ダークファンタジーの魔法少女、異世界スローライフで日常を知る

タカヒラ 桜楽

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去りゆく影と心残り

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 村の人たちが突如風船のように破裂し、死亡した王国騎士たちを土に埋めている作業をする中、大木から二つの視線がその様子を捉えていた。

 「なんだったんだ、あれは・・?」
 「遠隔魔法のようだけど、高位のモノのようだね・・。」

 神父服を身に纏った男女がベーラたちのいる村の近くの木々から分析してたのであった。
 
 だが、そんな驚きもすぐに収まり、二人は現状について深刻な面持ちに変わる。

 「問題はあの魔女たちだよな・・。」

 そう問題を提起したのは、金の短髪に巨体が特徴的な男のレンダ・サンゼルマンであった。

 粗野でガサツな態度からは想像が出来ないが彼はセルザローグの教会の神父であるのだ。

 「まさか一人はいると読んでいたんだけど、その他に候補が二人もいるなんてね・・。」

 レンダの言葉に頷き、事の深刻さが表に出てしまうほどのため息を吐くのは、女性でありながら、セルザローグの教会の神父を務めるミルナバという女であった。

 胸の起伏が表れないようにサラシを巻き、高身長が活きた出で立ちは関わりがないと女性と気づかないほど側から見ればただの男性に見えるだろう。

 ミルナバは顔を黒塗りの仮面で覆っており、その仮面を動かしながらレンダを一瞥する。

 「レンダ、アンタまさか喧嘩をふっかけようなんて考えてないだろうね?」
 「ガハハ・・それも悪くねえな」

 レンダの言葉にミルナバは仮面の額に手を置き天を仰ぐ。

 この大馬鹿者が・・。

 そう言いたい気持ちもあったが、ミルナバは思考を巡らす。

 というのも、早いうちに仕掛けることにメリットは確かに存在するからだ。

 今仕掛ければ、未熟な魔女候補二人は容易に対処が出来るだろうし、レンダとミルナバは対魔女教徒のプロフェッショナルだ。

 おそらく一対ニの図になれば勝てるだろう・・。

 だが・・。

 「一旦教会に戻って報告しに行くよ」
 「まじかよ・・。まあ楽しみは後にとっていた方がいいしな・・。仕方ねえか」

 残念そうな口ぶりのレンダにミルナバは呆れてしまう。
 
 この男は本当にどうしよもない男だなと感じるミルナバであった。

 あの魔女が一番の危険分子であり、奥底がわからない以上下手に手を出さない方がいいだろう。
 そう考えたミルナバは音を立てないようにそっと村から離れる。

 「でもよ・・。あの魔女まさか姿を変えれるとはな。情報提供者はどうやって見極めたんだろうな?」
 
 レンダが帰りの道中にふと、顎をさすりながらミルナバに訊ねる。

 ミルナバは知らないよと、冷たくあしらいつつ、懐から貨幣を入れる小さな麻袋を取り出す。

 セルザローグで出会った礼儀正しい少女から貰った物であるその麻袋を握りしめ先刻の魔女を思い出す。

 魔女が家に帰っていく時にその姿から一人の少女に戻ったその時、ミルナバは目を疑った。

 それもそのはず、先日ミルナバと出会ったその少女の正体が異端審問の対象の魔女であったのであった。

 「やっぱりこの世界に神様なんていやしないね・・。」

 ボヤくようなミルナバの呟きをレンダは無言で受け止めるのであった。

 そんな様子のレンダについ笑いが出てしまうミルナバ。

 「何がおかしいんだ?」
 「意外にも優しい一面があったことに不覚にも笑ってしまったよ」
 「お前は本当に可愛げがねえよな!」

 腕を振り回し皮肉を言ったレンダの袖から丸めた紙筒が落ちる。

 それは村に出向く理由となった教会からの書状。

 ミルナバは落ちた書状を取ろうとするレンダを見ながら眉を顰める。

 「そういえば送り先はどこだったかね?」
 「ああ?お前ちゃんと見てねえのかよ・・。コレはだな・・。」

 そこでレンダは言葉を失う。

 「ミドザリア王国から・・だな」
 「ならどうして王国騎士が来ていたんだい?」

 ふとした疑問だが、足を踏み入れるべきではない問題なのかも知れない。

 「これは何かありそうだね・・。」

 ミルナバは納得のいかない出来事に直面し、物に当たるように地面を蹴るのであった。


 

 
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