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夏霞 17
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「あ、おはようございます、佐々木さん、沢村」
二人がダイニングに現れると、良太が目ざとく見つけて呼んだ。
「おはようございます」
「どうぞどうぞ。出かけるのは一応九時ですけど、どうせ俺の車で帰るだけだし、ゆっくり朝ごはん召し上がってください」
ニコニコと藤堂は二人をテーブルに促した。
藤堂も良太もまったりとコーヒーを飲んでいた。
佐々木と沢村がそれぞれオーダーが済むと、「じゃあ、九時半くらいに駐車場で待ち合わせましょう」と言って藤堂が立ちあがる。
「今日は晴れてない分、蒸し暑そうですよね」
良太も続いて立ち上がる。
沢村ははたと思い出したことがあって、ダイニングを出る良太を追って肩を掴んだ。
「ちょっと、来い!」
「え? 何だよ?」
良太の腕を取ったままダイニングを出てエレベーターホール横の人がいない場所をみつけると、そこで改めて聞いた。
「あの、アディノの広報課長とか、今後も会ったりするのか?」
険しい形相で迫られて、良太は、ああ、と沢村が何を言いたいのか理解した。
「そりゃ、まあ、小菅さんがメインだからな、クライアントの」
「あいつ、ぜってぇ、佐々木さんに近づけるなよ!」
良太はふうっとため息をつく。
「お前が凄まなくても、俺も、藤堂さんもわかってるって。佐々木さんは今一つ気づいてないみたいだけどな」
「くっそ、だからほんとに、あの人は!」
沢村も大きく息をつく。
「俺から言うと、佐々木さん、変に意固地になるから、お前からさり気に、注意してやってくれ」
「わかった。まあ、今後のことも考えて、あのオッサンも下手なことはしないと思うけど、植山のこともあるしな、藤堂さんも目を光らせてるって」
「頼んだぞ」
「わかったって」
良太に念を押すと、佐々木と居られるただでさえ貴重な時間をこれ以上無駄にしたくないとばかりに、沢村はそそくさとダイニングに戻って行った。
「沢村くん、どうかした?」
エレベーターの前で気になって待っていた藤堂が良太に尋ねた。
「いや、やっぱ沢村のやつも気づいてて、小菅さんのこと」
「あ~あ。やっぱね。まあ、注意して見てるし、小菅さんと佐々木さんを二人きりにはしない」
「ですね。あと、佐々木さんにそれとなく、気を付けるように言ってくれって。沢村、佐々木さんにてんで信用ないじゃんね」
良太は笑った。
「佐々木さんのは、照れ隠しでちょっと天邪鬼が出るだけだよ。もう、二人、アツアツだから、傍にいると汗が出そう」
藤堂が茶目っ気たっぷりに肩を竦めた。
「あ、ね、アツアツって、死語?」
「え、いやあ、どうなんだろ……」
藤堂に尋ねられて良太はハハハと首を傾げた。
沢村が席に戻ると、佐々木はぼんやりと頬杖をついていた。
「パワスポもオールスターに取材に来るんで、俺はあんまし喋るの嫌だって言ったんだが」
沢村は良太を外に連れ出した言い訳をした。
それは事実だったので、変にきょどったりはしなかったものの、心の中はアディノの小菅のことを思い出してカッカきていた。
「パワスポ、良太ちゃん頑張ってるもんな」
「あいつはこないんだが、市川って局アナが来るらしくて」
その時、二人がオーダーした朝食が運ばれた。
佐々木はフルーツヨーグルトとグラノーラ、それにクロワッサンが並ぶ。
沢村の前には、ベーコン、ソーセージ、トマトにマッシュポテト、プレーンオムレツとトーストとフルーツヨーグルトと朝からきっちりとした食事だ。
「いつもは食事、どうしてるんや?」
佐々木は気になっていたことを聞いた。
「ああ、こっちでもやっぱ、トレーナーんとこの専属栄養士から、従姉が紹介してくれたハウスキーパーにメニューを渡して、朝晩は作っておいてもらう。朝は冷蔵庫から出してチンするだけ?」
「え、じゃ、夕べとか今朝の分は?」
「冷凍してあるから、昼とか、食う時もあるし」
こういうところは沢村は鷹揚で細かいことを気にしない。
それはスイングにも共通するものがあると、佐々木は思う。
初めて目の前で沢村のスイングを見たが、極めた技術、プロというものの凄さを知らされた気がした。
「まあ、パワスポくらいはちゃんと答えてやったらええやんか。マスコミには取材しづらいて言われてるみたいやけど」
「ああ、まあ、そう、その市川って局アナ、知ってる? 前に写真週刊誌に良太と載ったことあるんだぜ?」
フッと笑って、「あんときの良太、焦りまくってたな」と沢村は付け加えた。
「週刊誌に? 良太ちゃんが?」
「そうそう、あれさ、ほんとは局の前あたりで、大勢一緒だったのをパパラッチがいかにも二人きりですみたいに撮りやがって。だから嫌いなんだ、マスコミは」
パクパクとオムレツを口に運びながら、沢村は眉を寄せる。
「せやな、俺もそういうんは好かん」
「まあ、その市川ってアナウンサー、良太とはスポーツ関連で話が合うらしくて、たまに一緒に取材してるらしい。良太の大学の後輩になるのか? 可愛いタイプだが、取材ではきっちり真面目に聞いてくるから、そういうのには一応答えてるよ」
局アナと選手はそういうところで顔を合わせるんだと、直子が話していたのを佐々木は改めて思いだした。
沢村が昔付き合っていたというのも局アナだったようだ。
接点があると言えばやはり取材だろう。
キー局だけではない、地元テレビやラジオ局の取材もあるはずだ。
二人がダイニングに現れると、良太が目ざとく見つけて呼んだ。
「おはようございます」
「どうぞどうぞ。出かけるのは一応九時ですけど、どうせ俺の車で帰るだけだし、ゆっくり朝ごはん召し上がってください」
ニコニコと藤堂は二人をテーブルに促した。
藤堂も良太もまったりとコーヒーを飲んでいた。
佐々木と沢村がそれぞれオーダーが済むと、「じゃあ、九時半くらいに駐車場で待ち合わせましょう」と言って藤堂が立ちあがる。
「今日は晴れてない分、蒸し暑そうですよね」
良太も続いて立ち上がる。
沢村ははたと思い出したことがあって、ダイニングを出る良太を追って肩を掴んだ。
「ちょっと、来い!」
「え? 何だよ?」
良太の腕を取ったままダイニングを出てエレベーターホール横の人がいない場所をみつけると、そこで改めて聞いた。
「あの、アディノの広報課長とか、今後も会ったりするのか?」
険しい形相で迫られて、良太は、ああ、と沢村が何を言いたいのか理解した。
「そりゃ、まあ、小菅さんがメインだからな、クライアントの」
「あいつ、ぜってぇ、佐々木さんに近づけるなよ!」
良太はふうっとため息をつく。
「お前が凄まなくても、俺も、藤堂さんもわかってるって。佐々木さんは今一つ気づいてないみたいだけどな」
「くっそ、だからほんとに、あの人は!」
沢村も大きく息をつく。
「俺から言うと、佐々木さん、変に意固地になるから、お前からさり気に、注意してやってくれ」
「わかった。まあ、今後のことも考えて、あのオッサンも下手なことはしないと思うけど、植山のこともあるしな、藤堂さんも目を光らせてるって」
「頼んだぞ」
「わかったって」
良太に念を押すと、佐々木と居られるただでさえ貴重な時間をこれ以上無駄にしたくないとばかりに、沢村はそそくさとダイニングに戻って行った。
「沢村くん、どうかした?」
エレベーターの前で気になって待っていた藤堂が良太に尋ねた。
「いや、やっぱ沢村のやつも気づいてて、小菅さんのこと」
「あ~あ。やっぱね。まあ、注意して見てるし、小菅さんと佐々木さんを二人きりにはしない」
「ですね。あと、佐々木さんにそれとなく、気を付けるように言ってくれって。沢村、佐々木さんにてんで信用ないじゃんね」
良太は笑った。
「佐々木さんのは、照れ隠しでちょっと天邪鬼が出るだけだよ。もう、二人、アツアツだから、傍にいると汗が出そう」
藤堂が茶目っ気たっぷりに肩を竦めた。
「あ、ね、アツアツって、死語?」
「え、いやあ、どうなんだろ……」
藤堂に尋ねられて良太はハハハと首を傾げた。
沢村が席に戻ると、佐々木はぼんやりと頬杖をついていた。
「パワスポもオールスターに取材に来るんで、俺はあんまし喋るの嫌だって言ったんだが」
沢村は良太を外に連れ出した言い訳をした。
それは事実だったので、変にきょどったりはしなかったものの、心の中はアディノの小菅のことを思い出してカッカきていた。
「パワスポ、良太ちゃん頑張ってるもんな」
「あいつはこないんだが、市川って局アナが来るらしくて」
その時、二人がオーダーした朝食が運ばれた。
佐々木はフルーツヨーグルトとグラノーラ、それにクロワッサンが並ぶ。
沢村の前には、ベーコン、ソーセージ、トマトにマッシュポテト、プレーンオムレツとトーストとフルーツヨーグルトと朝からきっちりとした食事だ。
「いつもは食事、どうしてるんや?」
佐々木は気になっていたことを聞いた。
「ああ、こっちでもやっぱ、トレーナーんとこの専属栄養士から、従姉が紹介してくれたハウスキーパーにメニューを渡して、朝晩は作っておいてもらう。朝は冷蔵庫から出してチンするだけ?」
「え、じゃ、夕べとか今朝の分は?」
「冷凍してあるから、昼とか、食う時もあるし」
こういうところは沢村は鷹揚で細かいことを気にしない。
それはスイングにも共通するものがあると、佐々木は思う。
初めて目の前で沢村のスイングを見たが、極めた技術、プロというものの凄さを知らされた気がした。
「まあ、パワスポくらいはちゃんと答えてやったらええやんか。マスコミには取材しづらいて言われてるみたいやけど」
「ああ、まあ、そう、その市川って局アナ、知ってる? 前に写真週刊誌に良太と載ったことあるんだぜ?」
フッと笑って、「あんときの良太、焦りまくってたな」と沢村は付け加えた。
「週刊誌に? 良太ちゃんが?」
「そうそう、あれさ、ほんとは局の前あたりで、大勢一緒だったのをパパラッチがいかにも二人きりですみたいに撮りやがって。だから嫌いなんだ、マスコミは」
パクパクとオムレツを口に運びながら、沢村は眉を寄せる。
「せやな、俺もそういうんは好かん」
「まあ、その市川ってアナウンサー、良太とはスポーツ関連で話が合うらしくて、たまに一緒に取材してるらしい。良太の大学の後輩になるのか? 可愛いタイプだが、取材ではきっちり真面目に聞いてくるから、そういうのには一応答えてるよ」
局アナと選手はそういうところで顔を合わせるんだと、直子が話していたのを佐々木は改めて思いだした。
沢村が昔付き合っていたというのも局アナだったようだ。
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