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そんなお前が好きだった 63
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「は……あ……あん…! あっ……ダメっ! やっ!」
「何が…ダメ? 全然、いい…って……」
井原は響の喘ぎに気が急いて指と換えるのをもう待てなかった。
「うわっ………バカッ……やめ……あ…はっ!」
「心配……しなくても、ちゃんと……ゴム……下心ありありで用意して……大丈夫…」
「……大丈夫…って……何がっ!!」
それでも何とかゆっくりと響を壊さないように、押し入ると井原は歓喜に震えた。
「…んあっ!……ああっ………!」
やがて悲鳴のような声が響の唇から迸る。
「……ひび…き…さ…!」
井原もすぐに果ててしまった。
「……好き…だ…響さん……」
十年引き摺った恋がようやく報われたことに、井原は意識を飛ばしてしまった響を抱きしめて、呟いた。
掃き出し窓の外は、既に嵐が去ってそろそろ夕闇が迫り、宵の明星が西の空に微かな光を湛えていた。
ガチャという音に響は目を覚ました。
それから見知らぬ天井に訝しんで身体を起こすと、ソファの上に毛布を被って寝ていたようだ。
「う、寒……」
裸だと気づいた時、たったさっきの怒涛のようなひと時が一気に蘇る。
「あ、目、覚めました? 夕飯、買ってきたんです。スーパーの弁当だけど」
リビングのドアが開いて、井原が何ごともなかったかのような顔で言った。
「今……何時?」
「六時ちょっと前」
井原はキッチンに行って湯を沸かし始めた。
「今日は家の夕飯断ったって言ってたでしょ?」
響は井原の問いには答えずに、「シャワー、浴びる」と毛布を引きずったままバスルームに行きかけて、また戻ってきて洗濯された自分のシャツとパンツを掴むと、バスルームに飛び込んだ。
「今更なのに」
井原は毛布で身体を隠す響をチラ見して呟いた。
「ああでも、毛布なかったらまた俺襲いそう」
くだらないことを口にしている井原をバスルームでは響が罵っていた。
「ったく、あいつは! 平気な顔して! ウルトラバカ!」
しかも何の気なしに鏡を見た響は思わず毛布を落としてしまった。
身体中に小さな赤い痣が点在している。
リアル新婚さんかよ!
カーっとまた頭に血が上った響は、シャワーを頭からかぶった。
多少の鈍痛はあるが、ただやりたいだけのクラウスとはまるで違う。
断崖絶壁から落ちる恐怖ではない、落ちていくのに浮遊するかのような心地が蘇る。
「バスタオル置いときますね」
ドアの向こうで井原の声がすると、また響の心臓は飛び上がった。
「シャンプーとか買って来てからにしろよ! バカヤロ!」
わけがわからない怒りを口にしながらバスルームを出ると、バスタオルで髪をゴシゴシ擦った響は自分のシャツとパンツをはいて、毛布とバスタオルを洗濯機に放り込む。
裸足のまま響きがソファにそっと戻ると、井原が買ってきた唐揚げやサラダなどの総菜や海苔巻きなどをプラスチックの容器のままテーブルに並べていた。
「お茶でいいですよね」
井原はマグカップを響の前に置き、隣に座った。
さっきは斜め向かいに座ったのに、なんでくっついてくるんだよ、と響は心の中で喚く。
マグカップを取ろうと伸ばした指にサラダを取ろうとした井原の手が触れた途端、慌てて響は引っ込める。
「そんな怖がらなくても」
はあ、と井原がため息をつく。
「こ…怖がってるわけじゃ……」
「俺は響さんとこうしていることがまだ夢みたいに嬉しいのに、嫌だった?」
軽く心情を吐露されて響はまた俯いて赤くなる。
「……いや、なんかじゃなかった……」
小さな声で響は言った。
「え?」
「だから、いやなんかじゃなかったってるだろ?! ほんとは、俺、お断りを撤回して、断崖絶壁を回避しようと………」
「は? 断崖絶壁? じゃなくて、お断りを撤回ってことは付き合うのイエスってことでいいんだ?」
井原は声を上げた。
「イエスの前に何でああゆう展開になるんだよっ!」
「そりゃ、響さんと二人きりになってああいう展開にならない方が無理でしょ」
へらっと井原は開き直る。
「何が無理でしょだよ」
「あいつ、金髪野郎の方がよかったとか?」
「バカッ! なわけないだろっ! クラウスなんかより全然……!」
「よかった?」
にっこり笑って井原は響を覗き込む。
「だからっ! あいつが勝手に盛り上がってただけで……」
「俺のがいい?」
「だから………お前と一緒にいたら俺、お前しか見えなくなって……自分が自分でなくなっちまうって……思って……」
ぼそぼそと言葉を連ねる響が愛おしくて井原はそのまま抱きしめた。
「俺はいつも、あの頃に戻れたらって、できないようなことばっか思ってた。あの頃の、響さんが傍にいた頃に」
「井原……俺、俺だって……」
「じゃあ、なんで、来てくれなかった………俺は、響さんのピアノの邪魔にはなりたくなかったから、四年後にって言ったのに……」
やっぱり、井原は待っていたのだ。
「俺は、俺こそ、お前の前途を汚すようなこと、したくなかった……だってそうだろ? 俺たちのことで、お前の家族ががっかりするようなことになったらって………」
井原はかぶりを振った。
「何が…ダメ? 全然、いい…って……」
井原は響の喘ぎに気が急いて指と換えるのをもう待てなかった。
「うわっ………バカッ……やめ……あ…はっ!」
「心配……しなくても、ちゃんと……ゴム……下心ありありで用意して……大丈夫…」
「……大丈夫…って……何がっ!!」
それでも何とかゆっくりと響を壊さないように、押し入ると井原は歓喜に震えた。
「…んあっ!……ああっ………!」
やがて悲鳴のような声が響の唇から迸る。
「……ひび…き…さ…!」
井原もすぐに果ててしまった。
「……好き…だ…響さん……」
十年引き摺った恋がようやく報われたことに、井原は意識を飛ばしてしまった響を抱きしめて、呟いた。
掃き出し窓の外は、既に嵐が去ってそろそろ夕闇が迫り、宵の明星が西の空に微かな光を湛えていた。
ガチャという音に響は目を覚ました。
それから見知らぬ天井に訝しんで身体を起こすと、ソファの上に毛布を被って寝ていたようだ。
「う、寒……」
裸だと気づいた時、たったさっきの怒涛のようなひと時が一気に蘇る。
「あ、目、覚めました? 夕飯、買ってきたんです。スーパーの弁当だけど」
リビングのドアが開いて、井原が何ごともなかったかのような顔で言った。
「今……何時?」
「六時ちょっと前」
井原はキッチンに行って湯を沸かし始めた。
「今日は家の夕飯断ったって言ってたでしょ?」
響は井原の問いには答えずに、「シャワー、浴びる」と毛布を引きずったままバスルームに行きかけて、また戻ってきて洗濯された自分のシャツとパンツを掴むと、バスルームに飛び込んだ。
「今更なのに」
井原は毛布で身体を隠す響をチラ見して呟いた。
「ああでも、毛布なかったらまた俺襲いそう」
くだらないことを口にしている井原をバスルームでは響が罵っていた。
「ったく、あいつは! 平気な顔して! ウルトラバカ!」
しかも何の気なしに鏡を見た響は思わず毛布を落としてしまった。
身体中に小さな赤い痣が点在している。
リアル新婚さんかよ!
カーっとまた頭に血が上った響は、シャワーを頭からかぶった。
多少の鈍痛はあるが、ただやりたいだけのクラウスとはまるで違う。
断崖絶壁から落ちる恐怖ではない、落ちていくのに浮遊するかのような心地が蘇る。
「バスタオル置いときますね」
ドアの向こうで井原の声がすると、また響の心臓は飛び上がった。
「シャンプーとか買って来てからにしろよ! バカヤロ!」
わけがわからない怒りを口にしながらバスルームを出ると、バスタオルで髪をゴシゴシ擦った響は自分のシャツとパンツをはいて、毛布とバスタオルを洗濯機に放り込む。
裸足のまま響きがソファにそっと戻ると、井原が買ってきた唐揚げやサラダなどの総菜や海苔巻きなどをプラスチックの容器のままテーブルに並べていた。
「お茶でいいですよね」
井原はマグカップを響の前に置き、隣に座った。
さっきは斜め向かいに座ったのに、なんでくっついてくるんだよ、と響は心の中で喚く。
マグカップを取ろうと伸ばした指にサラダを取ろうとした井原の手が触れた途端、慌てて響は引っ込める。
「そんな怖がらなくても」
はあ、と井原がため息をつく。
「こ…怖がってるわけじゃ……」
「俺は響さんとこうしていることがまだ夢みたいに嬉しいのに、嫌だった?」
軽く心情を吐露されて響はまた俯いて赤くなる。
「……いや、なんかじゃなかった……」
小さな声で響は言った。
「え?」
「だから、いやなんかじゃなかったってるだろ?! ほんとは、俺、お断りを撤回して、断崖絶壁を回避しようと………」
「は? 断崖絶壁? じゃなくて、お断りを撤回ってことは付き合うのイエスってことでいいんだ?」
井原は声を上げた。
「イエスの前に何でああゆう展開になるんだよっ!」
「そりゃ、響さんと二人きりになってああいう展開にならない方が無理でしょ」
へらっと井原は開き直る。
「何が無理でしょだよ」
「あいつ、金髪野郎の方がよかったとか?」
「バカッ! なわけないだろっ! クラウスなんかより全然……!」
「よかった?」
にっこり笑って井原は響を覗き込む。
「だからっ! あいつが勝手に盛り上がってただけで……」
「俺のがいい?」
「だから………お前と一緒にいたら俺、お前しか見えなくなって……自分が自分でなくなっちまうって……思って……」
ぼそぼそと言葉を連ねる響が愛おしくて井原はそのまま抱きしめた。
「俺はいつも、あの頃に戻れたらって、できないようなことばっか思ってた。あの頃の、響さんが傍にいた頃に」
「井原……俺、俺だって……」
「じゃあ、なんで、来てくれなかった………俺は、響さんのピアノの邪魔にはなりたくなかったから、四年後にって言ったのに……」
やっぱり、井原は待っていたのだ。
「俺は、俺こそ、お前の前途を汚すようなこと、したくなかった……だってそうだろ? 俺たちのことで、お前の家族ががっかりするようなことになったらって………」
井原はかぶりを振った。
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