ダークファンタジーの魔法少女、異世界スローライフで日常を知る

タカヒラ 桜楽

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くだらない話

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 ある村での報告書を確認しなければいけないはずのミルナバであったが、現在その作業が滞っており、頭を抱えていた。

 というのも・・。

 「それでですね!錬金術について私が気づいたことを一応ノートにまとめたのでよろしかったら見てくれませんか?」

 ミルナバの目の前で溌溂とした雰囲気の少女がノートを渡しながら一方的に話しかけてくる。

 彼女は先日セルザローグの城下町のスラム街付近にいたところをミルナバが声をかけて知り合った少女である。
 
 そして、その正体は依頼の書状に書かれていた魔女であるのだ・・。

 ミルナバは敵対するはずの魔女が笑顔で話しかける姿に夢だと錯覚するほど混乱していた。

 「それでですね、ミルナバさんにも飲んで貰いたいものがありまして・・? 」
 「・・ん?これはなんだい?」

 ミルナバは少女が可愛らしい桃色の鞄からある物を取り出す。
 よく見かける鉄製や革製の水筒とは違う無食透明の筒状のガラスの入れ物をミルナバに渡す。

 「この前言っていた炭酸水をアレンジしたジュースです。炭酸が抜けないように魔法瓶も作ったんですよ!かなり時間がかかりましたけど・・。」
 「まほうびん・・?」

 照れ笑いをする少女の謎の言葉にミルナバを眉間に皺を寄せる。

 訝しげな目で魔法瓶を見つめたミルナバは恐る恐るソレに手をかける。
 
 「引っ張るんじゃなくて横に回すんですよ」と、なかなか開けることのできないミルナバに少女はジェスチャーをしながら教える。

 プシュッと空気が爆ぜる小気味の良い音と共に香る爽やかな柑橘類の匂いに喉が鳴る。

 シュワシュワと音を立ててその飲料が呼吸しているかのように水面が小さく跳ね続けている。

 沸騰した時とは泡の大きさも音も違かったが、ミルナバは飲める物なのかと躊躇ってしまう。

 だが、少女の期待の目を受け、ミルナバは覚悟を決めて、その飲料を煽る。

 瞬間口の中が慌ただしく刺激される。

 一瞬で口内のあらゆる部分が刺激され、ミルナバは口に含んだ飲料を吹き出してしまう。

 「な、なんだいコレは・・ッ!?」

 驚愕の飲み物にミルナバの眉間に皺が寄る。

 劇薬を飲まされたのではないかと思うほどの衝撃がミルナバを襲ったのであったが、数秒経つと不思議な感覚に陥る。

 その反応を事前に予想していたのか、少女はニタニタと悪巧みをしている悪戯っ子の笑みでミルナバを眺めていた。

 「ゴクッゴクッ・・ゴキュッ」

 ミルナバは策にハマる兵士のように、炭酸飲料に再度、口をつける。
 
 口内を直接刺激するその感覚は麦芽酒の上位互換であり、その後を追いかけるように蜂蜜レモンのような甘酸っぱさが口いっぱいに広がるのであった。

 飲めば飲むほど口が意志を持ったように次を求めてしまう。

 気づけばミルナバは少女そっちのけで炭酸飲料を飲み干していたのであった。


 ーーーーー

 「ふう・・。すまないね、まさかアンタの探していた飲み物がこんなに美味しいものだったなんてね・・。つい我を忘れて飲んじまったよ」

 口元を拭いながらミルナバは少女に謝意を述べる。

 「いや大丈夫ですよ!私はミルナバさんの初めて見る顔が見れて嬉しかったので・・。」

 少女はミルナバの言葉を両手を振って否定する。
 
 少女にそんなことを言われミルナバは苦笑する。
 と、同時にミルナバの表情が一瞬暗くなってしまう。

 脳裏に彼女の魔女の姿がチラついてしまったのだ。
 だからこそ、彼女の本音が溢れてしまう。

 「なあ、ベーラ・・。もしも、もしもだよ?アンタの友人が敵として目の前に現れたらどうする?」

 ミルナバはベーラと呼んだ少女に渡された瓶を棚に置きながらそう訊ねる。

 「・・・え・・!?」
 「いやね、アンタは良い子だと私は思っているんだ。でもそれはアンタの優しいという部分を見ての感想だ。だから、ちょっとした質問だよ」

 ミルナバの言葉にはてなマークを浮かべるベーラにミルナバは補足を入れる。

 「アンタのその優しさはさっき言った状況でも出来るのかい?」
 「よく質問がわからないんですけど・・。」

 から笑いをするベーラにミルナバは真剣な表情で冗談ではないことを示す。
 その表情を見てベーラの表情は強張り、少しの静寂と共にベーラは自身の考えを口にする。

 「話をしますかね・・。どうしてそうなってしまったのか原因を聞くと思います」
 「それで彼女が正しかったら?」
 「正しいとか正しくないとか私の基準で決めたくないです。ただ、そうですね・・。もし私が原因でその人が苦しんでいるのなら、私は黙って死にますよ」
 「へえ・・。」

 ベーラの顔から取り繕ったような言葉でないことがわかりミルナバは背筋が凍る。
 と、同時に普通の少女でないことが明らかになる。

 「大層な考えだけどね・・、アンタが死んだらみんな不幸になっちまうよ」
 「でも私が抵抗したら・・。」
 「アンタは考えすぎなんだよ」
 「じゃあミルナバさんが、そういうことになったらどうするんですか?」
 「全部自分の思ったようにやるね。諦めるなんて一番簡単なことだから」

 ミルナバはそう言い煙草を胸ポケットから取り出し火をつける。

 ベーラの固い表情をみながら、ミルナバはゆっくりと煙を吐き出す。

 「何でこんなことを聞いたんだろうね。すまないねくだらない質問をしてしまって・・。」
 「いえ、いいですよ。確かにミルナバさんの言ってることの方が正しいから。やっぱり諦めるよりも自分の出来る限りのことをするべきですよね」

 ベーラは悲しそうに笑顔を向けてそう言うのであった。
 ミルナバは何故そんなことを言ってしまったのかと、反省しながら棚から小さな正方形の小瓶を取り出す。

 「やめた、やめた!なんだか雰囲気を悪くしちまったね。よかったらこれでも食べておくれよ」

 ミルナバはそう言い小瓶を開けて中身を見せる。

 中には色とりどりの宝石のような飴が入っており。
 少女は目を輝かしてそれを頬張るのであった。
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