ダークファンタジーの魔法少女、異世界スローライフで日常を知る

タカヒラ 桜楽

文字の大きさ
上 下
23 / 37

終わりの狼煙

しおりを挟む
 早朝の出来事であった。
 その日は二人の男女が辻馬車で小さな村に赴いていた。
 だが、舗装すらされていない道を馬車が通っていたので、乗り心地は最悪であった。

 「おいおい、この乗りもんはもうちょっと静かに移動できねえのか?」

 揺れるたびに眉間に皺を寄せ、悪態をついたのはレンダであった。
 レンダは神父という立場でありながら、粗野な言動が目立つ男である。

 現に今も、壁を伝って御者に聞こえるほどの大声で悪態を吐いているため、御者が振動を抑えるため馬の速度を抑え始めていた。

 「レンダ、あんたのその感じたことを何でも言ってしまう性格はいつ治るんだい?」

 馬車の対角線上にいた人物は中性的な声でレンダを諌める。黒塗りの仮面をつけ、漆黒の神父服を纏ったその人物はため息を吐き、顎に手をやる。
 
 巨躯のレンダに比べれば小柄な出で立ちの人物であったが、それもそのはず、

 その人物の性別は女であるからだ。

 彼女はミルナバ、レンダと同じセルザローグ国の神父である。

 「しっかし、本当にこんな寂れた村に魔女なんているのかね?」

 レンダは欠伸混じりにそんなことを言うと、股を開き手に持っていた、ウィスキーのボトルを煽る。
 そんなレンダを見てミルナバは呆れる。

 「朝っぱらから酒を飲むなんて・・。アンタは本当に自分の仕事をなんだと思っているんだい?」
 「ガハハハ!その仕事のせいで俺はこんなに飲むようになったんだぜ?いつ死ぬか分からないことさせられてるんだ、死んだときに飲み足りなかった、好きなモン食えなかったってのが一番最悪だろ?」

 レンダは指差し代わりにボトルをミルナバに向けてそう言う。
 ミルナバは怪訝そうにそのボトルを叩き拒絶する。

 「まあ、好きにすればいいさ、アタシの足を引っ張らなければね」

 ミルナバはふうっと息を吐くと、腕を組んで項垂れる。
 
 「アタシは到着までしばらく寝てるから、着いたら起こしてくれ」
 「はいはい、じゃあそれまで俺も楽しんどくとするか・・。」

 レンダがそう言い、再びボトルを煽るように傾けたその時だった。

 馬のいななきが聞こえ、馬車が急停止をする。
 その衝撃が馬車の内部に伝わり、レンダの手からウィスキーのボトルが落ちてしまう。

 「おおぉぉい!!何してくれてんだあぁぁ、このクソ運転手がよお!」

 レンダが雄叫びのように声を上げ、御者の男が驚きのあまり跳ねるように身体をビクつかせる。
 だが、そんな怒り心頭に達したレンダを無視して、席を立ったミルナバは、外に飛び出す。

 「何事だい・・。」
 「い、いえそれが私にも分からないんですよ、突然馬が止まりまして・・。」

 御者の男も現状を理解できてないのか、ミルナバの言葉にオロオロと腰の低い態度で説明をする。
 現在ミルナバたちは森の中を進んでおり、身近な危険を瞬時に考えミルナバは警戒する。
 しかし、辺りを見回しても盗賊らしき姿も猛獣の気配もなくミルナバは顎に手をやる。

 彼女のルーティーンのようなものであり、物事を思考するときの癖のようなものである。

 馬車をけん引する馬は何かに怯えるように忙しなく足を踏みならしており、それに呼応するように、鳥や霊長類が悲鳴のような鳴き声を上げる。
 その姿にミルナバは一つの仮説を立てる。

 (もしかしたら動物の本能が騒ぐほどの異質な何かが潜んでいるのかもしれないい。)

 ミルナバがそんなことを考えていると、遅れて下車したレンダが驚きの声を上げる。

 「おいおい、あれは何だ!?」

 ミルナバはレンダの視線に合わせて、上空を見る。
 
 遥か前方から立ち込めている火煙にミルナバは騒然とする。

 「まさか、魔女がやったのか!?」
 「いや、それはないだろうね。こんな大胆なことをするわけがない、おそらく魔族の仕業だろう」

 ミルナバそう言いつつ、神父服の袖から金貨を一枚取りだして御者に渡す。

 「すまないがここまででいいよ。余りはチップとして取っておいてくれていいよ」
 「え、き、危険ですよ!お客様たちは知らないと思いますけど、このタナレスクの森は半年前に商人が襲われたことがあって危ないですよ!?」
 「それは大丈夫だよ」

 ミルナバはそう言い馬車の中から自身の荷物を取り出す。
 ミルナバが持ってきていた物は、アタッシュケースであり、服と仮面と同様に黒革を使った物に教会のシンボルである十字架が刻まれていた。

 「私たちにはこれがあるからね、それよりも自分の心配をしなよ、何が来るかわからないから・・。」

 ミルナバはレンダに顎で合図をして、森の奥へと進んでいく。
 後ろ向きで御者に手を振り去っていくミルナバについて行くレンダは疑問の声を上げる。

 「魔族がこんな辺鄙な所に来てるのか?」
 「わかんないけど、目星はつくんじゃないかい?」

 ミルナバの言葉にレンダは、まさかといった様子で鼻で笑う。

 「そんなことあると思うか?
 
 ミルナバは静かに頷く。

 「あぁ、始まりの魔女との関わりがある創生魔神クリエイツだろう」

 ミルナバの言葉にレンダはごくりと生唾を呑む。
 その緊迫感がそうさせたのか、二人はほぼ同時に地面を蹴るのであった。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

1001部隊 ~幻の最強部隊、異世界にて~

鮪鱚鰈
ファンタジー
昭和22年 ロサンゼルス沖合 戦艦大和の艦上にて日本とアメリカの講和がなる 事実上勝利した日本はハワイ自治権・グアム・ミッドウエー統治権・ラバウル直轄権利を得て事実上太平洋の覇者となる その戦争を日本の勝利に導いた男と男が率いる小隊は1001部隊 中国戦線で無類の活躍を見せ、1001小隊の参戦が噂されるだけで敵が逃げ出すほどであった。 終戦時1001小隊に参加して最後まで生き残った兵は11人 小隊長である男『瀬能勝則』含めると12人の男達である 劣戦の戦場でその男達が現れると瞬く間に戦局が逆転し気が付けば日本軍が勝っていた。 しかし日本陸軍上層部はその男達を快くは思っていなかった。 上官の命令には従わず自由気ままに戦場を行き来する男達。 ゆえに彼らは最前線に配備された しかし、彼等は死なず、最前線においても無類の戦火を上げていった。 しかし、彼らがもたらした日本の勝利は彼らが望んだ日本を作り上げたわけではなかった。 瀬能が死を迎えるとき とある世界の神が彼と彼の部下を新天地へと導くのであった

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...