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そんなお前が好きだった 66
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「へえ、お披露目か、そりゃ見たいな」
「今度こそちゃんと客を迎えてもいいようにしとくし」
「おう、ジャックダニエルズでも持参するわ」
元気は笑った。
「そういや、音楽部、コンクールで三位入ったって? ついでに行ったはずの東がえらく感激してたぜ」
「そうなんだよ。俺もうるってきちまって、ほんと」
思い出したのか井原がまたウルウルしそうになっていると、またドアが開いて、響が顔を見せた。
「響さん、おめでとうございます! 三位入賞ってすごいじゃないですか」
元気に言われて響もにっこり笑った。
「そうなんだ。今まで、ちょっと部のみんなと話し込んでて、まだいい?」
「どうぞどうぞ。響さんならいつでも歓迎しますよ」
元気は井原の隣に促した。
「もし二位だったら、全国大会も夢じゃなかったんだけど、結構付け焼刃的に組んだメンバーで三位ってのはマジ感無量ってとこ?」
響にしては熱がこもった声だ。
「これで一つ肩の荷が降りたって感じですね」
元気は響の前にも今日のブレンドを置いた。
「そうだな。瀬戸川は満足しているみたいだし、寛斗も頑張ったからな、あいつ珍しく泣きそうになってた」
「瀬戸川は六月で引退? 次の部長は?」
「榎だろうな。志田は部には参加するが、受験に備えていろいろ忙しくなるし。一年も楽器が揃ったから、今日はみんな音を出して喜んでた」
「初めて楽器を持った時って、嬉しいもんですよね」
しみじみと井原が頷いた。
「元気っていつからギターやってたんだ?」
「俺は三年の時かな」
「中学の?」
「小学校だよ。初めて挑戦したのが、Jumpin' Jack Flash」
「渋!」
「兄貴の影響で」
「え、あの、開校以来の秀才と言われた岡本勇気さんてロック好きだった?」
井原が大仰な言い回しで言った。
「うちは父親がバッハで、母親がフォークソング、兄貴がロックって、皆バラバラ。兄貴のは英語やるのに聞き始めて、主にストーンズとかクイーンとかブリティッシュ系」
「でも元気の曲の中にメロディラインがバッハっぽいのあるよね、割と」
響が指摘した。
「そりゃ、俺の子守歌、ブランデンブルク協奏曲だったからな、何かもう身に沁みちゃってて」
三人で笑っているうち、カップルがテーブルを立つのに元気は気づいた。
ありがとうございました、とカップルを見送ると、元気はドアプレートをCLOSEDに換えてきた。
「豪はまた海外とか?」
響が聞いた。
「数日前からニューヨークっつったかな。自分の作品と、GENKIの写真集頼まれたとかって」
「何でそこにお前はいないんだ?」
井原に突っ込まれるが、元気はフンとばかりに「俺はGENKIじゃねえもん」としらっと答える。
「元気は自分の世界があるもんな」
響が言うと、元気が身を乗り出した。
「わかります? 俺はここの店の主で、たまに曲書いて、好きな時にギターを弾ければ」
「わかるよ、俺もそう」
見つめ合って頷き合う二人を見て、井原はため息をつく。
「それ、違うと思う。響さんも元気も。二人の演奏を待ってる人がいっぱいいるでしょ?」
「お前、みっちゃんとか涼子の回し者じゃないだろうな? こないだ五月に一度来るからとか、涼子が言って来てたが、絶対なんか企んでるに違いないんだ」
元気が怪訝な顔で井原を睨む。
「俺が、んなわけないだろ! ってか、誰、涼子って」
「GENKIの事務所の社長。元々俺ら、みっちゃん、涼子、一平、俺と大学の同期で、涼子はみっちゃんの彼女なんだが、GENKIが独立した時社長に据えたわけ。これが切れる女でさ。まあ、裏でみっちゃんが糸引いてることも多いけど、とにかくみっちゃんと涼子で俺を嘱託社員とかにして、曲を書けだの、アルバムを出せだのうるさいのなんの」
「アルバムって元気の? つまりお前の?」
井原が聞き返した。
「俺がGENKIに戻らないっつったらそっちから攻めてきやがって」
「いや、すげぇじゃん。作ればいいのに」
元気はフンと井原をねめつける。
「アルバム出すってのはどういうことかわかってんのか? ライブやらせようって魂胆なんだよ。つまり、GENKIとってことにもなるだろうが」
元気が眉を顰めて言った。
「なんで一緒にライブやるのがそんなに嫌なんだよ?」
「だから言っただろ? 俺は好きな時にギターを弾ければって。あいつらの思い通りになってたまるか」
頑なに言い放つ元気に、井原は響を見た。
響は肩をすくめる。
「お前、ただ意固地になってるだけじゃないのか? その一平と豪とでお前を取り合って、一平が負けたからって」
「はあ? 何それ」
元気は呆れた顔で井原を見つめた。
「東が言ってたぞ」
「はは、東、枝葉をとっぱらって、話したんだな」
響が笑う。
「あのやろ……」
「でもまあ、とどのつまりはそういうことになるよな?」
響に言われて、元気は苦笑した。
「俺のことより、お二人はそれで収まるところに収まったわけでしょ?」
二人のようすからもわかっていたが、元気は一応確かめるように聞いた。
「今度こそちゃんと客を迎えてもいいようにしとくし」
「おう、ジャックダニエルズでも持参するわ」
元気は笑った。
「そういや、音楽部、コンクールで三位入ったって? ついでに行ったはずの東がえらく感激してたぜ」
「そうなんだよ。俺もうるってきちまって、ほんと」
思い出したのか井原がまたウルウルしそうになっていると、またドアが開いて、響が顔を見せた。
「響さん、おめでとうございます! 三位入賞ってすごいじゃないですか」
元気に言われて響もにっこり笑った。
「そうなんだ。今まで、ちょっと部のみんなと話し込んでて、まだいい?」
「どうぞどうぞ。響さんならいつでも歓迎しますよ」
元気は井原の隣に促した。
「もし二位だったら、全国大会も夢じゃなかったんだけど、結構付け焼刃的に組んだメンバーで三位ってのはマジ感無量ってとこ?」
響にしては熱がこもった声だ。
「これで一つ肩の荷が降りたって感じですね」
元気は響の前にも今日のブレンドを置いた。
「そうだな。瀬戸川は満足しているみたいだし、寛斗も頑張ったからな、あいつ珍しく泣きそうになってた」
「瀬戸川は六月で引退? 次の部長は?」
「榎だろうな。志田は部には参加するが、受験に備えていろいろ忙しくなるし。一年も楽器が揃ったから、今日はみんな音を出して喜んでた」
「初めて楽器を持った時って、嬉しいもんですよね」
しみじみと井原が頷いた。
「元気っていつからギターやってたんだ?」
「俺は三年の時かな」
「中学の?」
「小学校だよ。初めて挑戦したのが、Jumpin' Jack Flash」
「渋!」
「兄貴の影響で」
「え、あの、開校以来の秀才と言われた岡本勇気さんてロック好きだった?」
井原が大仰な言い回しで言った。
「うちは父親がバッハで、母親がフォークソング、兄貴がロックって、皆バラバラ。兄貴のは英語やるのに聞き始めて、主にストーンズとかクイーンとかブリティッシュ系」
「でも元気の曲の中にメロディラインがバッハっぽいのあるよね、割と」
響が指摘した。
「そりゃ、俺の子守歌、ブランデンブルク協奏曲だったからな、何かもう身に沁みちゃってて」
三人で笑っているうち、カップルがテーブルを立つのに元気は気づいた。
ありがとうございました、とカップルを見送ると、元気はドアプレートをCLOSEDに換えてきた。
「豪はまた海外とか?」
響が聞いた。
「数日前からニューヨークっつったかな。自分の作品と、GENKIの写真集頼まれたとかって」
「何でそこにお前はいないんだ?」
井原に突っ込まれるが、元気はフンとばかりに「俺はGENKIじゃねえもん」としらっと答える。
「元気は自分の世界があるもんな」
響が言うと、元気が身を乗り出した。
「わかります? 俺はここの店の主で、たまに曲書いて、好きな時にギターを弾ければ」
「わかるよ、俺もそう」
見つめ合って頷き合う二人を見て、井原はため息をつく。
「それ、違うと思う。響さんも元気も。二人の演奏を待ってる人がいっぱいいるでしょ?」
「お前、みっちゃんとか涼子の回し者じゃないだろうな? こないだ五月に一度来るからとか、涼子が言って来てたが、絶対なんか企んでるに違いないんだ」
元気が怪訝な顔で井原を睨む。
「俺が、んなわけないだろ! ってか、誰、涼子って」
「GENKIの事務所の社長。元々俺ら、みっちゃん、涼子、一平、俺と大学の同期で、涼子はみっちゃんの彼女なんだが、GENKIが独立した時社長に据えたわけ。これが切れる女でさ。まあ、裏でみっちゃんが糸引いてることも多いけど、とにかくみっちゃんと涼子で俺を嘱託社員とかにして、曲を書けだの、アルバムを出せだのうるさいのなんの」
「アルバムって元気の? つまりお前の?」
井原が聞き返した。
「俺がGENKIに戻らないっつったらそっちから攻めてきやがって」
「いや、すげぇじゃん。作ればいいのに」
元気はフンと井原をねめつける。
「アルバム出すってのはどういうことかわかってんのか? ライブやらせようって魂胆なんだよ。つまり、GENKIとってことにもなるだろうが」
元気が眉を顰めて言った。
「なんで一緒にライブやるのがそんなに嫌なんだよ?」
「だから言っただろ? 俺は好きな時にギターを弾ければって。あいつらの思い通りになってたまるか」
頑なに言い放つ元気に、井原は響を見た。
響は肩をすくめる。
「お前、ただ意固地になってるだけじゃないのか? その一平と豪とでお前を取り合って、一平が負けたからって」
「はあ? 何それ」
元気は呆れた顔で井原を見つめた。
「東が言ってたぞ」
「はは、東、枝葉をとっぱらって、話したんだな」
響が笑う。
「あのやろ……」
「でもまあ、とどのつまりはそういうことになるよな?」
響に言われて、元気は苦笑した。
「俺のことより、お二人はそれで収まるところに収まったわけでしょ?」
二人のようすからもわかっていたが、元気は一応確かめるように聞いた。
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