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学生.柾臣×BER店員大学生.哩月

柾臣×哩月 ⑶

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「まだ怒ってんの?」

洗面所で朝の身支度。
運が悪い事に木曜の今日は1限からで、柾臣まさおみが高校へ出かける時間と被ってしまう。 

隣から呑気に柾臣が聞いて来た。聞こえてるけど聞こえてない事に。

「………怒ってる……りつ兄のヨーグルト
食べちゃったから謝ろうと思ったのに。」

………謝れよ。
まぁいい。いつも口先だけだし。そんな挑発にも乗らず、聞こえない事にして歯磨きを済ませて顔を洗い、タオルを…柾臣が差し出すタオルを受け取って顔を拭いた。

「………」

僕が怒っていようといまいと何も変わらない柾臣。
まぁ両親の前では普通に会話をするからそれ程深刻には感じないんだろう。それか…ホント人の気持ちなんて考えて無いか。

制服姿の柾臣を見ると、改めて高校生だしキラキラ若いし…弟だし……
こっちを伺いながら歯磨きをし始めた柾臣に、思い切り溜め息を吐いて洗面所を出た。

先日寝込みを襲われてからもう柾臣とは会話をしないと心に決めた。会話が成り立たない事に気付いたから。

あの日、両親の帰りがまだだったとは言え僕のベットで一緒に朝まで寝てるし、部屋から上半身裸で出てきたと思ったら『おはよ…』とか言って寝ぼけながらリビングで抱きついて来た。

義兄弟になるって分かってて、義兄弟なのに両親と住む家で、sex出来る義弟との意思疎通は無理なんだ。


「「いってらっしゃい!」」

両親2人から見送られる中、出かけようとすると柾臣が追いかけて来る。

「りつ兄!駅まで一緒に行こ!」

「……うん。そうだね…
じゃあ、行ってきます。」

両親の前で断れない僕に玄関で肩まで組んで来た。
扉が閉まった瞬間、肩の上の柾臣の手を捻って剥がす。

「痛っっ!ひどっ!」

「……酷いのはどっちか自分の胸に聞け。」

…素直に自分の胸に手を当てる柾臣。
睨みながら歩き出す僕の隣をついて来る。

「肩は組んでも普通だよね?うん。
りつ兄だって組んで来た事あるし。
どっちが酷い…?ん…?
胸に聞いても分からないな。
あ、りつ兄の胸?」

隣から手を伸ばして来て…胸を触ろうとする柾臣の手を握って止めた。

「………」

「………」

右手で柾臣の左手首を掴んだまま歩く。
振り解こうとする柾臣も、そんなに力は入れてこない。
側から見ればふざけ合う兄弟にしか見えないだろうな。

「……仲良くしようよ?」

「…仲良くしてるだろっ!」

「親の前ではね。…2人の時も…」

「………」

柾臣の左手の動きが止まり、腕が下がると同時に僕も自然と柾臣から手を離した。


「……もしさ、
僕がりつ兄に会いに行かないまま…
まっさらの状態で義兄弟になってたら、
どうだったと思う?
りつ兄は…
優しいお兄ちゃんになってたかも知れないけど
弟から変な目で見られてた事は確かだし…
どうせ嫌われるなら、
僕はあの日ホテルで過ごせて良かったと…」

「おい!」

急に声を出した僕に驚きこっちを見る柾臣。僕は周りに視線を移して人に聞かれそうな事を伝える。

「……」



『どうだったと思う?』

…お前が…
兄から変な目で見られてた事も確かだよ。

けど、僕は…抱こうとも、抱かれようとも、思わなかったはず…
……思ってしまったとしても、行動には移さなかったはずだ。

どんなに悩んでも。



 


『…明日のお天気です。
暖かい日が続いていましたが急な寒波です。
明日昼頃から都心でも大雪の予報ですので
交通情報にご注意を。
早めの帰宅など…』

バイト終わり、やるために迎えに来たタチの男と深夜なのにラーメンを食べに来た。
ラーメン屋は終電間際でも酒の後に食べに来る客で繁盛している中、テレビの近くに座ったから天気予報が聞こえた。

「ほら、大雪だから交通情報気をつけてって。
だからホテル行かずに帰らないと。」

「雪が降るのは明日昼からだって。
明日の朝はなんも心配ないのにー…
久しぶりにりつきさんに会えたのにー…」

「約束してないのに
ラーメンデートはしてるでしょ。今度ね今度。」

「えー…今まで約束してなくても、
りつきさんフリーな時はOKだったじゃん。」

「だから、明日早く予定があるんだって。」


ホテルへの誘いに何故か乗れない僕。

前は早く違う男とSEXして柾臣の感触を消さないと…と思ったけど、今となっては柾臣との身体や気持ちの違いに気付いて余計に落ち込みそうで怖くなった。


「…今度ね。今度は絶対ね。
このラーメン旨いね。」

隣に並んでラーメンを啜り、念を押してくる男に、きちんと約束は出来ずに軽く流す。

「……そのうちね。」

こっちを睨む視線は感じるけど、あえて気づかないフリ。

「?りつきさんのケータイ鳴ってない?」

僕のポケットから小さな着信音と振動。
これにも気づかないフリをしていた。


どうせヤリたいっていう男からの誘い。
……それか柾臣だ。

誰かとホテルに行くのを阻止しようとしてる。

でも出ない。

話す事なんてない。






「……おかえり。」

深夜なのに、18歳のくせに、柾臣は起きていて寝る前シャワーに入って歯を磨く僕の所へ洗面所のドアを開けわざわざ挨拶しに来た。

「……」

電話もシカトしてるし、返事されないって分かりそうな筈なのに。

「…明日さ、大雪になるかもだって。
電車止まるかも。大学は?」

「……ない。」

「あ、家にいる?
親父は出張だから関係ないけど…
義母さんは帰れなくなったら会社に泊まっ…」

「あー…この家にまた僕達2人…
…そういう事…どうだっていいから。」

今も上で寝ている両親がいつ起きてくるか…

廊下から扉のドアノブを持ったままの柾臣、洗面所の灯りを消し柾臣の横をすり抜けて廊下へ出た。

「…おやすみ。」

自分の部屋へ向かう。
後ろからは流石に何も聞こえて来なかった。
…言い過ぎたかな。

両親の前じゃなければ僕達の挨拶は一方通行だ。






とても静かな朝。
もう昼前か。

……何度かケータイが鳴った。
着信を確かめると柾臣。
何かあったかな……けどもし重要な事ならメールを送ってくるだろ…

まだ寝ぼけたまま布団に潜る。

睡眠時間がまだ足りない。
夜型な僕は、朝まで目が冴えてしまい寝れなかった。

もしかしたら雪が降ってるのかも。
雪が降ると音まで消すからホント静かで…



自動車の音もしない。

風の音もしない。

家の中の生活音もしない。

もう夜かな?
着信音の度に切っては投げていたケータイを布団の隙間から探し出した。

……昼過ぎ。…部屋は普段よりも明るい…?
窓の外を見ると全てが真っ白だ。
そしてまだ降り続いてる。

ベットから出たら寒すぎてエアコンを付けようとリモコンを押してもエラーを告げるだけ。壊れた?
しょうがなくリビングに向かい、エアコンとテレビを付けようとしたけど…全てが反応してくれない。
電気自体が止まってる。

…義父さんは出張と言っていた。
…母さんはもしかしたら会社に泊まると言っていた。
…柾臣は……?僕は何の心配もしてなかった。


何度もあった着信……

凄く胸騒ぎがして柾臣へ電話をすると…

『…あ!!りつ兄!寝てた?』

いつも通りの声…凄く安心した。

「…ああ。うん、ごめん。
そっちは?何かあった?」

『え?あー雪?凄いね。まだ凄い降ってるよ。
だから高校も休校になったんだけと…
電気大丈夫?』

「電気止まってるみたい。
ケータイの充電もなくて……」

…………!
急に無音になるケータイ。
画面も真っ黒になってしまった。
…………最悪だ。
停電の対策なんて何もしていない。
モバイルバッテリーでさえ…

誰とも連絡取れないのに、慣れないこの家に1人……
柾臣、帰って来れるのかな…
いや…帰って来ても停電してるし、明日は土曜だし、何処かに泊まった方が…

……この停電はいつまでだろう?
雪でも停電になるんだな…
明るいうちに灯す物を用意しとこう。
…この寒さをどうにかしないとな。
ガスは使えるからお湯を沸かし、暖かい飲み物を自分の部屋で飲む事にした。
布団に入っていればしのげるはず。
あ、後で空いたペットボトルにお湯を入れて湯たんぽに…

…睡眠時間は十分でもう眠くない。
勉強しようとしてもペンを持つ手がかじかむ。
…落ち着かない。
近くのコンビニに行って充電出来る物を探そうかな。
柾臣と連絡取れないし…

……柾臣……大丈夫かな……



静かな家に、玄関のドアの鍵が開く音が響いた。
……誰か…帰って来た。

心細い状況で、誰かの帰りが凄く嬉しくてベットから飛び出し階段を駆け下りる。
玄関に向かうと雪を頭や肩に乗せたままの柾臣が見えて……
思い切り抱き着いた。

「…っ!りつ兄…どうし……
え!寒いでしょ?濡れちゃってない?!」

「……着替える。」

パジャマが確かに冷たい。
けど、誰かが……柾臣が、帰って来て凄く…

「ああ、着替えてとりあえず毛布被ってて?
あ、そこの倉庫の鍵取ってくれる?」

「…どれ?」

廊下の棚に何個か鍵があり、それを柾臣に渡す。

「外の灯油持って来るから…」

そう言ってテキパキ動く柾臣。
仕舞ってあった石油ストーブを出して僕の部屋に運び火を付けたり。
柾臣の鞄からモバイルバッテリーを出して僕のケイタイを充電してくれたり。

僕はとりあえず暖かくなったストーブに用意していたケトルを乗せ、ストーブの前であぐらをかく柾臣の濡れた頭を用意していたタオルで拭いてみた。

「…歩いてる人なんて居なかったでしょ?」

「まぁ…予想より大雪で交通手段全滅だね。
いろんな所に車がスリップしたまま
置きっぱなし。」

「……どこに居たの?
学校から歩いて来たの?」

「……近くの友達ん家。
…ウチの地区だけ電線の関係でか、
いつも停電が多いんだ。
……だからりつ兄が心配で電話してたんだけど…」

「……ごめん。
2人きり…とか…僕が怒るからだよね。」

「………いや…確かにそう思っちゃうし、
行動にも出ちゃうから……」

相変わらず静かな僕の部屋、
柾臣はされるがままにずっと髪を拭かれていて俯いたままだ。

「……凄く…心配してくれたんだね。
雪…吹雪の中…帰って来てくれたし。
ありがとう。助かった。
えっと…玄関でつい抱き着いたけど
………こういう時、柾臣が弟で良かったって…
凄く思ってる。………都合よくてごめん。」

ゆっくり僕を見上げてくる柾臣の大きな瞳。
潤んだ瞳はどこか視線が移ろい気味だし、緩く開いたピンク唇は何か言いたげだ…

視線が重なり、僕が軽く笑うと、柾臣は軽く頷いた。

「…………妥協策。ナシにしよう。
僕が、義兄になるりつ兄の
親も知らないバイト先を探し当てて
会いに行った事。
ホテルに行った事を、全部。
そんでりつ兄が寝てる時の事は…
あれは夢って事で。」

「………ナシに?出来るのか?」

「うん。りつ兄はそれが良かったんでしょ?」

「そうだね。
それならお前に怒ったりはしてないね。」

「…ただ、
いつもは何も無かった事にするけど…
絶対、絶対に両親が帰って来ない時だけ
りつ兄に触ってもいい?
もう、一緒のベットで寝たりしないし…
バイト先に行ったり電話を沢山かけたりして
邪魔したりしないから…」

「………」

………可愛いおねだり。

そこまでして僕に触りたい?
他のヤツとホテルに行って欲しくない?
それとも僕との事、ナシにするのは簡単?

返事が出来ない僕に、伏し目がち、思い切り顎を上げ、下から首を傾げて近づいて来る。


……お前にとっても良い条件だろ?
……そうやってお前は歳下に甘えるのか?
……お前達が無しって言っても
実際無しになんてならないだろ?

自分じゃない誰かから、柾臣や僕に沢山囁かれてる気がする。

煩い。
何もかも、ナシになればいいのに。


重なった冷たい唇がお互いの体温で溶かされる。
舌を伸ばし絡め合い、交互に口の中に入れて吸い付かれたり。
…最初に唇を重ねたあの日より、何倍も柾臣を求めてるのが自分でも分かる。

甘いキスを繰り返し、柾臣の舌が執拗に口内の奥へと進んで来る。
その勢いと熱はSEXで奥を突かれてるような感覚。
体勢が下になった僕の口元からは溢れる唾液。
僕はゆっくり背中から床に崩れると柾臣は離れずにそのまま上から組み敷く体勢に。

柾臣は半分キスに集中しながら、もう半分で上手に洋服を脱いでいく。
可愛い顔して、こんな動きするから…ホントにズルイ。

脱ぎ捨てたダウンの上に、ジャケット、ネクタイが積み重なっていく。

キスをしながら柾臣が脱いでいくのを盗み見ていたら余計に煽られて疼く。
柾臣の顔を両手で抑えながらキスを深くする。
…キスしたいけど、脱いで欲しい。
…キスしていたいけど、脱ぐ姿も見たい。

柾臣に対して沢山の気持ちが溢れて、よく分からない欲情、定まらない感情…
グチャグチャな気持ちのままキスを繰り返し、冷たい手でお互いに触れ、溶けた指先で煽り、お互い全て脱ぎ捨てて…

床に転がったまま柾臣を身体の奥深くで受け入れた。
 
「………ッ……ぁッ……すご、ッ……」

「り、つ…にぃ…………ッ…キ…」

奥でピクピクと痙攣してるのは、自分の内臓か…グクのか…

ケトルからはお湯が沸いて沢山の湯気。
上がった息を整えようとする僕達の熱い呼吸。

柾臣が上から動こうとしないから、僕もうつ伏せになったままストーブの炎の様な真っ赤な丸い部分を見つめていた。

まっさらになんて…なれないのに。

今は雪が僕達を隠してくれていても、溶けたらいつ誰に見つかるか分からないのに。

「………ん…ぁッ…」

身体から柾臣のが抜かれ、つい甘い声が出てしまった。

「抜いて欲しくなかった?また入れようか?」

すぐ上で柾臣がイタズラに微笑む。

「………水持って来てくれる?
ケトルのお湯と混ぜてタオルを濡らして身体拭くから。」

「……はい。」

柾臣の妥協策に乗るべきか分からないけど…

いつでも義兄としての自分に、切り替えが出来るようにしないと。


渋々と裸のまま部屋を出ようとした柾臣。

「寒っ!」

「先に自分の部屋で服着て来いよ?」

「ん。」

閉まる扉。

…柾臣はなんであんなに男らしいんだろう。

裸で歩いたって全てが理想的だからか、姿勢が良いからか、彫刻みたいだ。

「はぁ……」


もう何に悩んでるのか、何を悩んだらいいのか…数が多すぎて分からなくなった。

「まずは晩ご飯か…」


まずは、普通の義兄弟として過ごしていこう。


いつかは本当に'ナシ'にしないと。


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