月で逢おうよ

chatetlune

文字の大きさ
上 下
23 / 25

月で逢おうよ 23

しおりを挟む
 暖かい湯につかり、冷え切った体を温めると、勝浩はやっと人間に戻った気がしてほっと息を吐く。
「とにかくもう、面倒なことは考えないようにしよっと」
 自分を励ますように呟いてみる。
 もう胸が痛くなるような思いはごめんだ。
 明日は合宿も終わって帰るだけだし。
 長谷川さんの車にはもう乗れないから、検見崎さんの車にでも乗せてもらえばいいか。
 湯船から上がると、新しいTシャツと下着に着替えてバスルームを出た勝浩は、自分用のベッドにうずくまるユウのすぐ横に長身の男が立って窓を眺めているのに気づいた。
「おやすみなさい」
 さっさとベッドにもぐりこもうとした勝浩は、急に腕を引かれて振り仰いだ。
「話をしないか」
 幸也は低く言った。
「俺には話なんかありません」
 勝浩は幸也を睨みつけた。
 くだらない言い訳も聞きたくないし、もう蒸し返したくもない話だった。
「いいから、聞けってんだよ!」
 激高した幸也は乱暴に勝浩を起き上がらせた。
「過去の行状は別としても、今回、俺はお前をだまそうなんて気はこれっぽっちもない!」
「わざわざ部屋割りに小細工したくせに?」
 勝浩はきっと幸也を見据えた。
「だから、それは、お前と一緒の部屋になりたかったからだって」
「へえ、それで今夜何を決めるつもりだったんです?」
 冷ややかな勝浩の言葉に、幸也は一瞬たじろぐ。
「だから、だから、俺は……、お前がずっと好きだったんだよ」
 そんな幸也の言葉を聞いて、勝浩はわざとらしくため息をつく。
「長谷川さん、それ、自分で言ってて、よく恥ずかしくなりませんね? 立ち聞きなんかしなけりゃ鵜呑みにしたかもしれないけど、残念でしたね」
 幸也はちっと舌打ちした。
「これだよ、お前は多分、信じないと思った。だから、なかなか告ることもできなくて、俺はアメリカくんだりまで逃げたんだ」
 勝浩は顔を上げて、部屋の中をうろうろと歩きながら話す幸也を見つめた。
「高三のあの時、俺は志央にはっきりフられてやっと目が覚めたって感じだった。俺自身になれたっていうか。そしたら、お前のことが気になり始めて。でもいくら俺でも、あいつがダメならやっぱりお前が好きだなんて、そんなことを言えるほど厚顔無恥じゃなくて」
 それを聞いて何を言ってるんだと勝浩は鼻で笑う。
「だから、ずっと言えなくて。でも時がたてば、ひょっとしたら言える時がくるかもしれないって。とりあえず距離をおこうって、その間に、もし、お前が誰かを見つけたら、仕方ない……そう思いながら、やっぱ心配でさ。たまたま慶洋大にいたタケに、ワゴンと引き換えにお前のようすを報告しろってだな。だが、俺とあいつよく似てるし、従兄弟だって気づかれたら、お前が敬遠するんじゃないかと思ったのさ」
「なかなかつじつまの合った作り話ですね」
 勝浩の一言に、幸也ははあっと息をつく。
「やっぱ信じないだろ、お前は」
「検見崎さんも、じゃあ、知ってて俺のことを報告していたと」
「言っとくが、やつにはただ、気になる後輩がいるから、お前のことを報告しろって言っただけだ。詳しい話なんか何もしてないからな。あいつは仕事にワゴンが欲しかっただけで、ウソの下手なヤツだし」
 幸也は声を張り上げる。
「よく似ててもそこが違うんですね」
「言ってくれるじゃねーか。とにかく、俺はあっちにいて、お前の代わりを探したよ。だけどどいつもこいつもやっぱ、お前じゃなかった。そんな時、タケから、お前を狙ってるらしい女の子がいるって聞いて、いてもたってもいられずに、舞い戻ってきたんだよ」
 煙草をくわえてはまたはずし、幸也は落ち着きなくそれを指の中でもてあそぶ。
「あの時、久しぶりに飲み会で会った時も、お前見て舞い上がりたいくらいだったけど、さり気に近づいた方がいいって思って。な、少しは信じてくれよ」
 懇願するように幸也は勝浩を見た。
「ひかりさんだっているくせに」
「あいつはガキの頃からのダチで、その、俺のことよく知ってるから」
「ひかりさんもグルなんですか?」
 すかさず勝浩は切り返す。
 幸也は隣のベッドに座り、頭をかきむしった。
「ひかりは関係ねーって! 一体どうしたら、信じてくれるんだよ? しろってんなら、土下座でもなんでもするさ」
「やめてください。いい男が台無しですよ。眠った方がいい。朝になったらくだらないことは忘れてるかもしれないし」
 幸也の話をさらりと流して、ベッドにもぐりこもうとする勝浩の腕を幸也は再び掴む。
「ああ、そうかよ! 言葉で信じないんなら体でわからせてやるさ」
 いきなり毛布をはいで襲いかかってくる幸也に驚いて、勝浩は抵抗する。
「バカなこと! あんた、何やってんのか、自分でわかってんの」
「わかってるさ。夕べだって、一緒にいたら襲っちまいそうだったから、リビングで寝たんだ」
「え……」
 一瞬、勝浩が怯んだ隙に、幸也は勝浩を押さえ込み、勝浩のTシャツを捲し上げる。
「やめ…てください!」
「無理だな…もう。嫌われるんならとことん嫌われろ、だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Tea Time

chatetlune
BL
「月で逢おうよ」の後の幸也と勝浩のエピソードです。 再会してぐっと近づいた、はずの幸也と勝浩だったが、幸也には何となく未だに勝浩の自分への想いを信じ切られないところがあった。それは勝浩に対しての自分のこれまでの行状が故のことなのだが、検見崎が知っている勝浩のことが幸也にとっては初耳だったりして、幸也は何となく焦りを感じていた。

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

エンシェントリリー

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
短期間で新しい古代魔術をいくつも発表しているオメガがいる。名はリリー。本名ではない。顔も第一性も年齢も本名も全て不明。分かっているのはオメガの保護施設に入っていることと、二年前に突然現れたことだけ。このリリーという名さえも今代のリリーが施設を出れば他のオメガに与えられる。そのため、リリーの中でも特に古代魔法を解き明かす天才である今代のリリーを『エンシェントリリー』と特別な名前で呼ぶようになった。

しのぶ想いは夏夜にさざめく

叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。 玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。 世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう? その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。 『……一回しか言わないから、よく聞けよ』 世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...