ダークファンタジーの魔法少女、異世界スローライフで日常を知る

タカヒラ 桜楽

文字の大きさ
上 下
14 / 37

少女たちの秘密基地

しおりを挟む
 タナレスクの森の出来事から半月ほど経ち環境はガラリと変わっていた。
 タナレスクの森は再び子供の遊び場になり、商人が行き交い村も以前と同じように物が流通するようになっていた。
 そんなタナレスクの森には大きな大木が存在する。
 フェニが大き過ぎてあまり気づかなかったが、四畳半ほどの空洞がある大木は、私たちの村の子供たちでは『秘密基地』といって、ここで、おままごとや集合場所などによく使われているのである。

 「ほら、入って、入って!」

 そんな大木の中にミリアンヌが私たちを招き入れる。
 別にミリアンヌの所有物というわけではないのだが、この集まりのリーダー的存在が彼女なので、おのずとそんな風になっているわけだ。

 「お、おじゃましま~す・・。」
 「バウ!バウ!」
 「こら!フェニちゃん、ここでは犬の真似しないの」

 ミリアンヌは大木の中に入るや否や私からフェニを引ったくるように奪う。
 フェニはジタバタとミリアンヌの手の中でもがくが、ミリアンヌの目力に負け、しばらくして項垂れると、「わかったよ・・。」と、観念するのであった。
 

 大木の中には、大人たちが私たち子供のために作った椅子やテーブルが存在しており、秘密基地と言っているが、自然の施設のような物だと私たちは感じている。
 ここは避難場所にも最適で、扉と動物たちを除ける魔道具も存在している所なのだ。

 「ベーラちゃんおはよう・・。」
 
 ミリアンヌが嫌がるフェニの身体を抱きしめていると、奥の方からか細い声が聞こえる。
 声の主は、カラスの羽のように艶やかな黒髪の少女レーネである。
 レーネはこちらを見ながらハムスターのように黙々とクッキーを食べていた。

 「レーネちゃん早いんだね・・。」
 「玄関の前にミリアンヌちゃんが待っていたから」
 「そ、そうなんだ・・。」

 私は苦笑しながら、ミリアンヌに勧められた扉近くの椅子に、フェニはテーブルに座る。

 「今日集まってもらったのは他でもなく・・。」
 「魔女に関してでしょ?」

 咳払いをして勿体ぶるミリアンヌにフェニはつまらなそうに答える。
 魔女とは、タナレスクの森の出来事以降、耳にタコが出来るほどにミリアンヌの口から発せられる言葉である。

 「じゃあ話が早いわね・・!?」

 ミリアンヌはそう言うと、フェニの真横に辞書ほどに分厚い本を荒々しくテーブルに置く。
 その音にフェニは身体をビクつかせ私の膝に飛び移る。
 目を血走らせ、鼻息を荒くした今のミリアンヌ私でも怖く感じるのでフェニの反応は仕方ないだろう。

 「これ新しく手に入れた魔女様に関する本なのよ!」

 ミリアンヌのその言葉に私は大きなため息を吐く。

 
ーーーーー

 タナレスクの森にて、大狼であるフェニと私の前世の姿が戦っているところを見て以来ミリアンヌは魔女(実際には魔法少女)のことが気になったらしく、魔女について独自で調べているらしい。
 魔女について研究して、それを私やレーネ、フェニとあの場所に居合わせたメンバーを集めて研究成果を発表などをこの秘密基地で行なっているのであった。

 始めはおままごとの延長線のような物だと、彼女に乗っていたのだがその熱量は凄く、他の国の書物を漁ったり、自身も魔法の練習を行なっているようで、のめり込み方に私は怖くなっているのだ。

 「魔女はしゅうえんを知り光を閉じこめた。そうぞうは絶え間ないやみと変わらないだろう・・。」

 ミリアンヌは拙い音読で私たちにいつも読み聞かせるのだ。
 興味のない話を聞かされるのは面倒だが、必死に私たちに伝えようとしているその姿が愛らしく、ついこの集まりに赴いてしまうのだ。

 夢中に音読をしているミリアンヌをよそに、レーネはクッキーを食べ続けており、フェニはそのクッキーを横取りしようとレーネの周りで彷徨いていた。

 フェニは甘い物が好物で、レーネがいつも食べているお菓子が欲しくて堪らないのだが、食い意地の張ったレーネはガッチリと腕の中にお菓子の入ったバケットをホールドしているため、いつもフェニは食べることができないのだ。

 「ねえ~!一枚、一枚でいいからボクにくれよ」

 レーネの足下で、ピョンピョンと跳ねながらおねだりをするフェニ。
 その様子を見て勝ち誇った顔をするレーネを見て私はクスクスと笑ってしまう。

 最初はフェニのことをあんなに怖がっていたのに、今では本当に仲が良いんだから。

 「ちょっとベーラちゃん!私の話聞いてるの!?」
 「え、えーと・・。ご、ごめん聞いてなかったや・・。」
 
 ベーラの迫力に気圧され正直に答えてしまう。

 「なんの話だっけ・・。」
 「もう、ベーラちゃんったら・・。」

 ミリアンヌは苦笑いをする私に向かってため息を吐くと、私に向かって人差し指を立てる。

 「魔女様を見つける方法があるらしいの!」

 ミリアンヌの言葉にその場にいた者は皆同じく首を傾げただろう。

 「魔女を見つける方法?」

 私たちの反応を面白がるようにミリアンヌは歯を出して笑うのであった。
 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした

桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。 彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。 そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。 そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。 すると、予想外な事態に発展していった。 *作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。

召喚されたけど不要だと殺され、神様が転生さしてくれたのに女神様に呪われました

桜月雪兎
ファンタジー
召喚に巻き込まれてしまった沢口香織は不要な存在として殺されてしまった。 召喚された先で殺された為、元の世界にも戻れなく、さ迷う魂になってしまったのを不憫に思った神様によって召喚された世界に転生することになった。 転生するために必要な手続きをしていたら、偶然やって来て神様と楽しそうに話している香織を見て嫉妬した女神様に呪いをかけられてしまった。 それでも前向きに頑張り、楽しむ香織のお話。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...