そんなお前が好きだった

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そんなお前が好きだった 24

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 料理が運ばれると、から揚げ、串揚げ、サラダ、カツオのたたき、天ぷら、じゃがバターなど、手際よくそれぞれの皿に取り分け、大皿を重ねると、井原は早速から揚げに齧りつく。
「まあ、親と一緒だとできないこともあるしな?」
 元気がちょっと茶々を入れる。
 すると井原は眉根を寄せる。
「何が言いたいのかな?」
「ほら、彼女連れ込むにもさ、不都合があったり」
「ああ、荒川先生とか?」
 元気の揶揄に、じゃがバターをつついていた東ものっかる。
「だったら彼女の部屋に行けばいんじゃね? わざわざ部屋借りるとか金ももったいないし」
 当然、こんな会話になるだろう科白を、響も口にしてみる。
 なるほどそういうことか、と響も井原が部屋を借りたがっている理由に納得した。
 大人になればそれもごく普通にあり、だよな。
「ちがいますってば! 響さんまでやめてくださいよ。荒川先生とは何でもないんすから!」
 井原は響に向き直って懸命に否定する。
「今更? あれだけラブビーム向けられてるのに」
 勢い響はつい口にしてしまう。
「まあ、女の子にしたら親と一緒に住んでる男なんかちょっとキモイだろうし。東も家出れば、彼女できるんじゃないか?」
 響は東に矛先を向けた。
「ううう! それ言われると…………。俺、金ないから無理っすよ」
 東はふうとため息をつく。
「でも、何年目? 講師と教室やってるし、貯めてんじゃないの?」
 響に聞かれて東は首を横に振った。
「年一回、銀座か下北沢で個展やってるし、その費用と画材代でかなり消えるし、とても部屋借りて家賃払いながらとか、無理っす」
「まあ、絵の一枚も売れればな」
 元気が隣から口を挟む。
「るせ! 売れてりゃジャケットの一枚も買ってるわ」
「ああ、万年ジャケット?」
「実は人気ミュージシャンとか言うやつに言われたかない!」
「けど、東んちって、旧家で裕福なんだろ?」
 東と元気のやり取りを笑いつつ、響が尋ねた。
「売れない絵描きを養うような金はないって宣言されてるし。一応、食費は入れてますよ」
 唐揚げに手を伸ばしながら東が答える。
「それ、同病相憐れむってやつだな。うちの親父に、音大なんか行ってまともな職につけるわけがないとかって言われたし、有名大学出て銀行の頭取まで務めたみたいのがまともだってわけ」
「うわ、俺なんかも響の親父さんにしたら、そんなの仕事じゃないって言われそうっすね」
 東と響は共感して頷く。
「ま、親父なんかのことはどうでもいいけど」
 響は面白くもなさそうに言った。
「そういえば、この中でまともなのは正教員の井原だけ?」
 元気が思い当たるように口にする。
「何だよそれ、正教員とか。まともっていや元気なんか親父さんの後を継いで一国一城の主だろうがよ」
「自営業者の苦労を知らねえやつは言いたいことを言うさ」
 フンと鼻で笑う元気はジョッキのビールを飲み干した。
「とか何とか、GENKIの曲提供して、印税入ってるだろう」
 東が訳知り顔で言った。
「あんなの、みっちゃんが勝手に振り込んでくるだけだろ」
 元気が反論とも言えない反論をする。
「俺も勝手に誰か振り込んでくれねーかな! そしたら部屋借りて、自信もって女の子ゲットに全力を尽くす!」
 東が拳を上げて宣言した。
「お前のアーティスト魂はちっせえんじゃないの?」
 元気はスタッフを呼んで、生ビールを追加した。
「俺、じゃあ、久保田の大吟醸にしよ! それと刺し盛り、牛すじ煮込み」
 井原に続いて東が、「生ビールと餃子、たこわさ」とオーダーした。
「響さん、どうします? サワーとかにします?」
 響がさほど酒が強くないことを、井原はすぐ察したようだ。
「ああ、じゃ、梅サワー」
「アサリの酒蒸しとか美味そうですよ。あ、あとこれじゃないっすか? ジャーマンポテト」
 井原がスタッフにてきぱきとオーダーを告げる。
「ジャーマンポテトって何が出てくるんだ?」
 スタッフが行ってから、響がボソリと言った。
「こういう居酒屋のチェーン店では名前だけっすよ、じゃがバターとそう変わらない」
 井原がにっこり笑う。
「悪かったなチェーン店で。いつも行く店、今夜は貸し切りなんだってよ」
 元気が悪びれずに口を挟む。
 駅に近くてタクシーが捕まえやすいのだけはマシかも知れないが。
「じゃあ、そこ次の飲みな」
 井原が念を押した。
「わかったよ」
「そういや、そんなリッチな元気なのに、なんで実家住まい?」
 井原がさっきの続きに戻って聞いた。
「母親一人だし。リュウがいるし、店、近いんだよ」
「リュウって?」
「マメシバ」
「ワンコいるんだよ。可愛いぞ」
 響が笑顔を見せる。
 すると元気が携帯を取り出した。
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