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風そよぐ 60
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「うっせえな、今日は四の三で一本でかいのも打って、チームも勝ったんだからいいんだよ」
沢村は亜弓に声高に言い返す。
「ほんと、その不遜な言い方、何でそんなに子供の時と変わってないの?! まあ、お兄ちゃんも変わってないけどね」
「お前こそ、キリキリ怒鳴りつけてんだろ、ガキどもを。よくそんなんで教員なんかやってるな」
「余計なお世話よ。ちゃんとガキどもに慕われる有能な教師やってるんだから」
またぞろ言い争いを始めた二人を制して、「まあまあ、天敵いうんは沢村と亜弓さんのことなんやねぇ」と佐々木が呑気に口を挟んだ。
「あの、失礼ですけど、佐々木さんはモデルさん、とかですか? 男の方なのにすごくおきれいだし」
少し顔を赤らめながら亜弓が尋ねた。
「そう思うのが素人の浅はかさだ、この美貌にして天才クリエイターなんだよ、ざまみろ」
「何を沢村が威張ってんのよ!」
二人が幼稚な言い争いをしているところへ、またドアが開いて長身の男が入ってきた。
「こんばんは、良太ちゃん、ケガしたって聞いたから」
多人数が集っているのを見まわしてそう呟くように言ったその男を見て、「ウソ! 宇都宮俊治! ホンモノ!」と亜弓が両手で口元を覆って立ち上がった。
「宇都宮さん、わざわざありがとうございます。もう大丈夫ですよ。検査もしましたし、脳震盪だろうってことです」
秋山が説明すると、ようやく宇都宮もほっとした顔をした。
「それはよかった」
「あの!」
宇都宮はウルウルした目で見上げてくる美人に顔を向けた。
「兄を御存じなんですか? わざわざありがとうございます」
「え、兄って、ひょっとして良太ちゃんの妹さん?」
「はい! 初めて兄がこういう仕事しててよかったって思いました! お目に書かれて光栄です」
「こちらこそ、よろしく。良太ちゃんにはお世話になってるんです」
にっこり笑って宇都宮は亜弓を見つめた。
「ちゃっかりしてるとこは、良太を凌駕してるよな」
ボソリと亜弓の背後で呟く沢村に、亜弓は振り返って口を尖らせる。
アスカはこのやり取りにちょっと肩をすくめて千雪を見た。
実は詳しくは秋山も語らなかったが、秋山から良太が宇都宮にごめんなさいしたとアスカは聞いていて、千雪にも一応知らせたのだ。
「あ、でも、秋山さん、グズグズしてると亜弓さんに宇都宮さんとられちゃうよ」
アスカが秋山に耳打ちする。
「は?」
「とぼけちゃって。宇都宮さんは素がカッコいいって言ってたじゃない。秋山さん、シャープな感じだし、宇都宮さんとお似合いかも。応援するわよ」
秋山ははあ、とため息をつく。
「客観的な意見を述べただけですよ。応援は結構です」
「遠慮しなくったって」
アスカとこそこそしょうもないやり取りをしていると、秋山の携帯が鳴った。
「お疲れ様です。そうですか、それはよかった。工藤さんは時間まで? わかりました。ええ、何だか皆が良太を心配して集まってまして。あ、亜弓さんもいらしてます」
電話の向こうでしばし間があったが、「悪いがこっちまで送ってきてくれ」と言って工藤は電話を切った。
「工藤さんからで、良太は今、夕食を完食しても足りないので、プリンを食べているそうです」
オフィス内の皆がどっと笑った。
「食い意地戻ったらいつもの良太だな」
小笠原が言った。
「プリン大好きだもんね」
「何するんもまず食うてからやもんな」
アスカや千雪も笑う。
「面会時間もありますし、亜弓さん、そろそろ病院行きましょうか」
秋山が亜弓に言った。
すると亜弓はちょっと小首を傾げて、「やっぱり、いいです。あたし、帰ります」と言う。
「びっくりして飛んできちゃったけど、もう大丈夫みたいだし、それに」
亜弓はオフィスを見回して、つづけた。
「何か、こうして皆さんが兄のこと心配して来てくださってるのみたら、何か安心しました。これからも兄のことよろしくお願いします」
亜弓はぺこりと頭を下げた。
「そうか、家はどこ? 送りましょうか?」
宇都宮が言うのをアスカや秋山は、え、という顔で見た。
「うわあ、すごい嬉しいですけど、静岡なので新幹線に乗らないと。明日授業があるし」
「おや、そうなんだ、じゃあ、東京駅まで送る前に、食事、しませんか?」
「ええええええ」
亜弓は一瞬にして舞い上がる。
「え、ずるい、あたしもお腹すいた。ご一緒してもいいでしょ?」
すかさずアスカが便乗した。
宇都宮が危険とは思わなかったが、良太の妹である、何となく二人で行かせるよりはと思ったのだ。
「俺も、そういえば腹減った」
千雪も同調する。
「じゃあ、みんなで行きましょうか。しかし、どこかありますかね、大勢でおしかけてもOKなとこ」
宇都宮がみんなの顔を見回した。
「この人数じゃちょっと難しいかも知れませんね。それに、ちょっと難ありなメンツですから、デリバリーにしてここで召し上がったらいかがです?」
秋山の提案に異を唱えるものはなかった。
沢村は亜弓に声高に言い返す。
「ほんと、その不遜な言い方、何でそんなに子供の時と変わってないの?! まあ、お兄ちゃんも変わってないけどね」
「お前こそ、キリキリ怒鳴りつけてんだろ、ガキどもを。よくそんなんで教員なんかやってるな」
「余計なお世話よ。ちゃんとガキどもに慕われる有能な教師やってるんだから」
またぞろ言い争いを始めた二人を制して、「まあまあ、天敵いうんは沢村と亜弓さんのことなんやねぇ」と佐々木が呑気に口を挟んだ。
「あの、失礼ですけど、佐々木さんはモデルさん、とかですか? 男の方なのにすごくおきれいだし」
少し顔を赤らめながら亜弓が尋ねた。
「そう思うのが素人の浅はかさだ、この美貌にして天才クリエイターなんだよ、ざまみろ」
「何を沢村が威張ってんのよ!」
二人が幼稚な言い争いをしているところへ、またドアが開いて長身の男が入ってきた。
「こんばんは、良太ちゃん、ケガしたって聞いたから」
多人数が集っているのを見まわしてそう呟くように言ったその男を見て、「ウソ! 宇都宮俊治! ホンモノ!」と亜弓が両手で口元を覆って立ち上がった。
「宇都宮さん、わざわざありがとうございます。もう大丈夫ですよ。検査もしましたし、脳震盪だろうってことです」
秋山が説明すると、ようやく宇都宮もほっとした顔をした。
「それはよかった」
「あの!」
宇都宮はウルウルした目で見上げてくる美人に顔を向けた。
「兄を御存じなんですか? わざわざありがとうございます」
「え、兄って、ひょっとして良太ちゃんの妹さん?」
「はい! 初めて兄がこういう仕事しててよかったって思いました! お目に書かれて光栄です」
「こちらこそ、よろしく。良太ちゃんにはお世話になってるんです」
にっこり笑って宇都宮は亜弓を見つめた。
「ちゃっかりしてるとこは、良太を凌駕してるよな」
ボソリと亜弓の背後で呟く沢村に、亜弓は振り返って口を尖らせる。
アスカはこのやり取りにちょっと肩をすくめて千雪を見た。
実は詳しくは秋山も語らなかったが、秋山から良太が宇都宮にごめんなさいしたとアスカは聞いていて、千雪にも一応知らせたのだ。
「あ、でも、秋山さん、グズグズしてると亜弓さんに宇都宮さんとられちゃうよ」
アスカが秋山に耳打ちする。
「は?」
「とぼけちゃって。宇都宮さんは素がカッコいいって言ってたじゃない。秋山さん、シャープな感じだし、宇都宮さんとお似合いかも。応援するわよ」
秋山ははあ、とため息をつく。
「客観的な意見を述べただけですよ。応援は結構です」
「遠慮しなくったって」
アスカとこそこそしょうもないやり取りをしていると、秋山の携帯が鳴った。
「お疲れ様です。そうですか、それはよかった。工藤さんは時間まで? わかりました。ええ、何だか皆が良太を心配して集まってまして。あ、亜弓さんもいらしてます」
電話の向こうでしばし間があったが、「悪いがこっちまで送ってきてくれ」と言って工藤は電話を切った。
「工藤さんからで、良太は今、夕食を完食しても足りないので、プリンを食べているそうです」
オフィス内の皆がどっと笑った。
「食い意地戻ったらいつもの良太だな」
小笠原が言った。
「プリン大好きだもんね」
「何するんもまず食うてからやもんな」
アスカや千雪も笑う。
「面会時間もありますし、亜弓さん、そろそろ病院行きましょうか」
秋山が亜弓に言った。
すると亜弓はちょっと小首を傾げて、「やっぱり、いいです。あたし、帰ります」と言う。
「びっくりして飛んできちゃったけど、もう大丈夫みたいだし、それに」
亜弓はオフィスを見回して、つづけた。
「何か、こうして皆さんが兄のこと心配して来てくださってるのみたら、何か安心しました。これからも兄のことよろしくお願いします」
亜弓はぺこりと頭を下げた。
「そうか、家はどこ? 送りましょうか?」
宇都宮が言うのをアスカや秋山は、え、という顔で見た。
「うわあ、すごい嬉しいですけど、静岡なので新幹線に乗らないと。明日授業があるし」
「おや、そうなんだ、じゃあ、東京駅まで送る前に、食事、しませんか?」
「ええええええ」
亜弓は一瞬にして舞い上がる。
「え、ずるい、あたしもお腹すいた。ご一緒してもいいでしょ?」
すかさずアスカが便乗した。
宇都宮が危険とは思わなかったが、良太の妹である、何となく二人で行かせるよりはと思ったのだ。
「俺も、そういえば腹減った」
千雪も同調する。
「じゃあ、みんなで行きましょうか。しかし、どこかありますかね、大勢でおしかけてもOKなとこ」
宇都宮がみんなの顔を見回した。
「この人数じゃちょっと難しいかも知れませんね。それに、ちょっと難ありなメンツですから、デリバリーにしてここで召し上がったらいかがです?」
秋山の提案に異を唱えるものはなかった。
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