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異端審問官
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ミルナバは、嵐のように去っていた少女を思い出しながら、煙草を吹かしていた。
左手で煙草を吸い、右手には少女がくれた小銭が入った麻袋を握っていた。
「律儀な子だね・・。」
ミルナバは煙草を床に捨て、靴で火を消すと、少女から貰った麻袋の中身を取り出す。
そこには少し高価なランチを食べれる程度のお金しかなく、不意にミルナバは笑ってしまう。
「こんな額なら別によかったのに、可愛い子だね」
そんな独り言を呟いていると、店内に何者かが来店して来る。
ブーツが擦れる音が聞こえ、ミルナバは眉を顰める。
「レンダ、静かに入って来いっていつもいっているでしょ?」
「うるせえなあ!毎度この薄汚えとこに来てやってんだ文句を言う前に感謝をしろ、感謝を!」
ミルナバに指を差しながら巨体の男ががなり立てて、近づいて来る。
男は、粗野な態度に似つかわしい純白の神父服を身に纏っており、首から金の十字架を下げていた。
その十字架に負けず劣らずの短い金髪を触りながら男は店の外を笑いながら振り返る。
男の名はレンダ=サンゼルマン。
この街の司祭である男だ。
「にしてもお前が子供相手に優しくするなんてどんな風の吹き回しなんだ?」
笑い方も品のないレンダにミルナバは呆れた声を上げる。
「私は子供には優しいわよ。子供にはね・・。」
ミルナバは強調するようにそう言い、レンダを睨みつける。
氷のように冷たい視線を受けるレンダであったが、そんなことも笑い声で吹き飛ばす。
「ガハハハ!冗談じゃねえか。そう怖い顔をするなよ」
レンダがひとしきり笑い終えると、ミルナバが興味なさそうに訊ねる。
「それで、今日は何しに来たわけ?」
「随分な挨拶だな。まあ、俺も暇じゃないわけだがな・・。」
レンダはそう言い神父服の内側の胸ポケットから、書状を取り出しミルナバに手渡す。
「異端審門の依頼が来ている。今回は珍しく寂れた村の調査らしいがな・・。」
「これは・・。」
「魔女教徒が密かに活動しているかもしれないらしい。場合によっては、村人全員ヤラねーといけねーかもな・・。」
レンダはそう言いながら笑顔を向ける。
物騒な言葉とは裏腹に嬉々とした表情を向けるレンダをミルナバは一瞥する。
「レンダ、アンタは遊びにでも行くつもりかい?アタシたちは仕事を迅速にこなすだけだ、そこに個人の感情はいらないよ」
ミルナバの言葉を面倒くさそうに流すレンダ。
そんなレンダにため息を吐き、ミルナバは腰掛けていた椅子から立ち上がると、店内の奥にある従業員専用の通路を開ける。
そこには聖紋が刻まれた多種多様な武器と、黒を基調とした神父服が姿を現す。
その上に、黒塗りの仮面があり、ミルナバはそれを取り顔に填める。
「女だからって顔を隠さないといけないなんて、とんだ差別だよな」
「何がだい?」
ミルナバはゆったりとした動作で衣服を脱ぎながらレンダの言葉に応える。
レンダの視線など気にも留めずに、ミルナバは突然着替えだしたのだ。
そんな、ミルナバの女性的なボディラインが露わになり、レンダは口笛を吹く。
「いやーだってよ、男は神父服、女は修道服とか男女で決めてよ、そんなのが神の思し召しなのかね?」
「レンダ・・。自分の崇める存在を蔑むなんて、アンタはどんだけ腐った性根をしているんだい?」
ミルナバの言葉にレンダは豪快に笑うと、頭の横を人差し指でトントンと叩く。
「俺は何神なんていると思っちゃいないよ。強いていうなら俺の体を動かしているコイツが俺の神さ。神父になったのも職業適正があったからで、これぽっちも信仰心なんてものはないんだよ」
「レンダ、その話は絶対に他の仲間に言うんじゃないよ?中には仲間にも手を出すヤツもいるぐらいだからね・・。」
ミルナバはそう言い、神父服の袖を通すと、
「まあかくいうアタシも同意見だけどね・・。」
「だからお前に言ってるんだろ?神はいない派の大事な仕事仲間だからな!ガハハハ!」
「何だいそれは・・?」
ミルナバは準備が整うと、店内の鍵をテーブルから拾い、「待たせたわね」と、言い店外へと歩き出す。
が、店外に通じる扉で思い出したように立ち止まる。
「レンダいつも通りアレをお願いできるかしら?」
「ああ、全然いいぜ。まずは状況把握のために教会に行くぞ」
レンダはそう言い、自身の胸元にある十字架を手に取り、ミルナバに向かってお辞儀をする。
「影の巡視者」
レンダがそう唱えると、二人を影のように黒い物が取り囲む。
それは、オーラのように身に纏わりつき、ミルナバはそれを確認すると、「行くわよ」と外に出るのであった。
彼女らはこの街の神父であり、国の平穏を保つために影から国を支える異端審問官であったのだった。
彼女らは仰々しい出立ちにも関わらず、人通りを堂々と闊歩するのであった。
というのも、レンダが唱えた魔法は、神聖魔法と呼ばれる物であり、神の加護を与えるバフ効果のある魔法である。
「今回も嘘であって欲しいものだけどね・・。」
ミルナバは切実そうにそう言うのであったが、数ヶ月後に訪れる村での異端審問で、彼女の願いは叶わなかったのである。
左手で煙草を吸い、右手には少女がくれた小銭が入った麻袋を握っていた。
「律儀な子だね・・。」
ミルナバは煙草を床に捨て、靴で火を消すと、少女から貰った麻袋の中身を取り出す。
そこには少し高価なランチを食べれる程度のお金しかなく、不意にミルナバは笑ってしまう。
「こんな額なら別によかったのに、可愛い子だね」
そんな独り言を呟いていると、店内に何者かが来店して来る。
ブーツが擦れる音が聞こえ、ミルナバは眉を顰める。
「レンダ、静かに入って来いっていつもいっているでしょ?」
「うるせえなあ!毎度この薄汚えとこに来てやってんだ文句を言う前に感謝をしろ、感謝を!」
ミルナバに指を差しながら巨体の男ががなり立てて、近づいて来る。
男は、粗野な態度に似つかわしい純白の神父服を身に纏っており、首から金の十字架を下げていた。
その十字架に負けず劣らずの短い金髪を触りながら男は店の外を笑いながら振り返る。
男の名はレンダ=サンゼルマン。
この街の司祭である男だ。
「にしてもお前が子供相手に優しくするなんてどんな風の吹き回しなんだ?」
笑い方も品のないレンダにミルナバは呆れた声を上げる。
「私は子供には優しいわよ。子供にはね・・。」
ミルナバは強調するようにそう言い、レンダを睨みつける。
氷のように冷たい視線を受けるレンダであったが、そんなことも笑い声で吹き飛ばす。
「ガハハハ!冗談じゃねえか。そう怖い顔をするなよ」
レンダがひとしきり笑い終えると、ミルナバが興味なさそうに訊ねる。
「それで、今日は何しに来たわけ?」
「随分な挨拶だな。まあ、俺も暇じゃないわけだがな・・。」
レンダはそう言い神父服の内側の胸ポケットから、書状を取り出しミルナバに手渡す。
「異端審門の依頼が来ている。今回は珍しく寂れた村の調査らしいがな・・。」
「これは・・。」
「魔女教徒が密かに活動しているかもしれないらしい。場合によっては、村人全員ヤラねーといけねーかもな・・。」
レンダはそう言いながら笑顔を向ける。
物騒な言葉とは裏腹に嬉々とした表情を向けるレンダをミルナバは一瞥する。
「レンダ、アンタは遊びにでも行くつもりかい?アタシたちは仕事を迅速にこなすだけだ、そこに個人の感情はいらないよ」
ミルナバの言葉を面倒くさそうに流すレンダ。
そんなレンダにため息を吐き、ミルナバは腰掛けていた椅子から立ち上がると、店内の奥にある従業員専用の通路を開ける。
そこには聖紋が刻まれた多種多様な武器と、黒を基調とした神父服が姿を現す。
その上に、黒塗りの仮面があり、ミルナバはそれを取り顔に填める。
「女だからって顔を隠さないといけないなんて、とんだ差別だよな」
「何がだい?」
ミルナバはゆったりとした動作で衣服を脱ぎながらレンダの言葉に応える。
レンダの視線など気にも留めずに、ミルナバは突然着替えだしたのだ。
そんな、ミルナバの女性的なボディラインが露わになり、レンダは口笛を吹く。
「いやーだってよ、男は神父服、女は修道服とか男女で決めてよ、そんなのが神の思し召しなのかね?」
「レンダ・・。自分の崇める存在を蔑むなんて、アンタはどんだけ腐った性根をしているんだい?」
ミルナバの言葉にレンダは豪快に笑うと、頭の横を人差し指でトントンと叩く。
「俺は何神なんていると思っちゃいないよ。強いていうなら俺の体を動かしているコイツが俺の神さ。神父になったのも職業適正があったからで、これぽっちも信仰心なんてものはないんだよ」
「レンダ、その話は絶対に他の仲間に言うんじゃないよ?中には仲間にも手を出すヤツもいるぐらいだからね・・。」
ミルナバはそう言い、神父服の袖を通すと、
「まあかくいうアタシも同意見だけどね・・。」
「だからお前に言ってるんだろ?神はいない派の大事な仕事仲間だからな!ガハハハ!」
「何だいそれは・・?」
ミルナバは準備が整うと、店内の鍵をテーブルから拾い、「待たせたわね」と、言い店外へと歩き出す。
が、店外に通じる扉で思い出したように立ち止まる。
「レンダいつも通りアレをお願いできるかしら?」
「ああ、全然いいぜ。まずは状況把握のために教会に行くぞ」
レンダはそう言い、自身の胸元にある十字架を手に取り、ミルナバに向かってお辞儀をする。
「影の巡視者」
レンダがそう唱えると、二人を影のように黒い物が取り囲む。
それは、オーラのように身に纏わりつき、ミルナバはそれを確認すると、「行くわよ」と外に出るのであった。
彼女らはこの街の神父であり、国の平穏を保つために影から国を支える異端審問官であったのだった。
彼女らは仰々しい出立ちにも関わらず、人通りを堂々と闊歩するのであった。
というのも、レンダが唱えた魔法は、神聖魔法と呼ばれる物であり、神の加護を与えるバフ効果のある魔法である。
「今回も嘘であって欲しいものだけどね・・。」
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