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月で逢おうよ 18
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キッチンでフライパンを使い、勝浩がスクランブルエッグを作っていると、「んまそー」と肩越しに幸也の声が降ってきた。
「食べるんだったら、作りますけど」
まったくもう、心臓に悪いんだよ、長谷川さん。
「う、嬉しい! 勝浩くんお手ずから作ってくれるスクランブルエッグなんて」
大仰に感激ムード全開の幸也を、勝浩は呆れて見上げた。
「おだてたって、うまいかどうかわかりませんよ。じゃあ、長谷川さん、パンの用意してください」
「へいへい。じゃあ、ついでにコーヒーも用意しましょーかね」
幸也がいそいそとパンを皿に取り分けていると、あくびをしながら検見崎も現れた。
「あ、いいな、いいな、勝っちゃん、こんなやつの分はいいから、ボクたんに作って作って」
「何だと、タケ、あとからきて図々しいんだよ」
朝っぱらからふざけ始める二人の分を勝浩は仕方なく作ることになってしまった。
午前中いっぱいは、ハイキングコースを走ったり、二ヵ所にあるテニスコートのうち山荘の裏手のアンツーカーの方を臨時ドッグランにして犬たちを自由に走らせ、一緒にフリスビーをやったりして、犬も人間も思い切り楽しんだ。
その間中、幸也はなんだかんだと勝浩に絡んできて気がつくと一緒に過ごしていた。
もともと人懐こいビッグやユウまでもすっかり幸也にも懐いたようだ。
「ようし、行けー!」
フリスビーをくわえたビッグは一目散に走ってくる。
ユウも負けじと走る。
コロコロと実に楽しそうで、ビッグと一緒に土まみれになっている幸也を見ると、勝浩も心から笑った。
「お前がそんな風に笑うの、始めてみたな」
ベンチに座っていると、疲れたと言いながらビッグやユウを従えて幸也がやってきた。
「え…………そうかな」
そうかもしれない。
高校時代、幸也の傍にはいつも志央がいたから、だから、どこかしら自分は卑屈になっていたのだろう。
あの頃の自分を思い出して勝浩は今度は苦笑する。
「くそ、犬つながりだったとはなー。そうと知ってれば、とっくに犬連れで散歩でも誘ってたのになー」
なにそれ?
何気なくそんな言葉をはく幸也に、勝浩はまたしても卑屈な気分になってしまう自分が嫌だった。
「今度、俺の部屋にも来いよ。うちの犬も紹介するからさ。こないだやっと引越し荷物も片づいたし、うちから一匹連れてこようと思ってるんだ。向こうから連れてきた猫もいるし」
何だろう。
そんな幸也の台詞に、勝浩は高校時代、やはり馴れ馴れしく近づいてきた時の幸也がオーバーラップして、いつの間にか勘繰ってしまう。
「一人暮らしするんですか? 通える範囲なのに」
そんな思いを振り払うように、勝浩は努めて明るく問い返す。
でも気軽に部屋に来いだなんて、言わないで欲しい。
「何だよお前、自分は一人暮らししているくせに」
幸也はムキになって言い返す。
「俺は、できるだけ自立したいからです。長谷川さんとことは条件が違いますよ」
「俺だってバイトくらいするぞ。差別するなよ」
幸也は苦笑いしながら、今度は拗ねた顔をする。
「どうかなー、何か違う目的があるんじゃないですか?」
「お前、いつまでも昔の俺と思うなよ」
フン、とほくそ笑む幸也を見て勝浩は笑った。
「ちぇ、てんで信じてねーな、いくらでも証明してやるぜ」
じゃあ、夕べは何で部屋に戻ってこなかったんだ、なんて、聞けるはずはないし。
「おい、幸也、てめー、うちの学生でもないくせに、ちったぁ遠慮ってもんがないのか? 勝っちゃんを独り占めしやがって」
そこへラブやロクを訓練しながら遊ばせていた検見崎がやってきた。
「サークル活動に大学なんか関係ねーんだよ」
「そりゃあ、ひかりとかリリーとか、可愛い女の子の場合だ」
軽いやりとりはむしろこの二人の親密さを物語っている。
そういえば、検見崎さんと長谷川さん、どういう知り合いなんだろ。
勝浩は二人を眺めながら漠然と思う。
「あいつら学生じゃねーだろ」
幸也が怪訝な顔をする。
「だから、女子ならいいの」
「少なくともしょっちゅう仕事でいなくなるタケより俺のが役に立つよな、勝浩」
今度は勝浩を巻き込むつもりらしい。
「ちょっと手伝ったくらいで、口だけ男のお前に懐柔されるわけないだろ勝っちゃんが」
検見崎が勝浩の代わりに反論する。
「フン、俺と勝浩は高校時代二年もの蜜月を過した仲だぞ、先輩を無下にするわけがないだろ、勝浩が」
「長谷川さんと検見崎さんって、何か妙に似てますよね、調子いいとことか」
勝浩がはっきり口にすると、幸也が眉を顰める。
「こんなやつと一緒にするな、勝浩」
不服そうに幸也が訴えた。
「それはこっちの台詞だ、何が蜜月だ。うーん、やっぱ、ここ、専用のドッグランにしよう。芝とか植えて」
「タケ、せこい手で勝浩のご機嫌取りしようって魂胆だな」
勝浩をネタに言い争っている二人を放っておいて、当の勝浩はユウと駆け出した。
「食べるんだったら、作りますけど」
まったくもう、心臓に悪いんだよ、長谷川さん。
「う、嬉しい! 勝浩くんお手ずから作ってくれるスクランブルエッグなんて」
大仰に感激ムード全開の幸也を、勝浩は呆れて見上げた。
「おだてたって、うまいかどうかわかりませんよ。じゃあ、長谷川さん、パンの用意してください」
「へいへい。じゃあ、ついでにコーヒーも用意しましょーかね」
幸也がいそいそとパンを皿に取り分けていると、あくびをしながら検見崎も現れた。
「あ、いいな、いいな、勝っちゃん、こんなやつの分はいいから、ボクたんに作って作って」
「何だと、タケ、あとからきて図々しいんだよ」
朝っぱらからふざけ始める二人の分を勝浩は仕方なく作ることになってしまった。
午前中いっぱいは、ハイキングコースを走ったり、二ヵ所にあるテニスコートのうち山荘の裏手のアンツーカーの方を臨時ドッグランにして犬たちを自由に走らせ、一緒にフリスビーをやったりして、犬も人間も思い切り楽しんだ。
その間中、幸也はなんだかんだと勝浩に絡んできて気がつくと一緒に過ごしていた。
もともと人懐こいビッグやユウまでもすっかり幸也にも懐いたようだ。
「ようし、行けー!」
フリスビーをくわえたビッグは一目散に走ってくる。
ユウも負けじと走る。
コロコロと実に楽しそうで、ビッグと一緒に土まみれになっている幸也を見ると、勝浩も心から笑った。
「お前がそんな風に笑うの、始めてみたな」
ベンチに座っていると、疲れたと言いながらビッグやユウを従えて幸也がやってきた。
「え…………そうかな」
そうかもしれない。
高校時代、幸也の傍にはいつも志央がいたから、だから、どこかしら自分は卑屈になっていたのだろう。
あの頃の自分を思い出して勝浩は今度は苦笑する。
「くそ、犬つながりだったとはなー。そうと知ってれば、とっくに犬連れで散歩でも誘ってたのになー」
なにそれ?
何気なくそんな言葉をはく幸也に、勝浩はまたしても卑屈な気分になってしまう自分が嫌だった。
「今度、俺の部屋にも来いよ。うちの犬も紹介するからさ。こないだやっと引越し荷物も片づいたし、うちから一匹連れてこようと思ってるんだ。向こうから連れてきた猫もいるし」
何だろう。
そんな幸也の台詞に、勝浩は高校時代、やはり馴れ馴れしく近づいてきた時の幸也がオーバーラップして、いつの間にか勘繰ってしまう。
「一人暮らしするんですか? 通える範囲なのに」
そんな思いを振り払うように、勝浩は努めて明るく問い返す。
でも気軽に部屋に来いだなんて、言わないで欲しい。
「何だよお前、自分は一人暮らししているくせに」
幸也はムキになって言い返す。
「俺は、できるだけ自立したいからです。長谷川さんとことは条件が違いますよ」
「俺だってバイトくらいするぞ。差別するなよ」
幸也は苦笑いしながら、今度は拗ねた顔をする。
「どうかなー、何か違う目的があるんじゃないですか?」
「お前、いつまでも昔の俺と思うなよ」
フン、とほくそ笑む幸也を見て勝浩は笑った。
「ちぇ、てんで信じてねーな、いくらでも証明してやるぜ」
じゃあ、夕べは何で部屋に戻ってこなかったんだ、なんて、聞けるはずはないし。
「おい、幸也、てめー、うちの学生でもないくせに、ちったぁ遠慮ってもんがないのか? 勝っちゃんを独り占めしやがって」
そこへラブやロクを訓練しながら遊ばせていた検見崎がやってきた。
「サークル活動に大学なんか関係ねーんだよ」
「そりゃあ、ひかりとかリリーとか、可愛い女の子の場合だ」
軽いやりとりはむしろこの二人の親密さを物語っている。
そういえば、検見崎さんと長谷川さん、どういう知り合いなんだろ。
勝浩は二人を眺めながら漠然と思う。
「あいつら学生じゃねーだろ」
幸也が怪訝な顔をする。
「だから、女子ならいいの」
「少なくともしょっちゅう仕事でいなくなるタケより俺のが役に立つよな、勝浩」
今度は勝浩を巻き込むつもりらしい。
「ちょっと手伝ったくらいで、口だけ男のお前に懐柔されるわけないだろ勝っちゃんが」
検見崎が勝浩の代わりに反論する。
「フン、俺と勝浩は高校時代二年もの蜜月を過した仲だぞ、先輩を無下にするわけがないだろ、勝浩が」
「長谷川さんと検見崎さんって、何か妙に似てますよね、調子いいとことか」
勝浩がはっきり口にすると、幸也が眉を顰める。
「こんなやつと一緒にするな、勝浩」
不服そうに幸也が訴えた。
「それはこっちの台詞だ、何が蜜月だ。うーん、やっぱ、ここ、専用のドッグランにしよう。芝とか植えて」
「タケ、せこい手で勝浩のご機嫌取りしようって魂胆だな」
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