ダークファンタジーの魔法少女、異世界スローライフで日常を知る

タカヒラ 桜楽

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前世と今の違い

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 「何を言っているの・・?」
 
 私は大狼の言葉に半笑いで答える。
 大狼は長い腰を器用に使いミリアンヌと私をゆっくりと降ろしながら落ち着いた様子で、

 「そのままの意味だよ」

 と、冷静に言うのであった。
 状況を飲み込めていない私に大狼は顎で怯えるレーネを差す。

 「不本意だけど消去法で君が魔女になったんだよ。ボクの一睨みであんな風になるんだ、彼女には魔女の器はないさ・・。」
 「貴方が魔女を決めるの?」
 「そうだよ。

 大狼の言葉に私はしかめっ面になってしまう。

 「貴方の自分勝手な行動で私たちはこんなに危険な目にあったっていうの?」
 「仕方ないじゃないか、どちらかというと早く出てこなかった君が悪いんだよ?」

 大狼の言葉に私は怒りを通り越して、口元がヒクヒクと痙攣するように動く。

 「魔女って何よ!?私が何をしたっていうの?ずっと何を言っているのか全然わからないよ」
 「君が一番知っているはずなんだけど・・。実際に証明するしかないのかな」
 「・・・証明?」

 大狼はそう言うと、おもむろに立ち上がり、犬のように身体をブルルっと高速で震わすと、足元から禍々しいドス黒い流動体が大狼の足に纏わりつく。

 すると大狼は、近くにあった木にその高密度の魔力が纏った足で触れる。
 触れられた木は水脹れのように膨らみ弾けるのであった。

 「黒毒爪ポイズン・ノワール、殺傷能力を重視した暗殺魔法だよ」
 「まさか・・それを」

 今の自分にとって防ぎきれない大狼の魔法に私は顔を蒼白にさせる。
 スピードも内蔵する魔力量も圧倒的な大狼が今の技を使うなら私に勝ち目はない・・。
 
 だが次に放った大狼の言葉に私は震え上がる。

 「これを君の家族、友人に向ける。君が魔女の力を使うまでずっとね」

 大狼はそう言うとゆったりとした足取りでレーネに近づく。

 「こ、来ないで!!」
 「やめてッ!?」

 私は自身の身体を強化し、大狼の頭上まで跳躍する。
 幸いにも気絶していた間に私の魔力は回復をしていたのだ。
 私は持て余した体内の魔力を全て右手に集め大狼の鼻っ面を殴る。

 はずだったが・・。

 「・・・エッ!?」

 大狼は身を翻し眠っているミリアンヌに向かって襲い掛かる。

 魔法を維持することに集中しているのか、速度自体は決して早いものではないが、大狼の巨体は数歩でミリアンヌの下に着きその爪を振り下ろす。

 すんでのところで私の蹴りがミリアンヌへと振り下ろした足を弾く。
 黒毒爪ポイズン・ノワールに触れた靴は果実のように爆ぜ、少し掠めたのか足の甲は焼け爛れたよう皮膚が溶けていた。

 「・・・うぅっ!」
 「足を払うだけじゃ、終わらないよ?」

 痛みに声を上げるよりも早く大狼の追撃の爪が私に降りかかる。
 
 その攻撃は確実に私を殺す意志を持っていた。
 だからこそなのか、生死の狭間で私の眼が一人でに活発に動き始める。
 死を体感すると走馬灯が見えるとかそんなことを聞いたことがある。
 
 本来人間の脳には身体能力を制限する機能が付いているのだが、死という絶対的な恐怖を打破するために脳がそのリミッターを外すからとかそんなことを言っていたっけな・・。

 実際は、相馬灯ではなくスローモーションカメラのような景色が私の眼を通して脳に情報が伝わる。
 その景色を、見ながらも私の頭の中をさまざまなことが巡る。

 私が死んだらみんなはどうなるのか。

 この状況を打開出来る魔法は。

 魔法少女だったあの時だったら勝てたのかも、とかそんな妄想すらする始末であった。

 魔法少女・・魔法少女?

 魔法・・少女!?


 私の頭の中に電流が走る。

 すっかり忘れていたことだ。
 魔力の基準や使い方が一緒だったのだ。

 つまり、前世の魔法少女としての私も存在できるのではないのか・・。

 その考えを思いついたときには、私は天に向かって叫んでいた。

 「魔法装束展開マジカル・コスチューム・オン!!!」
 
 眩い光に包まれ、私はそっと眼を閉じる。
 身体の芯からじんわりと暖まり、私の身体のラインを光の粒子が型取り衣服を作り出す。
 やがて光が褪せるように弱くなっていき、そこで眼を開ける。

 前世で見慣れたフリルが多く、丈の短いスカートが視界に入る。
 右手には、いつの間にか握られていた魔杖マジカル・ステッキがあり、それを構える時にある異変に気づく。

 「身体が戻っている」

 手を伸ばすように魔杖マジカル・ステッキを構えた腕は、いつも見ている腕より長く、手はとても大きかった。
 そこでいつもより視点が高くなっていることに気づく。

 そしていつもと違うところはもう一つ。

 それは魔法少女に変身した今の私の身体を前世と同等以上の魔力が体内を駆け巡っていた。

 おそらく、変身した身体はこの世界の影響を受けていないのだろう。

 「・・・キレイ」

 私の変身した姿を見てレーネが羨望の眼差しを向ける。
 私は嬉しさに緩む気持ちを引き締めて、大狼を見つめる。
 変身した私を追撃を中断し見つめいた大狼はニヤリと口角を上げる。

 「凄い!凄いよ!やっぱり君が魔女だったんだ!今からボクと一緒にいいところに行こうよ」
 「嫌だよ・・。私はこの村が好きだから・・。自分勝手なお願いだけどもうこの村と私に関わらないで欲しいの」
 「無理って言ったら?」
 「貴方が納得するまで言うだけよ」

 私はそう言うと、大狼の嬉々とした顔にステッキをかざすのであった。
 

 
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