18 / 25
月で逢おうよ 18
しおりを挟む
キッチンでフライパンを使い、勝浩がスクランブルエッグを作っていると、「んまそー」と肩越しに幸也の声が降ってきた。
「食べるんだったら、作りますけど」
まったくもう、心臓に悪いんだよ、長谷川さん。
「う、嬉しい! 勝浩くんお手ずから作ってくれるスクランブルエッグなんて」
大仰に感激ムード全開の幸也を、勝浩は呆れて見上げた。
「おだてたって、うまいかどうかわかりませんよ。じゃあ、長谷川さん、パンの用意してください」
「へいへい。じゃあ、ついでにコーヒーも用意しましょーかね」
幸也がいそいそとパンを皿に取り分けていると、あくびをしながら検見崎も現れた。
「あ、いいな、いいな、勝っちゃん、こんなやつの分はいいから、ボクたんに作って作って」
「何だと、タケ、あとからきて図々しいんだよ」
朝っぱらからふざけ始める二人の分を勝浩は仕方なく作ることになってしまった。
午前中いっぱいは、ハイキングコースを走ったり、二ヵ所にあるテニスコートのうち山荘の裏手のアンツーカーの方を臨時ドッグランにして犬たちを自由に走らせ、一緒にフリスビーをやったりして、犬も人間も思い切り楽しんだ。
その間中、幸也はなんだかんだと勝浩に絡んできて気がつくと一緒に過ごしていた。
もともと人懐こいビッグやユウまでもすっかり幸也にも懐いたようだ。
「ようし、行けー!」
フリスビーをくわえたビッグは一目散に走ってくる。
ユウも負けじと走る。
コロコロと実に楽しそうで、ビッグと一緒に土まみれになっている幸也を見ると、勝浩も心から笑った。
「お前がそんな風に笑うの、始めてみたな」
ベンチに座っていると、疲れたと言いながらビッグやユウを従えて幸也がやってきた。
「え…………そうかな」
そうかもしれない。
高校時代、幸也の傍にはいつも志央がいたから、だから、どこかしら自分は卑屈になっていたのだろう。
あの頃の自分を思い出して勝浩は今度は苦笑する。
「くそ、犬つながりだったとはなー。そうと知ってれば、とっくに犬連れで散歩でも誘ってたのになー」
なにそれ?
何気なくそんな言葉をはく幸也に、勝浩はまたしても卑屈な気分になってしまう自分が嫌だった。
「今度、俺の部屋にも来いよ。うちの犬も紹介するからさ。こないだやっと引越し荷物も片づいたし、うちから一匹連れてこようと思ってるんだ。向こうから連れてきた猫もいるし」
何だろう。
そんな幸也の台詞に、勝浩は高校時代、やはり馴れ馴れしく近づいてきた時の幸也がオーバーラップして、いつの間にか勘繰ってしまう。
「一人暮らしするんですか? 通える範囲なのに」
そんな思いを振り払うように、勝浩は努めて明るく問い返す。
でも気軽に部屋に来いだなんて、言わないで欲しい。
「何だよお前、自分は一人暮らししているくせに」
幸也はムキになって言い返す。
「俺は、できるだけ自立したいからです。長谷川さんとことは条件が違いますよ」
「俺だってバイトくらいするぞ。差別するなよ」
幸也は苦笑いしながら、今度は拗ねた顔をする。
「どうかなー、何か違う目的があるんじゃないですか?」
「お前、いつまでも昔の俺と思うなよ」
フン、とほくそ笑む幸也を見て勝浩は笑った。
「ちぇ、てんで信じてねーな、いくらでも証明してやるぜ」
じゃあ、夕べは何で部屋に戻ってこなかったんだ、なんて、聞けるはずはないし。
「おい、幸也、てめー、うちの学生でもないくせに、ちったぁ遠慮ってもんがないのか? 勝っちゃんを独り占めしやがって」
そこへラブやロクを訓練しながら遊ばせていた検見崎がやってきた。
「サークル活動に大学なんか関係ねーんだよ」
「そりゃあ、ひかりとかリリーとか、可愛い女の子の場合だ」
軽いやりとりはむしろこの二人の親密さを物語っている。
そういえば、検見崎さんと長谷川さん、どういう知り合いなんだろ。
勝浩は二人を眺めながら漠然と思う。
「あいつら学生じゃねーだろ」
幸也が怪訝な顔をする。
「だから、女子ならいいの」
「少なくともしょっちゅう仕事でいなくなるタケより俺のが役に立つよな、勝浩」
今度は勝浩を巻き込むつもりらしい。
「ちょっと手伝ったくらいで、口だけ男のお前に懐柔されるわけないだろ勝っちゃんが」
検見崎が勝浩の代わりに反論する。
「フン、俺と勝浩は高校時代二年もの蜜月を過した仲だぞ、先輩を無下にするわけがないだろ、勝浩が」
「長谷川さんと検見崎さんって、何か妙に似てますよね、調子いいとことか」
勝浩がはっきり口にすると、幸也が眉を顰める。
「こんなやつと一緒にするな、勝浩」
不服そうに幸也が訴えた。
「それはこっちの台詞だ、何が蜜月だ。うーん、やっぱ、ここ、専用のドッグランにしよう。芝とか植えて」
「タケ、せこい手で勝浩のご機嫌取りしようって魂胆だな」
勝浩をネタに言い争っている二人を放っておいて、当の勝浩はユウと駆け出した。
「食べるんだったら、作りますけど」
まったくもう、心臓に悪いんだよ、長谷川さん。
「う、嬉しい! 勝浩くんお手ずから作ってくれるスクランブルエッグなんて」
大仰に感激ムード全開の幸也を、勝浩は呆れて見上げた。
「おだてたって、うまいかどうかわかりませんよ。じゃあ、長谷川さん、パンの用意してください」
「へいへい。じゃあ、ついでにコーヒーも用意しましょーかね」
幸也がいそいそとパンを皿に取り分けていると、あくびをしながら検見崎も現れた。
「あ、いいな、いいな、勝っちゃん、こんなやつの分はいいから、ボクたんに作って作って」
「何だと、タケ、あとからきて図々しいんだよ」
朝っぱらからふざけ始める二人の分を勝浩は仕方なく作ることになってしまった。
午前中いっぱいは、ハイキングコースを走ったり、二ヵ所にあるテニスコートのうち山荘の裏手のアンツーカーの方を臨時ドッグランにして犬たちを自由に走らせ、一緒にフリスビーをやったりして、犬も人間も思い切り楽しんだ。
その間中、幸也はなんだかんだと勝浩に絡んできて気がつくと一緒に過ごしていた。
もともと人懐こいビッグやユウまでもすっかり幸也にも懐いたようだ。
「ようし、行けー!」
フリスビーをくわえたビッグは一目散に走ってくる。
ユウも負けじと走る。
コロコロと実に楽しそうで、ビッグと一緒に土まみれになっている幸也を見ると、勝浩も心から笑った。
「お前がそんな風に笑うの、始めてみたな」
ベンチに座っていると、疲れたと言いながらビッグやユウを従えて幸也がやってきた。
「え…………そうかな」
そうかもしれない。
高校時代、幸也の傍にはいつも志央がいたから、だから、どこかしら自分は卑屈になっていたのだろう。
あの頃の自分を思い出して勝浩は今度は苦笑する。
「くそ、犬つながりだったとはなー。そうと知ってれば、とっくに犬連れで散歩でも誘ってたのになー」
なにそれ?
何気なくそんな言葉をはく幸也に、勝浩はまたしても卑屈な気分になってしまう自分が嫌だった。
「今度、俺の部屋にも来いよ。うちの犬も紹介するからさ。こないだやっと引越し荷物も片づいたし、うちから一匹連れてこようと思ってるんだ。向こうから連れてきた猫もいるし」
何だろう。
そんな幸也の台詞に、勝浩は高校時代、やはり馴れ馴れしく近づいてきた時の幸也がオーバーラップして、いつの間にか勘繰ってしまう。
「一人暮らしするんですか? 通える範囲なのに」
そんな思いを振り払うように、勝浩は努めて明るく問い返す。
でも気軽に部屋に来いだなんて、言わないで欲しい。
「何だよお前、自分は一人暮らししているくせに」
幸也はムキになって言い返す。
「俺は、できるだけ自立したいからです。長谷川さんとことは条件が違いますよ」
「俺だってバイトくらいするぞ。差別するなよ」
幸也は苦笑いしながら、今度は拗ねた顔をする。
「どうかなー、何か違う目的があるんじゃないですか?」
「お前、いつまでも昔の俺と思うなよ」
フン、とほくそ笑む幸也を見て勝浩は笑った。
「ちぇ、てんで信じてねーな、いくらでも証明してやるぜ」
じゃあ、夕べは何で部屋に戻ってこなかったんだ、なんて、聞けるはずはないし。
「おい、幸也、てめー、うちの学生でもないくせに、ちったぁ遠慮ってもんがないのか? 勝っちゃんを独り占めしやがって」
そこへラブやロクを訓練しながら遊ばせていた検見崎がやってきた。
「サークル活動に大学なんか関係ねーんだよ」
「そりゃあ、ひかりとかリリーとか、可愛い女の子の場合だ」
軽いやりとりはむしろこの二人の親密さを物語っている。
そういえば、検見崎さんと長谷川さん、どういう知り合いなんだろ。
勝浩は二人を眺めながら漠然と思う。
「あいつら学生じゃねーだろ」
幸也が怪訝な顔をする。
「だから、女子ならいいの」
「少なくともしょっちゅう仕事でいなくなるタケより俺のが役に立つよな、勝浩」
今度は勝浩を巻き込むつもりらしい。
「ちょっと手伝ったくらいで、口だけ男のお前に懐柔されるわけないだろ勝っちゃんが」
検見崎が勝浩の代わりに反論する。
「フン、俺と勝浩は高校時代二年もの蜜月を過した仲だぞ、先輩を無下にするわけがないだろ、勝浩が」
「長谷川さんと検見崎さんって、何か妙に似てますよね、調子いいとことか」
勝浩がはっきり口にすると、幸也が眉を顰める。
「こんなやつと一緒にするな、勝浩」
不服そうに幸也が訴えた。
「それはこっちの台詞だ、何が蜜月だ。うーん、やっぱ、ここ、専用のドッグランにしよう。芝とか植えて」
「タケ、せこい手で勝浩のご機嫌取りしようって魂胆だな」
勝浩をネタに言い争っている二人を放っておいて、当の勝浩はユウと駆け出した。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
Tea Time
chatetlune
BL
「月で逢おうよ」の後の幸也と勝浩のエピソードです。
再会してぐっと近づいた、はずの幸也と勝浩だったが、幸也には何となく未だに勝浩の自分への想いを信じ切られないところがあった。それは勝浩に対しての自分のこれまでの行状が故のことなのだが、検見崎が知っている勝浩のことが幸也にとっては初耳だったりして、幸也は何となく焦りを感じていた。

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。

林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる