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第1章:港町ポルト編
第015話 『その日、魔法講義をした①』
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彼女達と少年の身体を隅々まで確認したので起こすことにした。うん、今日出来たような怪我は全部治しておいた。生傷はカワイイ身体には不要なものよ。
心の傷は手に負えないけどね。
「お姉ちゃん! さっきね、耳を塞いでたのに、バリバリってなって、ドカンってなって、グラグラってして、ブワってしてたよ!」
惨状を見て口を噤むメンバーを置いて1人大興奮のリリちゃん。彼女は将来大物かもしれない。っていうか私がそう育てたい。
なでくりなでくり。
「それじゃ帰りましょうか」
「あっ、シラユキの姐さんは休んでてください! 俺たちが前を歩いて露払いをします!」
「そうですね、シラユキさんは魔力をたくさん使っちゃいましたし、後ろでゆっくりしていてください!」
姐さん……舎弟がまた増えたみたい。今回の舎弟はカワイイからいいけど。
彼らの後ろをリリちゃんとシェリーちゃんと横並びになって進む。彼らは気合い十分みたいで、罠なんかもちゃんとチェックしながら進めているようだ。
「あの、シラユキさん」
「どうしましたか、シェリーちゃん」
「シラユキさんは恩人ですし、とても強い方なので……これからは敬語は不要でお願いします。シェリーと呼んでください」
「そうですか? ふふ、じゃあお言葉に甘えて。なら、シェリーも、さん付けや敬語は入らないわ。お友達になりましょ?」
「……! ああ、わかった」
手を握り微笑みかけると、シェリーは頬を染めながらはにかんだ。カワイイなぁ。
「お姉ちゃん、リリは?」
「ふふ、リリちゃんも大切なお友達よ」
「ほんと!? わーい!」
こっちもカワイイ。カワイイサンドか! 具の私はもっとカワイイから総じてカワイイわね!
あ、そう言えば気になってたことがあった。
「そう言えばリリちゃんっていくつなの?」
「12歳だよ」
「そっかあー、12歳かー」
ほんわかしてしまうが、その割には肉付きが少々心許ない……。それに頭も、ちょっとアホの子入ってる気がする。
ちゃんといっぱい食べなきゃダメよ? カワイイから良いけど。
「12歳か。となると、本来ならば明日の適性検査に参加していたのだろうな」
「適性? ……ああ、魔法属性の?」
そう言えばあったなぁ、そんな無駄なの。
「うん。でもリリは魔法出せないから……」
「ふむ……しかし一度ちゃんと見てみないと分からないこともある。せっかくの成人の儀式なんだ。受けてみた方がいい。しかし、街があの状態ではな。開催も怪しいが……」
っていうか適性検査って成人式でもあったのね。12で成人かぁ。だいぶ早いわね。もしかして子供を産める基準なのかしら?
「明日かぁ、それくらいあれば……よし。リリちゃん、魔法教えてあげよっか?」
「えっ、ほんと!?」
「ええ。ついでにシェリーの適性も教えてくれる?」
「私か? 私は水と氷だ。しかし前衛職だからな。出せるのは小さなものだ」
水と氷かぁ。便利な属性が使えるのね。それに、前衛職だから大したことがないだなんて……その発想は許せないわ。
徹底的に改めてあげましょうか。
「じゃあ2人には炎魔法が出せるように教えてあげるね」
「うん! 頑張るね!」
「む? シラユキ、私の適性に炎は無い。使うことはできないぞ」
「ふふ、その適性っていう教えが間違いだって教えてあげるわ」
私の言葉を飲み込むのに少し時間がかかったみたい。しばらく固まっていたが再起動すると信じられない物を見たような顔をした。
「……な、なんだって? それは本当なのか?」
「それを今から確かめましょうか。じゃあ2人とも、私の手をしっかり握ってね」
2人の柔らかい手を優しく握り返す。
魔法とはイメージとステータス、スキル値と所持魔法スキルによって発動に差異が出る。
しかしそもそもの話、イメージによって魔法を出現させるには、元となるMP。つまり魔力が必要となる。
魔力は体のどこかに固まって存在しており、その魔力を体外に運んでいき、イメージの力で組み上げる事で魔法という現象になる。
しかし、魔力を元の塊から体外へと上手く運搬することが出来なければ、そもそも魔法は発動しない。
体内には必ずMPの総量分の魔力が存在しており、どんな前衛職でも、MP0の職業は存在しない。つまり魔力は誰しも持っているものなのだ。
そしてMPの塊は『魔力溜まり』と呼ばれ、人によって場所はバラバラだ。
エクストラの職業に、『自分が覚えている魔法を、魔法書として作成する』という能力を持った『紡ぎ手』という職業がある。
魔法のランクによって魔法書に用いる素材が異なるが、一度覚えてしまえばどんな魔法でも複製が可能となる職業だ。
魔法書を作るには、頭の中の魔法解説を、ひたすら本に書き込んでいくと言う重労働をしなければならない。そうするための必要技量として『紡ぎ手』には『魔力視』というスキルがある。
これは生物が持つ魔力の流れを『視る』ことが出来る能力だ。そのため、生産職の低いにステータスにもかかわらず、大型ボスの魔力を感知して危険を知らせる司令塔として呼ばれることもあった。
閑話休題。
つまり、他の人の魔力の流れが分かるのであれば、魔法を教えるのにも役立つ! と思った次第だ。間違ってたら別の手段を考える。
「じゃあ今から私の魔力を2人に流すね。感じられたらどこにあるか口に出して教えて」
2人に魔法に変える前の魔力を両手を伝って体内に送る。MP値でいえば50……ランス3発、ボール10発分といったところ。
「暖かいな。これがシラユキの魔力か。今は右胸に集まっている」
「なんだかお腹がポカポカする」
「うん、ちゃんと感じられているね。それじゃあこの魔力を動かしていくから、今どこにあるか指でさしながら追い続けて」
集中させるために握っていた手を離す。魔力は慣れれば遠隔操作も可能だ。
別々の場所にある2つの魔力を、自分の意思で動かし続けるのは慣れが要るが、これも自分のスキルアップになる。ただ、何の属性もない魔力の状態のため、実際のスキル値に反映されることはないが。
ふと前を見て気付く。先行を買って出た冒険者パーティが聞き耳を立てていた。
「帰って時間があるときにあなた達にもレクチャーしてあげるわ」
4人とも大喜びしている。全く、カワイイ子達ね。
そうして森を抜け、草原に出た。修行は歩きながらでもできるが、集中してやってほしいところなのでいったん休憩する事にする。
「私たちのレクチャーが終わるまで、見張りはよろしくね」
「はい! 任せてください!」
舎弟2号が元気よく答える。うんうん、カワイイわね。さて、2人の様子は、と。
「わ、急に速くなった!」
「なっ! 二つに分かれただと!?」
「あはは、グルグルしてる!」
「くっ、指が絡まる!」
2人とも魔力を認識する力は十分についたみたい。ここで終わらせるとまた感じられなくなるから、今は次のステップに急ぐ。
ちなみにシェリーはあえて難易度高めだ。魔法使用の経験者ですもの。多少はね?
「2人とも、実は途中から魔力を減らしていったんだけど、気付いてた?」
「うん。どんどん小さくなっていったよ」
「あっ、本当だ。二つ合わせても最初よりわずかに小さい。しかし最初よりもしっかり感じられる」
リリちゃんは才能あるかも。シェリーも、最終的に気づいたから合格かな?
残した魔力はMPで言うと30ほど。これを彼女達の『魔力溜まり』を囲い込むように広げる。
「それじゃあ次に、2人の『魔力溜まり』を説明するね。リリちゃんは心臓近く、シェリーはお腹の辺りにあるようね。今私が囲い込んでる中に2人の魔力があるの。感じられるかしら?」
「……うん、お姉ちゃんのよりぼやけてるけど、感じるよ。コレがリリの魔力なんだ……」
「私にもわかるぞ。今まで不確かだったものが、鮮明に感じられる……」
「2人とも私の魔力を追いかけた事で、魔力がどういうものか感覚的に理解できる状態になったわ。あとは自分の魔力がどこにあるのかを知るだけで、ハッキリと認識ができるようになったの。最後に今日の講義の締めくくりをするわね?」
「「よろしくお願いします!」」
自分には魔力がないと思っていたリリちゃんも、魔法の扱いが分からなかったシェリーも、自分の中にハッキリと魔力がある事を感じられて嬉しそう。カワイイなぁ、教えがいがあるわね。
「じゃあ今から私の魔力で作った囲いを一部延ばして道を作るわ。その隙間を通っていくように、イメージするのよ。動け、ってね。そうやって魔力を、動かせるだけ動かしてみなさい」
そう指示を受けた彼女たちは、自身の『魔力溜まり』から魔力の移動を始めた。
結果的に移動できたのは、リリちゃんが1/5。シェリーが1/10ほどかしら。
一度に大量の魔力を操作するのは錬度が必要な上、シェリーはレベルが高い分MPも比例して増えているし、仕方ない部分はあるわね。
「いま貴女たちが一度に運べる魔力量が今の量よ。簡単に言えばリリちゃんが全体の1/5。シェリーが全体の1/10ね。これ以上増やそうとしても簡単には増えないし、うまく扱うことも出来ないわ。この量は何度も操って身体に染み込ませなさい」
頷く2人を見て、次のステップに取り掛かる。
「よろしい。では次にその魔力を近い方の手のひらまで運びなさい。その手の腕はまっすぐ伸ばして手のひらを上に。スピードは問わないわ。ゆっくりでも良いから、確実に運ぶのよ」
先ほど道を繋げた方向は、肩の近くまでだ。そこから先の手は、先ほど繋いでいた手の反対側にあたる。
これは講義にかこつけて、抱きしめやすくするためだけの措置である。他に意味はない。
「手のひらまで届いたら、そこで留めなさい。留め続けることも鍛錬になるわ」
ゆっくりとだが確実に、2人の魔力は移動していった。
リリちゃんは真剣な表情をしているが、楽しいのか口角が上がっている。
シェリーは運ぶ魔力が多い分、かなり集中しているようだ。汗も浮かんでいるし、かなりゆっくりと進ませていた。
「よろしい。ではまず、シェリーからね。こんなにたくさんの魔力を運んだことは無かっただろうから、疲れたでしょう? 最後にその魔力を魔法に変えます。氷や水を出そうとすれば今までの比ではない量と威力のモノが出るのは、なんとなく察しがついているでしょう?」
「ええ、ハッキリと。この力は後衛職にも出せなかった威力になるとわかる」
「ふふ、そうでしょうね。でも今回扱うのは炎です。シェリー、あなたは炎が出せないんじゃないわ。炎の出し方、炎の在り方を知らないだけ」
「……?」
怪訝な顔をするシェリーをそっと抱き寄せ、彼女の魔力渦巻く手の横に、私の手を添える。
「『ファイアーボール』」
魔法名の詠唱など、今のスキル値であれば不要ではあるが、解りやすくするために言葉にした。
私の手の上に出現した、直径50センチの炎の球は、ジリジリと焦がすような熱気を放ち、赤々と輝いている。
「シェリー、この炎の球、どう見える? どう感じる? どんな存在? これを敵にぶつけたらどうなると思う?」
「ああ、とても熱くて、輝くほど赤くて、そこに在るだけで呑まれてしまいそうだ。これを魔物にぶつければ、たちまち燃え尽きてしまうだろうな……」
「そう。シェリーにはそう見えるのね。ならば、想像しなさい。今貴女が口に出した存在を。貴女が思い描く炎の球を。魔力を媒体に魔法に変えてごらんなさい」
「想像……想像……、よし! 『ファイアーボール』!」
彼女は『ファイアーボール』を覚えていない。修得してもいないし炎スキルも0だ。
しかし、魔法名はイメージを直結しやすい。自身のイメージだけでは形付けない時、魔法名の詠唱はそれを後押ししてくれる。呪文詠唱? そんなのは知らないわ。
そんな彼女の手のひらに今、炎の球……いや、火の玉が現れた。
大分魔力をロスしたみたい。あの量なら本来、人の顔以上の大きさの炎になっていただろう。いまはせいぜいテニスボールと言ったところだ。
その形は歪で、真球ではなくデコボコだ。輝きも鈍く赤茶色だし、熱気もそこまで感じられない。これを敵にぶつけても火傷で済むだろう。
しかし、彼女にとって初めての、炎属性の魔法だった。
「できた……出来た! 出来たぞシラユキ!」
周りから歓声が上がる。みんな講義に夢中のようだ。警備はどうした警備は。
まぁ、近くには何もいないことは私も確認しているけれど。
「おめでとうシェリー。私はリリちゃんを見ておくから、貴女はそれを手のひらに維持していなさい」
「ああ……!」
次にリリちゃんだ。彼女はシェリーと違って、今まで魔法を使ったことがない。
シェリーは属性は違えど水や氷を魔法という形で構成したことがあったからこそ、簡単にイメージから炎を形にして見せた。
リリちゃんは今、シェリーの騒ぎに目を輝かせつつも、自身の魔力は一切霧散させず手のひらにとどめていた。うん、優秀ね。
「お待たせリリちゃん」
「お姉ちゃん、リリね、シェリーお姉さんのお話聞いてたよ。リリも試してみてもいい?」
「ええ、いいわよ。やってごらんなさい」
シェリーとの炎のイメージ共有を聞いていて、自分なりの炎のイメージがついたのね。
そして私が戻ってくるまで待っていたのだろう。ああ、本当にいい子。私の子にしちゃダメかしら?
撫でまわしたい欲求を抑えて彼女を見守る。
「とても熱くて、輝いていて、すごい音を出して、黒焦げにする……」
うん? すごい音?
「行くよ! ……『ファイアーボール』!」
『バリバリバリバリ!』
リリちゃんの手のひらに閃光が生まれた。
それはなんとか円形を保とうとしているが、今にも破裂して広がりそうな予感さえ感じさせられた。そして大きさはリリちゃんの小顔よりも大きいかもしれない。
……これは、もしかしなくとも、あかんやつでは?
「リリちゃん、それ、お空のかなたに飛んでいくイメージをしてみて」
「うん、わかった!」
このままでは危ないが、焦らすともっと危なくなりかねない。冷静に、でもスピーディに解決させるため、上空へと打ち上げてもらう。
ゆっくりとだが空に向かって飛んでいく。3メートル離れた辺りから形状維持が困難になったのか、どんどん解けて広がり始める。
想定外の事が起きたが、魔法を飛ばすという工程もなんとなしにクリアしてしまった。
……これも授業か。ゆっくりと登っていく『ファイアーボール』に私の『ファイアーボール』をぶつけた。
『バリッ……ガガーン!』
双方破裂した。そして横方向に雷炎が広がった。うん。
2人で『結合魔法』のような事をしてしまったわね。
あれがちゃんとした『サンダーボール』なら、『結合魔法』した結果の魔法は『踊る雷炎』が出来ていたかしら。
そう。『サンダーボール』だった。しかもほぼ見様見真似の域に達していた。形を維持できていなかったのは、注ぎ込んだ魔力が多すぎたせいだろう。
6属性の中で雷だけは、扱いを間違うと術者もケガを追うから授業は避けたつもりだったんだけれど、どこでその発想を……いや、なんとなくわかるけど。
「やったー! リリも魔法が出せたー!」
「リリちゃん、今のはどこから着想を得たのかなぁ?」
「うん、お姉ちゃんがさっきバリバリー! ってした時の思い出したの。あれも炎だもんね!」
う、うーん……確かに炎は使っていた。使っていたけれど炎の単一魔法ではない。
どう説明したものか考えていたら、一連の流れを黙ってみていた皆が、リリちゃんを褒め称えた。
魔法使いのお姉さんの興奮っぷりがヤバイ。リリちゃんを胴上げしそうな勢いすらある。
確かにすごい! すごいけど! 間違った知識を肯定しないでー!
『ああ、慌てる私もカワイイわ』
心の傷は手に負えないけどね。
「お姉ちゃん! さっきね、耳を塞いでたのに、バリバリってなって、ドカンってなって、グラグラってして、ブワってしてたよ!」
惨状を見て口を噤むメンバーを置いて1人大興奮のリリちゃん。彼女は将来大物かもしれない。っていうか私がそう育てたい。
なでくりなでくり。
「それじゃ帰りましょうか」
「あっ、シラユキの姐さんは休んでてください! 俺たちが前を歩いて露払いをします!」
「そうですね、シラユキさんは魔力をたくさん使っちゃいましたし、後ろでゆっくりしていてください!」
姐さん……舎弟がまた増えたみたい。今回の舎弟はカワイイからいいけど。
彼らの後ろをリリちゃんとシェリーちゃんと横並びになって進む。彼らは気合い十分みたいで、罠なんかもちゃんとチェックしながら進めているようだ。
「あの、シラユキさん」
「どうしましたか、シェリーちゃん」
「シラユキさんは恩人ですし、とても強い方なので……これからは敬語は不要でお願いします。シェリーと呼んでください」
「そうですか? ふふ、じゃあお言葉に甘えて。なら、シェリーも、さん付けや敬語は入らないわ。お友達になりましょ?」
「……! ああ、わかった」
手を握り微笑みかけると、シェリーは頬を染めながらはにかんだ。カワイイなぁ。
「お姉ちゃん、リリは?」
「ふふ、リリちゃんも大切なお友達よ」
「ほんと!? わーい!」
こっちもカワイイ。カワイイサンドか! 具の私はもっとカワイイから総じてカワイイわね!
あ、そう言えば気になってたことがあった。
「そう言えばリリちゃんっていくつなの?」
「12歳だよ」
「そっかあー、12歳かー」
ほんわかしてしまうが、その割には肉付きが少々心許ない……。それに頭も、ちょっとアホの子入ってる気がする。
ちゃんといっぱい食べなきゃダメよ? カワイイから良いけど。
「12歳か。となると、本来ならば明日の適性検査に参加していたのだろうな」
「適性? ……ああ、魔法属性の?」
そう言えばあったなぁ、そんな無駄なの。
「うん。でもリリは魔法出せないから……」
「ふむ……しかし一度ちゃんと見てみないと分からないこともある。せっかくの成人の儀式なんだ。受けてみた方がいい。しかし、街があの状態ではな。開催も怪しいが……」
っていうか適性検査って成人式でもあったのね。12で成人かぁ。だいぶ早いわね。もしかして子供を産める基準なのかしら?
「明日かぁ、それくらいあれば……よし。リリちゃん、魔法教えてあげよっか?」
「えっ、ほんと!?」
「ええ。ついでにシェリーの適性も教えてくれる?」
「私か? 私は水と氷だ。しかし前衛職だからな。出せるのは小さなものだ」
水と氷かぁ。便利な属性が使えるのね。それに、前衛職だから大したことがないだなんて……その発想は許せないわ。
徹底的に改めてあげましょうか。
「じゃあ2人には炎魔法が出せるように教えてあげるね」
「うん! 頑張るね!」
「む? シラユキ、私の適性に炎は無い。使うことはできないぞ」
「ふふ、その適性っていう教えが間違いだって教えてあげるわ」
私の言葉を飲み込むのに少し時間がかかったみたい。しばらく固まっていたが再起動すると信じられない物を見たような顔をした。
「……な、なんだって? それは本当なのか?」
「それを今から確かめましょうか。じゃあ2人とも、私の手をしっかり握ってね」
2人の柔らかい手を優しく握り返す。
魔法とはイメージとステータス、スキル値と所持魔法スキルによって発動に差異が出る。
しかしそもそもの話、イメージによって魔法を出現させるには、元となるMP。つまり魔力が必要となる。
魔力は体のどこかに固まって存在しており、その魔力を体外に運んでいき、イメージの力で組み上げる事で魔法という現象になる。
しかし、魔力を元の塊から体外へと上手く運搬することが出来なければ、そもそも魔法は発動しない。
体内には必ずMPの総量分の魔力が存在しており、どんな前衛職でも、MP0の職業は存在しない。つまり魔力は誰しも持っているものなのだ。
そしてMPの塊は『魔力溜まり』と呼ばれ、人によって場所はバラバラだ。
エクストラの職業に、『自分が覚えている魔法を、魔法書として作成する』という能力を持った『紡ぎ手』という職業がある。
魔法のランクによって魔法書に用いる素材が異なるが、一度覚えてしまえばどんな魔法でも複製が可能となる職業だ。
魔法書を作るには、頭の中の魔法解説を、ひたすら本に書き込んでいくと言う重労働をしなければならない。そうするための必要技量として『紡ぎ手』には『魔力視』というスキルがある。
これは生物が持つ魔力の流れを『視る』ことが出来る能力だ。そのため、生産職の低いにステータスにもかかわらず、大型ボスの魔力を感知して危険を知らせる司令塔として呼ばれることもあった。
閑話休題。
つまり、他の人の魔力の流れが分かるのであれば、魔法を教えるのにも役立つ! と思った次第だ。間違ってたら別の手段を考える。
「じゃあ今から私の魔力を2人に流すね。感じられたらどこにあるか口に出して教えて」
2人に魔法に変える前の魔力を両手を伝って体内に送る。MP値でいえば50……ランス3発、ボール10発分といったところ。
「暖かいな。これがシラユキの魔力か。今は右胸に集まっている」
「なんだかお腹がポカポカする」
「うん、ちゃんと感じられているね。それじゃあこの魔力を動かしていくから、今どこにあるか指でさしながら追い続けて」
集中させるために握っていた手を離す。魔力は慣れれば遠隔操作も可能だ。
別々の場所にある2つの魔力を、自分の意思で動かし続けるのは慣れが要るが、これも自分のスキルアップになる。ただ、何の属性もない魔力の状態のため、実際のスキル値に反映されることはないが。
ふと前を見て気付く。先行を買って出た冒険者パーティが聞き耳を立てていた。
「帰って時間があるときにあなた達にもレクチャーしてあげるわ」
4人とも大喜びしている。全く、カワイイ子達ね。
そうして森を抜け、草原に出た。修行は歩きながらでもできるが、集中してやってほしいところなのでいったん休憩する事にする。
「私たちのレクチャーが終わるまで、見張りはよろしくね」
「はい! 任せてください!」
舎弟2号が元気よく答える。うんうん、カワイイわね。さて、2人の様子は、と。
「わ、急に速くなった!」
「なっ! 二つに分かれただと!?」
「あはは、グルグルしてる!」
「くっ、指が絡まる!」
2人とも魔力を認識する力は十分についたみたい。ここで終わらせるとまた感じられなくなるから、今は次のステップに急ぐ。
ちなみにシェリーはあえて難易度高めだ。魔法使用の経験者ですもの。多少はね?
「2人とも、実は途中から魔力を減らしていったんだけど、気付いてた?」
「うん。どんどん小さくなっていったよ」
「あっ、本当だ。二つ合わせても最初よりわずかに小さい。しかし最初よりもしっかり感じられる」
リリちゃんは才能あるかも。シェリーも、最終的に気づいたから合格かな?
残した魔力はMPで言うと30ほど。これを彼女達の『魔力溜まり』を囲い込むように広げる。
「それじゃあ次に、2人の『魔力溜まり』を説明するね。リリちゃんは心臓近く、シェリーはお腹の辺りにあるようね。今私が囲い込んでる中に2人の魔力があるの。感じられるかしら?」
「……うん、お姉ちゃんのよりぼやけてるけど、感じるよ。コレがリリの魔力なんだ……」
「私にもわかるぞ。今まで不確かだったものが、鮮明に感じられる……」
「2人とも私の魔力を追いかけた事で、魔力がどういうものか感覚的に理解できる状態になったわ。あとは自分の魔力がどこにあるのかを知るだけで、ハッキリと認識ができるようになったの。最後に今日の講義の締めくくりをするわね?」
「「よろしくお願いします!」」
自分には魔力がないと思っていたリリちゃんも、魔法の扱いが分からなかったシェリーも、自分の中にハッキリと魔力がある事を感じられて嬉しそう。カワイイなぁ、教えがいがあるわね。
「じゃあ今から私の魔力で作った囲いを一部延ばして道を作るわ。その隙間を通っていくように、イメージするのよ。動け、ってね。そうやって魔力を、動かせるだけ動かしてみなさい」
そう指示を受けた彼女たちは、自身の『魔力溜まり』から魔力の移動を始めた。
結果的に移動できたのは、リリちゃんが1/5。シェリーが1/10ほどかしら。
一度に大量の魔力を操作するのは錬度が必要な上、シェリーはレベルが高い分MPも比例して増えているし、仕方ない部分はあるわね。
「いま貴女たちが一度に運べる魔力量が今の量よ。簡単に言えばリリちゃんが全体の1/5。シェリーが全体の1/10ね。これ以上増やそうとしても簡単には増えないし、うまく扱うことも出来ないわ。この量は何度も操って身体に染み込ませなさい」
頷く2人を見て、次のステップに取り掛かる。
「よろしい。では次にその魔力を近い方の手のひらまで運びなさい。その手の腕はまっすぐ伸ばして手のひらを上に。スピードは問わないわ。ゆっくりでも良いから、確実に運ぶのよ」
先ほど道を繋げた方向は、肩の近くまでだ。そこから先の手は、先ほど繋いでいた手の反対側にあたる。
これは講義にかこつけて、抱きしめやすくするためだけの措置である。他に意味はない。
「手のひらまで届いたら、そこで留めなさい。留め続けることも鍛錬になるわ」
ゆっくりとだが確実に、2人の魔力は移動していった。
リリちゃんは真剣な表情をしているが、楽しいのか口角が上がっている。
シェリーは運ぶ魔力が多い分、かなり集中しているようだ。汗も浮かんでいるし、かなりゆっくりと進ませていた。
「よろしい。ではまず、シェリーからね。こんなにたくさんの魔力を運んだことは無かっただろうから、疲れたでしょう? 最後にその魔力を魔法に変えます。氷や水を出そうとすれば今までの比ではない量と威力のモノが出るのは、なんとなく察しがついているでしょう?」
「ええ、ハッキリと。この力は後衛職にも出せなかった威力になるとわかる」
「ふふ、そうでしょうね。でも今回扱うのは炎です。シェリー、あなたは炎が出せないんじゃないわ。炎の出し方、炎の在り方を知らないだけ」
「……?」
怪訝な顔をするシェリーをそっと抱き寄せ、彼女の魔力渦巻く手の横に、私の手を添える。
「『ファイアーボール』」
魔法名の詠唱など、今のスキル値であれば不要ではあるが、解りやすくするために言葉にした。
私の手の上に出現した、直径50センチの炎の球は、ジリジリと焦がすような熱気を放ち、赤々と輝いている。
「シェリー、この炎の球、どう見える? どう感じる? どんな存在? これを敵にぶつけたらどうなると思う?」
「ああ、とても熱くて、輝くほど赤くて、そこに在るだけで呑まれてしまいそうだ。これを魔物にぶつければ、たちまち燃え尽きてしまうだろうな……」
「そう。シェリーにはそう見えるのね。ならば、想像しなさい。今貴女が口に出した存在を。貴女が思い描く炎の球を。魔力を媒体に魔法に変えてごらんなさい」
「想像……想像……、よし! 『ファイアーボール』!」
彼女は『ファイアーボール』を覚えていない。修得してもいないし炎スキルも0だ。
しかし、魔法名はイメージを直結しやすい。自身のイメージだけでは形付けない時、魔法名の詠唱はそれを後押ししてくれる。呪文詠唱? そんなのは知らないわ。
そんな彼女の手のひらに今、炎の球……いや、火の玉が現れた。
大分魔力をロスしたみたい。あの量なら本来、人の顔以上の大きさの炎になっていただろう。いまはせいぜいテニスボールと言ったところだ。
その形は歪で、真球ではなくデコボコだ。輝きも鈍く赤茶色だし、熱気もそこまで感じられない。これを敵にぶつけても火傷で済むだろう。
しかし、彼女にとって初めての、炎属性の魔法だった。
「できた……出来た! 出来たぞシラユキ!」
周りから歓声が上がる。みんな講義に夢中のようだ。警備はどうした警備は。
まぁ、近くには何もいないことは私も確認しているけれど。
「おめでとうシェリー。私はリリちゃんを見ておくから、貴女はそれを手のひらに維持していなさい」
「ああ……!」
次にリリちゃんだ。彼女はシェリーと違って、今まで魔法を使ったことがない。
シェリーは属性は違えど水や氷を魔法という形で構成したことがあったからこそ、簡単にイメージから炎を形にして見せた。
リリちゃんは今、シェリーの騒ぎに目を輝かせつつも、自身の魔力は一切霧散させず手のひらにとどめていた。うん、優秀ね。
「お待たせリリちゃん」
「お姉ちゃん、リリね、シェリーお姉さんのお話聞いてたよ。リリも試してみてもいい?」
「ええ、いいわよ。やってごらんなさい」
シェリーとの炎のイメージ共有を聞いていて、自分なりの炎のイメージがついたのね。
そして私が戻ってくるまで待っていたのだろう。ああ、本当にいい子。私の子にしちゃダメかしら?
撫でまわしたい欲求を抑えて彼女を見守る。
「とても熱くて、輝いていて、すごい音を出して、黒焦げにする……」
うん? すごい音?
「行くよ! ……『ファイアーボール』!」
『バリバリバリバリ!』
リリちゃんの手のひらに閃光が生まれた。
それはなんとか円形を保とうとしているが、今にも破裂して広がりそうな予感さえ感じさせられた。そして大きさはリリちゃんの小顔よりも大きいかもしれない。
……これは、もしかしなくとも、あかんやつでは?
「リリちゃん、それ、お空のかなたに飛んでいくイメージをしてみて」
「うん、わかった!」
このままでは危ないが、焦らすともっと危なくなりかねない。冷静に、でもスピーディに解決させるため、上空へと打ち上げてもらう。
ゆっくりとだが空に向かって飛んでいく。3メートル離れた辺りから形状維持が困難になったのか、どんどん解けて広がり始める。
想定外の事が起きたが、魔法を飛ばすという工程もなんとなしにクリアしてしまった。
……これも授業か。ゆっくりと登っていく『ファイアーボール』に私の『ファイアーボール』をぶつけた。
『バリッ……ガガーン!』
双方破裂した。そして横方向に雷炎が広がった。うん。
2人で『結合魔法』のような事をしてしまったわね。
あれがちゃんとした『サンダーボール』なら、『結合魔法』した結果の魔法は『踊る雷炎』が出来ていたかしら。
そう。『サンダーボール』だった。しかもほぼ見様見真似の域に達していた。形を維持できていなかったのは、注ぎ込んだ魔力が多すぎたせいだろう。
6属性の中で雷だけは、扱いを間違うと術者もケガを追うから授業は避けたつもりだったんだけれど、どこでその発想を……いや、なんとなくわかるけど。
「やったー! リリも魔法が出せたー!」
「リリちゃん、今のはどこから着想を得たのかなぁ?」
「うん、お姉ちゃんがさっきバリバリー! ってした時の思い出したの。あれも炎だもんね!」
う、うーん……確かに炎は使っていた。使っていたけれど炎の単一魔法ではない。
どう説明したものか考えていたら、一連の流れを黙ってみていた皆が、リリちゃんを褒め称えた。
魔法使いのお姉さんの興奮っぷりがヤバイ。リリちゃんを胴上げしそうな勢いすらある。
確かにすごい! すごいけど! 間違った知識を肯定しないでー!
『ああ、慌てる私もカワイイわ』
0
1/19の20時の投稿で他サイトで投稿中のものに追いつきます。以後隔日で20:01頃投稿予定です。
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皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
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日本列島、時震により転移す!
黄昏人
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2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双
さこゼロ
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突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。
ある者は聖騎士の剣と盾、
ある者は聖女のローブ、
それぞれのスマホからアイテムが出現する。
そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。
ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか…
if分岐の続編として、
「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)
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俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
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俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
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ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
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異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
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家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?
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クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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