11 / 25
月で逢おうよ 11
しおりを挟む
子供たちと一緒に無心に遊ぶ幸也が何だか清々しく、子供たちは彼に懐いて、彼の教えることに素直に頷いていた。
とてもいい人だと思っていたのに、その人の嫌なところを見つけるとがっかりすることがあるが、何てひどい人だ、と思っていた相手のいいところを偶然見つけたりすると、それがひどくすばらしいことのように思えてしまう。
勝浩があれほど嫌っていた陵雲学園高校を受験したのは、その公園で幸也を見た、それだけが理由だった。
品行方正、成績優秀な勝浩を周りが推したのをきっかけに勝浩が生徒会に入ったのも、幸也がいたからだ。
再び会ってみると、幸也とジャイアン志央との悪ガキコンビはエスカレートしていて、生徒会長と副会長という名前の裏でやりたい放題。
それでも成績は常にトップクラス、しかも生徒会の仕事はきちんとこなし、全校生徒の信頼も厚い。
加えて見てくれは申し分ない、とくれば、少ない女子生徒の殆どを味方につけたようなものだ。
悪ふざけが好きな幸也と志央のコンビは、案の定まじめな勝浩を面白がってからかい、勝浩はムキになって二人に意見する。
だが、いじめられるばかりだった子供の頃とは違い、勝浩は正しいと思ったら教師にですら遠慮なくずけずけものを言う、ある意味外見を裏切るキャラクターになっていた。
いつか二人の尻尾を掴んでギャフンといわせてやろうと思っていた勝浩に、思ってもいないチャンスが訪れたのは一年の冬休みのことだ。
一家でディズニーランドに出かけた勝浩は、パレードを見てからチェックインしたホテルのラウンジで、それぞれ女連れの幸也と志央に出くわしたのだ。
「やだぁ、すんごい飛ばすんだもん、幸也ったら。車、浮いてたわよぉ」
可愛い美女がしなだれかかっている幸也は私服というだけで高校生には見えない。
「ドイツ車は頑丈だから平気平気」
車のキーらしきものをちゃらちゃら手でもてあそんでいる幸也の後ろには、志央が大人の美女といちゃらいちゃらくっついたまま歩いている。
「負けちゃったじゃない、志央」
「俺は安全運転だからね、君に怪我させたくないしさ」
ドイツ車? 安全運転?
いくら誕生日早くても、二年の冬に十八歳になるわけないじゃん、普通。
ギロッと睨みつける勝浩に、ようやく幸也が気づき、さすがにちょっと驚いたようだ。
勝浩はその場で何か言うでもなく、踵を返すと、家族に合流した。
三学期の生徒会は静かだった。
勝浩が、いつ、何を言うか、幸也も志央も戦々恐々として、ようすを伺っていたに違いない。
思えば、その頃からこの二人は何人女を落とすか、なんてことを競争して、しかも賭けなんかをしていたのだろう。
人の心をもてあそぶなんて、ほんとに許せないやつらだ!
そう思う傍から、勝浩の目は幸也を追っていた。
だから、幸也が誰を追っていたか、はたでみていれば一目瞭然だったのだ。
そして度を越した遊びの賭けの代償は、幸也と志央の間にあった危うい絆の亀裂。
どちらが先に落とすか、性懲りもない、志央のターゲットは春にやってきたでかい転入生、そして幸也はこともあろうに勝浩をターゲットにしたのだ。
女子生徒が少なかったからか、きれいな志央に夢中になるのは女子ばかりではなかった。
だが、まさか志央がそのターゲットに本気の恋をするなんて、幸也としても思ってもみなかったのだろう。
「女やガキ相手なら、俺も許してたさ」
幸也が志央にキスしているところを勝浩は垣間見てしまった。
「ヤローになんかお前が本気になるなんて思ってなかった」
急に自分に優しくなった幸也のことを、勝浩も変だとは思っていた。
「志央と俺がよくやる遊びだ。どっちが早く落とすかってな」
「ほんと、サイッテーだよ、あんたたちって」
露悪的な台詞を吐く幸也に、勝浩は辛辣な台詞を投げつけた。
結局、ジャイアン志央は本気の恋を成就させ、学園の大学に進学し、幸也は志央とでかい転入生をからかうことで、一見してさほど変わらない風を装いながら、学園を卒業していった。
幸也の、志央への想いがどれほど深いものか、ずっと幸也を見てきた勝浩だからこそわかる。
志央を見つめる眼差しがどれほど優しかったか、それを気づかないなんて、志央はバカなやつだ。
でも、あなたがちょっとからかったつもりの俺が、実は随分傷ついていたなんて、それこそ思ってもみなかったんだろうな。
ずっと好きだった。
嘘の優しさでさえ、つい嬉しくなってしまうくらいに―――――――。
とてもいい人だと思っていたのに、その人の嫌なところを見つけるとがっかりすることがあるが、何てひどい人だ、と思っていた相手のいいところを偶然見つけたりすると、それがひどくすばらしいことのように思えてしまう。
勝浩があれほど嫌っていた陵雲学園高校を受験したのは、その公園で幸也を見た、それだけが理由だった。
品行方正、成績優秀な勝浩を周りが推したのをきっかけに勝浩が生徒会に入ったのも、幸也がいたからだ。
再び会ってみると、幸也とジャイアン志央との悪ガキコンビはエスカレートしていて、生徒会長と副会長という名前の裏でやりたい放題。
それでも成績は常にトップクラス、しかも生徒会の仕事はきちんとこなし、全校生徒の信頼も厚い。
加えて見てくれは申し分ない、とくれば、少ない女子生徒の殆どを味方につけたようなものだ。
悪ふざけが好きな幸也と志央のコンビは、案の定まじめな勝浩を面白がってからかい、勝浩はムキになって二人に意見する。
だが、いじめられるばかりだった子供の頃とは違い、勝浩は正しいと思ったら教師にですら遠慮なくずけずけものを言う、ある意味外見を裏切るキャラクターになっていた。
いつか二人の尻尾を掴んでギャフンといわせてやろうと思っていた勝浩に、思ってもいないチャンスが訪れたのは一年の冬休みのことだ。
一家でディズニーランドに出かけた勝浩は、パレードを見てからチェックインしたホテルのラウンジで、それぞれ女連れの幸也と志央に出くわしたのだ。
「やだぁ、すんごい飛ばすんだもん、幸也ったら。車、浮いてたわよぉ」
可愛い美女がしなだれかかっている幸也は私服というだけで高校生には見えない。
「ドイツ車は頑丈だから平気平気」
車のキーらしきものをちゃらちゃら手でもてあそんでいる幸也の後ろには、志央が大人の美女といちゃらいちゃらくっついたまま歩いている。
「負けちゃったじゃない、志央」
「俺は安全運転だからね、君に怪我させたくないしさ」
ドイツ車? 安全運転?
いくら誕生日早くても、二年の冬に十八歳になるわけないじゃん、普通。
ギロッと睨みつける勝浩に、ようやく幸也が気づき、さすがにちょっと驚いたようだ。
勝浩はその場で何か言うでもなく、踵を返すと、家族に合流した。
三学期の生徒会は静かだった。
勝浩が、いつ、何を言うか、幸也も志央も戦々恐々として、ようすを伺っていたに違いない。
思えば、その頃からこの二人は何人女を落とすか、なんてことを競争して、しかも賭けなんかをしていたのだろう。
人の心をもてあそぶなんて、ほんとに許せないやつらだ!
そう思う傍から、勝浩の目は幸也を追っていた。
だから、幸也が誰を追っていたか、はたでみていれば一目瞭然だったのだ。
そして度を越した遊びの賭けの代償は、幸也と志央の間にあった危うい絆の亀裂。
どちらが先に落とすか、性懲りもない、志央のターゲットは春にやってきたでかい転入生、そして幸也はこともあろうに勝浩をターゲットにしたのだ。
女子生徒が少なかったからか、きれいな志央に夢中になるのは女子ばかりではなかった。
だが、まさか志央がそのターゲットに本気の恋をするなんて、幸也としても思ってもみなかったのだろう。
「女やガキ相手なら、俺も許してたさ」
幸也が志央にキスしているところを勝浩は垣間見てしまった。
「ヤローになんかお前が本気になるなんて思ってなかった」
急に自分に優しくなった幸也のことを、勝浩も変だとは思っていた。
「志央と俺がよくやる遊びだ。どっちが早く落とすかってな」
「ほんと、サイッテーだよ、あんたたちって」
露悪的な台詞を吐く幸也に、勝浩は辛辣な台詞を投げつけた。
結局、ジャイアン志央は本気の恋を成就させ、学園の大学に進学し、幸也は志央とでかい転入生をからかうことで、一見してさほど変わらない風を装いながら、学園を卒業していった。
幸也の、志央への想いがどれほど深いものか、ずっと幸也を見てきた勝浩だからこそわかる。
志央を見つめる眼差しがどれほど優しかったか、それを気づかないなんて、志央はバカなやつだ。
でも、あなたがちょっとからかったつもりの俺が、実は随分傷ついていたなんて、それこそ思ってもみなかったんだろうな。
ずっと好きだった。
嘘の優しさでさえ、つい嬉しくなってしまうくらいに―――――――。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
Tea Time
chatetlune
BL
「月で逢おうよ」の後の幸也と勝浩のエピソードです。
再会してぐっと近づいた、はずの幸也と勝浩だったが、幸也には何となく未だに勝浩の自分への想いを信じ切られないところがあった。それは勝浩に対しての自分のこれまでの行状が故のことなのだが、検見崎が知っている勝浩のことが幸也にとっては初耳だったりして、幸也は何となく焦りを感じていた。
しば犬ホストとキツネの花屋
ことわ子
BL
【相槌を打たなかったキミへ】のスピンオフ作品になります。上記を読んでいなくても理解できる内容となっています。
とりあえずビッグになるという目標の元、田舎から上京してきた小太郎は源氏名、結城ナナトと名乗り新人ホストをしていた。
ある日、店の先輩ホストであるヒロムが女の人と歩いているのを目撃する。同伴もアフターもしないヒロムが女の人を連れていることが気になり、興味本位で後をつけることにした小太郎だったが──
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
ペイン・リリーフ
こすもす
BL
事故の影響で記憶障害になってしまった琴(こと)は、内科医の相澤に紹介された、精神科医の篠口(しのぐち)と生活を共にすることになる。
優しく甘やかしてくれる篠口に惹かれていく琴だが、彼とは、記憶を失う前にも会っていたのではないかと疑いを抱く。
記憶が戻らなくても、このまま篠口と一緒にいられたらいいと願う琴だが……。
★7:30と18:30に更新予定です(*´艸`*)
★素敵な表紙は らテて様✧︎*。
☆過去に書いた自作のキャラクターと、苗字や名前が被っていたことに気付きました……全く別の作品ですのでご了承ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる