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そんなお前が好きだった 57
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「何だ? 井原?」
キッチンで冷蔵庫を設置していた東が怪訝な顔で井原を見た。
実はチラリと二人の様子が目に入ってしまった元気は、「中坊でもあれはない」と首を横に振りつつ、ボソリと呟いた。
洗面台の近くで洗濯機を設置していた豪は、「このあたりでいいっすか?」と井原を振り返った。
「ああ、OK! バッチリ」
井原が首にかけていたタオルで顔を拭いているのを見て、「やっぱ、タオルとかそういうもん、あった方がいいっすね。俺、買ってきましょうか?」と豪が言った。
「テーブルの上拭いたりするモンとか、洗剤とかあった方がいいよな。いいよ、力仕事は豪とかに任せるから、俺、買ってくるわ」
さっきの井原との密着からまだ胸のドキドキが収まりきらない響が提案した。
「んじゃあ、俺は、何か食いもん調達してくる」
モップを片付けると、元気が響に続いて玄関に向かう。
「雨も心配だし、別々に行った方が時短になるよな」
「そうしましょっか」
響は元気と一緒に外に出た。
「スリッパとかいるよな。脱ぐと裸足だし、井原、靴脱ぎたくないとかって言ってたが」
「ですね。それは自分で家建ててからにしろってやつでしょ。まあ、土足生活長いとやっぱそうなるかな」
「俺も、段差ないから、忘れるとこだったわ。靴紐とかめんどくさいし」
「まあわかるけど」
元気はスーパーへ、響はホームセンターへと車を回した。
走り出して間もなく、ポツリポツリと雨が落ちてきた。
「降ってきたか」
響はフロントガラスの向こうにかなりどす黒い雲の渦があるのを見て、「帰るまでにひどくならなければいいけど」と呟いた。
だが、雨の大きさが次第に大粒になり、徐々に音が大きくなっていく。
バイパスへ向かうために右折したところで信号が赤に変わった。
どうやらさっき見た黒雲のちょうど下に入ったらしかった。
ワイパーを最強にしても追いつかなないくらいの雨がゴオという音に代わり、さらに雨量が増した。
青になったらしいので、前の車のテールランプを頼りに走り出したものの、アンダーパスに差し掛かったところで、半端ない雨が車に叩き付ける。
早く通り過ぎてしまいたかったにもかかわらず、前の車がアンダーパスの底で停車した。
「おい、ウソだろ、こんなとこで……」
アンダーパスを抜けたところにある信号に引っかかったらしく、上り坂で車が数珠繋ぎになっている。
上の方の車が動き出した、と思った瞬間、ゴウゴウというものすごい音とともにまさにバケツをひっくり返したかのようなゲリラ豪雨に見舞われた。
「うわ……」
水量が増したのはその直後だった。
通行止めの措置も間に合わないくらいあっという間の冠水だった。
「やば……」
車は動かない。
水量はどんどん増していく。
ドアを開けようとしても開かない。
パワーウインドウも動かない。
「しまった………ハンマーとか入れるの忘れてた………」
どうしよう、と思った響だが、次第に危機感が現実味を帯びてくる。
咄嗟にポケットから携帯を取り出した。
「響さん? 大丈夫ですか? 雨ひどくなってきたし」
心配そうな井原の声に、響は少し安堵した。
「それが、悪い、アンダーパスで冠水して車動かない………」
「え、ちょ、どこです!?」
「駅の近くのアンダーパス」
電話はいきなり切れた。
「えと、ハンマーがない時は、車内に水が入ってくるのを待つ? 外との水圧の差が亡くなればドアを蹴り開ける……って、できんのかよ、そんなこと」
慌てて、冠水した車からの脱出方法を携帯でググると、そんなことが書いてあった。
「とりあえず、待つって、どうすんだよ、もっと水量増えたら」
独り言ちながら不安そうに窓の外を見てもどうにもならない。
前の車も動かないし、やはり出られないようだ。
その頃、響のSOSに返事もせずに、飛び出そうとした井原を、豪が追った。
「何かあった?」
「響さんがアンダーパスで水没したって」
慌てて自分のジープに乗り込み、エンジンをかける井原を追って、豪は助手席の窓を叩く。
「ロープとか持って行った方がいい」
東も飛び出してきて、軽トラに取り付けてあったロープを外して抱えると後部座席に乗り込んだ。
土砂降りの中をジープは疾走した。
飛ばしに飛ばして、アンダーパス近くまで来ると、傍のコンビニに車を停め、井原は雨の中へ飛び出した。
豪と東も後に続き、アンダーパスを覗くと、二台の車がドアが開かない程水没して立ち往生していた。
ハンマーを手にアンダーパスに向かって水の中に入っていく井原に、豪がロープの端を渡す。
井原にしてみれば響のことだけしか頭になく、水圧も何のそので後ろに停まっている響のヴィッツに辿り着くと、助手席側から窓を叩いた。
キッチンで冷蔵庫を設置していた東が怪訝な顔で井原を見た。
実はチラリと二人の様子が目に入ってしまった元気は、「中坊でもあれはない」と首を横に振りつつ、ボソリと呟いた。
洗面台の近くで洗濯機を設置していた豪は、「このあたりでいいっすか?」と井原を振り返った。
「ああ、OK! バッチリ」
井原が首にかけていたタオルで顔を拭いているのを見て、「やっぱ、タオルとかそういうもん、あった方がいいっすね。俺、買ってきましょうか?」と豪が言った。
「テーブルの上拭いたりするモンとか、洗剤とかあった方がいいよな。いいよ、力仕事は豪とかに任せるから、俺、買ってくるわ」
さっきの井原との密着からまだ胸のドキドキが収まりきらない響が提案した。
「んじゃあ、俺は、何か食いもん調達してくる」
モップを片付けると、元気が響に続いて玄関に向かう。
「雨も心配だし、別々に行った方が時短になるよな」
「そうしましょっか」
響は元気と一緒に外に出た。
「スリッパとかいるよな。脱ぐと裸足だし、井原、靴脱ぎたくないとかって言ってたが」
「ですね。それは自分で家建ててからにしろってやつでしょ。まあ、土足生活長いとやっぱそうなるかな」
「俺も、段差ないから、忘れるとこだったわ。靴紐とかめんどくさいし」
「まあわかるけど」
元気はスーパーへ、響はホームセンターへと車を回した。
走り出して間もなく、ポツリポツリと雨が落ちてきた。
「降ってきたか」
響はフロントガラスの向こうにかなりどす黒い雲の渦があるのを見て、「帰るまでにひどくならなければいいけど」と呟いた。
だが、雨の大きさが次第に大粒になり、徐々に音が大きくなっていく。
バイパスへ向かうために右折したところで信号が赤に変わった。
どうやらさっき見た黒雲のちょうど下に入ったらしかった。
ワイパーを最強にしても追いつかなないくらいの雨がゴオという音に代わり、さらに雨量が増した。
青になったらしいので、前の車のテールランプを頼りに走り出したものの、アンダーパスに差し掛かったところで、半端ない雨が車に叩き付ける。
早く通り過ぎてしまいたかったにもかかわらず、前の車がアンダーパスの底で停車した。
「おい、ウソだろ、こんなとこで……」
アンダーパスを抜けたところにある信号に引っかかったらしく、上り坂で車が数珠繋ぎになっている。
上の方の車が動き出した、と思った瞬間、ゴウゴウというものすごい音とともにまさにバケツをひっくり返したかのようなゲリラ豪雨に見舞われた。
「うわ……」
水量が増したのはその直後だった。
通行止めの措置も間に合わないくらいあっという間の冠水だった。
「やば……」
車は動かない。
水量はどんどん増していく。
ドアを開けようとしても開かない。
パワーウインドウも動かない。
「しまった………ハンマーとか入れるの忘れてた………」
どうしよう、と思った響だが、次第に危機感が現実味を帯びてくる。
咄嗟にポケットから携帯を取り出した。
「響さん? 大丈夫ですか? 雨ひどくなってきたし」
心配そうな井原の声に、響は少し安堵した。
「それが、悪い、アンダーパスで冠水して車動かない………」
「え、ちょ、どこです!?」
「駅の近くのアンダーパス」
電話はいきなり切れた。
「えと、ハンマーがない時は、車内に水が入ってくるのを待つ? 外との水圧の差が亡くなればドアを蹴り開ける……って、できんのかよ、そんなこと」
慌てて、冠水した車からの脱出方法を携帯でググると、そんなことが書いてあった。
「とりあえず、待つって、どうすんだよ、もっと水量増えたら」
独り言ちながら不安そうに窓の外を見てもどうにもならない。
前の車も動かないし、やはり出られないようだ。
その頃、響のSOSに返事もせずに、飛び出そうとした井原を、豪が追った。
「何かあった?」
「響さんがアンダーパスで水没したって」
慌てて自分のジープに乗り込み、エンジンをかける井原を追って、豪は助手席の窓を叩く。
「ロープとか持って行った方がいい」
東も飛び出してきて、軽トラに取り付けてあったロープを外して抱えると後部座席に乗り込んだ。
土砂降りの中をジープは疾走した。
飛ばしに飛ばして、アンダーパス近くまで来ると、傍のコンビニに車を停め、井原は雨の中へ飛び出した。
豪と東も後に続き、アンダーパスを覗くと、二台の車がドアが開かない程水没して立ち往生していた。
ハンマーを手にアンダーパスに向かって水の中に入っていく井原に、豪がロープの端を渡す。
井原にしてみれば響のことだけしか頭になく、水圧も何のそので後ろに停まっている響のヴィッツに辿り着くと、助手席側から窓を叩いた。
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