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風そよぐ 28
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また雨模様の予報らしく、空はどんよりとしていたが、早朝の道路はすいていて、車は静かに走りぬける。
「何か、いいよねぇ、朝のドライブって。すいてるし、ちょっとぐるっと回ってみようか。まだ時間あるっしょ?」
宇都宮は笑みを浮かべて、首都高へハンドルを切った。
本当は一晩留守にしてしまって、猫のことが気になっていた良太はすぐにも帰りたかったところだが、せっかく宇都宮が機嫌よくドライブを楽しんでいるのに水をさすようで口にできなかった。
「午後から映画の撮影でしたっけ?」
「ああ、今月いっぱいね。来月の小樽ロケには良太ちゃん同行するの?」
「ええ、折を見てまた伺います」
「じゃあ、それまで良太ちゃんの顔見れないのか。残念」
また冗談ともつかない、意味深なセリフを宇都宮は口にする。
「ハハハ、俺の顔見たって面白くもなんともないですよ」
「あるよー。俺のモチベーションをぐんと上げてくれるしさ」
「こんな顔でお役にたてるんなら」
来週からはもう、『からくれないに』の京都ロケが始まる。
『大いなる旅人』も来月半ばくらいまでは京都での撮影となっている。
『からくれないに』はほぼ良太に丸投げ状態だから、良太も、こちらでの仕事の合間を縫って、顔を出さなくてはならない。
ちぇ、工藤さん京都にいるんだから、ドラマの方にも顔出せばいいだろ。
別に俺なんか行かなくたってさ。
また、本谷の様子気になって工藤が来たりとか、あんまり見たくないし。
何となく、ほんとになりそうで嫌だ。
「どうした? また何か考え込んでる?」
「あ、いえ、猫たち、一晩ほっといたから、ちょっと」
「そっか、にゃんこちゃんたちには勝てないよな~」
湾岸を走っていた宇都宮は、そういうと乃木坂方面へと車を向けた。
「どうもありがとうございました。すっかりお世話になっちゃいまして」
会社の前で車を降りた良太は、ぺこりと頭を下げた。
「なんの、良太ちゃんならいつでも大歓迎。じゃ、シェアの件、考えといて」
宇都宮は車の中からそう言って笑った。
「あ、……はい」
シェアって、やっぱおいそれとは無理だろ。
良太は走り去る車を背に、警備員と挨拶を交わしながら足早にエレベータに向かった。
まだ八時を過ぎたところだから、ちょっと時間はある。
猫たちにご飯をやって、トイレを片して、シャワー浴びて、と。
そんなことを考えながら部屋のドアにカギを差し込んだ時、隣の部屋のドアが開いた。
「あっ、おはようござい……ます」
いきなり現れると思っていなかった工藤に、良太は一瞬固まった。
てか、帰ってたのかよ。
工藤はいつものように眉をひそめて良太を見下ろした。
「朝帰りか? プライベートに口を挟むつもりはないが、仕事に差しさわりのないようにな」
それだけ言うと、工藤はたったかエレベーターに消えた。
良太はしばし、立ちすくんだまま、工藤が消えるのを見つめていた。
「な……んだよ、それ!」
ようやく我に返って良太がドアを開けるなり、なーーーーーん、と二つの猫がとことこと駆け寄ってきた。
「ごめんよーーー、ほっぽっといて」
しばらく猫を撫でてやり、カリカリを二つの器に分け与えると、猫たちははぐはぐと懸命に食べ始める。
こうやって食べているを見てるのが一番和むよな。
猫のお世話を一通りすませると、良太はパパっと服を脱いで、シャワーを浴びた。
「ちぇ、なーにが、プライベートに口をはさむつもりはないだよっ!」
湯を顔に浴びながら、良太は喚いた。
頭の中で工藤の言葉がリフレインしている。
どうせ、俺が朝帰りしようが何しようが、工藤には関係ないんだろうさっ!
クソッ!
良太はやけくそのように頭をガシガシとシャワーで洗い、コックを止めると、はあ、と大きく息をついた。
今日は名古屋だっけか、工藤。
一応、大体の工藤のスケジュールも把握しているつもりだが、最近はイレギュラーな行動が多いような気がする。
当分工藤の顔も見ることもない、か。
何だかそれはそれでむしろ今はありがたいような気がした。
工藤と本谷のことを考えると、神経が高ぶって思考が乱れて、仕事が手につかなくなる。
考えたくなくても、時々頭をよぎってしまう。
本当にもう、この部屋を出て行った方がいいのかもしれない。
猫たちのことを考えると、良太がいない時に、鈴木さんにちょっと見てもらえる環境というのはありがたいのだが、そうなったらそうなったで、ペットシッターとかいろいろ方法はあるだろうし。
工藤の恩情の上に成り立っている、ほぼただのような家賃も、鈴木さんに猫を頼めばいいなんてのも、随分周りに頼り切った環境に甘んじていたのだ。
「ちぇ、仕事に差しさわりなんかあるもんか!」
鈴木さんに、朝帰り、なんて顔見せないようにしないと。
ビシッと行くぞ、ビシッと。
「何か、いいよねぇ、朝のドライブって。すいてるし、ちょっとぐるっと回ってみようか。まだ時間あるっしょ?」
宇都宮は笑みを浮かべて、首都高へハンドルを切った。
本当は一晩留守にしてしまって、猫のことが気になっていた良太はすぐにも帰りたかったところだが、せっかく宇都宮が機嫌よくドライブを楽しんでいるのに水をさすようで口にできなかった。
「午後から映画の撮影でしたっけ?」
「ああ、今月いっぱいね。来月の小樽ロケには良太ちゃん同行するの?」
「ええ、折を見てまた伺います」
「じゃあ、それまで良太ちゃんの顔見れないのか。残念」
また冗談ともつかない、意味深なセリフを宇都宮は口にする。
「ハハハ、俺の顔見たって面白くもなんともないですよ」
「あるよー。俺のモチベーションをぐんと上げてくれるしさ」
「こんな顔でお役にたてるんなら」
来週からはもう、『からくれないに』の京都ロケが始まる。
『大いなる旅人』も来月半ばくらいまでは京都での撮影となっている。
『からくれないに』はほぼ良太に丸投げ状態だから、良太も、こちらでの仕事の合間を縫って、顔を出さなくてはならない。
ちぇ、工藤さん京都にいるんだから、ドラマの方にも顔出せばいいだろ。
別に俺なんか行かなくたってさ。
また、本谷の様子気になって工藤が来たりとか、あんまり見たくないし。
何となく、ほんとになりそうで嫌だ。
「どうした? また何か考え込んでる?」
「あ、いえ、猫たち、一晩ほっといたから、ちょっと」
「そっか、にゃんこちゃんたちには勝てないよな~」
湾岸を走っていた宇都宮は、そういうと乃木坂方面へと車を向けた。
「どうもありがとうございました。すっかりお世話になっちゃいまして」
会社の前で車を降りた良太は、ぺこりと頭を下げた。
「なんの、良太ちゃんならいつでも大歓迎。じゃ、シェアの件、考えといて」
宇都宮は車の中からそう言って笑った。
「あ、……はい」
シェアって、やっぱおいそれとは無理だろ。
良太は走り去る車を背に、警備員と挨拶を交わしながら足早にエレベータに向かった。
まだ八時を過ぎたところだから、ちょっと時間はある。
猫たちにご飯をやって、トイレを片して、シャワー浴びて、と。
そんなことを考えながら部屋のドアにカギを差し込んだ時、隣の部屋のドアが開いた。
「あっ、おはようござい……ます」
いきなり現れると思っていなかった工藤に、良太は一瞬固まった。
てか、帰ってたのかよ。
工藤はいつものように眉をひそめて良太を見下ろした。
「朝帰りか? プライベートに口を挟むつもりはないが、仕事に差しさわりのないようにな」
それだけ言うと、工藤はたったかエレベーターに消えた。
良太はしばし、立ちすくんだまま、工藤が消えるのを見つめていた。
「な……んだよ、それ!」
ようやく我に返って良太がドアを開けるなり、なーーーーーん、と二つの猫がとことこと駆け寄ってきた。
「ごめんよーーー、ほっぽっといて」
しばらく猫を撫でてやり、カリカリを二つの器に分け与えると、猫たちははぐはぐと懸命に食べ始める。
こうやって食べているを見てるのが一番和むよな。
猫のお世話を一通りすませると、良太はパパっと服を脱いで、シャワーを浴びた。
「ちぇ、なーにが、プライベートに口をはさむつもりはないだよっ!」
湯を顔に浴びながら、良太は喚いた。
頭の中で工藤の言葉がリフレインしている。
どうせ、俺が朝帰りしようが何しようが、工藤には関係ないんだろうさっ!
クソッ!
良太はやけくそのように頭をガシガシとシャワーで洗い、コックを止めると、はあ、と大きく息をついた。
今日は名古屋だっけか、工藤。
一応、大体の工藤のスケジュールも把握しているつもりだが、最近はイレギュラーな行動が多いような気がする。
当分工藤の顔も見ることもない、か。
何だかそれはそれでむしろ今はありがたいような気がした。
工藤と本谷のことを考えると、神経が高ぶって思考が乱れて、仕事が手につかなくなる。
考えたくなくても、時々頭をよぎってしまう。
本当にもう、この部屋を出て行った方がいいのかもしれない。
猫たちのことを考えると、良太がいない時に、鈴木さんにちょっと見てもらえる環境というのはありがたいのだが、そうなったらそうなったで、ペットシッターとかいろいろ方法はあるだろうし。
工藤の恩情の上に成り立っている、ほぼただのような家賃も、鈴木さんに猫を頼めばいいなんてのも、随分周りに頼り切った環境に甘んじていたのだ。
「ちぇ、仕事に差しさわりなんかあるもんか!」
鈴木さんに、朝帰り、なんて顔見せないようにしないと。
ビシッと行くぞ、ビシッと。
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