ダークファンタジーの魔法少女、異世界スローライフで日常を知る

タカヒラ 桜楽

文字の大きさ
上 下
15 / 37

冒険はしたくない

しおりを挟む
 「魔女を見つける方法って?」

 キョトンとした顔で私はミリアンヌに訊ねる。

 「簡単な話よ、それはねこのスキルボードってヤツでわかるらしいわ」

 ミリアンヌは待ってましたといわんばかりに辞書のように分厚い本を私に見せてくる。
 そこには、宝石が埋め込まれた石板のような絵が描かれており、私は訝しげな目でそれを眺める。

 「これがどうしたっていうの?」
 「これはね人間の職業ジョブを判断することが出来る魔道具らしいの。勇者、聖騎士、賢者、英雄物語に出てくる職業はもちろんのこと、スキルボードの職業の一覧には、魔女という職業も存在するのよ!」

 鼻息荒くそう説明をするミリアンヌであったが、彼女の言葉を聞きながら私は苦笑する。
 私は彼女がこれからしようとすることがわかってしまったから・・。

 「このスキルボードで村のみんなのことを調べればきっと魔女様が誰かわかるはずだわ!そしたら私のことを弟子にしてもらうのよ」
 「やっぱりそうなるよね・・。」

 ミリアンヌの行動力は称賛に値するが、あまり派手に動かれて正体がバレると面倒だ。
 今世では私は波風立てて過ごしたくはない。
 だからこそ、どうやってミリアンヌの魔女探しを諦めさせるかを考えていると、意外にもフェニが話に入ってくる。

 「ボクは無理だと思うなー」
 「え?どうしてなの?」

 フェニの言葉にミリアンヌは不思議そうな顔を向ける。

 「理由は色々あるけど、問題はそのスキルボードを手に入れるかだよ。何か目処があるのかい?」
 「そ、それは・・。」
 「スキルボードは神の代弁者である司祭がいる教会が占有しているし、もし手に入ったとしてもそれが本物かの見極めもわからないだろ?だからスキルボードでの作戦は無理だと思うわけ」

 フェニはいつの間にかテーブルの上に乗っており、後ろ足で自身の顔を掻きながら説明する。
 フェニの言葉にミリアンヌは渋い顔になり、やがて落ち込んだ様子で着座する。

 「完璧だと思ったんだけどなー。でも、どうしてフェニちゃんがそんなこと知ってるの?」
 「魔女は人間が血眼になって探すところを見たことがあるからだよ。ここじゃあり得ないけど、スキルボードがある国や街では魔女を探すために強制的にスキルボードに触れさせて、魔女の職業ジョブを見つけようとするほどなんだよ」
 「そ、そうなんだ・・。」

 フェニは話を切るように全身をブルブルと、震わせる。

 「まあ、悪いことは言わないから魔女の詮索はあまりしない方がいいよ。いつ言おうか悩んでいたけど、最近のミリアンヌは度が行き過ぎている。ここら辺でやめないと取り返しのつかないことになるかもしれないからね」

 悪い顔をして口角を上げるフェニに、ミリアンヌは身体を強張らせる。

 「どうして魔女様について調べたらいけないの?」
 「今は教えられないけど、時が来たら自ずと分かるさ・・。」

 フェニは含みのある言葉を言い、私の方を振り向く。
 ミリアンヌの興味を削いだことに、ドヤ顔を披露するフェニに私は呆れた目を向ける。
 大人気がないようにも見えた私であったが、当の本人はそんなこと気にも留めずに、再びレーネのクッキーを奪おうとしていたのだ。


 フェニたちが暴れている横で寂しそうに本を捲るミリアンヌを見て、私は席を立ち、ミリアンヌの側に座る。

 「ベーラちゃん・・?」
 「私は魔女のことよくわからないし、正直興味もそんなにないっていうか・・。」
 「そう・・だよね」
 「ああ、違うの!?嫌とかそういうことじゃなくてね、どうしてミリアンヌちゃんは好きになったのかな、なんて思ってね」

 私は落ち込むミリアンヌにそんなことを訊ねてしまっていた。
 また、ミリアンヌお得意のマシンガントークが出るのかと身構えていると、

 「別に好きとかじゃなかったんだけどね。私を助けてくれた魔女様に会いたい一心で調べてただけ」

 ミリアンヌはそう言いポケットからくしゃくしゃになった紙切れを広げる。
 
 そこには、ミリアンヌが描いた私の魔法少女である姿が描かれていた。

 「魔女様にまた会えたら、お礼とね服の話をしたいんだ。だってね、凄く可愛かったの!衣装もそうだし、アクセサリーとか魔法の杖も、村の服ってみんな同じような物でしょ?そういうのまとめて全部話したい、でもそのためには魔女様のことを知らないとって必死に調べたんだけど・・。」

 ミリアンヌはそう言い俯いてしまう。
 彼女は助けられたこともそうだが、異文化に触れ子供心をくすぐられたのだろう。
 ただ彼女は、その対称である魔法少女に会いたいという気持ちが空回りしただけなのだ。

 みんなを巻き込んででも叶えたいことがあったのだろう。

 私は俯くミリアンヌの手をそっと握る。

 「ねえ、ミリアンヌちゃん。魔女はきっと自分を探されることを嫌っているんじゃないのかな?」
 「・・・どうして?」
 「だってさ、そうじゃないと颯爽と現れてすぐにどっかに行ったりしないでしょ?だから無理矢理探すのもどうかなって私は思うんだ」

 私はミリアンヌの手を握り込み、優しく微笑む。

 「でもね魔女はきっと私たちのことをずっと見ていると思うんだ!だからピンチになったときに突然現れたでしょ?」
 「確かに・・そうかもしれない・・。」
 「だからさ、無理矢理探すんじゃなくて魔女から姿を現させるようにするなんてどうかな?」

 ミリアンヌは私の言葉に首を可愛く傾げる。

 「魔女様から姿を現させるってどうやって?」

 ミリアンヌの質問に私は勿体をつけるようにして笑顔を彼女に向ける。

 「それは魔女がね自分から仲間に入りたいって思うぐらい毎日楽しいことをするの!毎日面白いことをして美味しいものを食べてみんなが笑顔になれば一人ぼっちの寂しい魔女は私たちのところに来ると思うの。だからさ、無理に魔女を探したりせずにさ、楽しいことをいっぱいしよーよ。そしたらきっと魔女も会いに来てくれるよ」
 「・・本当かな?」
 「絶対大丈夫、すぐに羨ましがって来ちゃうと思うよ」

 何故そうなるか証明なんて出来ないし、そんなことはない。
 だが、ミリアンヌにとっては私は年下の女の子。
 自分の知らないことを年下の子が知っているはずもないだろうと思ってくれたのか。
 「そうだね・・。そうしよっか」と、ミリアンヌはぎこちない笑みで答えるのであった。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...