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そんなお前が好きだった 27
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高校時代からいろいろな人を惹きつけていたような存在だったから、元気の恋人が男でも不思議と納得できる気がした。
どういう経緯でとか詳しいことは聞いたことがないが、紀子がチラッと話してくれたことによると、ミツドモエだかヨツドモエだかの人間関係で最終的にそうなった、らしい。
響からすると、聞いただけでウンザリと言う感じだ。
人間関係とか面倒ごとはごめんだ。
家族だけでも面倒なのに。
井原とは同僚として付き合って行けさえすれば、俺はにゃー助とピアノだけでいい。
響は思う。
ただし、井原も新居に一緒に住む相手が見つかるかもしれないぞ、なんてのは、ヤケクソな強がりが言わせた科白だ。
実際、井原が荒川と付き合うとか、彼女ができたり結婚したりってのをまのあたりにするとかは、ちょっと精神的にきつい。
田村先生が戻るまでにつらくなったら、講師、辞めるかな。
それが響の出した結論だ。
いつかのことを考えて思い悩むのもいやだから、今のことだけ考えよう。
ふと響がぼんやり目の前を見ると、東が何か物思いしながらしきりと手はジャーマンポテトや唐揚げを口に運んでいる。
「東、お前、サラダ食ったら? まだメタボになりたいのか?」
東を見ていると、つい口を出したくもなる。
途端、東は手を止めた。
「この手が………はああ。何か考えたりするとこういうもんにいっちゃうんすよね~」
「お前、俺がこっち戻ってからも、横にでかくなってるよな。やっぱちょっと絞った方がいんじゃね?」
隣から元気も口を挟む。
「わかるわ、実家だと、親が俺の好きなモン並べてくれるし」
井原は東に同情する。
「いやいや、こいつその上に、絵描く時、ポテチとか酒とか傍に置いてっからな」
さらに元気が東の日常をばらす。
「や、それは、ひらめくとその~………」
ぶつぶつと反論にならないようなことを東は呟いた。
「彼女ができないって叫ぶ前に、ちっとは引き締めろよ。身も心も。紀ちゃんを見返してやれって気になんないのかよ」
元気にきっちり言われた東は、「わかった! 明日から俺はポテチを断つ!」と一人喚く。
「明日と言わず、今日からにすれば? 響さんは、ちょっと肉付けた方がいいかもな。夕食は作ってもらってるって言ってたよね?」
ついでのように井原が響を振り返った。
「まあな。炭水化物、あんまし取らないから」
「ひえ、そんなんで生きて行けんの?」
東が驚いて響きを見た。
「これでも学校通うようになって、少しは食べるようになったんだぞ」
確かに、いろんな人間に言われていた。
よくそんな細くてあんな大胆なピアノが弾けるね。
向こうの人間と比べれば日本人は細いんだなどと言い返していたが。
「よし、休みの時は、俺が響さんをあちこち美味いもん食べに連れて行きますから!」
井原が宣言した。
「それがいんじゃね?」
適当に相槌を打つなよ、と響は元気をちょっと睨む。
「勝手に決めんなよ」
「遠慮しないで、任せといてください!」
「遠慮してないし」
それでも井原の満面の笑みを見ると、響はそれ以上何も言えなくなる。
外に出ると月の明るい夜だった。
「お、咲きかけてる」
道路沿いに植えられた桜の樹に手を伸ばして、井原が蕾に触れた。
歩いても帰れる距離なのでタクシーに乗るのはやめて、四人で歩き出した。
「そうだ、部屋を見に行くの、いつならいいか決めといてくださいよ」
自然と井原と響が元気と東の後ろに並んで歩く。
「ああ、今のところ次の土曜なら空いてる」
「え、じゃ、来週の土曜日、よろしくお願いします!」
井原は長身を折り曲げるようにして頭を下げた。
「わかったよ。時間は決めてまた連絡くれ」
「はい、不動産屋と話して連絡します!」
なんでこいつはいつもニコニコと楽しそうなんだ。
響は思う。
そして井原の笑顔は響の心を温かくしてくれる。
こんな日々が続けばいいのに。
シャッターの下りた商店街のアーケードを歩きながら、やがて一人、二人と、それぞれの家路へと向かった。
どういう経緯でとか詳しいことは聞いたことがないが、紀子がチラッと話してくれたことによると、ミツドモエだかヨツドモエだかの人間関係で最終的にそうなった、らしい。
響からすると、聞いただけでウンザリと言う感じだ。
人間関係とか面倒ごとはごめんだ。
家族だけでも面倒なのに。
井原とは同僚として付き合って行けさえすれば、俺はにゃー助とピアノだけでいい。
響は思う。
ただし、井原も新居に一緒に住む相手が見つかるかもしれないぞ、なんてのは、ヤケクソな強がりが言わせた科白だ。
実際、井原が荒川と付き合うとか、彼女ができたり結婚したりってのをまのあたりにするとかは、ちょっと精神的にきつい。
田村先生が戻るまでにつらくなったら、講師、辞めるかな。
それが響の出した結論だ。
いつかのことを考えて思い悩むのもいやだから、今のことだけ考えよう。
ふと響がぼんやり目の前を見ると、東が何か物思いしながらしきりと手はジャーマンポテトや唐揚げを口に運んでいる。
「東、お前、サラダ食ったら? まだメタボになりたいのか?」
東を見ていると、つい口を出したくもなる。
途端、東は手を止めた。
「この手が………はああ。何か考えたりするとこういうもんにいっちゃうんすよね~」
「お前、俺がこっち戻ってからも、横にでかくなってるよな。やっぱちょっと絞った方がいんじゃね?」
隣から元気も口を挟む。
「わかるわ、実家だと、親が俺の好きなモン並べてくれるし」
井原は東に同情する。
「いやいや、こいつその上に、絵描く時、ポテチとか酒とか傍に置いてっからな」
さらに元気が東の日常をばらす。
「や、それは、ひらめくとその~………」
ぶつぶつと反論にならないようなことを東は呟いた。
「彼女ができないって叫ぶ前に、ちっとは引き締めろよ。身も心も。紀ちゃんを見返してやれって気になんないのかよ」
元気にきっちり言われた東は、「わかった! 明日から俺はポテチを断つ!」と一人喚く。
「明日と言わず、今日からにすれば? 響さんは、ちょっと肉付けた方がいいかもな。夕食は作ってもらってるって言ってたよね?」
ついでのように井原が響を振り返った。
「まあな。炭水化物、あんまし取らないから」
「ひえ、そんなんで生きて行けんの?」
東が驚いて響きを見た。
「これでも学校通うようになって、少しは食べるようになったんだぞ」
確かに、いろんな人間に言われていた。
よくそんな細くてあんな大胆なピアノが弾けるね。
向こうの人間と比べれば日本人は細いんだなどと言い返していたが。
「よし、休みの時は、俺が響さんをあちこち美味いもん食べに連れて行きますから!」
井原が宣言した。
「それがいんじゃね?」
適当に相槌を打つなよ、と響は元気をちょっと睨む。
「勝手に決めんなよ」
「遠慮しないで、任せといてください!」
「遠慮してないし」
それでも井原の満面の笑みを見ると、響はそれ以上何も言えなくなる。
外に出ると月の明るい夜だった。
「お、咲きかけてる」
道路沿いに植えられた桜の樹に手を伸ばして、井原が蕾に触れた。
歩いても帰れる距離なのでタクシーに乗るのはやめて、四人で歩き出した。
「そうだ、部屋を見に行くの、いつならいいか決めといてくださいよ」
自然と井原と響が元気と東の後ろに並んで歩く。
「ああ、今のところ次の土曜なら空いてる」
「え、じゃ、来週の土曜日、よろしくお願いします!」
井原は長身を折り曲げるようにして頭を下げた。
「わかったよ。時間は決めてまた連絡くれ」
「はい、不動産屋と話して連絡します!」
なんでこいつはいつもニコニコと楽しそうなんだ。
響は思う。
そして井原の笑顔は響の心を温かくしてくれる。
こんな日々が続けばいいのに。
シャッターの下りた商店街のアーケードを歩きながら、やがて一人、二人と、それぞれの家路へと向かった。
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