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三章
5 ロールキャベツ(後編)
しおりを挟む「じゃあ失礼します。」
満面の笑みで鏡の前に座るジョンの髪を葛西さんが触り始めた。
「じゃあ、ソジンさんは、今日はどうします?」
「ぁー…いつもと同じ、おまかせで。」
「えっと…そうですねぇ、
髪は伸びる前の短めにカットして
こんな風に伸びてもいい感じになるように…
カラーはどうしましょっか?
明るいのが続いてるけど…
毛先中心に同じ明るめのカラーに染めるか、
ちょっと暗めに落ち着かせるか…」
「うーん…別にどっちでも…」
「あ、チョンさんの意見を聞いてみましょ、
チョンさん!!ソジンさんの髪色、
今みたいに明るめか、少し落ち着かせるか…
どんな色がいいと思います?
アッシュ系とかでも落ち着くだろうし、
部分的にメッシュもオシャレ度アップ…」
「今の明るめの髪も好きですけど、
……ちょっと雰囲気変えるなら
昔みたいな自然な黒かな。」
「…昔?」
「……昔のソジンさんの事も沢山知ってるので…」
「えっと、そうですね、黒で。」
店内には僕達以外にも数人のお客さんがいる。
さっきまでは隣に座ってカットしていたから何となくは話しも出来たけど、僕が髪を染める頃にはジョンと離れた場所に座らされていた。
そんなに広くない店内。
他の美容師さんやお客さんからの視線がジョンにいっている事がよく分かる。
……彼、雰囲気あるからつい目で追っちゃいますよね…彼、僕の恋人なんです……
離れて座っている僕達の関係を勘繰る人なんて、いないだろうな……
少しだけ、淋しくなってしまう。
さっきは西口さんと葛西さんに勘繰られたらどうしようって思っていたのに。
矛盾だ。そう、矛盾だけど、ジョンと恋人同士な事実が夢なんじゃないか、って思うくらいだから…みんなに認知されたら、実感も湧くのかな、なんて、自分勝手な事を思ったり……
僕が全て終わる頃には、ジョンはどこかで待ってくれているはず。
「お疲れ様でしたー。あ、ソジンさん。
もうお会計は頂いてて、
こちらソジンさんのメンバーズカードです。
お返しします。」
「え、お会計…」
カードを受け取ると、西口さんが出入口近くのソファに座るジョンを指差す。
「…ジョン…」
「お疲れ!じゃ帰ろっか。」
ジョンが立ち上がり、店の人達に挨拶をし、僕の一歩前を歩いて店を出た。
「ジョン、お待たせ。」
「ううん。全然。」
…髪型はコートのフードを被ってしまっていてどんな風になったか見れない。
振り返らないジョンの背中に話しかける。
「……どうしたの?髪型気に入らない?」
ジョンがパッとフードを下ろした。
けど振り返らない。
「ううん。普通に良い感じ。
なんか、マウントに感じて…」
「へぇ??マウント?」
「……うん。マウント。
さっきの西口さん?が。俺に対して。
まぁ俺が…ムキになったっていうか……」
ちょうど車を停めている地下の駐車場に進み、全くひと気が無くなったところでバッとジョンが振り返ってきた。
「だって、絶対あの西口さん?より?
俺の方がジンが可愛いって知ってるし。」
「…ぁあ。マウント…」
「…昔の動画とかチョー見たし。で、
昔のジンもチョー可愛いの知ってるし。
黒髪のジン、昔みたいで、
これはこれで可愛い。」
ジョンの右手が伸びてきて、僕の髪をワシャワシャと掻き出す。
「……可愛…くはないけど、…まぁありがと。」
「可愛い。……俺はどう?」
ワシャワシャと動いていた手が髪を撫でる動きになって、さっき髪を切ったばかりのジョンが間近で僕を見つめてくる。
「……ちょっと、やっぱり雰囲気変わる。
ドキドキ…」
「そう?今回は俺チョー普通だと思うけど。」
「まぁ…普通の髪型かも知れなけど。」
「ジンは普通がいいんだね。
…まぁ気分でまた変えるかも知れないけど…
けど……ジンが嫌なら…少しにするけど…」
「……」
「……ジン?」
なんだか、少し寂しそうに…僕を見つめてくるジョン。
なんで……こんなに、真っ直ぐなんだろう。
なんでこんなにジョンは真っ直ぐに僕を愛してくれるんだろう。
「ドキドキするんだよ!困るの!
普通に接せられないくらいなの!
……ジョンの髪型、変わるたびに、
………凄くドキドキするんだよ……」
「……ジン…」
「髪型は変わってもいつものジョンって分かってる。
分かってるんだけど、ドキドキするし…
や、まぁ、髪型どうこう関係なく
ドキドキするんだけど……
髪型変わると、ホント、いつもと違くて
緊張っていうか、変な感じで…
慣れないっていうか、え、僕、
恋人にこんな緊張する?とか思って…………
………カッコ良すぎるから、困るんだよ…」
慣れる、とか、飽きる、とか。
そんな感情……まだまだで……
僕の感情って………カッコ悪いくらいただただ好きで、ドキドキして。
……ホント困る。
「……ね、バカでしょ、僕。ホント困る…」
「……うそ。いつもあんまり反応ないから、
何でもいいっていうか、
何とも思われてないんだと思ってた…
何その可愛い反応…」
ジョンに手を引っ張られ、クルマの後部座席へ一緒に乗り込んだ。
「ちょ、ちょ、何?何?」
ジョンの膝の上に引っ張られて誘導される。
「な、何、え、ここ駐車場…」
「うん。誰も来なそうな駐車場。
そして誰か来ても見られない後部座席。」
ジョンの膝の上に乗った僕の少し下から、ニコニコと蕩ける笑顔を向けてくるジョン。
……たまらず、僕から唇を重ねた。
「…もぅ……」
ため息か吐息か分からないくらいの息と、軽く舌を合わせる程度のキス。
「ん、…もっと…」
もうやめようかと舌を引くと、ジョンが両手でしっかりと僕の頭や首を引き寄せてキスをするからどんどん深みが増していく。
けど…いや…ここ、車の中とはいえ、外だし…
「…ッ………」
キスが深くなると、ジョンの手や舌の動きでたまらなくなってくる。
ここでは……
腰を引き、ジョンの上から退きたくてもジョンの力で余計にキスを深くされる。
そして…ジョンが僕のお尻に手を動かしてきた。
「……んッ、ダメだって…」
「…ダメ?ジンが可愛いのが悪いんだよ…」
唇を離してジョンの瞳を見つめると、……瞳が、もうどうしようもなく蕩けている。
流されてしまう。
ジョンはもう、当然のように僕のこと流せると思っているはず。
そう、当然なんだ…
甘く低く囁いてくる掠れた声が、軽いキスの合間合間に強烈な刺激で理性を潰してくる。
「……ダメとか言わないでよ……」
「……ほんと、ッ…困るって……」
腰からお尻にかけて撫でられただけで、ビクンと思い切り体が反応してしまった。
「ッッ……も、ぅ……ジョッ……」
「……ちょっとだけ……ね?」
甘えるように問いかけられたのか?
僕が逆に優しく宥められたのか?
思考は巡るけどもうそんな事どうでもいいほどジョンの手に翻弄されている。
僕は必死にジョンの頭を抱えてカットされたばかりの髪をくしゃくしゃにしながら、ジョンの唇を求めるだけに必死になった。
ジョンの手がいろいろと動いて…僕が上のまま、ジョンの昂まったものに僕が沈められる。
感じすぎてジョンに全身崩れるようにもたれかかると、思い切り抱きしめられる。
外気は寒いしクルマの中もまだエンジンさえ付けていない。
けど寒さなんて感じない。
触れ合っている所が熱くてしょうがない。
必要な所だけ脱いだ僕達…僕の足元にはズボンが完全に落ちてしまっている。
割と広い後部座席でも、ベットのいつもようには動けずに窮屈。
窮屈だけど、だからこそ必死に求めて…
単純な動きを繰り返して…
必要以上にお互いを見つめて…
抱きしめ合いながら……………流された。
これ以上くっつけないのに、必死に抱きしめ合いながら……達した。
僕達の家に帰り、2人でシャワーを浴び、ご飯の用意をしながらいつものようにジョンが後ろからくっついてきた。
「カーセックス。」
「な、ッ?………そう、だね。」
「まぁまぁいいね。
またジンと美容室行こうかな。」
「なんのために?!」
「…さぁ?なんでしょう…」
「な、んだよ……」
クスクスと笑いながら後ろから見つめてくるジョン。
そんなジョンに何度もドキッとする僕。
「あーーもう出来上がり?
チョー美味しそう!」
「でしょ?ハンバーグはいつも美味しいし、
ロールキャベツはまたこのキャベツとの
組み合わせも美味しいし…」
「ジンの料理は
なんでも美味しいという事で。」
「……そう。ジョンの今回の髪型も
いつも通りカッコいいという事で。」
「それを言うならー…
ジンの黒髪……可愛いと思ってたけど…
もうなんだろね?今なんか濡れてるし、
また犯しちゃいたいほどセクシーなんだけど…」
「ッッ!はいはい!もう食べますよ!」
ジョンの唇が僕の首を這い出したけれど、今はこのロールキャベツをッ…
トロッと今回はトマトソースで煮込んだロールキャベツ。
お皿によそい、そのまま柔らかいロールキャベツをスプーンですくってジョンの口に一口運んだ。
「…ん!!うま、よし、頂こう!」
一口食べたらもっと食べたくなったようで、そのお皿を受け取り、僕のお皿も持ち、ダイニングテーブルへと進みだした。
僕はサラダや飲み物を乗せたトレーを持ち…
「食べよっ!あ!キムチキムチ…」
「キムチ!こりゃキムチあうね!最高だ!」
キムチやチーズもトレーに乗せ、ジョンの隣りの席へ向かった。
『いただきます』の手を合わせながら
僕を待つ……笑顔が絶えない恋人の隣へ。
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