そんなお前が好きだった

chatetlune

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そんなお前が好きだった 3

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 わざわざ説明が必要ないほど、一目瞭然である。
「お前らの学年もだけど、俺のいっこ上の学年もパワフルだったから今でも語り草になっているやついるよな。サッカー部の松田とか、生徒会長やったすげー女いただろ、高原だっけ? それに比べると俺らの学年は地味でネクラで、思い出すやつなんかいない」
 熱いカフェオレを飲みながら、響はさりげなく話題を変えてみる。
「響さんだって目立ってたじゃないですか。文化祭で華麗なピアノ、覚えてますよ」
「あれは……井原のやつに無理やりのせられただけだ」
 自分で井原の話に戻ってどうする、と響はまた自分で突っ込みを入れる。
「うーん、高校のとき目立ってたからって大物になってるわけじゃないですからね。ほら、例えばしがない喫茶店の主とか」
 元気は笑う。
「ウソつけ。ほんとはGENKIのメンバーだったんだろ? ロックグループの。暮れにこの店、GENKIのライブハウスになってたんだって? 東から聞いたよ。そんなメジャーな仲間がいて、何でこんな田舎街に戻ってくるんだよ」
 ついイラついた言葉が出てしまう。
「俺は、生涯、この店が城ですよ。響さんこそ、いい加減講師なんかやめて、中央に出て行ったらいいのに。響さんのピアノを待ってる人たちのためにも」
「んなもん、いるか」
「またまた、ロン・ティボー国際コンクールで優勝して、ショパンコンクール優勝候補だったくせに。指だって怪我なんかしてないんだし」
「ロン・ティボーなんか業界の連中しか知らないし、神代の昔の話だって」
 一時、響の優勝は日本でも話題にはなった。
 だが、その後ショパンコンクールに出場する予定だったものの、階段から落ちて大腿骨を骨折し、出場はお流れになった。
 どこでか話が歪曲されて、指を怪我してもう弾けなくなったなどという噂が流れた。
 それから、響はベルリンに渡り、地味に演奏活動をしていたが、もうコンクールに出ようとか、そういう野望は空の彼方に消え去った。
 だがベルリンでいい加減ウツになりそうな気がして、祖父の葬儀を理由に急遽この田舎に戻ってきて以来、元々ピアノの練習のためにずっと使っていた離れに向こうから送ったピアノを入れてピアノ教室を始めた。
 小さい街のことだ、ちょっと変わり者がいると、噂は街中を一人歩きしてしまう。
 海外から戻ってきた和田家の息子は髪を振り乱してピアノを弾きまくるかと思えば、真夜中徘徊するキメラだ云々。
「キメラってな………」
 溜息も出ようというものだ。
「そういえば髪、切っちゃったんですね」
 以前は肩くらいまで伸ばし放題、しかも元気のようにCMに出ていそうなサラリとしたきれいな髪ではなく、あちこち飛び跳ねていて結わえていてもまとまりにくい。
「高校生なんかの前にあんな頭で行ったら、格好の笑いネタにされたんだよ」
「柔らかい巻毛で、いいと思うけど。俺も長いですよ?」
 元気は微笑んだ。
「お前はきれいだからいんだよ」
「響さん可愛いじゃないですか」
「可愛いとか言うな。ロックスターならな。第一、真夜中徘徊って、うちのニャー助が窓から飛び出して、それこそ頭振り乱して探してたんだよ」
 手振り身振りで響はぶちまける。
「なるほど、で、猫、見つかりました?」
「何時間も探して途方に暮れて家に戻ったら、あのやろ、ちゃっかり置いてあったカツブシにがっついてたよ」
 ハハハと元気は笑う。
「笑え笑え。くそっ!」
 身長的には一七六はあるのだが、小づくりな顔と白い肌、細い骨格から華奢に見える響は、結構毒も吐く。
「しかしもったいないな、天才的なその才能を」
「だから、もう人に聴かせる気はないの」
 元気はいかにも残念そうに、下げてきたカップを洗う。
 すると外に足音が聞こえたと思ったら、ガンとドアが開いてどかどかと男が入ってきた。
「うーーーー、さぶぅ! ああ、やっぱここにいた。キョーセンセ、とっととフケちまうんだもんな」
「東、終わったんか? 卒業式」
 元気が入ってきた男に声をかける。
「おう。すんげー雪んなってさっむいのなんの、あっついやつ頼むわ」
 雪を払いながらぐるぐるに巻いたマフラーだけとると、東は響の横に座る。
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