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変わらない日常
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「今日はパーティーなの!?」
目を輝かしてそう言ったのは私の兄であるモートリーであった。
行儀悪く、机にフォークとスプーンを持ち、その両手を叩きつけながらその景色を眺めていた。
テーブルには彩とりどりの料理が並んでおり、兄が興奮するのも仕方がないだろうが、アメリカのやんちゃな子供じゃないのだからやめて欲しいのが私の思いだ。
テーブルの上には、普段は食べない牛肉のワイン煮や、白身魚のムニエル、果実飲料にポトフ・シーザーサラダなど日本の正月並みに豪勢に広げられた料理があり、かくいう私も生唾を飲み込んでいた。
王国騎士たちの一件があった翌日に私の家ではホームパーティーが開かれていた。
いつもと違うのは、両親と兄、私そしてフェニ以外にも来客が来ていたのである。
「あのー、本当に私たちもお邪魔して良かったんですか?」
申し訳なさそうにそう訊ねたのは、いつものラフな服装と違い子供用のドレスを身に纏ったミリアンヌであった。
淡い黄色のドレスの膝の上に行儀良く広げられたナプキンと出で立ちから村娘ではなく、貴族のように見えてしまう。
ミリアンヌはじっとしていたら、大人びた女性に見えてしまう。
「肉・・魚・・フライドポテト・・肉・・ジュース・・肉」
ミリアンヌの横でそう独り言を言うのは、最近村にやってきた黒髪の少女のレーネである。
食べる物の順番を脳内でイメージしているのだろう。
パーティー前の談笑など気にも止めずに、自分の食欲に素直な少女なのだ。
「まあ、レーネちゃんの歓迎会をするという話は聞いていたからね。それと二人にはお礼も言いたかったから、このパーティーを開いたんだよ」
よだれを垂らし料理を眺める兄と、獲物を捕らえる目で料理を見つめるレーネに苦笑しながら父がそう言う。
すると料理を運び終えた母親が父のグラスに果実酒を注ぎ、自身も席に着く。
そのことを確認した父は、果実酒を持った右手を掲げる。
「話たいことはたくさんあるけど、まずはレーネちゃん、この村に来てくれてありがとう!そして、三人とも・・この村を守ってくれてありがとう」
深々と頭を下げる父を見て私は申し訳なくなる。
「やめてよお父さん・・。もともとの原因は私なんだから・・。」
「カンパーイ!!」
私のグラスに叩きつけるようにグラスを当てながら父が叫ぶ。
不意を突かれた私はグラスから溢れるジュースにあたふたとしてしまう。
「ち、ちょっとお父さん・・。」
「ほら見てみろ・・。」
父の行動を咎めようとした私の手を掴み、耳元で囁いたのはその父であった。
父の声を合図に始まった賑やかなレーネの歓迎会。
料理に食らいつく兄とレーネ。
母に緊張しながらも楽しく話しているレーネ。
別皿に盛られた料理に舌鼓を打つフェニ。
その様子を見ながら父は私の頭をそっと撫でる。
「お前が責任なんて感じる必要はないんだぞ・・。」
父の言葉に私は唇を噛む。
そんなことは無理だ。
事実を否定するなんて私には出来ない。
だが、そんな私の様子を見て父は私の背中を軽く叩く。
「歴史がなんだ、魔女がどうした。過去に囚われている奴なんてほっとけばいいさ。ベーラはベーラだ・・。俺と母さんから生まれた大切な我が子だ」
父の言葉に目の前が霞む。
涙を流すことを我慢する私を見て母が笑う。
「貴方もカッコイイところがあるのね」
「娘たちの前でやめてくれよ・・。」
「でも、ベーラちゃんのお父さんがそんな真面目な顔をしたの初めて見た気がします」
ミリアンヌのダメ押しで感動の場面が笑い声で塗り替えられる。
「まあ、しばらくは安心だと思うよ・・。ボクが釘を刺しておいたから」
「え・・!?」
突然のフェニの言葉に私は驚きのあまり席を立ってしまう。
「フェニ何でみんなの前で喋っているの?」
「もう別にいいかなと思ってね・・。」
「そういうことじゃなくて・・。というかお父さんとお母さんも何で驚いていないの?」
フェニの突然のカミングアウトに動揺しない両親を見て私はより一層動揺する。
「だってこんな犬いなしいな・・。」
「ベーラがコソコソ料理を食べさせているのを見た時から知っていたし・・。」
隠していたつもりだったのかといった様子でむしろ驚かれていることに私は赤面してしまう。
たしかに前世の頃から隠し事は下手だったけど、こうも立て続けに秘密を知られていたら流石にショックである。
「そ、そうなんだ・・。」
「ええぇぇ~~ッ!!その馬鹿犬喋れたの!?」
「何かムカつく言い方だな・・。噛んでもいいかな?」
ドタバタと騒ぐ兄のモートリーとフェニを見ていると、何だか一人で色々と考えていた自分が馬鹿らしく感じ、その光景を見て大笑いをしてしまう。
今日は忘れられないほど楽しい時間となりそうだ・・。
目を輝かしてそう言ったのは私の兄であるモートリーであった。
行儀悪く、机にフォークとスプーンを持ち、その両手を叩きつけながらその景色を眺めていた。
テーブルには彩とりどりの料理が並んでおり、兄が興奮するのも仕方がないだろうが、アメリカのやんちゃな子供じゃないのだからやめて欲しいのが私の思いだ。
テーブルの上には、普段は食べない牛肉のワイン煮や、白身魚のムニエル、果実飲料にポトフ・シーザーサラダなど日本の正月並みに豪勢に広げられた料理があり、かくいう私も生唾を飲み込んでいた。
王国騎士たちの一件があった翌日に私の家ではホームパーティーが開かれていた。
いつもと違うのは、両親と兄、私そしてフェニ以外にも来客が来ていたのである。
「あのー、本当に私たちもお邪魔して良かったんですか?」
申し訳なさそうにそう訊ねたのは、いつものラフな服装と違い子供用のドレスを身に纏ったミリアンヌであった。
淡い黄色のドレスの膝の上に行儀良く広げられたナプキンと出で立ちから村娘ではなく、貴族のように見えてしまう。
ミリアンヌはじっとしていたら、大人びた女性に見えてしまう。
「肉・・魚・・フライドポテト・・肉・・ジュース・・肉」
ミリアンヌの横でそう独り言を言うのは、最近村にやってきた黒髪の少女のレーネである。
食べる物の順番を脳内でイメージしているのだろう。
パーティー前の談笑など気にも止めずに、自分の食欲に素直な少女なのだ。
「まあ、レーネちゃんの歓迎会をするという話は聞いていたからね。それと二人にはお礼も言いたかったから、このパーティーを開いたんだよ」
よだれを垂らし料理を眺める兄と、獲物を捕らえる目で料理を見つめるレーネに苦笑しながら父がそう言う。
すると料理を運び終えた母親が父のグラスに果実酒を注ぎ、自身も席に着く。
そのことを確認した父は、果実酒を持った右手を掲げる。
「話たいことはたくさんあるけど、まずはレーネちゃん、この村に来てくれてありがとう!そして、三人とも・・この村を守ってくれてありがとう」
深々と頭を下げる父を見て私は申し訳なくなる。
「やめてよお父さん・・。もともとの原因は私なんだから・・。」
「カンパーイ!!」
私のグラスに叩きつけるようにグラスを当てながら父が叫ぶ。
不意を突かれた私はグラスから溢れるジュースにあたふたとしてしまう。
「ち、ちょっとお父さん・・。」
「ほら見てみろ・・。」
父の行動を咎めようとした私の手を掴み、耳元で囁いたのはその父であった。
父の声を合図に始まった賑やかなレーネの歓迎会。
料理に食らいつく兄とレーネ。
母に緊張しながらも楽しく話しているレーネ。
別皿に盛られた料理に舌鼓を打つフェニ。
その様子を見ながら父は私の頭をそっと撫でる。
「お前が責任なんて感じる必要はないんだぞ・・。」
父の言葉に私は唇を噛む。
そんなことは無理だ。
事実を否定するなんて私には出来ない。
だが、そんな私の様子を見て父は私の背中を軽く叩く。
「歴史がなんだ、魔女がどうした。過去に囚われている奴なんてほっとけばいいさ。ベーラはベーラだ・・。俺と母さんから生まれた大切な我が子だ」
父の言葉に目の前が霞む。
涙を流すことを我慢する私を見て母が笑う。
「貴方もカッコイイところがあるのね」
「娘たちの前でやめてくれよ・・。」
「でも、ベーラちゃんのお父さんがそんな真面目な顔をしたの初めて見た気がします」
ミリアンヌのダメ押しで感動の場面が笑い声で塗り替えられる。
「まあ、しばらくは安心だと思うよ・・。ボクが釘を刺しておいたから」
「え・・!?」
突然のフェニの言葉に私は驚きのあまり席を立ってしまう。
「フェニ何でみんなの前で喋っているの?」
「もう別にいいかなと思ってね・・。」
「そういうことじゃなくて・・。というかお父さんとお母さんも何で驚いていないの?」
フェニの突然のカミングアウトに動揺しない両親を見て私はより一層動揺する。
「だってこんな犬いなしいな・・。」
「ベーラがコソコソ料理を食べさせているのを見た時から知っていたし・・。」
隠していたつもりだったのかといった様子でむしろ驚かれていることに私は赤面してしまう。
たしかに前世の頃から隠し事は下手だったけど、こうも立て続けに秘密を知られていたら流石にショックである。
「そ、そうなんだ・・。」
「ええぇぇ~~ッ!!その馬鹿犬喋れたの!?」
「何かムカつく言い方だな・・。噛んでもいいかな?」
ドタバタと騒ぐ兄のモートリーとフェニを見ていると、何だか一人で色々と考えていた自分が馬鹿らしく感じ、その光景を見て大笑いをしてしまう。
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