ダークファンタジーの魔法少女、異世界スローライフで日常を知る

タカヒラ 桜楽

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不穏な森

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 私は二つの意味で困っていた。

 一つは兄たちと逸れてしまったこと。
 もう一つは、頑なに動こうとしない黒髪の少女レーネであった。
 咄嗟の感情でレーネを気遣ったのだったが、正直に言うと、不気味な雰囲気のこの森を早く抜け出したいというのが私の心情であった。

 「レーネちゃん、どうしたの?」
 「この森はこわいの・・。」

 幼く可愛らしい声でそう言った彼女は何かを気にするように辺りを見渡す。
 
 「なにかきもちのわるいモノがずっと見ている気がするの・・。」
 「気持ちの悪い物・・?」

 彼女が私の疑問に頷いたその時であった。

 森を走り抜けるほどの大きな悲鳴が森の奥から聞こえる。
 私はその声に反応すると、レーネを抱えて咄嗟に走り出していたのだ。

 この世界と魔法少女だった前世と魔力の構造はとても似ているものがあった。
 私はその魔力を足と、レーネを抱える腕に纏わせると駿馬の如く森を駆け抜ける。
 身体能力の向上というだけの魔力を使った技術だが、幼い今の身体にはとても負担のかかるものなのだろう。
 少し使っただけでひどい倦怠感が私を襲う。

 だが、私は身体を酷使してまで声のする方に行かなければいけなかったのだ。
 先程聴こえてきたあの悲鳴は、私たちと一緒にこの森に入ったミリアンヌの声であったからだ。

 「ダメ・・ダメ・・ッ!?」

 私の腕の中で頭を抱えるレーネを見て私は、「大丈夫だから」と、ただ言うことしか出来なかった。
 嫌がっている彼女を村に帰してあげたい気持ちは強かったが、事態は一刻を争う。
 彼女を森の中で一人置いて行くわけにもいかない、それに何かあった時は私が魔法を使い逃げれば良いだけだ。
 
 「レーネちゃんもう少しだけ我慢しててね!」

 薄暗い森を走りながら、私はレーネに寄り添うように優しく言うと、さらに加速して行くのであった。


ーーーーー

 悲鳴の聞こえた場所にたどり着いた時に私の後悔の念が押し寄せる。

 「ヒック、うぅ~、ウッウッ」

 私の目の前で涙を垂れ流し地面に膝をついていたのは、兄のモートリーであった。
 そのモートリーの下に倒れていたのは、私たちの中で年長者のアルフレッドであった。
 
 「ひどい・・。」
 「・・・ッ!?」

 アルフレッドの現状に私の顔が強張る。
 それに反応するかのようにレーネの私の服を掴む力が強くなる。
 目の前で倒れていたアルフレッドの胴体には袈裟にかけて大きな鉤爪のような物で身体を引っ掻かれていた。
 実際に引っ掻かれるではなく、肉を刮ぎ取られているような程に重傷であった。
 三本爪が肉を抉り、肋の骨が受け出ており、私はすぐにアルフレッドたちの元に駆け寄り、レーネを下ろすと、アルフレッドに向かって手をかざす。
 
 「女神の雫ヒーリング・ティアーズ!」
 
 一か八かの賭けであったが、やはり私の経験値は前世と繋がっているのだろう。
 この世界でも前世同様、私のオリジナル魔法も使えるようだ。
 もちろん子供の私にはとても疲労が溜まるのだが・・。

 「べ、ベーラ・・?」

 私の手のひらから淡い光が現れ、モートリーは目を丸くする。
 やがてその光がアルフレッドを包むと、傷口が徐々に塞がっていく。

 「ふう・・。これで、ひとまずは大丈夫だと思うよ」

 この身体になって、初めての魔力を使った私は、倦怠感からその場に座り込んでしまう。
 モートリーは傷が完全に塞がったアルフレッドを見て不思議でならないようであったが、すぐに何かを思い出し、顔をくしゃくしゃにして妹である私に泣きつく。

 「ど、どうしたのお兄ちゃん・・。」
 「ミリアンヌが・・ミリアンヌがああ~!?」
 
 錯乱状態の兄の言葉に私は戸惑うが、ミリアンヌがいないことに気づき、青ざめる。

 「まさか・・。」
 「化け物が攫って行ったんだよ!」

 泣き崩れる兄を見て私は先刻の自分に苛立つ。
 何を安堵していたのだろう。
 村に来た行商人の話と同じことが起きたので、アルフレッドを襲った何者かはもう逃げたと思い込んでしまっていたのだ。

 絶望の淵から私たちは生還していない・・。

 そのことに気づいた私は悲鳴をあげる身体を無理矢理立ち上がらせる。
 だが、そんな私の手をレーネが引っ張る。

 「行っちゃダメ・・。ベーラちゃんもレーネと一緒なんでしょ?」
 「な、何を言っているの・・?」
 「あの怪物・・レーネたちが好物なの・・。」

 レーネは震える声で必死に私に訴えかける。
 私はそんなレーネの言葉に疑問を持つ。
 
 「あの怪物ってレーネちゃんミリアンヌを攫ったのが誰かわかるの・・?」

 本当のことを話すか悩んだレーネは、ゆっくりと首を縦に振るのであった。
 
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