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時は経ち・・
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季節はすっかり、冬になり田舎は稲作が止まり、活気のない時期へと突入していた。
だからといって私たちが気落ちするかといったらそうではない。
子供たちは今日も大はしゃぎ、何故なら・・。
「おい!ベーラ見てみろよ!大きな雪だるまだぞ!」
「わあー凄いなぁ・・。」
今年で何百回見たか分からない、兄モートリー作の雪だるまを今日も見せられていた。
夏は涼しく、過ごしやすい土地だが、冬はいかんせん雪が多く降って、風も強い。
この寒さだけは何度体験しても慣れないもだ。
だが、見飽きた田畑も子供たちにとっては広大な遊び場へと変貌を遂げる。
子供たちには、喜ばしい時期だろうが、この季節だけ私の前世の日本と取り替えて欲しいと私は思ってしまう。
「何でそんなに暗い顔をしているんだ?」
「早く家に帰って暖まりたいからだよ・・。」
寒さを凌ぐ革製の手袋を擦りつけながら私はそう言う。
「寒いんだったら動けばいいんだよ!」
「い、いや今はそんなに動きたい気分じゃ・・ッ!?」
冗談でしょ!?
この村では家の中に風呂はなく、外でドラム缶式のような風呂に入る習慣がある。
この村の冬はこれがとてつもない地獄なのだ。
ましてや、運動をして汗をかいた後の風呂なんて拷問と一緒だ。
寒空の下、汗が氷になるあの瞬間にショック死をしてもおかしくないと思うほどに極寒なのだ。
だからこそ私は全力で首を横に振り、兄の誘いを断るが、それがフリだと捉えられたのか兄は、「いいから、いいから」と笑顔で腕を引いてくるのだ。
こういうところが兄の悪いところだ・・。
自分がありがた迷惑をしていることを自覚していないのだ。
私が外遊びという名の地獄に叩き落とされそうになったそのときであった。
「バウッ!バウッ!バウゥゥ~!」
と、吠えながらこちらに突進してくる小さな影。
ソレは綺麗な放物線を描き、見事に兄の腕に着地、もとい、噛み付くのであった。
「痛ったああぁぁ~!!この馬鹿犬!何をするんだよ」
噛まれた腕を振り払いながら、兄は悪態を吐く。
その振った勢いで噛み付いていたモノが兄の腕から離れる。
私は落下するソレを両腕でキャッチする。
「ちょっとお兄ちゃん乱暴はやめてよ!」
「その馬鹿犬が悪いんだろ!?お前がちゃんとしつけないのがダメなんだよ!」
兄は噛まれた怒りから私に八つ当たりすると、地団駄を踏みながら雪遊びをしている一団の元へと戻って行くのであった。
私はホッと息を吐くと、
「フェニ、ありがとう。お陰で助かったわ」
「例には及ばないよベーラ。困っているときはいつでも助けるって言ったでしょ?」
私の腕の中で丸くなってそう言ったのは、淡い紫の発色をした体毛に包まれた、狼であった。
シベリアンハスキーの子どものような見ためをしており、家族には捨て犬と誤魔化しているが、その正体は、大きな狼の化け物(後にフェンリルということが判明した)である。
タナレスクの森で出会い、今では私の家族のような存在である。
フェニと呼んでいるのは、タナレスクの森から帰るときに、私が付けた名前である。
本人もその名前に満足しており、私が呼ぶと、尻尾を大きく揺らして喜びを表現する。
彼との生活はとても楽しく驚きの連発であった。
彼は生肉しか食べたことがなく、人間の食べ物を神の産物と評して毎日幸せそうに食べている。
(もちろん、犬として飼っていることになっているから、家族に内緒でこっそり与えているんだけどね)
他にも、彼には寿命がなく、食事というのは、栄養補給ではなく、嗜好という名の娯楽に近いらしい。
森で大量に食い散らかされていたのもそういった理由だったらしい。
そして驚くことに、フェニの性別は女の子だったのだ。
不遜な態度から生意気そうな男の子って感じがしたからそれは正直意外だった。
と、まあ他にも色々とあるが一々説明をすると、キリがないのでここら辺にしておくが、フェニがどうして犬並みの大きさかというと・・。
「それにしてもベーラの魔法は規格外だね」
「まあ、あまり嬉しくないけどね」
フェニの言葉に私はため息を吐く。
私の魔法能力は慈愛といい、私が慈愛の感情を向けた相手には基本的に何でも出来るという、無茶苦茶な能力である。
この能力のせいで前世ではとても苦労したのだが、あまり思い出したくないことなので、今は割愛させてもらう。
フェニの姿形はその能力によって小型犬に姿を変えたのである。
彼女が村で過ごしやすいようにという私の優しさというのが能力に反映されたのだろう。
なんともまあ、尊大な能力だろう・・。
こんな力私は欲しくなかったが、幸せそうなフェニを見ているとそんな気持ちも和らいでいた。
ーーーーー
「・・ら、ベーラ!」
フェニの声で私はハッとする。
どうやら物思いに更けてしまっていたようだ。
「さっきからボーッとしてどうしたの?」
「ううん、なんでもないよ・・。」
私はフェニに笑顔を向けながらそう答えると、「そんなことよりも」と、話題を変える。
「今日もやると思う?」
「絶対にやると思うよ・・。なにせ、ボクが来て以来やらなかった日はないでしょ?」
「そうだったね・・。」
私たちは二人も揃って憂鬱な顔になる。
と、それを見計らってなのか、私の元へ走ってくる影が見える。
「ベーラ!探していたのよ。ホラ今日も一緒に秘密基地へ行くよ!」
そう元気溌溂に言ったのは、近所の小麦農家の娘マリアンヌであった。
私たちはミリアンヌの言葉を聞き、
「「やっぱりか・・。」」
と、言葉を合わせ項垂れるのであった。
だからといって私たちが気落ちするかといったらそうではない。
子供たちは今日も大はしゃぎ、何故なら・・。
「おい!ベーラ見てみろよ!大きな雪だるまだぞ!」
「わあー凄いなぁ・・。」
今年で何百回見たか分からない、兄モートリー作の雪だるまを今日も見せられていた。
夏は涼しく、過ごしやすい土地だが、冬はいかんせん雪が多く降って、風も強い。
この寒さだけは何度体験しても慣れないもだ。
だが、見飽きた田畑も子供たちにとっては広大な遊び場へと変貌を遂げる。
子供たちには、喜ばしい時期だろうが、この季節だけ私の前世の日本と取り替えて欲しいと私は思ってしまう。
「何でそんなに暗い顔をしているんだ?」
「早く家に帰って暖まりたいからだよ・・。」
寒さを凌ぐ革製の手袋を擦りつけながら私はそう言う。
「寒いんだったら動けばいいんだよ!」
「い、いや今はそんなに動きたい気分じゃ・・ッ!?」
冗談でしょ!?
この村では家の中に風呂はなく、外でドラム缶式のような風呂に入る習慣がある。
この村の冬はこれがとてつもない地獄なのだ。
ましてや、運動をして汗をかいた後の風呂なんて拷問と一緒だ。
寒空の下、汗が氷になるあの瞬間にショック死をしてもおかしくないと思うほどに極寒なのだ。
だからこそ私は全力で首を横に振り、兄の誘いを断るが、それがフリだと捉えられたのか兄は、「いいから、いいから」と笑顔で腕を引いてくるのだ。
こういうところが兄の悪いところだ・・。
自分がありがた迷惑をしていることを自覚していないのだ。
私が外遊びという名の地獄に叩き落とされそうになったそのときであった。
「バウッ!バウッ!バウゥゥ~!」
と、吠えながらこちらに突進してくる小さな影。
ソレは綺麗な放物線を描き、見事に兄の腕に着地、もとい、噛み付くのであった。
「痛ったああぁぁ~!!この馬鹿犬!何をするんだよ」
噛まれた腕を振り払いながら、兄は悪態を吐く。
その振った勢いで噛み付いていたモノが兄の腕から離れる。
私は落下するソレを両腕でキャッチする。
「ちょっとお兄ちゃん乱暴はやめてよ!」
「その馬鹿犬が悪いんだろ!?お前がちゃんとしつけないのがダメなんだよ!」
兄は噛まれた怒りから私に八つ当たりすると、地団駄を踏みながら雪遊びをしている一団の元へと戻って行くのであった。
私はホッと息を吐くと、
「フェニ、ありがとう。お陰で助かったわ」
「例には及ばないよベーラ。困っているときはいつでも助けるって言ったでしょ?」
私の腕の中で丸くなってそう言ったのは、淡い紫の発色をした体毛に包まれた、狼であった。
シベリアンハスキーの子どものような見ためをしており、家族には捨て犬と誤魔化しているが、その正体は、大きな狼の化け物(後にフェンリルということが判明した)である。
タナレスクの森で出会い、今では私の家族のような存在である。
フェニと呼んでいるのは、タナレスクの森から帰るときに、私が付けた名前である。
本人もその名前に満足しており、私が呼ぶと、尻尾を大きく揺らして喜びを表現する。
彼との生活はとても楽しく驚きの連発であった。
彼は生肉しか食べたことがなく、人間の食べ物を神の産物と評して毎日幸せそうに食べている。
(もちろん、犬として飼っていることになっているから、家族に内緒でこっそり与えているんだけどね)
他にも、彼には寿命がなく、食事というのは、栄養補給ではなく、嗜好という名の娯楽に近いらしい。
森で大量に食い散らかされていたのもそういった理由だったらしい。
そして驚くことに、フェニの性別は女の子だったのだ。
不遜な態度から生意気そうな男の子って感じがしたからそれは正直意外だった。
と、まあ他にも色々とあるが一々説明をすると、キリがないのでここら辺にしておくが、フェニがどうして犬並みの大きさかというと・・。
「それにしてもベーラの魔法は規格外だね」
「まあ、あまり嬉しくないけどね」
フェニの言葉に私はため息を吐く。
私の魔法能力は慈愛といい、私が慈愛の感情を向けた相手には基本的に何でも出来るという、無茶苦茶な能力である。
この能力のせいで前世ではとても苦労したのだが、あまり思い出したくないことなので、今は割愛させてもらう。
フェニの姿形はその能力によって小型犬に姿を変えたのである。
彼女が村で過ごしやすいようにという私の優しさというのが能力に反映されたのだろう。
なんともまあ、尊大な能力だろう・・。
こんな力私は欲しくなかったが、幸せそうなフェニを見ているとそんな気持ちも和らいでいた。
ーーーーー
「・・ら、ベーラ!」
フェニの声で私はハッとする。
どうやら物思いに更けてしまっていたようだ。
「さっきからボーッとしてどうしたの?」
「ううん、なんでもないよ・・。」
私はフェニに笑顔を向けながらそう答えると、「そんなことよりも」と、話題を変える。
「今日もやると思う?」
「絶対にやると思うよ・・。なにせ、ボクが来て以来やらなかった日はないでしょ?」
「そうだったね・・。」
私たちは二人も揃って憂鬱な顔になる。
と、それを見計らってなのか、私の元へ走ってくる影が見える。
「ベーラ!探していたのよ。ホラ今日も一緒に秘密基地へ行くよ!」
そう元気溌溂に言ったのは、近所の小麦農家の娘マリアンヌであった。
私たちはミリアンヌの言葉を聞き、
「「やっぱりか・・。」」
と、言葉を合わせ項垂れるのであった。
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