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不甲斐なさ
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室内の窓ガラスが吹き飛び、壁に穴が空き、床の至る所がひび割れる。
私は申し訳なさが過ぎるが、そんな余裕がないほどに追い詰められていた。
流石は王国騎士団の師団長を務める者だ。
ヴェンタレスの強さはずば抜けていた。
予備動作がほぼない神速の剣戟に隙を補うために放たれる完成された魔法攻撃。
矛と盾を一人で補う姿はかつての戦友のBフィーターを思わせるものがあった。
だが、彼女と違うことはその殺意に満ちた攻撃であった。
一撃ごとにそれが増していくような恐怖を感じる。
次第に連撃に耐えられなくなった私は半壊した家から飛び出し、距離を置くためにタナレスクの森とは逆方向にある、雑木林へと走ってにげるのであった。
「やはり、魔女というのは恐ろしい。その年で僕の剣術を避けることができるなんて・・。」
ヴェンタレスは私の後を追いかけながらそう言うと、立ち止まった私を確認して、鉈のような武器に魔力を込める。
可視化出来るほどの高密度の魔力がヴェンタレスの武器に宿る。
やがてそれは形状を変え、王国騎士が持つ剣へと姿を変えるのであった。
だが、王国騎士のモノと違う点は高密度の眩い光を放つ魔力が付与されていることだ。
明らかに異質なその剣に私は自ずと警戒体制に入っていた。
一メートルほどの長さのその剣を軽々しく持ち上げるヴェンタレスは片手で数度素振りをして構え直すのであった。
「お時間を取らせてすみませんでした」
「待っているわけじゃないですよ・・。」
私はため息を吐き、手のひらを天にかざす。
今の私の魔力量や魔法攻撃では分が悪い。
「魔法装束展開!」
あまり、人前でこの姿を見せたくはなかったが、私がこの人を止めないと村のみんなが殺されてしまう・・。
それだけは阻止しないと・・!
「面白い、姿形を変えられるんですね。でもいいんですか?それは貴方自身が魔女だと認めたという証ですよ?」
「認めたも何も襲いかかってきている時点で弁論の余地はないんでしょ?」
私の言葉を肯定するようにヴェンタレスは笑う。
そんなヴェンタレスを見て私は眉間に皺を寄せ、大地を蹴ってヴェンタレスに向かって突貫するのであった。
ーーーーー
正直戦いは泥沼であった。
ヴェンタレスの攻撃では魔法少女の私の防御力を超える決定打がないし、私の魔法は素早いヴェンタレスを捉えることが出来ずにいた。
ヴェンタレスは剣戟を緩めずに、防戦一方の私を森の隅まで追い詰めていた。
「渋といですね、でもそんなに悠長にしていていいんですかね?」
ヴェンタレスの言葉に私は表情を崩さないように平静を装う。
今の私は村のことで気が気ではないのだが、そんな様子を見かねてヴェンタレスは焦りを促すような発言をしてくる。
「もしかしたら、もうみんな焼け死んでいるかもしれないですよ」
「本当に貴方っていう人はーーーッ!?人の命をなんだと思っているんですか!?」
ヴェンタレスは私の言葉に愚問だと言った様子で鼻で笑う。
「弊害を産み出す者にかける慈悲などありませんよ・・。」
「ふざけないでください!!」
私はそう叫ぶがすぐに距離を詰めてくるヴェンタレスの攻撃を避けるのに神経を使い、喋ることもままならない。
「魔女は魔族に肩入れをしたんですよ?敵の味方をすれば、その者も敵・・その者を擁護する不穏分子もまた敵。私の言っていることは間違っていますか?」
「間違ってるに決まっているでしょ!」
私はヴェンタレスの言動についに沸点に達し剣を鷲掴みにする。
偏ったの主張しかしないこの男に私は痛みも忘れて怒りを露わにする。
咄嗟に掴んだので指の肉が削がれ鮮血が垂れるようにして出てくる。
ヴェンタレスは私の手から剣を引き抜こうとするが、私を見てその力を緩める。
「何故泣いているのですか?」
その言葉に私は初めて自身の瞳から涙が溢れていることに気づく。
「まさか、同情を誘おうとしているのですか?」
「・・・なんでですかね・・。」
ヴェンタレスの前ではわからないフリをするが、自然に溢れたその涙の理由は自身の不甲斐なさにあるのだろう。
慈愛の魔法少女の固有魔法には三つの弱点が存在するのだ。
一、明確な攻撃手段がないこと
二、相手依存で使い勝手が悪いこと
三、私自身で完全にコントロールできないことだ。
現在特筆すべきは、一と二であり、私は本来の力を発揮できずにいた。
フェニのときのように能力が発揮できれば、目の前の男をすぐに戦闘不能にして、村の人たちを助けられるはずなのに・・。
なんで、なんで私はこんな固有魔法なの・・。
何回目だろうか、こうやって自分自身が嫌いになったのは・・。
「隙だらけですよ」
ヴェンタレスは、いつの間にか剣を持った利き手とは逆の左手に魔力を込め、雷の属性を持つ矢を作り出していた。
荒々しい音に、私は目を瞑ってしまう。
「雷帝の矢」
「混沌の蠢き」
ヴェンタレスの雷の矢から黒い液体が漏れ出てき、蟻のようにその矢に群がった黒い物体はヴェンタレスの雷の矢を飲み込むようにして無くす。
「こ、これは・・。」
「ちょっとオイタが過ぎるんじゃないかな?」
「フェニ・・。」
私たちより少し離れた場所にいたフェニがそう呆れた声をヴェンタレスに向かって放つ。
普段のフェニとは違い、成犬いや成狼というべきなのか、私の手に収まらないサイズに変化したフェニが唸り声を上げる。
「勝手に君の魔法を解いてごめんね。だけども今は緊急事態だ。ここは僕に任せてみんなのところに行ってあげて・・。」
私は複雑な気持ちになるが、ここはフェニに頼るしかない。
本当は争いになんて巻き込みたくないのだが、背に腹はかえられない。
私は回れ右を急いですると、ヴェンタレスの動きも見ずに走り出す。
「逃しませんよ!」
ヴェンタレスはそう言い、雷の矢を再度出現させる私めがけて放とうとするが、
「何度やっても同じだよ」
フェニがそう言い、雷の矢を黒い魔力物体が飲み込む。
「フェニごめんね!すぐ戻るから!」
「いいよ、ベーラ。ボク自分で言うのもなんだけど、大分寛大だと思っていたけど、今はとっても暴れたい気分なんだ・・。」
その怒気を孕んだフェニの言葉に私はヴェンタレスのことを気の毒に思うのであった。
私は申し訳なさが過ぎるが、そんな余裕がないほどに追い詰められていた。
流石は王国騎士団の師団長を務める者だ。
ヴェンタレスの強さはずば抜けていた。
予備動作がほぼない神速の剣戟に隙を補うために放たれる完成された魔法攻撃。
矛と盾を一人で補う姿はかつての戦友のBフィーターを思わせるものがあった。
だが、彼女と違うことはその殺意に満ちた攻撃であった。
一撃ごとにそれが増していくような恐怖を感じる。
次第に連撃に耐えられなくなった私は半壊した家から飛び出し、距離を置くためにタナレスクの森とは逆方向にある、雑木林へと走ってにげるのであった。
「やはり、魔女というのは恐ろしい。その年で僕の剣術を避けることができるなんて・・。」
ヴェンタレスは私の後を追いかけながらそう言うと、立ち止まった私を確認して、鉈のような武器に魔力を込める。
可視化出来るほどの高密度の魔力がヴェンタレスの武器に宿る。
やがてそれは形状を変え、王国騎士が持つ剣へと姿を変えるのであった。
だが、王国騎士のモノと違う点は高密度の眩い光を放つ魔力が付与されていることだ。
明らかに異質なその剣に私は自ずと警戒体制に入っていた。
一メートルほどの長さのその剣を軽々しく持ち上げるヴェンタレスは片手で数度素振りをして構え直すのであった。
「お時間を取らせてすみませんでした」
「待っているわけじゃないですよ・・。」
私はため息を吐き、手のひらを天にかざす。
今の私の魔力量や魔法攻撃では分が悪い。
「魔法装束展開!」
あまり、人前でこの姿を見せたくはなかったが、私がこの人を止めないと村のみんなが殺されてしまう・・。
それだけは阻止しないと・・!
「面白い、姿形を変えられるんですね。でもいいんですか?それは貴方自身が魔女だと認めたという証ですよ?」
「認めたも何も襲いかかってきている時点で弁論の余地はないんでしょ?」
私の言葉を肯定するようにヴェンタレスは笑う。
そんなヴェンタレスを見て私は眉間に皺を寄せ、大地を蹴ってヴェンタレスに向かって突貫するのであった。
ーーーーー
正直戦いは泥沼であった。
ヴェンタレスの攻撃では魔法少女の私の防御力を超える決定打がないし、私の魔法は素早いヴェンタレスを捉えることが出来ずにいた。
ヴェンタレスは剣戟を緩めずに、防戦一方の私を森の隅まで追い詰めていた。
「渋といですね、でもそんなに悠長にしていていいんですかね?」
ヴェンタレスの言葉に私は表情を崩さないように平静を装う。
今の私は村のことで気が気ではないのだが、そんな様子を見かねてヴェンタレスは焦りを促すような発言をしてくる。
「もしかしたら、もうみんな焼け死んでいるかもしれないですよ」
「本当に貴方っていう人はーーーッ!?人の命をなんだと思っているんですか!?」
ヴェンタレスは私の言葉に愚問だと言った様子で鼻で笑う。
「弊害を産み出す者にかける慈悲などありませんよ・・。」
「ふざけないでください!!」
私はそう叫ぶがすぐに距離を詰めてくるヴェンタレスの攻撃を避けるのに神経を使い、喋ることもままならない。
「魔女は魔族に肩入れをしたんですよ?敵の味方をすれば、その者も敵・・その者を擁護する不穏分子もまた敵。私の言っていることは間違っていますか?」
「間違ってるに決まっているでしょ!」
私はヴェンタレスの言動についに沸点に達し剣を鷲掴みにする。
偏ったの主張しかしないこの男に私は痛みも忘れて怒りを露わにする。
咄嗟に掴んだので指の肉が削がれ鮮血が垂れるようにして出てくる。
ヴェンタレスは私の手から剣を引き抜こうとするが、私を見てその力を緩める。
「何故泣いているのですか?」
その言葉に私は初めて自身の瞳から涙が溢れていることに気づく。
「まさか、同情を誘おうとしているのですか?」
「・・・なんでですかね・・。」
ヴェンタレスの前ではわからないフリをするが、自然に溢れたその涙の理由は自身の不甲斐なさにあるのだろう。
慈愛の魔法少女の固有魔法には三つの弱点が存在するのだ。
一、明確な攻撃手段がないこと
二、相手依存で使い勝手が悪いこと
三、私自身で完全にコントロールできないことだ。
現在特筆すべきは、一と二であり、私は本来の力を発揮できずにいた。
フェニのときのように能力が発揮できれば、目の前の男をすぐに戦闘不能にして、村の人たちを助けられるはずなのに・・。
なんで、なんで私はこんな固有魔法なの・・。
何回目だろうか、こうやって自分自身が嫌いになったのは・・。
「隙だらけですよ」
ヴェンタレスは、いつの間にか剣を持った利き手とは逆の左手に魔力を込め、雷の属性を持つ矢を作り出していた。
荒々しい音に、私は目を瞑ってしまう。
「雷帝の矢」
「混沌の蠢き」
ヴェンタレスの雷の矢から黒い液体が漏れ出てき、蟻のようにその矢に群がった黒い物体はヴェンタレスの雷の矢を飲み込むようにして無くす。
「こ、これは・・。」
「ちょっとオイタが過ぎるんじゃないかな?」
「フェニ・・。」
私たちより少し離れた場所にいたフェニがそう呆れた声をヴェンタレスに向かって放つ。
普段のフェニとは違い、成犬いや成狼というべきなのか、私の手に収まらないサイズに変化したフェニが唸り声を上げる。
「勝手に君の魔法を解いてごめんね。だけども今は緊急事態だ。ここは僕に任せてみんなのところに行ってあげて・・。」
私は複雑な気持ちになるが、ここはフェニに頼るしかない。
本当は争いになんて巻き込みたくないのだが、背に腹はかえられない。
私は回れ右を急いですると、ヴェンタレスの動きも見ずに走り出す。
「逃しませんよ!」
ヴェンタレスはそう言い、雷の矢を再度出現させる私めがけて放とうとするが、
「何度やっても同じだよ」
フェニがそう言い、雷の矢を黒い魔力物体が飲み込む。
「フェニごめんね!すぐ戻るから!」
「いいよ、ベーラ。ボク自分で言うのもなんだけど、大分寛大だと思っていたけど、今はとっても暴れたい気分なんだ・・。」
その怒気を孕んだフェニの言葉に私はヴェンタレスのことを気の毒に思うのであった。
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