ダークファンタジーの魔法少女、異世界スローライフで日常を知る

タカヒラ 桜楽

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フェニの怒り

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 フェニはため息を吐く。
 息と共に怒りも過ぎ去ってくれればいいのだが、ベーラという感情を抑制してくれる主人がいないためか、怒りは収まるどころか、込み上げてくるばかりだ。
 
 勝手に村に押し入ったこと
 ミリアンヌに刃を向けたこと
 村の家々に火をつけたこと

 そして、魔女というだけでベーラに襲いかかったことだ。

 自分は温厚だと思っていたフェニであったが、目の前が見えなくなるほどの怒りに動かされていた。

 「戦う前に一つだけ、今兵を下げるならキミとその部下も見逃してあげるよ」
 「それは良い条件ですが私たちは王の命で動いているのです・・。残念ですが・・ッ!?」

 「じゃあ死ね」

 フェニの声と共に弾丸のように無数の黒い弾がフェニの周りから出現し、ヴェンタレスに向かって襲いかかる。
 だが、ヴェンタレスは無駄のない身のこなしと、剣捌きで全ての攻撃を無力化する。

 「人語を喋る奇怪な動物ですが、無詠唱魔法、しかも闇属性のモノを使えるなんて凄いですね」
 「キミに褒められてもイライラが溜まるだけだ」

 フェニは口が裂けるほど大きく開くと、今度は先程の数十倍の大きさの漆黒の球体を生み出す。
 そのままヴェンタレスち向かって吐き出された球体状の魔法は呆気なくヴェンタレスに一刀両断にされてしまう。

 「芸のないことを・・。」
 「まんまと引っかかったね・・。」
 「・・・ッ!!?」

 ヴェンタレスが半分に切った球体の片割れから突如として出現するフェニにヴェンタレスは驚きを隠せないでいた。

 フェニの攻撃と思わせた球体は、黒点ノワール・ポートと呼ばれるものであり、球体と自身の場所つなげるテレポート魔法であったのだ。

 突然の奇襲、フェニはヴェンタレスの動きを読み敢えて受けさせたのであった。
 ヴェンタレスが重心を下げ剣を横に向け防御の体勢をとる。
 だが、先に構えていたフェニの一撃必死の技黒毒爪ポイズン・ノワールがヴェンタレスを捉えていた。

 「あの世で自分の誤ちを見直すといいさ」

 フェニの言葉にヴェンタレスは口角を上げる。

 「駄犬風情が調子に乗らないで欲しいですねッ!」

 その言葉を皮切りに、ヴェンタレスの持っていた剣が眩く光り輝く。

 「これは・・。」

 フェニはそれを見るや否や身を捩りヴェンタレスから遠ざかる。
 
 瞬間フェニの頭上より少し上に光線のような光の斬撃が通り過ぎていくのであった。
 フェニが着地するとヴェンタレスは余裕の笑みを見せる。

 「驚きですね、まさか闇属性の魔法をここまで使えるとはね。まあでも私の属性は光、相性は最悪ですよ」

 ヴェンタレスは剣を悠長に振り回してそう宣言する。
 フェニはそんなヴェンタレスをふてぶてしく睨む。

 「しかし、奇怪な動物だと思っていましたがもしかすると貴方魔族だったりします?それなら尚更あの女を斬らねばなりませんね」

 そのヴェンタレスの言葉にフェニの瞳孔が開く。

 「・・今、何て言ったのかな?」

 フェニはコキコキと首の骨を鳴らしながら、そう訊ねる。

 「魔族を飼っている魔女は生かしておけないと言ったのですよ」

 ヴェンタレスはフェニの反応を面白がるようなそう言い、

 「いや、殺すだけじゃあきたりませんね。あの魔女と村人の首を持ち帰って断頭台に並べてもいいかもしれせんね。魔女を匿うとこうなると民衆に知らしめましょうか!」

 と、さらにヴェンタレスは煽り立てるように叫ぶ。

 「次いでに貴方の首も・・オ・オォ!!?」
 「もう黙っていいよ」

 フェニの言葉と共にヴェンタレスは地面に突っ伏す。
 何が起こったかすら理解出来ないまま瞬きをするヴェンタレス。
 その視界の先に見えるフェニにヴェンタレスは戦慄する。

 フェニの足元から頭上にかけて伸びた二対の人間のような腕。
 その腕は丸太のように太く、影よりも黒かった。

 そしてヴェンタレスが見てしまった光景は、その腕が自分下顎をむしり取っていたことだ。

 「があぁあぁ!?」

 遅れて押し寄せてくる激痛に悶えるヴェンタレスのもとにゆっくりフェニは近づく。

 「ボクの力量も十分に理解できない、言葉も選べない。キミ本当に王国騎士の師団長なの?」

 「あぉ・・あっ・ああ・・!?」

 まともに喋れないヴェンタレスを見下ろしフェニが思い出したように口を開く。

 「そういえばさっきボクにこう聞いたよね?お前は魔族かってあれ半分正解」

 ヴェンタレスは痛みでまともに聞いておらず、叫び続けるだけであった。
 だが、フェニもそんなヴェンタレスに気も遣わず話続ける。

 「正解はそのもっと上の存在、だからこうやって出会えただけで感涙もの何だよ?しかも黒色の双腕フェンリル・ガントレットまで使ってあげたんだし・・。」

 フェニの言葉にヴェンタレスの顔がみるみる青ざめていく。

 「がああぁぁ!あぁ、ああ~!?」
 「ごめんね、何言ってるかわかんないや。でもそうか、キミたちの国の言い伝えではボクも異端の神みたいになっているのかな」

 自分でそう納得したフェニは最後にヴェンタレスに笑みを向ける。

 「それじゃあバイバイ・・。」

 ヴェンタレスの断末魔は森にこだまする。
 鳥が飛び交いフェニは後味の悪い顔をしてベーラの下へと走っていくのであった。

 
 
 
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