そんなお前が好きだった

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そんなお前が好きだった 16

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 あまり自分が教師だという自覚がないせいか、三島ではなく寛斗と呼んでしまうのをいけないと思いつつも、いつもならああだこうだ口を挟んでくる寛斗がむすっと頬杖をついているのが気になった。
「ゲリラライブがダメ出しされたのが気に食わないのよ」
「ちげぇよ!」
 訳知り顔で言う琴美を、寛斗は即否定した。
 生徒会に昼休みのゲリラライブを打診してみたところ、却下されたのだ。
 許可すればどの部もやりたがるだろうし、逆に音楽部は楽器を持ち出して演奏という手段でアピールできるが、やりたくてもできない部もあり、できることにも差があるからというのが理由だった。
「ケチ臭いよね。調理部とかは実演は不可能でも、作ったもの食べてもらうとかさ、第一、調理部なんて作って食べられるからって、やたら部員数多いんだし、こっちは逼迫してるってのに」
 瀬戸川が不服そうに言った。
「へえ、ゲリラライブなんて面白そうなのに却下された?」
 話を聞きつけて口を挟んできたのは井原だ。
「そうなんです! 井原さん、伝説の音楽部長として生徒会に何とか言ってやってください!」
 琴美はここぞとばかりに勢い込んで訴えた。
「いやあ、俺の時だったら生徒会長も兼ねてたからな、ちょろい……いや、何とかできたかもだけどな」
 井原は屈託なく笑う。
「何だよ、伝説の何とかって」
 むすっとしたまま寛斗が口を出した。
「だから、井原さんが音楽部長だった時って、すごかったのよ。近隣の高校巻き込んで音楽フェス実現させたり、クラシック、ジャズ、ロック、ジャンル関係なく盛り上がったのよ」
 琴美が見てきたかのように寛斗に説明する。
「へえ、そんなにすごかったんだ?」
 思わず響も声に出ていた。
 響が卒業したあと、井原や元気が三年の時のことで、確か井原の手紙にも音楽フェスを開催することになったから、響に来てみないかというようなことが書いてあったかとは思うが、そこまで詳細は書いてなかった。
「あれはメチャ盛り上がりましたよ」
 元気もカウンターの中から聞きつけて強調した。
「だな。特に元気のバンド、ボーカルの朝倉さんは今一つだったけど、何せ元気のギターすんげえし」
「あたしの中学ン時だ、友達と行った! 元気のギターも凄かったけど人気も凄かったよね!」
 井原が言うと、紀子も話に割り込んだ。
「井原さんもかなり人気モノでしたよね。ジャズピアノとかかっこよかったです! DVDありますよ、キョーセンセ、また見せてあげる」
「お、おう」
 琴美の勢いに響も頷かざるを得ない。
「その頃からモテまくりなんだ、井原センセ」
 寛斗の発言に何やらトゲを感じたのは、「何よ、その言い方」と文句を言った琴美だけではない。
「だって今朝も新任式の時、英語の荒川先生と仲良さそうだったし。あ、荒川先生って、井原センセの彼女とか?」
 さらに寛斗が続けると、「荒川先生はサンフランシスコに留学しておられたみたいで、俺がアメリカにいたことを聞いて話しかけてこられただけだよ」と井原はあくまでも穏やかに返した。
「フーン、新任早々美人教師に早速アプローチですか。手、早いっすね」
「ははあ、ひょっとして寛斗くん、荒川先生にフォーリンラブとか? 安心しろよ。俺はそういうつもりないから」
 尚も突っかかる寛斗を軽くいなすように井原は笑った。
「おいおい、早速恋のさや当てかよ、井原。しかも生徒相手に」
 そこへいつものようにやってきた東が茶化しながらカウンターに座る。
「まあ、何でもいいからとっとと彼女います宣言とかしといてくれよ。女子どもがきゃあきゃあうるさくてしょうがない。今しがたも血走った女子どもに俺捕まって、同学年でしょ、既婚者じゃないよね、彼女いるの? とか何とか、お前のこと根掘り葉掘り」
 そんな文句を並べた東は、響と同じ非常勤講師で美術を教えている。
 ジャンルは違えど、響とは同類かも知れないが、東の場合は家が旧家で裕福な上、家族揃って人が良く、何でもやらせてもらえるらしい。
「最強のライバル現るだね、東。あ、万年失恋組の東がライバルとかって井原先生に失礼か」
 いつものように紀子が東をからかう。
「うるさいよ、紀ちゃん!」
 元気がくすくす笑いながら東お気に入りのブレンドを出す。
「くっそ、荒川先生、こんな田舎にはもったいないくらいの美人なんだぞ」
 ぼそぼそと東は元気に告げる。
「へえ? 今度連れて来いよ」
「嫌だ! 元気に合わせたりしたらまたライバルが増える」
 東の声は井原にも届いたようだ。
「それ、荒川先生、ヤバいぞ。ロックファンだっつってたから」
「マジでヤバくない? ひょっとして元気のこと知ってたりして?」
 紀子がさらに追い打ちをかける。
「やめろよお!」
 情けなさそうに喚く東に、周りがどっと笑う。
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