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風そよぐ 10
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打率にしても、さっき沢村自身が言ったように、多少の上がり下がりはあるはずで、わかっているだろうにたまに打率が降下すると鬼の首を取ったかのように文句をぶちまける。
あれはかなり嫉妬の要素が含まれているんだろうと、良太は頷いている。
「プレゼントとかはまあ、仕方ないとして、レターくらいは少しは読んでるんだろうな?」
「たまーにな。ピンクやハート付きの封筒なんかゴミ箱行きだ」
「お前、それ、インタビューとかでぜってぇ言うなよ! レターは大切に読ませてもらってます、たくさんのプレゼントをありがとう、くらいたまには言っておけ!」
「ゲーノー人じゃあるまいし、何でそんなウソっぱち言わなけりゃならねんだ」
それはわからないでもない。
「プロスポーツ選手だって、人気やファンあってこそだろうが! プレゼント云々は置いといても、忙しいんでレターも全部は読めないがいつもありがとうございます、くらいは言えるだろう! 少なくとも嘘八百じゃない!」
すると、沢村は、あーあ、と前おいて、
「直球良太も、業界の波にのまれて、心も歪んできちまったかあ」
「このやろ! そんなの社会常識っつうもんだろうが! 直球はわかってるやつだけでいいんだよ!」
とはいうものの、時々、面倒な相手に直球でものを言ったがためにことを荒げてしまうなんてこともやらかしている良太なのだが。
くだらないことをしばし話してから、沢村は電話を切った。
まあ、佐々木との間に波風がたったとかじゃないらしいから、よしとするか。
「沢村、ほんっと、あいつ、お友達いないんだな、俺にわざわざ電話してくるとか」
まあ、あの性格じゃな。
そういえば、沢村、佐々木さんの土地買ってそこにうち建てるとか言ってたけど、結局どうなったんだろう。
まだ佐々木さんに言ってないのか。
いずれにしても先のことになるだろうけど。
佐々木さんと沢村、このままうまくいけばいいよな。
「また沢村に泣きついてこられたって、こっちが困るんだよっ!」
羨ましさ半分で、良太は思わず喚いた。
するとそれを聞きつけたナータンが何ごとかと思ったのか、ナーンとないた。
『田園』の撮影は順調に進んでいた。
本谷と竹野の絡みはあれ以来ほぼないし、竹野も何となく棘を出さなくなっているようになっていると、良太はアスカからも伝え聞いていた。
『パワスポ』の会議の帰り、三日ぶりに良太がスタジオに寄ると、ちょうど病院のシーンの撮影で、本谷がミスをしてアスカが本谷をいじるところだった。
このドラマでは、ひとみは主人公の妻であり、美人の外科医できついが明るい、というまるでひとみの性格そのもののような役どころだ。
ただ、病院長の娘であり、夫にはいずれ院長としてしっかりやってもらいたいと思っているのだが、夫は外科医としては優秀でも、経営には向いていないだろう性格もよくわかっていて、夫に向かってそこが悩みのタネだというようなセリフがある。
子供はいないが、結婚して十年目、仲がいい理想的な夫婦と周囲から見られているものの、今一つ夫に愛されている確信を持てないでいる、そんな女の顔を時折後輩役のアスカに見せる。
そういった二人の微妙な心の危うさをもった掛け合いは、良太もさすがと言わざるを得ないものがあった。
こういう時はアスカさん、すごいって思うんだけどな。
「広瀬さん、お疲れ様です」
ぼんやり二人のやり取りのシーンを見ていた良太は、後ろから声をかけられて振り返ると、本谷が立っていた。
「あ、お疲れ様です、本谷さん」
本谷はどうやらプライベートでもどちらかというと真面目で、営業マンだったというだけあって礼儀正しい好青年らしい。
俳優だと目立ちたがりの大澤流のようなオラつくタイプは多いが、逆に物静かで演技になると人が変わったように役に憑依するというタイプもあり、どちらかというと本谷は後者だ。
確かにまだスタートを切って間もないところにいるわけだが、性格が百八十度変わるようなことはないだろう。
「どうですか? 撮影は」
良太はありきたりな言葉を口にした。
「ええ、あれから、広瀬さんが色々その言ってくださったお陰で、竹野さんのあたりもそんなにきつくなくなりましたし、俺もあまり硬くならないように、肩の力を抜いてやってます。ヘタクソなのは仕方ないですし」
本谷は苦笑いする。
「いや別に俺のお陰とか、そんなんじゃないですよ」
「ドラマにも出られてたんですよね? もう俳優はやらないんですか?」
また、その話か、と良太は息をつく。
「いやそれ、ほんと、もう、代役で、それも間違って出ちゃいました、ってやつだから」
「でも坂口さんが、惜しいなとかって」
また坂口さんか。
あの人、口にして実現させようみたいに思ってるんじゃないだろうな。
「坂口さんのは半分嘘八百だから、気にしないでください。それよりすみません、もう一つのドラマの方、無理にお願いしてしまって。急な話だし、スケジュールタイトになっちゃって」
良太はさらりと話題を変えた。
あれはかなり嫉妬の要素が含まれているんだろうと、良太は頷いている。
「プレゼントとかはまあ、仕方ないとして、レターくらいは少しは読んでるんだろうな?」
「たまーにな。ピンクやハート付きの封筒なんかゴミ箱行きだ」
「お前、それ、インタビューとかでぜってぇ言うなよ! レターは大切に読ませてもらってます、たくさんのプレゼントをありがとう、くらいたまには言っておけ!」
「ゲーノー人じゃあるまいし、何でそんなウソっぱち言わなけりゃならねんだ」
それはわからないでもない。
「プロスポーツ選手だって、人気やファンあってこそだろうが! プレゼント云々は置いといても、忙しいんでレターも全部は読めないがいつもありがとうございます、くらいは言えるだろう! 少なくとも嘘八百じゃない!」
すると、沢村は、あーあ、と前おいて、
「直球良太も、業界の波にのまれて、心も歪んできちまったかあ」
「このやろ! そんなの社会常識っつうもんだろうが! 直球はわかってるやつだけでいいんだよ!」
とはいうものの、時々、面倒な相手に直球でものを言ったがためにことを荒げてしまうなんてこともやらかしている良太なのだが。
くだらないことをしばし話してから、沢村は電話を切った。
まあ、佐々木との間に波風がたったとかじゃないらしいから、よしとするか。
「沢村、ほんっと、あいつ、お友達いないんだな、俺にわざわざ電話してくるとか」
まあ、あの性格じゃな。
そういえば、沢村、佐々木さんの土地買ってそこにうち建てるとか言ってたけど、結局どうなったんだろう。
まだ佐々木さんに言ってないのか。
いずれにしても先のことになるだろうけど。
佐々木さんと沢村、このままうまくいけばいいよな。
「また沢村に泣きついてこられたって、こっちが困るんだよっ!」
羨ましさ半分で、良太は思わず喚いた。
するとそれを聞きつけたナータンが何ごとかと思ったのか、ナーンとないた。
『田園』の撮影は順調に進んでいた。
本谷と竹野の絡みはあれ以来ほぼないし、竹野も何となく棘を出さなくなっているようになっていると、良太はアスカからも伝え聞いていた。
『パワスポ』の会議の帰り、三日ぶりに良太がスタジオに寄ると、ちょうど病院のシーンの撮影で、本谷がミスをしてアスカが本谷をいじるところだった。
このドラマでは、ひとみは主人公の妻であり、美人の外科医できついが明るい、というまるでひとみの性格そのもののような役どころだ。
ただ、病院長の娘であり、夫にはいずれ院長としてしっかりやってもらいたいと思っているのだが、夫は外科医としては優秀でも、経営には向いていないだろう性格もよくわかっていて、夫に向かってそこが悩みのタネだというようなセリフがある。
子供はいないが、結婚して十年目、仲がいい理想的な夫婦と周囲から見られているものの、今一つ夫に愛されている確信を持てないでいる、そんな女の顔を時折後輩役のアスカに見せる。
そういった二人の微妙な心の危うさをもった掛け合いは、良太もさすがと言わざるを得ないものがあった。
こういう時はアスカさん、すごいって思うんだけどな。
「広瀬さん、お疲れ様です」
ぼんやり二人のやり取りのシーンを見ていた良太は、後ろから声をかけられて振り返ると、本谷が立っていた。
「あ、お疲れ様です、本谷さん」
本谷はどうやらプライベートでもどちらかというと真面目で、営業マンだったというだけあって礼儀正しい好青年らしい。
俳優だと目立ちたがりの大澤流のようなオラつくタイプは多いが、逆に物静かで演技になると人が変わったように役に憑依するというタイプもあり、どちらかというと本谷は後者だ。
確かにまだスタートを切って間もないところにいるわけだが、性格が百八十度変わるようなことはないだろう。
「どうですか? 撮影は」
良太はありきたりな言葉を口にした。
「ええ、あれから、広瀬さんが色々その言ってくださったお陰で、竹野さんのあたりもそんなにきつくなくなりましたし、俺もあまり硬くならないように、肩の力を抜いてやってます。ヘタクソなのは仕方ないですし」
本谷は苦笑いする。
「いや別に俺のお陰とか、そんなんじゃないですよ」
「ドラマにも出られてたんですよね? もう俳優はやらないんですか?」
また、その話か、と良太は息をつく。
「いやそれ、ほんと、もう、代役で、それも間違って出ちゃいました、ってやつだから」
「でも坂口さんが、惜しいなとかって」
また坂口さんか。
あの人、口にして実現させようみたいに思ってるんじゃないだろうな。
「坂口さんのは半分嘘八百だから、気にしないでください。それよりすみません、もう一つのドラマの方、無理にお願いしてしまって。急な話だし、スケジュールタイトになっちゃって」
良太はさらりと話題を変えた。
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