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そんなお前が好きだった 13
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「やだな、そんな堅苦しいんじゃないから。音楽部で仲良かったでしょ? 関係ないけど二こ上の松田さんとか、遠藤さんとかもちょうどこっちに戻ってくるから顔出すって言ってたし、『あさくら』の若旦那と『丸一』の秀喜とまたセッションやるんですよ」
去年のクリスマスには元気はこの店でライブパーティをやったのだが、ちょうどその頃、響はインフルエンザにかかり、熱がでてベッドで唸っていたのだ。
「そういえば、クリスマスライブ、すごかったんだって? 聴きたかったけど、インフルなんかかかっちまって」
「井原もキーボード持って来るっていうし、響さんも一緒にやりましょうよ」
「え…………」
あの頃、三年生だというのに、文化祭で音楽部のジャズセッションに、井原が響をステージにあがらせるものだから、キーボードを弾くはめになってしまった。
当時生徒会長をしていた井原は器用な男で、ピアノやキーボードもやるし、ジャズなど歌わせればなかなかどうして堂に入っていて、その時の井原と響のジャズセッションは大いに観客をわかせ、しばらく響までが有名人になってしまった。
そんなこともあったよな。
「井原のやつ、本場で向こうの仲間とやっぱジャズやってたらしくて、俺も一緒にやるの楽しみなんですよ」
「そうなんだ」
今、元気の口から語られている井原は、もう響の知っている井原ではない。
十年ものの初恋を後生大事に抱えて腐らせてしまっているような自分とは違う。
俺が井原との約束を反故にしたからって、いつまでも根に持っているようなこともないだろうし、第一そんなこととっくに忘れているに違いないのだ。
こだわっているのは俺だけで、俺の心に居るのはあの頃の井原少年だ。
「来られたら、顔出すよ」
「顔出すだけじゃなくて、一緒にやりましょうよ」
「それよか、俳優の川口とかっての? うちの高校出身だって、ほんとか? 東が言ってたけど。俺のいっこ上だっけ? そんなすごいやついたか?」
響はさり気なく話を変えた。
「ああ、朔也さんね。俺も東に卒業アルバム見せられて、ああ、そういえばきれいな人いたっけって。在学当時はあんまり騒ぐ人じゃなかったからな。ほら、さっき話した、遠藤さんてのがその人ですよ。お母さんが再婚されて川口に姓が変わったらしくて」
「俺、あんまりテレビ見ないし、何せ、六年日本離れてたし、目立つやつ以外記憶にないからな」
響は言い訳のように言った。
「その割にはすっかり高校生に溶け込んでるって聞きましたよ?」
元気が軽く反論する。
「そうか?」
「言葉遣いとか、先生らしくないってか、生徒と同じ目線で話せるって」
「わかった、寛斗のやつだろ?」
元気は笑う。
「いや、俺、海外で向こうに溶け込むのに、言葉を聞いてマネするって感じでやってきたから、ついそのクセで、一番話すのが生徒だからな。クソ、ちょっとまともな人と付き合わないと」
響は元気に言われて、寛斗の影響大なのだということを思い知った。
「いらっしゃい、響さん!」
ドアが開いて元気よく入ってきたのは、この店のバイトをしている紀子だ。
近所の造り酒屋の娘で、元気にとっては大事な戦力のようだ。
「元気、週末のライブの、おつまみとお酒、発注しといたから」
「サンキュ! 紀ちゃんサマサマです」
両手を合わせて元気は紀子を拝む。
「よろしい! そのココロ忘れないよに」
「ハハー!」
元気に頭を下げさせる紀子は可愛い顔をしてなかなかのツワモノだ。
「豪さんも金曜には飛んで帰るみたいだし」
ちょっと元気をからかう紀子に、元気はすました顔で洗い物を始めた。
坂之上豪は新進カメラマンだが、元気を追いかけてきて近隣に住み着いたという元気の恋人だ。
あっけらかんとと響が言ったように、近しい周りの人間には二人のことは公認である。
気がいい男で、海外の話などをする時は硬派な感じなのだが、元気に関しては一目瞭然、惚れこんでいる。
しかし、尾上も言っていたが、流行り、なのか?
六年日本を離れていた間に?
響が頭の中ではてなマークを連発していた時、またドアが開いた。
「あ、響さん、こんなとこにいたんだ!」
響が振り返ると、あの日の笑顔はそのままに、井原本人が立っていた。
きっちりとグレイのスーツに身を包んだ井原は、すっかり大人の男として威厳すらまとっている。
「馬子にも衣装か? えらくパリッとしやがって」
「そりゃまあな、母校で教鞭取るからには、生徒どもになめられんようにしないと」
揶揄する元気を井原は笑ってかわす。
「ほんとカッコいい! 井原さん、エリートビジネスマンみたいな雰囲気」
客を見送った紀子が向き直り、憧れの眼差しで井原を見上げた。
「大学でお星さまだけみてたわけじゃなくて、いろんな企業のプロジェクトにも関わったりしてたから、下手するとそれこそ身だしなみでなめられるんだ」
そうだよな、やっぱ、俺みたいな人生の大半をドサ回りで過ごしてきた浮き草稼業とは違うわ。
心の中でこっそり響はため息をつく。
去年のクリスマスには元気はこの店でライブパーティをやったのだが、ちょうどその頃、響はインフルエンザにかかり、熱がでてベッドで唸っていたのだ。
「そういえば、クリスマスライブ、すごかったんだって? 聴きたかったけど、インフルなんかかかっちまって」
「井原もキーボード持って来るっていうし、響さんも一緒にやりましょうよ」
「え…………」
あの頃、三年生だというのに、文化祭で音楽部のジャズセッションに、井原が響をステージにあがらせるものだから、キーボードを弾くはめになってしまった。
当時生徒会長をしていた井原は器用な男で、ピアノやキーボードもやるし、ジャズなど歌わせればなかなかどうして堂に入っていて、その時の井原と響のジャズセッションは大いに観客をわかせ、しばらく響までが有名人になってしまった。
そんなこともあったよな。
「井原のやつ、本場で向こうの仲間とやっぱジャズやってたらしくて、俺も一緒にやるの楽しみなんですよ」
「そうなんだ」
今、元気の口から語られている井原は、もう響の知っている井原ではない。
十年ものの初恋を後生大事に抱えて腐らせてしまっているような自分とは違う。
俺が井原との約束を反故にしたからって、いつまでも根に持っているようなこともないだろうし、第一そんなこととっくに忘れているに違いないのだ。
こだわっているのは俺だけで、俺の心に居るのはあの頃の井原少年だ。
「来られたら、顔出すよ」
「顔出すだけじゃなくて、一緒にやりましょうよ」
「それよか、俳優の川口とかっての? うちの高校出身だって、ほんとか? 東が言ってたけど。俺のいっこ上だっけ? そんなすごいやついたか?」
響はさり気なく話を変えた。
「ああ、朔也さんね。俺も東に卒業アルバム見せられて、ああ、そういえばきれいな人いたっけって。在学当時はあんまり騒ぐ人じゃなかったからな。ほら、さっき話した、遠藤さんてのがその人ですよ。お母さんが再婚されて川口に姓が変わったらしくて」
「俺、あんまりテレビ見ないし、何せ、六年日本離れてたし、目立つやつ以外記憶にないからな」
響は言い訳のように言った。
「その割にはすっかり高校生に溶け込んでるって聞きましたよ?」
元気が軽く反論する。
「そうか?」
「言葉遣いとか、先生らしくないってか、生徒と同じ目線で話せるって」
「わかった、寛斗のやつだろ?」
元気は笑う。
「いや、俺、海外で向こうに溶け込むのに、言葉を聞いてマネするって感じでやってきたから、ついそのクセで、一番話すのが生徒だからな。クソ、ちょっとまともな人と付き合わないと」
響は元気に言われて、寛斗の影響大なのだということを思い知った。
「いらっしゃい、響さん!」
ドアが開いて元気よく入ってきたのは、この店のバイトをしている紀子だ。
近所の造り酒屋の娘で、元気にとっては大事な戦力のようだ。
「元気、週末のライブの、おつまみとお酒、発注しといたから」
「サンキュ! 紀ちゃんサマサマです」
両手を合わせて元気は紀子を拝む。
「よろしい! そのココロ忘れないよに」
「ハハー!」
元気に頭を下げさせる紀子は可愛い顔をしてなかなかのツワモノだ。
「豪さんも金曜には飛んで帰るみたいだし」
ちょっと元気をからかう紀子に、元気はすました顔で洗い物を始めた。
坂之上豪は新進カメラマンだが、元気を追いかけてきて近隣に住み着いたという元気の恋人だ。
あっけらかんとと響が言ったように、近しい周りの人間には二人のことは公認である。
気がいい男で、海外の話などをする時は硬派な感じなのだが、元気に関しては一目瞭然、惚れこんでいる。
しかし、尾上も言っていたが、流行り、なのか?
六年日本を離れていた間に?
響が頭の中ではてなマークを連発していた時、またドアが開いた。
「あ、響さん、こんなとこにいたんだ!」
響が振り返ると、あの日の笑顔はそのままに、井原本人が立っていた。
きっちりとグレイのスーツに身を包んだ井原は、すっかり大人の男として威厳すらまとっている。
「馬子にも衣装か? えらくパリッとしやがって」
「そりゃまあな、母校で教鞭取るからには、生徒どもになめられんようにしないと」
揶揄する元気を井原は笑ってかわす。
「ほんとカッコいい! 井原さん、エリートビジネスマンみたいな雰囲気」
客を見送った紀子が向き直り、憧れの眼差しで井原を見上げた。
「大学でお星さまだけみてたわけじゃなくて、いろんな企業のプロジェクトにも関わったりしてたから、下手するとそれこそ身だしなみでなめられるんだ」
そうだよな、やっぱ、俺みたいな人生の大半をドサ回りで過ごしてきた浮き草稼業とは違うわ。
心の中でこっそり響はため息をつく。
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