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社会人.俊×社会人.望
俊×望 ⑴
しおりを挟む「望ちゃん、おかえりなさーーぃ」
「ただいまーー」
会社からも自宅からも立寄りやすくて、いつでもフラッと入れるゲイバー。
お仲間とただ飲むだけでも楽しいし、ここにいれば相手に不自由しなくなった。
学生時代も社会に出てもカミングアウトする気は全く無いし、男と遊ぶのももしかしたら今だけかも知れない。片親だからとか引け目を感じないように、母親は'普通'に一生懸命育ててくれた。だからってわけじゃないけれど、'普通'がいいんだ。'普通'が。
そのうえで、自分の性癖に嘘つく事なく過ごせる場所が1つだけでもある事で、幸せだし、モテ期のピークは今かなって程、俺は今、恋愛を広く浅く…深く?楽しんでいる。
こんな立派な普通の社会人に育ててくれた母親は親の役目が終わったとの事で、一緒に住んではいるけどお互い自由な身とした。
…実際タガが外れた俺は飲みに来たら毎回お持ち帰り。俺の見た目と溢れる性格の良さから抱かれたいコネコちゃんは順番待ちしてくれている。
「今日はどの子と帰るのよ。そろそろ落ち着いたら?誰か決めないの?私とか。」
「そんな事言ってたらママだって旦那に愛想つかされるよ?」
「……旦那…?
捜索願い出した爺さんの事かしら?
まぁ良いわ。
望ちゃんのおかげで売上げ良いからー」
とりあえずカウンターで1人の時はママが話し相手だったり。
話し相手が居なくても、店の中を見渡すと誰かと目が合ったり。
誰かが誰かを口説いてたり。
このアルコールで緩くなった空気の中、男達のギラギラな欲望が俺を高揚させる。
「そうそうー、望さんが誰か決めちゃったら、私もあの子もあの子も今日飲みに来てないからー!」
「そんな事…」
常連のコネコちゃんが指差した'あの子もあの子も'に視線を向けると、初めて見る顔の男が怒ったように話していたかと思ったら'あの子もあの子も'が泣きそうになってママに駆け寄って来た。
「なにアイツっ!ママーーっ!出禁物件よ!
出会いを求めてここに来てるのに人の事モンスター扱いして!」
「えー?出禁?何言われたのよー
静かにお酒飲んでるじゃなーい…
あら?イケメンじゃないー」
「…どうしたの?アイツなんで怒ってんの?」
「望さん!
ただ一緒に楽しく飲もうとしただけなのに、僕は私達とは違うからって…」
……ノンケ、だな。
たまに興味本位で来店してゲイを見下す奴がいる。
そんな男の高い鼻をへし折るのが好き。
こちらを気にしてるその男と目が合った。
軽く手を振っても逸らされる視線。
可愛く無い。…全然タイプじゃ無い。
ただ、文句を言いたかった。
ただ、店の空気を悪くする奴には出てって欲しかった。
数歩、ゆっくり歩いて近づき少し声を張って話しかけた。
「この店がどういう店だか分かってますよね?
男の子バカにするなら帰れば?」
座ってる男は眉をひそめて上目遣い、冷たい視線はそのままに少し上がる口元。
「…バカにしてません。
こっちだって友達がここで飲みたいって…
友達と飲んでるのに邪魔してくるのが当たり前だと?」
「…邪魔したみたいで…すみません。
けど狙われるのが嫌ならこの店辞めた方が…」
「今、会ったような相手と、その日にホテルへ行くのが普通?」
「……は?っは、まぁ、
ここ…俺なら普通ですけど?」
「……女性しか抱いた事ないけど…
すぐホテルへ行くような女性は体だけって割り切ってる人しかいないくらいなんですけど、男性でも…そうなんですか?」
「……それぞれでしょ。
割り切ってる人も多いけど気が合えばそれなりに続くし。ここに来てる客は常連も多いし…」
「……あなたのパートナーは?
いるんですか?」
「……」
俺に興味を持ったんだろうか。
バカだな。こっちは思い切りタチなのに。
何年か前、男に抱かれた事はあるけど気持ち良くはなれなかった。
「パートナーはいないけど?
気が合うか試してみる?
初めての男が俺でいいなら、だけど。」
冷たい視線でこちらを睨んでくる男。
俺の勘違いで、また男に誘われちゃった彼は我慢の限界で帰るかな。
それならそれでラッキーだし、もし乗ってきてホテルに2人で行く事になったら…
彼の袖から覗く手首や足首、顔や首の細さ。
鍛えてる俺が力をかければ半分無理矢理でも犯せると思った。
……イヤ、気持ち良くさせて…
お尻の奥の良さを初めて知らしめて、こっちの世界に堕とすのも面白そうだと思った……
「……じゃあ、あなたが初めての男で。」
並んで歩くと思ったより彼は長身。
ホテルに入って薄着になった彼を見て、帰ろうかとも思った。
見えてたらホテルに誘ってないのに…
なんで見えてる所からは想像出来ない筋肉を備え付けてるんだよ…
厚い胸板、硬い肩と腕、脚も太ももが俺の倍くらい筋肉が付いてる。
部屋に入ってすぐ、腰に手を置かれた。
少し覗き込むような視線は鋭いはずなのに、何処かとぼけた顔で問いかけられる。
「……僕、あなたを抱くつもりで…
合ってますよね?」
「……え?俺が抱かれる…?まさか…」
「………え、逆?……それは無理…帰…」
「帰らないで⁈
まぁ…その…男を抱く…俺がその初めて?
でもいいから…」
何故かこのままサヨナラは…
俺のゲームは彼を堕とす事に変化してく。
とりあえず掴んでしまった彼の腕を離すと、逆に手を握り返してきた。
「……抱きたい…って、何故か…
あなたを見たら思っちゃったんですよね。」
頭の後ろを手で支えられ、ゆっくりと甘さまで感じるようなキスが落とされた。
上手いな。その気になっちゃうじゃないか。
味わうようなキスを繰り返して、お互いの身体を手探る。
お尻を揉まれ、今から久しぶりに後ろを使う怖さが少し押し寄せて来た。
「……シャワー浴びたい。先に浴びさせて。
…やっぱり抱けないなって思ったら今のうちに逃げときな。」
少し震えそうな声を、強気な言葉で誤魔化した。
シャワーを浴びて、後ろを馴染ませる。
何の為に、ここまでしてやってるんだろ。
気持ち良くなれないって分かってるし、鼻をへし折るどころか、墜とせないかも知れないのに。
彼が帰ってるかも知れないという不安は、彼が忙しそうに電話しているから無かったけど…夜でも仕事の話か…
そういえば名前も仕事も聞いて無いし、自分でも名乗って無い。
「帰らなくていいの?」
「……え?仕事は大丈夫です。
逃げなくてもって話?……逃げるとか…
あなたが逃げる気ですか?」
「望。」
「え?」
「'あなた'じゃなくて、望。
普通に会社に勤めてる。」
「ああ…僕は俊です。
僕も会社に……勤め始めたばかりです。」
「俊君ね。
忙しそうだし言い訳して逃げるかもとか思った。」
ソファから立ち上がり、また頭に手を回して唇にキスをされる。
「すぐ出るので待ってて下さい。」
…ホントバカ。
男同士だからいちいちキスしなくてもいいのに。
お互い気持ち良くなってスッキリしてスポーツを楽しむような軽い気持ちで…
そしていちいちキスに喜んでる俺はホントバカ…
溜息をついてベットに座り、ホテルに置いてあったオイルを手に取る。
…自分で綺麗にしたり、オイルを指に馴染ませて後ろに塗りたくる。
普段なら相手のを弄る側だし、感じてくれるから反応とか楽しいけど…
自分でやっても気持ち良くない。
……奥の刺激がないからか?
刺激しといた方が柔らかくなるかな…
キツくは無いけど、自分の指で奥の気持ち良い所を探しても全然見つからない。
「…お待たせし………望さん…」
1人呑気にベットの上で指を突っ込んでいたら、後ろから俊君の声がした。
「……ああ、すぐ入れれるようにしたけど…」
振り返ると、口を少し開けたマヌケな表情の彼。
「……なんのサービスかと…」
「ホントだよ。大サービスだよ。
俺の事、気持ち良くさせてくれんの?
初めてだから俊君には無理だろ?」
俺が気持ち良くさせる自信はあるけど、気持ち良くなれる自信は無い。
……あぁ、そうしたら鼻をへし折れるかな。
SEXして相手を満足させれない男なんて…
俊君には鼻も心も折れて貰おう。
「…期待外れだったら、初めてだからって事にして下さい…」
ベットに上がり横から身体を擦り寄せられ、またキスをされる。
「……っそりゃ、初めてじゃ上手く出来ないかも知れないけど…
……あ、やっぱり自分でやられ方が何処がどういうふうに気持ち良いとか分かるんじゃ…なっ…ぃ?」
自分の指と彼の指があっという間に交換に。
1…2本…かな…指先が動いている。
同時にキスも深くなり、苦しくなるくらい彼の舌が押し込まれて来た。
上から絡められる舌、下から奥をくすぐられ、身体の中、同時に深く深く痺れさせられる。
「……ん…っぁ…」
「………自分で学ぶより、
望さんの反応で学ばないと……」
「………ん…んんっ……ぁ…」
「……反応…可愛っ……」
唇は離れたけど、下からくすぐる指は動いたまま、胸の突起を舌で転がされる。
「…あっ……っ…」
聞きなれない自分の声にビックリしながら、胸から離れない俊君の頭を抱え彼の耳を手で塞いだ。
胸元から俺の顔を見てきた瞳は、鋭いくせに優しい。
塞いだ耳をからかう事無く、また唇に深くキスが落ちてくる。
……漏れる声や、溢れる液…
奥の刺激が俊君の指よりも更に大きくなり、反応がどうとかわけが分からなくなった。
多分お互い余裕が無くなって…
俺は彼に…必死に唇を重ねようとした。
何故か幾度も繰り返すキスが当たり前になっていた。
「俊君、女の子にモテるでしょ。
あ、男の子にもモテてたね…
それが頭に来たんだっけ……」
疲れた身体でベットに寝転びながら隣に座る俊君に話しかけた。
甘い雰囲気に酔ってる中、出来るだけ普段のトーンで。
「…望さんは容姿でモテるの分かりますけど。
えっと……また…会えますよね?
忙しくてなかなか店に行けなそうなんで、
連絡先、教えて下さい。」
手を広げる。
「ケータイ。」
俊君は飛び上がり、すぐにスーツからケータイを取り出して俺の手の中に。
……って何で犬みたいな動きがこんなに可愛いんだ…
彼のケータイから自分のケータイへかける。
「はい。俺はそんなに夜は忙しくないから。」
ケータイを返すと嬉しそうな彼の笑顔に、俺までつられて笑ってしまう。
「……ふっ…何?」
「…いや…言ったら怒られそうだけど…」
「…言えよ。怒るかもだけど。」
「………合格ですよね?
あれだけ…可愛い姿が見れたから…」
話しながら唇に軽くキスが落とされ、まるで俺が怒る前にキスが出来て、'成功'みたいに、おどけて見せる。
俺は怒る事も、言い返す事も出来ずに、逆を向き…布団で赤く火照りそうな顔を隠した。
何故か…彼にはまっているような…
連絡先も交換したし今度いつ会えるかな、なんて今朝別れる時にも考えてた。
『お母さん、玉の輿に乗ります』
「は?」
会社帰り、突然電話で切り出される。
『お母さんの会社の上司…あ、社長ね。
彼が一緒に暮らそうって…
それで今日お邪魔する事になったから』
「へーー…って俺も?」
『そうよ。顔合わせよ。19時……』
時間と場所、教わった通りに辿り着くと高級なタワーマンション。
「望!こっちこっちー!」
母に呼ばれて進んだ先、マンションの一室…と言ってもワンフロワ。
広いリビングに進むと、今朝別れた俊君と彼に似たダンディな中年男性…
「……どうも、はじめまして…
いつも母がお世話になっております。」
頭を下げるにも、俊君から目が離せなかった。
「はじめまして、望君。
お母さんから聞いているよー。
こっちは息子の俊。
俊の方が少し下だったよな。
弟だと思って…あ、義弟になるのか!
よろしくお願いね!」
作り笑いの俺と、作り笑顔も出来ずに目と口が塞がらないで固まっている俊君。
「……よろしくお願いします…」
彼の手から、スルリとケータイが床へ落ちた。
その衝撃音で我に返ったようだけど、唇を手で触れたり、首を掻いたり、目をパチパチさせてる。
ドッキリ?とでも思ってそう…
飲んでいたマグカップも手から滑り落ちて割る。
横にあった仕事で使っていたようなファイルも手に持った途端、何かが外れて壊れ出す。
片付けるけど、心ここに在らず…
そんなマヌケにも見える彼の姿、可愛くて……またキスしたいなんて思う。
もう社会人だし、一緒に住まなくても…
といった俺の提案は却下され…
彼をダンディにした義父と、
俺に似た母と、
昨日から今朝にかけて愛し合った彼と
その初めての男の俺。
4人での生活が始まった。
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