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風そよぐ 2
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「面倒ごと? 工藤さんのほかにか?」
「ああもう、あのオヤジは山野辺のことも何もかも俺に丸投げしてホイホイ海外ですからね、論外ですけど、沢村のやつがまた何だかだと」
「はは、沢村と良太て仲ええんやもんな」
「いやあ、ガキの頃からの腐れ縁ですって」
一つはあと息をついて良太は沢村と佐々木のひと悶着を思い起こした。
「沢村とつきおうてる佐々木さんて、京助の実家のお隣さんやったな」
「はあ、このご時世あんな一等地に広い土地もってると、大変ですよね」
「小夜ねえが、佐々木さんのお母さんにお茶習うてて、大和屋のイベントん時もお世話になったけど、若先生のお点前はステキやて女子高生みたいにテンション上がってたで」
そんなことを言う千雪は、五月の陽ざしを受けて輝くような笑みを浮かべた。
「次のドラマはそう面倒なことにならんように、良太が取り仕切ったらええやんか」
「まあ、ゲストがね、うちのアスカさんとひとみさんってことになってるから、とりあえず女性陣はOKですけど、まだ男性陣のキャストが決まってませんからね」
本当に面倒なことにならないように、前回の監督と脚本家を組み合わせるつもりはないのだが。
「いやあ、ほんと、次はスムースにいってほしいっすよ。何せ、今かかわってるドラマがまた問題山積みで」
なるべく思い出さないようにはしていたが、こちらはある意味、『花の終わり』を凌駕するほど前途多難なこと間違いなく、良太はまた頭の上にどっかと重い石がのっかったような思いにふう、とため息をついた。
「あ、『田園』やろ? 内容は置いといても、ええ文章書かはる作家さんやな」
「原作はね、牧歌的でノスタルジックで、北海道の広い大地を思わせる背景描写がいいんですけどね」
「またキャスティングに難ありなわけか。せえけど、主役の宇都宮俊治ってよさげな風なひとやないのか?」
「宇都宮さんはね、まったく問題ないんですよ。ってか、むしろ、ほかのキャストのああだこうだをまとめる俺の味方になってくれるくらいで」
「そんなにキャスト、問題ありなんか? まあ、ドラマを見てる限りでは何もわかれへんもんな、制作側の内情なんて。まあ、工藤さんもおらんくて、一人で悶々とするようやったら、いつでも俺呼び出してええで? やけ酒くらい付き合うし」
千雪は思い切り良太に同情して言った。
「はあ、ありがとうございます」
とはいえ、いざ千雪を頼って呼び出したところが、あの、面倒な京助がくっついてくるのは間違いなさそうだ。
ちょっと、それは勘弁……。
「けど、ほんと、千雪さんも、よくあの横暴な京助さんと付き合ってられますよね」
「それこそ長年の腐れ縁いうやつやろ? まあ、横暴いうたら京助の専売特許みたいなふうに思われてるけど、俺もええ加減横暴やからなあ」
しみじみという千雪に、「ああ、それもそうですね」と良太は頷いた。
「おい、そこは、ちょっとでも否定するとこちゃう?」
えへ、まあまあ、と良太は苦笑いを返す。
「少しは元気になったみたいね、お二人とも」
鈴木さんがお茶のおかわりを二人の湯飲みに注ぎ、弁当の殻をまとめて台所に向かった。
「工藤さん、最近も海外とか?」
熱い茶を少し冷まして口に持って行った千雪が思い出したように聞いた。
途端、昨日の夜中、やっと部屋に帰ってきて疲労困憊の良太の都合も何のそので自分の都合だけで良太を強襲してくれた男の顔が瞼に浮かび、良太はちょっと身体の火照りを思い出しかけて懸命にそれを思考の外に押しやろうと眉をひそめた。
まったくあのくそオヤジときた日には。
お陰で良太の疲労困憊はいや増さざるを得なかったのだ。
「いや、最近は、何せ、例の『大いなる旅人』シリーズ、ドラマが好調で第四弾まで海外が背景だったんですが、今度映画化が決まって、背景が主に京都なんですよ。ちょこっとニューヨークも入るみたいですが」
「あれ、おもろいな、時空を飛び回るサスペンス? へえ、京都なん?」
「そうなんですよ、しかも安倍晴明が出てきちゃうんです。プロモーションはちょこちょこもう映像でやり始めてるんですけどね」
「それはますますおもろいな、安倍晴明かあ」
「来年公開予定なんですけどね、俺も楽しみにしてるんですが………」
「何か問題ありか?」
「まあね、おそらく、工藤が海外に飛んでる間は、京都は俺に丸投げになるんじゃないかって」
ハハハと笑い飛ばしている時に、オフィスのドアが開いた。
「何だ、珍しく早いじゃないか。暇なのか」
足早にオフィスに入ってきた工藤は千雪に気づいてそう言いながら、奥のデスクへと向かった。
「冗談! せっかく最優先で伺ったのに、徹夜明けですよ? まあ今、美味しいお弁当をいただいたとこです」
千雪が言うと、工藤はフンと鼻で笑い、「一つ電話をするから待ってろ」とデスクの電話を取った。
「工藤さんの分も、お弁当取ってありますよ」
鈴木さんが弁当とお茶を持って声をかけると、「じゃあ、二人の横にお願いします」と手短に言って工藤は電話をコールした。
「相変わらず忙しない人やな」
「さあ、根が貧乏性なんじゃないですか」
こそこそと千雪と良太が言い合っているうちに工藤がやってきた。
「ああもう、あのオヤジは山野辺のことも何もかも俺に丸投げしてホイホイ海外ですからね、論外ですけど、沢村のやつがまた何だかだと」
「はは、沢村と良太て仲ええんやもんな」
「いやあ、ガキの頃からの腐れ縁ですって」
一つはあと息をついて良太は沢村と佐々木のひと悶着を思い起こした。
「沢村とつきおうてる佐々木さんて、京助の実家のお隣さんやったな」
「はあ、このご時世あんな一等地に広い土地もってると、大変ですよね」
「小夜ねえが、佐々木さんのお母さんにお茶習うてて、大和屋のイベントん時もお世話になったけど、若先生のお点前はステキやて女子高生みたいにテンション上がってたで」
そんなことを言う千雪は、五月の陽ざしを受けて輝くような笑みを浮かべた。
「次のドラマはそう面倒なことにならんように、良太が取り仕切ったらええやんか」
「まあ、ゲストがね、うちのアスカさんとひとみさんってことになってるから、とりあえず女性陣はOKですけど、まだ男性陣のキャストが決まってませんからね」
本当に面倒なことにならないように、前回の監督と脚本家を組み合わせるつもりはないのだが。
「いやあ、ほんと、次はスムースにいってほしいっすよ。何せ、今かかわってるドラマがまた問題山積みで」
なるべく思い出さないようにはしていたが、こちらはある意味、『花の終わり』を凌駕するほど前途多難なこと間違いなく、良太はまた頭の上にどっかと重い石がのっかったような思いにふう、とため息をついた。
「あ、『田園』やろ? 内容は置いといても、ええ文章書かはる作家さんやな」
「原作はね、牧歌的でノスタルジックで、北海道の広い大地を思わせる背景描写がいいんですけどね」
「またキャスティングに難ありなわけか。せえけど、主役の宇都宮俊治ってよさげな風なひとやないのか?」
「宇都宮さんはね、まったく問題ないんですよ。ってか、むしろ、ほかのキャストのああだこうだをまとめる俺の味方になってくれるくらいで」
「そんなにキャスト、問題ありなんか? まあ、ドラマを見てる限りでは何もわかれへんもんな、制作側の内情なんて。まあ、工藤さんもおらんくて、一人で悶々とするようやったら、いつでも俺呼び出してええで? やけ酒くらい付き合うし」
千雪は思い切り良太に同情して言った。
「はあ、ありがとうございます」
とはいえ、いざ千雪を頼って呼び出したところが、あの、面倒な京助がくっついてくるのは間違いなさそうだ。
ちょっと、それは勘弁……。
「けど、ほんと、千雪さんも、よくあの横暴な京助さんと付き合ってられますよね」
「それこそ長年の腐れ縁いうやつやろ? まあ、横暴いうたら京助の専売特許みたいなふうに思われてるけど、俺もええ加減横暴やからなあ」
しみじみという千雪に、「ああ、それもそうですね」と良太は頷いた。
「おい、そこは、ちょっとでも否定するとこちゃう?」
えへ、まあまあ、と良太は苦笑いを返す。
「少しは元気になったみたいね、お二人とも」
鈴木さんがお茶のおかわりを二人の湯飲みに注ぎ、弁当の殻をまとめて台所に向かった。
「工藤さん、最近も海外とか?」
熱い茶を少し冷まして口に持って行った千雪が思い出したように聞いた。
途端、昨日の夜中、やっと部屋に帰ってきて疲労困憊の良太の都合も何のそので自分の都合だけで良太を強襲してくれた男の顔が瞼に浮かび、良太はちょっと身体の火照りを思い出しかけて懸命にそれを思考の外に押しやろうと眉をひそめた。
まったくあのくそオヤジときた日には。
お陰で良太の疲労困憊はいや増さざるを得なかったのだ。
「いや、最近は、何せ、例の『大いなる旅人』シリーズ、ドラマが好調で第四弾まで海外が背景だったんですが、今度映画化が決まって、背景が主に京都なんですよ。ちょこっとニューヨークも入るみたいですが」
「あれ、おもろいな、時空を飛び回るサスペンス? へえ、京都なん?」
「そうなんですよ、しかも安倍晴明が出てきちゃうんです。プロモーションはちょこちょこもう映像でやり始めてるんですけどね」
「それはますますおもろいな、安倍晴明かあ」
「来年公開予定なんですけどね、俺も楽しみにしてるんですが………」
「何か問題ありか?」
「まあね、おそらく、工藤が海外に飛んでる間は、京都は俺に丸投げになるんじゃないかって」
ハハハと笑い飛ばしている時に、オフィスのドアが開いた。
「何だ、珍しく早いじゃないか。暇なのか」
足早にオフィスに入ってきた工藤は千雪に気づいてそう言いながら、奥のデスクへと向かった。
「冗談! せっかく最優先で伺ったのに、徹夜明けですよ? まあ今、美味しいお弁当をいただいたとこです」
千雪が言うと、工藤はフンと鼻で笑い、「一つ電話をするから待ってろ」とデスクの電話を取った。
「工藤さんの分も、お弁当取ってありますよ」
鈴木さんが弁当とお茶を持って声をかけると、「じゃあ、二人の横にお願いします」と手短に言って工藤は電話をコールした。
「相変わらず忙しない人やな」
「さあ、根が貧乏性なんじゃないですか」
こそこそと千雪と良太が言い合っているうちに工藤がやってきた。
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