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終わりの狼煙
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早朝の出来事であった。
その日は二人の男女が辻馬車で小さな村に赴いていた。
だが、舗装すらされていない道を馬車が通っていたので、乗り心地は最悪であった。
「おいおい、この乗りもんはもうちょっと静かに移動できねえのか?」
揺れるたびに眉間に皺を寄せ、悪態をついたのはレンダであった。
レンダは神父という立場でありながら、粗野な言動が目立つ男である。
現に今も、壁を伝って御者に聞こえるほどの大声で悪態を吐いているため、御者が振動を抑えるため馬の速度を抑え始めていた。
「レンダ、あんたのその感じたことを何でも言ってしまう性格はいつ治るんだい?」
馬車の対角線上にいた人物は中性的な声でレンダを諌める。黒塗りの仮面をつけ、漆黒の神父服を纏ったその人物はため息を吐き、顎に手をやる。
巨躯のレンダに比べれば小柄な出で立ちの人物であったが、それもそのはず、
その人物の性別は女であるからだ。
彼女はミルナバ、レンダと同じセルザローグ国の神父である。
「しっかし、本当にこんな寂れた村に魔女なんているのかね?」
レンダは欠伸混じりにそんなことを言うと、股を開き手に持っていた、ウィスキーのボトルを煽る。
そんなレンダを見てミルナバは呆れる。
「朝っぱらから酒を飲むなんて・・。アンタは本当に自分の仕事をなんだと思っているんだい?」
「ガハハハ!その仕事のせいで俺はこんなに飲むようになったんだぜ?いつ死ぬか分からないことさせられてるんだ、死んだときに飲み足りなかった、好きなモン食えなかったってのが一番最悪だろ?」
レンダは指差し代わりにボトルをミルナバに向けてそう言う。
ミルナバは怪訝そうにそのボトルを叩き拒絶する。
「まあ、好きにすればいいさ、アタシの足を引っ張らなければね」
ミルナバはふうっと息を吐くと、腕を組んで項垂れる。
「アタシは到着までしばらく寝てるから、着いたら起こしてくれ」
「はいはい、じゃあそれまで俺も楽しんどくとするか・・。」
レンダがそう言い、再びボトルを煽るように傾けたその時だった。
馬のいななきが聞こえ、馬車が急停止をする。
その衝撃が馬車の内部に伝わり、レンダの手からウィスキーのボトルが落ちてしまう。
「おおぉぉい!!何してくれてんだあぁぁ、このクソ運転手がよお!」
レンダが雄叫びのように声を上げ、御者の男が驚きのあまり跳ねるように身体をビクつかせる。
だが、そんな怒り心頭に達したレンダを無視して、席を立ったミルナバは、外に飛び出す。
「何事だい・・。」
「い、いえそれが私にも分からないんですよ、突然馬が止まりまして・・。」
御者の男も現状を理解できてないのか、ミルナバの言葉にオロオロと腰の低い態度で説明をする。
現在ミルナバたちは森の中を進んでおり、身近な危険を瞬時に考えミルナバは警戒する。
しかし、辺りを見回しても盗賊らしき姿も猛獣の気配もなくミルナバは顎に手をやる。
彼女のルーティーンのようなものであり、物事を思考するときの癖のようなものである。
馬車をけん引する馬は何かに怯えるように忙しなく足を踏みならしており、それに呼応するように、鳥や霊長類が悲鳴のような鳴き声を上げる。
その姿にミルナバは一つの仮説を立てる。
(もしかしたら動物の本能が騒ぐほどの異質な何かが潜んでいるのかもしれないい。)
ミルナバがそんなことを考えていると、遅れて下車したレンダが驚きの声を上げる。
「おいおい、あれは何だ!?」
ミルナバはレンダの視線に合わせて、上空を見る。
遥か前方から立ち込めている火煙にミルナバは騒然とする。
「まさか、魔女がやったのか!?」
「いや、それはないだろうね。こんな大胆なことをするわけがない、おそらく魔族の仕業だろう」
ミルナバそう言いつつ、神父服の袖から金貨を一枚取りだして御者に渡す。
「すまないがここまででいいよ。余りはチップとして取っておいてくれていいよ」
「え、き、危険ですよ!お客様たちは知らないと思いますけど、このタナレスクの森は半年前に商人が襲われたことがあって危ないですよ!?」
「それは大丈夫だよ」
ミルナバはそう言い馬車の中から自身の荷物を取り出す。
ミルナバが持ってきていた物は、アタッシュケースであり、服と仮面と同様に黒革を使った物に教会のシンボルである十字架が刻まれていた。
「私たちにはこれがあるからね、それよりも自分の心配をしなよ、何が来るかわからないから・・。」
ミルナバはレンダに顎で合図をして、森の奥へと進んでいく。
後ろ向きで御者に手を振り去っていくミルナバについて行くレンダは疑問の声を上げる。
「魔族がこんな辺鄙な所に来てるのか?」
「わかんないけど、目星はつくんじゃないかい?」
ミルナバの言葉にレンダは、まさかといった様子で鼻で笑う。
「そんなことあると思うか?それはウチのボスと一緒の類だってことだぞ?」
ミルナバは静かに頷く。
「あぁ、始まりの魔女との関わりがある創生魔神だろう」
ミルナバの言葉にレンダはごくりと生唾を呑む。
その緊迫感がそうさせたのか、二人はほぼ同時に地面を蹴るのであった。
その日は二人の男女が辻馬車で小さな村に赴いていた。
だが、舗装すらされていない道を馬車が通っていたので、乗り心地は最悪であった。
「おいおい、この乗りもんはもうちょっと静かに移動できねえのか?」
揺れるたびに眉間に皺を寄せ、悪態をついたのはレンダであった。
レンダは神父という立場でありながら、粗野な言動が目立つ男である。
現に今も、壁を伝って御者に聞こえるほどの大声で悪態を吐いているため、御者が振動を抑えるため馬の速度を抑え始めていた。
「レンダ、あんたのその感じたことを何でも言ってしまう性格はいつ治るんだい?」
馬車の対角線上にいた人物は中性的な声でレンダを諌める。黒塗りの仮面をつけ、漆黒の神父服を纏ったその人物はため息を吐き、顎に手をやる。
巨躯のレンダに比べれば小柄な出で立ちの人物であったが、それもそのはず、
その人物の性別は女であるからだ。
彼女はミルナバ、レンダと同じセルザローグ国の神父である。
「しっかし、本当にこんな寂れた村に魔女なんているのかね?」
レンダは欠伸混じりにそんなことを言うと、股を開き手に持っていた、ウィスキーのボトルを煽る。
そんなレンダを見てミルナバは呆れる。
「朝っぱらから酒を飲むなんて・・。アンタは本当に自分の仕事をなんだと思っているんだい?」
「ガハハハ!その仕事のせいで俺はこんなに飲むようになったんだぜ?いつ死ぬか分からないことさせられてるんだ、死んだときに飲み足りなかった、好きなモン食えなかったってのが一番最悪だろ?」
レンダは指差し代わりにボトルをミルナバに向けてそう言う。
ミルナバは怪訝そうにそのボトルを叩き拒絶する。
「まあ、好きにすればいいさ、アタシの足を引っ張らなければね」
ミルナバはふうっと息を吐くと、腕を組んで項垂れる。
「アタシは到着までしばらく寝てるから、着いたら起こしてくれ」
「はいはい、じゃあそれまで俺も楽しんどくとするか・・。」
レンダがそう言い、再びボトルを煽るように傾けたその時だった。
馬のいななきが聞こえ、馬車が急停止をする。
その衝撃が馬車の内部に伝わり、レンダの手からウィスキーのボトルが落ちてしまう。
「おおぉぉい!!何してくれてんだあぁぁ、このクソ運転手がよお!」
レンダが雄叫びのように声を上げ、御者の男が驚きのあまり跳ねるように身体をビクつかせる。
だが、そんな怒り心頭に達したレンダを無視して、席を立ったミルナバは、外に飛び出す。
「何事だい・・。」
「い、いえそれが私にも分からないんですよ、突然馬が止まりまして・・。」
御者の男も現状を理解できてないのか、ミルナバの言葉にオロオロと腰の低い態度で説明をする。
現在ミルナバたちは森の中を進んでおり、身近な危険を瞬時に考えミルナバは警戒する。
しかし、辺りを見回しても盗賊らしき姿も猛獣の気配もなくミルナバは顎に手をやる。
彼女のルーティーンのようなものであり、物事を思考するときの癖のようなものである。
馬車をけん引する馬は何かに怯えるように忙しなく足を踏みならしており、それに呼応するように、鳥や霊長類が悲鳴のような鳴き声を上げる。
その姿にミルナバは一つの仮説を立てる。
(もしかしたら動物の本能が騒ぐほどの異質な何かが潜んでいるのかもしれないい。)
ミルナバがそんなことを考えていると、遅れて下車したレンダが驚きの声を上げる。
「おいおい、あれは何だ!?」
ミルナバはレンダの視線に合わせて、上空を見る。
遥か前方から立ち込めている火煙にミルナバは騒然とする。
「まさか、魔女がやったのか!?」
「いや、それはないだろうね。こんな大胆なことをするわけがない、おそらく魔族の仕業だろう」
ミルナバそう言いつつ、神父服の袖から金貨を一枚取りだして御者に渡す。
「すまないがここまででいいよ。余りはチップとして取っておいてくれていいよ」
「え、き、危険ですよ!お客様たちは知らないと思いますけど、このタナレスクの森は半年前に商人が襲われたことがあって危ないですよ!?」
「それは大丈夫だよ」
ミルナバはそう言い馬車の中から自身の荷物を取り出す。
ミルナバが持ってきていた物は、アタッシュケースであり、服と仮面と同様に黒革を使った物に教会のシンボルである十字架が刻まれていた。
「私たちにはこれがあるからね、それよりも自分の心配をしなよ、何が来るかわからないから・・。」
ミルナバはレンダに顎で合図をして、森の奥へと進んでいく。
後ろ向きで御者に手を振り去っていくミルナバについて行くレンダは疑問の声を上げる。
「魔族がこんな辺鄙な所に来てるのか?」
「わかんないけど、目星はつくんじゃないかい?」
ミルナバの言葉にレンダは、まさかといった様子で鼻で笑う。
「そんなことあると思うか?それはウチのボスと一緒の類だってことだぞ?」
ミルナバは静かに頷く。
「あぁ、始まりの魔女との関わりがある創生魔神だろう」
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