手の多いこの街でお仕事をしていたのですが、どこからかリリの事を知ったのでしょうか。しばらく前から、連れてくるようにと催促の手紙が来るようになりました」
「ほぉ……?」
「もちろん私も、リリをあの人の所へ連れていくつもりはありません。この前も使者の方々が来られたのですが、ハッキリとお断りしましたが、しつこくって……」
「リリちゃん、手紙の中身知ってる?」
「言うこと聞かないと無理やり連れていくって書いてた!」
「よし、処す」
私のリリちゃんに手を出す奴は地獄を見せるわ。
「そいつの家名は何かしら? 王都に着いたら生まれてきたことを後悔させてやるわ」
「お嬢様、私もお手伝いいたします。暗闇からの奇襲は得意です」
アリシアが黒い笑顔を見せている。そういえばあなた、暗殺者レベル50あったわね。
「あら、ありがとう。正面からは昨日やったし、秘密裏も悪くないわね……でも、自然災害を装うのもありよねー。突然屋敷が地面に飲み込まれるとか、天から巨岩が降ってきてそいつの屋敷だけぶっ壊れるとか、そういうのも面白くない?」
「おお、流石お嬢様……格が違います。私は特等席で見させていただきますね!」
「ちょ、ちょっと待ってください。貴族様に手をあげるとか、なんて恐ろしい事を仰っているのですか! ダメダメ、ダメですよ!?」
やだなぁ、ちょっとしたジョークですよジョーク。まぁ、もし出会ったら、どことは言わないけれど斬り落とすかもしれないけどね?
「……それで、その貴族でなければ、なぜリリちゃんを王都に?」
とりあえず流すことにした。
「え? ああ、そうでしたね。リリから、シラユキさんは王都の魔法学園に入られるとお聞きしました。特待生枠のある高等部に入られると思うのですが、王都には成人の儀を迎えて魔法を発現させたばかりの子を対象とした、魔法学園初等部があるんです。リリなら立派な魔法使いになれると思いますし、シラユキさんに連れて行ってもらえないかと……」
「なるほど……」
初等部……まるで小学校みたいな言い回しだけど、成人していて、でも年齢的には中学生で……なんだか混乱してくるわね!
高等部にはカワイイ学生服はあったけれど、初等部にはあるのかしら? リリちゃんの学生服……見てみたいなぁ。
「それで、リーリエさんはどうするんです?」
「どう……とは?」
「ここで待っていてもいつか貴族にはバレるでしょう?」
「それは……」
そしてその内学園で嗅ぎつけられる気がする。そうしたら現行犯でボコろう。
「リリちゃんはどうしたい? この街でママと一緒に暮らす? それとも私と一緒に学園に行く?」
「リリ、お姉ちゃんと離れたくないよ! お姉ちゃんみたいに強くて格好良くて、キレイになりたい! でもリリ、ママとも一緒に居たいよ!」
惜しい。あと1つカワイイがあったらフルコースだったのに。
それはともかく、リリちゃんは昨日までママと離れ離れだったのだ。また離れるのは苦痛だろう。
「リリ……」
「ふふ、そうよね。ねぇ、リーリエさん。貴女もリリちゃんと一緒に来ませんか? そうすれば問題はないと思いますけど」
「……よろしいのですか? とってもありがたいお話ですけれど、ご迷惑ではありませんか?」
「そうねぇ……。じゃあ、私と家族になりましょ? リリちゃんは私の妹で、リーリエさんはママね! 家族なら、助けるのは当たり前。だから、迷惑なんてないわ。そうでしょ?」
「家族……良いんですか? えっと、本気にしますよ?」
「私は本気で言ってますよ」
「シラユキさん……」
この世界にとっての『家族』はどの程度の重さがあるのか知らないし、特別な意味があるのかもしれない。けれど、アリシアには喜んでもらえたのだ。私はリリちゃんもリーリエさんも好きだし、出来れば一緒に居たい。
「お姉ちゃんが、ホントのお姉ちゃんになるの?」
「そうよ。今まで以上にカワイがるわね」
なでくりなでくり。
「ここにいるアリシアも、貴女のお姉ちゃんよ」
「ふふ、そうなりますね。よろしくね、リリ」
「わぁ! お姉ちゃんが2人もできちゃった! えっと、アリシアお姉ちゃん?」
「ふふ、カワイイ子ね」
アリシアは笑顔でなでなでしている。私にも撫でさせろー! なでくりなでくり。
「えへへ」
「フフフ、家族なら、仕方ないですね。それにしてもこんなに綺麗で可愛い子が2人も娘になるなんて。……なんだか夢を見ているみたい。えっと……シラユキちゃん、アリシアちゃん。いつでも甘えていいからね」
カワイイって言われた! 嬉しい!! ママ好き!!!
「……ママー!」
「きゃっ! もう……甘えん坊な娘ね」
リリママに飛びついて甘える。いえ、もうリリママじゃないわ、私のママでもあるのね!
「素直に甘えてくれるのは嬉しいけど、必要なことがあったらビシバシ教えてね。シラユキちゃん」
「はーい、ママ」
ひょんな事から旅の同行者だけでなく家族が増えた。それにしても家族ってこんな簡単にできたっけ? 私がカワイイから? それともこの世界が変わっているのかしら?
……まぁ今そのことは置いといて、まずはリリちゃんの件ね。さっきは流したけれど、別にやらないなんて一言も言っていない。隙をみて調べてみよう。というかアリシアなら調べてくれそう。乗り気だったし。
最後にママね。未亡人感あると思ったけど、話しぶりからして結婚すらしていないわね。バイトに手を出して妊娠したら追い出したってことでしょ?
その上見た目そっくりな娘がいると知って呼び出そうとしているですって?
だいぶクズね。この世から消し去りたいわ。まぁでも、貴族ってことは、貴族専用の崩し方っていうのがあるのよね。リリちゃんとママは、もう私の家族よ。部外者じゃなくなった今、遠慮する必要なんてどこにも無い。フフ、王都に着いた時の楽しみが増えちゃったわ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
新たな家族として改めて自己紹介をしていると、強さの話になった。一緒に街を出るのだから、強さを把握しておきたいってママが言ったんだっけ。
「ママは、この前見た感じだと数値は1460だったわね」
「私は3876です。これでも長生きしているエルフですので」
「凄いわアリシアちゃん! エルフの方ってみんな強いのかしら?」
『ポワポワ』とした感じでママがのんびりしている。さっきまでは娘の恩人ということもあって、気を張っていたのかしら。今では家族で、娘3人と一緒に過ごしているだけだもの。気を張る必要はないものね!
「アリシアはエルフの中でも、特別努力家だから強いのよ、ママ」
「そ、そうなのね。ごめんねアリシアちゃん」
「いえ、お嬢様が博識なだけで、普通ならご存知ないことですから」
アリシアがすごく嬉しそうな顔をしている。アリシアって努力家なところ褒められるの好きそうね……? いっぱい褒めてあげましょ!
「ありがとうアリシアちゃん。えっと、じゃあシラユキちゃんは……」
「私は……」
「待って! ママ、心の準備がまだ出来てないわ」
ママが大きく深呼吸している。……ママはカワイイなぁ。アリシアは知っているだけに、ママの背に手を添え、助言をしている。
気を失わないようにとかなんとか。それを聞いてママはもう一度深呼吸するのだった。
そう言えば、『白の乙女』の装備効果でステータスが変わっていたわね。
朝、着替える時。というかステータスが増減する装備を着用した際には総戦闘力が通知されるんだけど、毎回のことだからとチェックしていなかったわね。
『ステータスチェック』
*********
総戦闘力:11213(+1600+329)
STR:1362(+40)
DEX:1362(+40)
VIT:1362(+40)
AGI:1362(+40)
INT:1362(+40)
MND:2197(+800 +64)
CHR:2206(+800 +65)
称号:求道者
*********
え? 称号の効果って装備とは別枠だったの?
ゲーム時代、称号はあってもここまで大幅にステータスに補正をかける類のものはなかったから、今まで気にも止めて無かったけれど……。なんとなく割合上昇の後に加算されるものだと思っていたけど、まさかその逆だったなんて……。
ここに、ステータスを割合で増強させるアクセサリーを身に着けたら、MNDとCHRがどうなることやら。
『白の乙女』は、初期では補正が全ステータス+3%だけという、割とショボイ効果しか持っていないのだが、錬金術や鍛冶などで鍛えなおすことでどんどん強くなる。
3%による増加量でいえば、もはや誤差でしかないんだけれど……どんどん笑える数値になってきてるわね。そりゃあ、呪われた隷属の首輪も内側から抜け出せるよね。納得の強さであった。
「私の戦闘力は、1万と1213です」
いつか、あの名台詞的な数値に辿り着けるのだろうか。楽しみがまた増えたわ。
そして案の定、ママは卒倒した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
目を覚ましたママは、こちらを見て『ビクッ』とした。怯えられると傷付くなぁ……。
「あっ……。シラユキちゃん!」
気持ちしょんぼりすると、ママは私の頭を抱え込むように抱きしめた。
「ごめんね。こんなに強いなんて、ママちょっと驚いたわ! ……こんなに強いと、今までいっぱい辛いことがあったでしょう? これからはママがついてるからね」
何だか勘違いさせちゃったみたい。ママはまだ、私の得体の知れない強さが怖いだろうに、私を悲しませないように力一杯抱きしめてくれる。
……そうよね、アリシアが受け入れてくれたから油断したわ。普通は強くても2000前後。アリシアの3800も、本来は珍しい部類なのだろう。Aランクでも6000とかだっけ。それを差し置いて私のこの数値だ。恐れられない方がおかしい。
次からは気をつけよう。やっぱり、隠蔽は必須スキルね。仲間になるNPCは基本理解のある人達だったから、今後も出会うことがあって、伝える必要があれば伝えていっても構わないだろうけれど……そうではない人たちには、本当に化け物扱いされかねない。
ママが優しい人で本当によかった。……でも。
「一応まだまだ成長期なんだけれど……」
「そうなのね。大丈夫、ママはもう怖がったりしないわ」
更にギュッと抱きしめてもらう。ママ好き!
そんな中、1人まるで理解していない子が居た。
「よくわかんないけど、お姉ちゃんはすっごい強いってこと?」
「モゴモゴ(そうよー)」
「あっ、シラユキちゃん、ごめんなさい」
「お返し!」
「きゃっ!」
ママの抱擁が終わったので、今度は私が抱きしめ返す。ママの震えが治まるまでこのままでいてあげよう。
「じゃあリリは? リリはどれくらいなの?」
「リリちゃんは魔法使いのレベルが1だから105ってところね」
「そうなんだぁ」
「……お嬢様、いつの間に確認を? ……まさか見なくても分かるのですか?」
「ええ、強さの数値は、全て計算できるわ」
「凄い……今日はもう驚きすぎて麻痺してきました。では失礼して……『観察』。……おや、少し異なるようです。107ですね」
「えっ!? 『観察』!」
**********
名前:リリ
職業:魔法使い
Lv:1
補正他職業:狩人、シーフ
総戦闘力:107
**********
「ふぁ!? リリちゃん、いつの間に狩人やシーフのレベル上げてたの?」
「え? リリは何もしてないよ」
「……どういうこと?」
「恐らく遺伝でしょう」
遺伝? なにそれ?
頭にはてなマークを浮かべているとアリシアが心配そうに伺う。
「……お嬢様、ご存じではありませんか?」
「ええ、知らないわ」
「そうですか……。遺伝というのは親、もしくは祖先が育てた職業を、子が引き継いで現れるものです。直近の親から継ぐこともあれば、遠い祖先の職業が目覚めることもあります」
「ちなみにレベルは継承されるの?」
「はい。元より高くなることはありませんが、ある程度は継承されます。今リリの職業レベルがどうなっているかは、神殿でないとわかりませんね……」
そうだった。私にはあのスキルがあった!
「『職業神殿』!」
リリちゃんに向けスキルを使う。するとリリちゃんの前にマップと同じように半透明なボードが現れた。そこに記載されていたのは……。
**********
変更する職業を選択してください
剣士:レベル0
格闘家:レベル0
魔法使い:現在選択中
狩人:レベル30
槍使い:レベル0
シーフ:レベル22
遊び人:レベル0
調合師:レベル0
レンジャー:レベル0
**********
「これは……私の知らないシステムね」
ゲーム時代に結婚はあったけど、子供を作るなんてなかったから、こんなことが出来るなんて知らなかった。あれね? 強くてニューゲームってやつね!
でも生まれ変わるわけではないから、少し違うかしら。
遺伝ってことは、突然変異のように、隔世遺伝で唐突に上位職業だけで『ポン!』と産まれてくる子もいるってことよね。子作りにガチャ要素はちょっとナンセンスだわ。アクが強すぎる。遺伝しなかった子が可哀想じゃない……。
うん? もし私が子供を作ったら世界が大変な事になるのでは? ……いや、この考えはマズイ。なしなし!
……あっ! ってことは、最初のラスボスである『魔王』も遺伝か! だったら納得よね。いきなり現れるんだもの。レジェンド職業である『魔王』は、他のレジェンド職業と同じように、それ以下の職業を大体極めないとなれないというのに、無名のままいきなり魔王になるなんて、おかしいと思っていたのよね。
ゲーム上は目を瞑るしかないそういう仕様なのかなと思ってたけれど、そんな裏話があったなんて。
そうこう考えを終え、現実に戻ってくるとリリちゃんは目を輝かせ、アリシアは涙ながらにお祈りしていた。ママは私の胸の中で「ママ見えないわー」ともがいている。うーん、カオスね。とりあえずママは放してあげよう。
……あ、ボードを見て固まった。
「ねえねえ、お姉ちゃん! リリ、狩人のレベル30もあるの!?」
「そうよ。狩人になったらいきなり総戦闘力は1300になるわ。でもオススメはしないわね」
「どうして?」
「だって、魔法の威力が残念になるし、成長もしにくいからよ」
「そっかぁ……じゃあリリ、このまま魔法使いを頑張るね!」
「ええ、手伝えることはいっぱい手伝うわね」
リリちゃんは目先の強さよりも魔法かぁ。うん、やっぱり魔法は楽しいものね!
『リリちゃんは、今後の成長に期待できるわね』
「どうしましたか、改まって。他の魔法書も欲しかったですか?」
「いえ、そういうのではなく……」
リリママはリリちゃんを見た。
「ママ?」
「……リリを、王都に連れて行ってくれませんか?」
「ママ!? リリやだよ! あんな人のところになんて行きたくない!!」
バッと起き上がり、リリちゃんは私の背に回り込んで腰に抱き着いた。ナデナデしたいけど届かない!
「あっ、違うのよリリ! そうじゃないの。あの人は関係ないわ」
「あの人?」
「ええっと、私の……いえ、リリの父に当たる人なのですが、彼は王都に住んでいまして。リリに会いたいから連れてきてほしいと手紙が来ているのです。ただ、リリはあの人が嫌いみたいで……」
なんだか変な言い回しね? 見たことないけど、ロリコンパパは碌な奴じゃないのかしら。
「リリちゃんはパパが嫌いなの?」
「あの人はパパなんかじゃないよ! ママを捨てた悪い奴だもん!」
「……どういうことかしら」
「……えっと」
問い詰めるようにリーリエさんを見るも、困ったような顔をしてる。
「王都……なるほど。もしや、リリ様の父君は、貴族なのでは?」
「……ッ!」
「なるほどね。リリちゃんは、ママが酷い事されたから嫌いなのね?」
「そうだよ、ママ、自分の事で怒らないもん! だからリリが怒るの!」
「リリちゃんはいいこねー」
顔を出してきたリリちゃんを撫で回す。よしよし。
「リーリエさん、話してくれますね?」
「……わ、わかりました。私は成人して間もないころ、仕事を探していたら貴族であるあの人に雇われたのです。しばらくはあの人の家で働かせてもらっていたのですが、色々ありまして」
「色々?」
「は、はい。色々です……」
色々が気になるわね!!
「気づけばお腹にこの子が居て、奥方様達の目もあるからとお金を渡されてお暇を頂きまして……。この子を産んでからは働き手の多いこの街でお仕事をしていたのですが、どこからかリリの事を知ったのでしょうか。しばらく前から、連れてくるようにと催促の手紙が来るようになりました」
「ほぉ……?」
「もちろん私も、リリをあの人の所へ連れていくつもりはありません。この前も使者の方々が来られたのですが、ハッキリとお断りしましたが、しつこくって……」
「リリちゃん、手紙の中身知ってる?」
「言うこと聞かないと無理やり連れていくって書いてた!」
「よし、処す」
私のリリちゃんに手を出す奴は地獄を見せるわ。
「そいつの家名は何かしら? 王都に着いたら生まれてきたことを後悔させてやるわ」
「お嬢様、私もお手伝いいたします。暗闇からの奇襲は得意です」
アリシアが黒い笑顔を見せている。そういえばあなた、暗殺者レベル50あったわね。
「あら、ありがとう。正面からは昨日やったし、秘密裏も悪くないわね……でも、自然災害を装うのもありよねー。突然屋敷が地面に飲み込まれるとか、天から巨岩が降ってきてそいつの屋敷だけぶっ壊れるとか、そういうのも面白くない?」
「おお、流石お嬢様……格が違います。私は特等席で見させていただきますね!」
「ちょ、ちょっと待ってください。貴族様に手をあげるとか、なんて恐ろしい事を仰っているのですか! ダメダメ、ダメですよ!?」
やだなぁ、ちょっとしたジョークですよジョーク。まぁ、もし出会ったら、どことは言わないけれど斬り落とすかもしれないけどね?
「……それで、その貴族でなければ、なぜリリちゃんを王都に?」
とりあえず流すことにした。
「え? ああ、そうでしたね。リリから、シラユキさんは王都の魔法学園に入られるとお聞きしました。特待生枠のある高等部に入られると思うのですが、王都には成人の儀を迎えて魔法を発現させたばかりの子を対象とした、魔法学園初等部があるんです。リリなら立派な魔法使いになれると思いますし、シラユキさんに連れて行ってもらえないかと……」
「なるほど……」
初等部……まるで小学校みたいな言い回しだけど、成人していて、でも年齢的には中学生で……なんだか混乱してくるわね!
高等部にはカワイイ学生服はあったけれど、初等部にはあるのかしら? リリちゃんの学生服……見てみたいなぁ。
「それで、リーリエさんはどうするんです?」
「どう……とは?」
「ここで待っていてもいつか貴族にはバレるでしょう?」
「それは……」
そしてその内学園で嗅ぎつけられる気がする。そうしたら現行犯でボコろう。
「リリちゃんはどうしたい? この街でママと一緒に暮らす? それとも私と一緒に学園に行く?」
「リリ、お姉ちゃんと離れたくないよ! お姉ちゃんみたいに強くて格好良くて、キレイになりたい! でもリリ、ママとも一緒に居たいよ!」
惜しい。あと1つカワイイがあったらフルコースだったのに。
それはともかく、リリちゃんは昨日までママと離れ離れだったのだ。また離れるのは苦痛だろう。
「リリ……」
「ふふ、そうよね。ねぇ、リーリエさん。貴女もリリちゃんと一緒に来ませんか? そうすれば問題はないと思いますけど」
「……よろしいのですか? とってもありがたいお話ですけれど、ご迷惑ではありませんか?」
「そうねぇ……。じゃあ、私と家族になりましょ? リリちゃんは私の妹で、リーリエさんはママね! 家族なら、助けるのは当たり前。だから、迷惑なんてないわ。そうでしょ?」
「家族……良いんですか? えっと、本気にしますよ?」
「私は本気で言ってますよ」
「シラユキさん……」
この世界にとっての『家族』はどの程度の重さがあるのか知らないし、特別な意味があるのかもしれない。けれど、アリシアには喜んでもらえたのだ。私はリリちゃんもリーリエさんも好きだし、出来れば一緒に居たい。
「お姉ちゃんが、ホントのお姉ちゃんになるの?」
「そうよ。今まで以上にカワイがるわね」
なでくりなでくり。
「ここにいるアリシアも、貴女のお姉ちゃんよ」
「ふふ、そうなりますね。よろしくね、リリ」
「わぁ! お姉ちゃんが2人もできちゃった! えっと、アリシアお姉ちゃん?」
「ふふ、カワイイ子ね」
アリシアは笑顔でなでなでしている。私にも撫でさせろー! なでくりなでくり。
「えへへ」
「フフフ、家族なら、仕方ないですね。それにしてもこんなに綺麗で可愛い子が2人も娘になるなんて。……なんだか夢を見ているみたい。えっと……シラユキちゃん、アリシアちゃん。いつでも甘えていいからね」
カワイイって言われた! 嬉しい!! ママ好き!!!
「……ママー!」
「きゃっ! もう……甘えん坊な娘ね」
リリママに飛びついて甘える。いえ、もうリリママじゃないわ、私のママでもあるのね!
「素直に甘えてくれるのは嬉しいけど、必要なことがあったらビシバシ教えてね。シラユキちゃん」
「はーい、ママ」
ひょんな事から旅の同行者だけでなく家族が増えた。それにしても家族ってこんな簡単にできたっけ? 私がカワイイから? それともこの世界が変わっているのかしら?
……まぁ今そのことは置いといて、まずはリリちゃんの件ね。さっきは流したけれど、別にやらないなんて一言も言っていない。隙をみて調べてみよう。というかアリシアなら調べてくれそう。乗り気だったし。
最後にママね。未亡人感あると思ったけど、話しぶりからして結婚すらしていないわね。バイトに手を出して妊娠したら追い出したってことでしょ?
その上見た目そっくりな娘がいると知って呼び出そうとしているですって?
だいぶクズね。この世から消し去りたいわ。まぁでも、貴族ってことは、貴族専用の崩し方っていうのがあるのよね。リリちゃんとママは、もう私の家族よ。部外者じゃなくなった今、遠慮する必要なんてどこにも無い。フフ、王都に着いた時の楽しみが増えちゃったわ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
新たな家族として改めて自己紹介をしていると、強さの話になった。一緒に街を出るのだから、強さを把握しておきたいってママが言ったんだっけ。
「ママは、この前見た感じだと数値は1460だったわね」
「私は3876です。これでも長生きしているエルフですので」
「凄いわアリシアちゃん! エルフの方ってみんな強いのかしら?」
『ポワポワ』とした感じでママがのんびりしている。さっきまでは娘の恩人ということもあって、気を張っていたのかしら。今では家族で、娘3人と一緒に過ごしているだけだもの。気を張る必要はないものね!
「アリシアはエルフの中でも、特別努力家だから強いのよ、ママ」
「そ、そうなのね。ごめんねアリシアちゃん」
「いえ、お嬢様が博識なだけで、普通ならご存知ないことですから」
アリシアがすごく嬉しそうな顔をしている。アリシアって努力家なところ褒められるの好きそうね……? いっぱい褒めてあげましょ!
「ありがとうアリシアちゃん。えっと、じゃあシラユキちゃんは……」
「私は……」
「待って! ママ、心の準備がまだ出来てないわ」
ママが大きく深呼吸している。……ママはカワイイなぁ。アリシアは知っているだけに、ママの背に手を添え、助言をしている。
気を失わないようにとかなんとか。それを聞いてママはもう一度深呼吸するのだった。
そう言えば、『白の乙女』の装備効果でステータスが変わっていたわね。
朝、着替える時。というかステータスが増減する装備を着用した際には総戦闘力が通知されるんだけど、毎回のことだからとチェックしていなかったわね。
『ステータスチェック』
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総戦闘力:11213(+1600+329)
STR:1362(+40)
DEX:1362(+40)
VIT:1362(+40)
AGI:1362(+40)
INT:1362(+40)
MND:2197(+800 +64)
CHR:2206(+800 +65)
称号:求道者
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え? 称号の効果って装備とは別枠だったの?
ゲーム時代、称号はあってもここまで大幅にステータスに補正をかける類のものはなかったから、今まで気にも止めて無かったけれど……。なんとなく割合上昇の後に加算されるものだと思っていたけど、まさかその逆だったなんて……。
ここに、ステータスを割合で増強させるアクセサリーを身に着けたら、MNDとCHRがどうなることやら。
『白の乙女』は、初期では補正が全ステータス+3%だけという、割とショボイ効果しか持っていないのだが、錬金術や鍛冶などで鍛えなおすことでどんどん強くなる。
3%による増加量でいえば、もはや誤差でしかないんだけれど……どんどん笑える数値になってきてるわね。そりゃあ、呪われた隷属の首輪も内側から抜け出せるよね。納得の強さであった。
「私の戦闘力は、1万と1213です」
いつか、あの名台詞的な数値に辿り着けるのだろうか。楽しみがまた増えたわ。
そして案の定、ママは卒倒した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
目を覚ましたママは、こちらを見て『ビクッ』とした。怯えられると傷付くなぁ……。
「あっ……。シラユキちゃん!」
気持ちしょんぼりすると、ママは私の頭を抱え込むように抱きしめた。
「ごめんね。こんなに強いなんて、ママちょっと驚いたわ! ……こんなに強いと、今までいっぱい辛いことがあったでしょう? これからはママがついてるからね」
何だか勘違いさせちゃったみたい。ママはまだ、私の得体の知れない強さが怖いだろうに、私を悲しませないように力一杯抱きしめてくれる。
……そうよね、アリシアが受け入れてくれたから油断したわ。普通は強くても2000前後。アリシアの3800も、本来は珍しい部類なのだろう。Aランクでも6000とかだっけ。それを差し置いて私のこの数値だ。恐れられない方がおかしい。
次からは気をつけよう。やっぱり、隠蔽は必須スキルね。仲間になるNPCは基本理解のある人達だったから、今後も出会うことがあって、伝える必要があれば伝えていっても構わないだろうけれど……そうではない人たちには、本当に化け物扱いされかねない。
ママが優しい人で本当によかった。……でも。
「一応まだまだ成長期なんだけれど……」
「そうなのね。大丈夫、ママはもう怖がったりしないわ」
更にギュッと抱きしめてもらう。ママ好き!
そんな中、1人まるで理解していない子が居た。
「よくわかんないけど、お姉ちゃんはすっごい強いってこと?」
「モゴモゴ(そうよー)」
「あっ、シラユキちゃん、ごめんなさい」
「お返し!」
「きゃっ!」
ママの抱擁が終わったので、今度は私が抱きしめ返す。ママの震えが治まるまでこのままでいてあげよう。
「じゃあリリは? リリはどれくらいなの?」
「リリちゃんは魔法使いのレベルが1だから105ってところね」
「そうなんだぁ」
「……お嬢様、いつの間に確認を? ……まさか見なくても分かるのですか?」
「ええ、強さの数値は、全て計算できるわ」
「凄い……今日はもう驚きすぎて麻痺してきました。では失礼して……『観察』。……おや、少し異なるようです。107ですね」
「えっ!? 『観察』!」
**********
名前:リリ
職業:魔法使い
Lv:1
補正他職業:狩人、シーフ
総戦闘力:107
**********
「ふぁ!? リリちゃん、いつの間に狩人やシーフのレベル上げてたの?」
「え? リリは何もしてないよ」
「……どういうこと?」
「恐らく遺伝でしょう」
遺伝? なにそれ?
頭にはてなマークを浮かべているとアリシアが心配そうに伺う。
「……お嬢様、ご存じではありませんか?」
「ええ、知らないわ」
「そうですか……。遺伝というのは親、もしくは祖先が育てた職業を、子が引き継いで現れるものです。直近の親から継ぐこともあれば、遠い祖先の職業が目覚めることもあります」
「ちなみにレベルは継承されるの?」
「はい。元より高くなることはありませんが、ある程度は継承されます。今リリの職業レベルがどうなっているかは、神殿でないとわかりませんね……」
そうだった。私にはあのスキルがあった!
「『職業神殿』!」
リリちゃんに向けスキルを使う。するとリリちゃんの前にマップと同じように半透明なボードが現れた。そこに記載されていたのは……。
**********
変更する職業を選択してください
剣士:レベル0
格闘家:レベル0
魔法使い:現在選択中
狩人:レベル30
槍使い:レベル0
シーフ:レベル22
遊び人:レベル0
調合師:レベル0
レンジャー:レベル0
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「これは……私の知らないシステムね」
ゲーム時代に結婚はあったけど、子供を作るなんてなかったから、こんなことが出来るなんて知らなかった。あれね? 強くてニューゲームってやつね!
でも生まれ変わるわけではないから、少し違うかしら。
遺伝ってことは、突然変異のように、隔世遺伝で唐突に上位職業だけで『ポン!』と産まれてくる子もいるってことよね。子作りにガチャ要素はちょっとナンセンスだわ。アクが強すぎる。遺伝しなかった子が可哀想じゃない……。
うん? もし私が子供を作ったら世界が大変な事になるのでは? ……いや、この考えはマズイ。なしなし!
……あっ! ってことは、最初のラスボスである『魔王』も遺伝か! だったら納得よね。いきなり現れるんだもの。レジェンド職業である『魔王』は、他のレジェンド職業と同じように、それ以下の職業を大体極めないとなれないというのに、無名のままいきなり魔王になるなんて、おかしいと思っていたのよね。
ゲーム上は目を瞑るしかないそういう仕様なのかなと思ってたけれど、そんな裏話があったなんて。
そうこう考えを終え、現実に戻ってくるとリリちゃんは目を輝かせ、アリシアは涙ながらにお祈りしていた。ママは私の胸の中で「ママ見えないわー」ともがいている。うーん、カオスね。とりあえずママは放してあげよう。
……あ、ボードを見て固まった。
「ねえねえ、お姉ちゃん! リリ、狩人のレベル30もあるの!?」
「そうよ。狩人になったらいきなり総戦闘力は1300になるわ。でもオススメはしないわね」
「どうして?」
「だって、魔法の威力が残念になるし、成長もしにくいからよ」
「そっかぁ……じゃあリリ、このまま魔法使いを頑張るね!」
「ええ、手伝えることはいっぱい手伝うわね」
リリちゃんは目先の強さよりも魔法かぁ。うん、やっぱり魔法は楽しいものね!
『リリちゃんは、今後の成長に期待できるわね』
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